自社で初めてM&A(合併・買収)を進めることになり、仲介会社やアドバイザーから財務デューデリジェンス(財務DD)を実施すると言われた方は少なくありません。ただ、それが何をどこまで調べる工程なのか、実感が持てないことも多いものです。買い手なら相手の財務に隠れたリスクがないか、売り手なら何を準備すればよいかが、判断の分かれ目になります。
本記事では、財務デューデリジェンスとは何を調べる工程なのかという定義と具体的な調査項目から、目的・進め方・期間・費用の決まり方、そして「誰に頼むべきか」という依頼先の選び方(会計監査との違いを含む)まで、順を追って解説します。よくある見落としと自社で準備すべき資料もあわせて整理します。
M&Aの成否は、対象企業の実態をどれだけ正確に把握できるかに左右されます。財務DDの全体像を掴み、自社のM&Aで何を準備し、どの専門家に相談すべきかの見通しを持つための材料としてお役立てください。
目次
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財務デューデリジェンス(財務DD)とは?何を調べる工程か
財務デューデリジェンス(財務DD)とは、M&Aの対象企業の財務内容を精査し、決算書には表れないリスクや、買収価格の前提となる実態の収益力・純資産を明らかにする調査です。主に買い手側が、公認会計士やFAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)などの専門家に依頼して実施します。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、デューデリジェンス(DD)は次のように位置づけられています。財務DDは、DD全体のうち「財務に関する調査」にあたります。
デュー・ディリジェンス(Due Diligence)とは、対象企業である譲り渡し側における各種のリスク等を精査するため、主に譲り受け側が FA や士業等専門家に依頼して実施する調査をいう(「DD」と略することが多い。)。調査項目は、M&A の規模や実施希望者の意向等により異なるが、一般的に、資産・負債等に関する財務調査(財務 DD)や株式・契約内容等に関する法務調査(法務 DD)等から構成される。
出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁(令和6年8月)(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf)
M&Aの流れのなかでは、基本合意(相手と大枠の条件で合意した段階)の後、最終契約を結ぶ前に財務DDを行うのが一般的です。ここで把握したリスクや実態は、最終的な譲渡額や、契約に盛り込む表明保証・補償(売り手が財務内容などに問題がないと契約で約束し、違反があれば買い手に賠償する取り決め)の条件に反映されます。
「相手の言い値」や決算書の数字だけで意思決定せず、客観的な調査に基づいて判断するための工程だと捉えると分かりやすくなります。
財務DDの調査項目|何を・なぜ見るか
ここからは、財務DDで具体的に何を調べるのかを見ていきます。調査項目は案件の規模や意向によって変わりますが、実務では主に次の観点から、決算書のどこを・なぜ見るのかが決まっています。
| 調査項目 | 何を見るか(決算書のどこ) | なぜ見るか |
|---|---|---|
| 実態収益力(正常収益力) | 損益計算書の売上・原価・販管費から、一時的な損益やオーナー個人に関わる費用などを調整した「平常時に稼ぐ力」 | 買収価格の算定は将来の収益力が前提になるため。役員報酬や一時的な特別損益を除いた実態の利益を掴む |
| 運転資本 | 売掛金・棚卸資産・買掛金など、事業を回すために必要な資金の水準と季節変動 | 買収後に想定外の資金が必要にならないか、価格調整の基準となる正常な運転資本を把握するため |
| 純有利子負債(ネットデット) | 借入金などの有利子負債から現預金を差し引いた実質的な負債 | 株式価値を算定する際に事業価値から控除するため。買収後に引き継ぐ負担を正確に見積もる |
| 簿外債務・偶発債務 | 貸借対照表に計上されていない債務や、将来発生し得る債務(後述) | 買収後に想定外の支払い義務を引き継ぐリスクを事前に発見するため |
| 資産の実在性・評価 | 現預金の残高、売掛金の回収可能性、棚卸資産の滞留、固定資産の実在と減損の要否 | 帳簿上の資産が実際の価値どおりか、過大計上がないかを確かめるため |
| 税務(税務DD) | 過去の申告内容や税務リスク。財務DDに一部含めて行うことがある | 過少申告や追徴課税など、買収後に顕在化し得る税務上の負担を把握するため |
正常収益力・運転資本・ネットデットは、M&A実務で一般に用いられる呼称です。
このうち特に注意が必要なのが、簿外債務と偶発債務です。中小M&Aガイドラインでは、株式譲渡の場合に売り手の法人格がそのまま引き継がれるため、これらのリスクが高まりやすいと説明されています。
譲り渡し側の法人格に変動はないため、(未払残業代等、貸借対照表上の数字には表れない)簿外債務・(紛争に関する損害賠償債務等、現時点では未発生だが将来的に発生し得る)偶発債務リスクが比較的高くなりやすく、より詳細なデュー・ディリジェンス(DD)が実施される傾向にある。
出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁(令和6年8月)(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf)
簿外債務は未払残業代のように貸借対照表に表れない債務、偶発債務は係争中の損害賠償のように現時点では未発生でも将来発生し得る債務を指します。これらは決算書を眺めるだけでは見えないため、契約内容や周辺資料まで踏み込んで確認するのが財務DDの役割です。
財務DDを行う目的
調査項目を押さえたところで、なぜこれらの項目を調べるのか、財務DDの目的を整理します。目的は大きく分けて、買収可否・価格の判断、リスクの発見、統合準備、関係者への説明の4つです。
- 買収の可否と価格・条件の判断:客観的な資料に基づき、そもそもM&Aを実行すべきか、実行する場合の譲渡額や表明保証・補償の条件をどう設定するかを検討します。
- 財務リスクの発見:簿外債務・偶発債務や、回収が難しい売掛金・滞留在庫など、決算書に表れないリスクを洗い出します。
- 統合(PMI)の準備:買収後の経営統合を円滑に進めるために有益な情報を、あらかじめ取得します。
- 関係者への説明責任:株主や金融機関など、意思決定に関わる関係者へ根拠を示せる状態にします。
中小M&Aガイドラインは、DDによって客観的資料に基づく検討ができ、M&A成立後のトラブルを防止できること、統合後の成長に資する情報を得られることを目的として挙げています。反対に調査が十分でない場合は、経営者からのヒアリングだけではリスクを評価しきれない点に注意が必要です。
調査が不十分だと、売り手が負う表明保証や補償の負担増につながりかねません。財務DDは買い手のためだけの工程ではなく、売り手にとっても後のトラブルを避けるうえで意味を持ちます。
出典・参考資料(1件)
- 出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁(令和6年8月)(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf)
財務DDの進め方(流れ)と期間の目安
続いて、財務DDが実際にどう進むのか、着手から報告までの流れと期間の目安を見ていきます。
実施のステップ

- 専門家の選定・依頼:財務DDを担う公認会計士やFAS等を選び、依頼します。
- 調査範囲の決定:対象会社の規模やリスクの高い領域を踏まえ、どこまで詳しく調べるかを決めます。範囲は費用にも直結します。
- 資料の開示請求・調査:決算書・試算表・総勘定元帳・契約書などの開示を受け、数字の裏付けを確認します。
- マネジメント・インタビュー:資料だけでは分からない点を、売り手の経営者やキーパーソンへのヒアリングで補います。
- 報告書の作成・報告:発見された事項とリスクを報告書にまとめ、買い手へ報告します。報告書は、重要点を要約したサマリーと、項目別の詳細分析で構成されるのが一般的です。
期間の目安
期間は案件の規模や資料の準備状況によって変わりますが、実務上の目安としては、中小企業の案件で2〜4週間程度、一般的なケースで1か月半〜2か月程度を見込むことが多くなっています。売り手が決算書や契約書などの資料を事前に整理しておくと、調査は短く効率的に進みやすくなります。反対に資料が揃っていないと、追加のやり取りが増えて期間が延びる要因になります。
財務DDの費用相場と金額の決まり方
次に、財務DDの費用について、相場の目安と、金額が何で決まるのか・見積もりで確認すべき観点を見ていきます。
財務DDの費用は、実務上の相場観として、小規模な案件では数十万円から、一般的な中小企業の案件では百万円台から数百万円程度が目安とされています。ただしこの幅は広く、自社の案件がどのあたりに位置するかは、次の要素で決まります。
- 対象会社の規模・複雑さ:売上や拠点数、子会社の有無、取引の複雑さが増えるほど、確認すべき数字と論点が増えます。
- 調査範囲の広さ:財務のみに絞るか、税務まで含めるか、深く掘り下げる項目をどこまで広げるかで工数が変わります。
- 専門家の単価×工数:財務DDの費用は、担当する専門家の単価に作業日数(人日)を掛けて積み上がるのが基本です。範囲が広く対象が複雑なほど工数が増え、金額が上がります。
目安として、案件の規模と調査範囲に応じたおおよその費用感は次のとおりです。いずれも実務上の相場観で、対象会社の状況によって変わります。
| 案件規模・複雑さの目安 | 調査範囲の例 | 費用の目安(実務上の相場観) |
|---|---|---|
| 小規模・論点が少ない(単一事業・拠点1つ など) | 財務の主要論点に絞る | 数十万円〜100万円台 |
| 中小〜中堅・標準的 | 財務全般(必要に応じ税務を追加) | 100万円台〜300万円程度 |
| 規模が大きい・論点が複雑(多拠点・子会社・クロスボーダー など) | 範囲を広く深く調査 | 数百万円以上 |
上記は複数の実務解説に共通する目安で、対象会社の規模・調査範囲・専門家の単価×工数により変動します。正確な金額は見積もりでご確認ください。
このように費用は、相場の数字を暗記するより「規模 × 範囲 × 単価×工数」で決まると理解しておくと、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。見積もりを受け取る際は、次の観点を確認しておくと、会社ごとの金額の差の理由が掴めます。
- 調査範囲:どの項目を、どの深さまで見るのか。財務のみか、税務などを含むのか。
- 成果物:報告書はサマリーのみか、項目別の詳細分析まで含むのか。
- 追加費用の有無:資料の追加開示や論点の追加で費用が増える場合の扱い、着手金・中間金の有無。
また、会計事務所系のファームでは、M&A支援全体の報酬として着手金や成功報酬(レーマン方式=取引金額が大きいほど料率が下がる成功報酬の計算方式)を設定する例もあります。財務DD単体の費用と、M&A支援全体の報酬は分けて確認すると、総額の見通しが立てやすくなります。金額は依頼先や案件によって異なるため、複数社から見積もりを取り、上記の観点で比較することをおすすめします。
財務DDの依頼先の選び方(会計監査との違い含む)
全体像と費用が掴めたら、次は「誰に頼むべきか」です。会計監査との違い・依頼先タイプ別の特徴・M&A仲介とFAの役割の違いを整理します。
財務DDと会計監査の違い
「会計監査を受けている会社なら財務DDは不要では」と考える方もいますが、両者は目的も実施者も異なります。会計監査は、法律で義務づけられた監査です。上場会社は金融商品取引法、大会社は会社法により、公認会計士または監査法人による監査が求められます(法定監査)。一方、財務DDはM&Aの当事者が任意で行う調査です。
| 観点 | 財務デューデリジェンス | 会計監査 |
|---|---|---|
| 目的 | M&Aの意思決定・価格や条件の判断 | 財務諸表が適正に作成されているかの意見表明 |
| 視点 | 買い手にとってのリスクと実態収益力 | 会計基準への準拠・適正性 |
| 実施者 | 公認会計士・FAS等(独占業務ではない) | 公認会計士・監査法人(独占業務) |
| 位置づけ | M&A当事者が任意で実施 | 法律に基づく法定監査(対象会社) |
実施者の違いは、法律にも表れています。公認会計士法第2条では、財務書類の監査・証明は公認会計士の独占業務とされる一方、「財務に関する調査」は公認会計士の名称でできる業務と位置づけられています。財務DDはこの「財務に関する調査」にあたり、公認会計士に限らずFAS等も担えます。
公認会計士は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする。/公認会計士は、前項に規定する業務のほか、公認会計士の名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずることを業とすることができる。
出典:公認会計士法 第2条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000103)
このため、監査経験は豊富でも、M&A特有のリスク発見や価格交渉に用いる分析に慣れていない専門家に依頼すると、買収の判断に必要な視点が十分に得られないことがあります。監査とDDは目的が異なる業務であることを踏まえ、M&A実務の経験がある依頼先を選ぶことが大切です。
出典・参考資料(3件)
- 出典:公認会計士法 第2条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000103)
- 参考資料:金融商品取引法 第193条の2|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025)
- 参考資料:会社法 第328条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086)
依頼先タイプ別の特徴と選び方
財務DDの依頼先は、大きく次のタイプに分かれます。自社の規模や求める範囲に応じて選ぶと、費用と得られる支援のバランスが取りやすくなります。
- 大手FAS(大手監査法人系のアドバイザリー会社):大型・クロスボーダー案件や高い専門性が必要なケースに強い一方、費用は高めで、小規模案件には過剰になりやすい傾向があります。
- 中堅・独立系FAS:戦略立案からM&A実行、統合支援までを一貫して手がける会社が多く、中堅企業の案件で伴走してもらいやすいタイプです。
- 会計事務所系のワンストップファーム:税務・会計顧問を土台に、事業承継やM&A、買収監査までを幅広く扱います。中小・オーナー系企業の事業承継M&Aと相性がよい傾向があります。
- 個人の公認会計士・税理士:小規模な案件では、財務調査の経験が豊富な個人の専門家に依頼する選択肢もあります。対応範囲は専門家によって差があります。
M&A仲介とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の役割の違い
M&A全体の相談先を選ぶときは、仲介者とFAの違いも押さえておくと、財務DDを誰の立場で進めるかが見えてきます。中小M&Aガイドラインでは、仲介者は売り手・買い手の双方と契約する立場、FAは一方の当事者と契約する立場と定義されています。FAは依頼者の側に立って支援する点が特徴です。
財務DDとの関係では、仲介者の扱いに注意が必要です。中小M&Aガイドラインは、利益相反を防ぐ観点から、仲介者は財務DDを自ら実施すべきでないとしています。
特にデュー・ディリジェンス(DD)については、仲介者の場合は、自ら実施すべきでないとしている(ただし、デュー・ディリジェンス(DD)の実施者(譲り受け側が依頼する別の支援機関又は譲り受け側自身)の下で、譲り渡し側における開示資料の整理・作成のサポートや DD の実施スケジュールの調整・管理といった直接的に DD の調査内容の検討や調査を踏まえた評価・判断に影響しない範囲での支援することは可能。)
出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁(令和6年8月)(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf)
このように仲介者は、財務DDそのものを実施するのではなく、資料の整理やスケジュールの調整といった取りまとめの範囲で関わります。実際の調査は、買い手が依頼する公認会計士やFAS等が担います。M&Aを進める際は、DDまで含めて依頼者の立場で伴走してもらえるアドバイザーと、実際にDDを実施する専門家の役割を分けて考えると、体制を組みやすくなります。
財務DDでよくある失敗と自社で準備すべきこと
最後に、財務DDで起こりやすい見落としと、売り手・買い手が事前に準備しておくとよい資料を整理します。
よくある見落とし・失敗類型
- 簿外債務・偶発債務の見落とし:調査項目で挙げた決算書に表れない債務を見逃すと、買収後に想定外の負担を引き継ぎ、支払った買収価格が実態に対して過大だったことになりかねません。
- 売掛金の回収可能性・滞留債権:帳簿上は資産でも、実際には回収が難しい債権が含まれていることがあります。
- 棚卸資産の過大計上(滞留在庫):長期間動いていない在庫が実態より高く計上されていないかを確認します。
- 固定資産の過大評価:実在しない資産や、減損が必要な資産が帳簿に残っていないかを見ます。
これらは、調査項目を事前に明確にし、資料の裏付けと関係者へのヒアリングを組み合わせることで発見しやすくなります。売り手側も、調査が不十分だと、後の最終契約で表明保証や補償の負担が重くなりかねない点に留意しておくとよいでしょう。
売り手・買い手が準備すべき資料
財務DDを円滑に進める鍵は、売り手側の資料準備にあります。特に売り手は、次のような資料を事前に整理し、質問に迅速・正確に答えられる体制を整えておくと、調査期間の短縮とスムーズな進行につながります。
- 過去3〜5期分の決算書(貸借対照表・損益計算書)と試算表
- 総勘定元帳・補助簿など、数字の内訳が分かる会計資料
- 税務申告書・納税に関する書類
- 主要な契約書(取引先・金融機関・リース・賃貸借など)
- 売掛金・在庫・固定資産の明細、借入金の一覧
- 係争・保証・退職金など、簿外・偶発債務につながり得る事項の情報
買い手側は、どの領域にリスクがありそうかを事前に想定し、調査範囲の優先順位を専門家と相談しておくと、限られた期間で重要な論点に集中できます。
財務DDと他のDD(法務・税務・ビジネス)との関係
財務DDは、M&A全体の調査の一部です。実際には、目的に応じて複数のDDを組み合わせて実施します。中小M&Aガイドラインでも、財務DD・法務DDに加え、さまざまなDDがあると説明されています。
なお、その他にも、ビジネスモデル等に関するビジネス(事業)DD、税務 DD(財務 DD 等に一部含まれることがある。)、人事労務 DD(法務 DD 等に一部含まれることがある。)、知的財産(知財)DD、環境 DD、不動産 DD、ITDDといった多様な DDが存在する。
出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁(令和6年8月)(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf)
一般的には、資産・負債などを見る財務DDと、契約や許認可などを見る法務DDが基本となり、税務DDは財務DDに一部含めて行うことがあります。事業の将来性やビジネスモデルを見るビジネスDD(事業DD)や、人事労務・知的財産・ITなど、案件の性質に応じて範囲を広げます。
財務DD単体で完結するのではなく、他の調査と役割を分担しながら並行して進む点を押さえておくと、全体のスケジュールと費用の見通しが立てやすくなります。
財務DDを含むデューデリジェンス全体について、DDの種類の一覧や進め方・費用の目安・依頼先の考え方までまとめて把握したい場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。
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財務DDに対応できるM&Aアドバイザー・専門家に相談する
財務DDの全体像が掴めたら、次は実際に相談できる相手を検討する段階です。ここでは、財務DD(買収監査)を含むM&A支援に対応し、中堅・中小企業のM&Aにも実績のある、中堅・独立系のファームや会計事務所系のワンストップファームを紹介します。小規模で初めての場合は、前述の個人の公認会計士や、対応範囲を絞った専門家も選択肢になります。自社の規模や求める範囲に照らして、比較検討の出発点としてください。
| サービス名 | フロンティア・マネジメント | 経営共創基盤(IGPI) | AGSコンサルティング | 山田コンサルティンググループ |
|---|---|---|---|---|
| 提供会社・形態 | フロンティア・マネジメント株式会社 独立系のコンサル・M&Aアドバイザリー(東証プライム上場) | 株式会社経営共創基盤 独立系のハンズオン型コンサル(非上場) | 株式会社AGSコンサルティング 会計事務所発のワンストップファーム(非上場) | 山田コンサルティンググループ株式会社 独立系の総合コンサル(東証プライム上場) |
| 主要領域 | 経営コンサルティング・M&Aアドバイザリー・事業再生・事業承継 | 経営コンサルティング・M&A(財務アドバイザリー)・事業再生・ハンズオン支援 | 税務・会計・IPO支援・事業承継・企業再生・M&A・国際税務 | 事業承継・M&A・事業再生・会計税務・海外事業支援 |
| 財務DD(買収監査)対応 | ●M&Aアドバイザリー・事業再生で各種デュー・ディリジェンス(事業・財務DDを含む)を公式に明示 | △M&Aの財務アドバイザリー・実行支援の枠で対応(財務DDを独立サービスとしては明示せず) | ●M&Aファイナンシャルアドバイザリーで買収監査の実行・対応支援を公式に明示 | ●譲受側の買収監査の実施・譲渡側の買収監査対応の支援に取り組む |
| 対象企業規模 | 中堅企業〜大企業が中心 | 大企業〜中堅企業(ベンチャー・公的案件も) | 中小・中堅企業(オーナー系)〜上場企業 | 中堅・中小企業(オーナー系)が中心 |
| 費用感 | 要問い合わせ(個別見積り) | 要問い合わせ(個別見積り、成功報酬型・出資型を含む) | 要問い合わせ(個別見積り) | 要問い合わせ(個別見積り) |
| 詳細情報 | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト |
各社の公式サイトの記載に基づく(2026年9月時点)。財務DD(買収監査)対応は公式の明示の有無を示します。
フロンティア・マネジメント(フロンティア・マネジメント株式会社)

フロンティア・マネジメントは、2007年に産業再生機構出身のメンバーらが設立した独立系のコンサルティング・M&Aアドバイザリーファームです。東証プライムに上場しており(証券コード7038)、大手金融機関の系列に属さない中立的な立場を掲げています。経営コンサルティングとM&Aアドバイザリーの両方を手がける点が特徴です。
M&Aアドバイザリー業務では、戦略立案から企業価値算定、各種デュー・ディリジェンス、交渉、クロージングまでを支援し、事業再生の領域でも事業・財務デュー・ディリジェンスの実施を公式に掲げています。中堅企業から大企業まで、戦略から実行まで一貫した伴走を求める企業に向いています。
経営共創基盤(株式会社経営共創基盤/IGPI)

経営共創基盤(IGPI)は、経営者派遣を伴うハンズオン型の支援を特徴とする独立系のコンサルティング会社です。産業再生機構の元中心メンバーが2007年に設立し、戦略立案からM&Aの財務アドバイザリー、現場に入り込む実行支援までを一貫して提供します。
M&Aを単独の取引ではなく企業価値向上の一手段と位置づけ、戦略立案から実行、統合後のシナジー創出まで担当を変えずに支援する体制を掲げています。財務デューデリジェンスを独立したサービスとしては掲げていませんが、M&Aの財務アドバイザリー・実行支援の一環として財務面の精査に関与するため、戦略から実行まで一貫した伴走を重視する中堅企業の選択肢になります。
AGSコンサルティング(株式会社AGSコンサルティング)

AGSコンサルティングは、税務・会計顧問を土台に、IPO支援・事業承継・企業再生・M&Aまでをワンストップで手がける会計事務所発のファームです。公認会計士・税理士を多数擁し、オーナー系の中堅・中小企業の事業承継に強みを持ちます。
M&Aファイナンシャルアドバイザリーでは、ターゲット選定や交渉支援に加え、買収監査(財務DDにあたる調査)の実行・対応支援を公式に掲げています。会計・税務の知見を活かせるため、事業承継型のM&Aや、税務まで含めた確認が必要な場合に適した依頼先です。
山田コンサルティンググループ(山田コンサルティンググループ株式会社)

山田コンサルティンググループは、事業承継・M&A・事業再生・会計税務などを横断的に支援する独立系の総合コンサルティングファームです。東証プライムに上場しており(証券コード4792)、公認会計士や税理士など多様な有資格者を擁しています。
M&A・事業承継アドバイザリーでは、譲り受け側への買収監査の実施や、譲り渡し側の買収監査対応の支援に取り組んでいます。中堅・中小のオーナー系企業が中心で、売り手・買い手のどちらの準備段階からも相談したい場合に検討したいファームです。
まとめ
財務デューデリジェンスは、M&Aの対象企業の財務内容を精査し、決算書に表れないリスクや実態の収益力・純資産を明らかにする調査です。実態収益力・運転資本・純有利子負債・簿外/偶発債務などを、決算書のどこを・なぜ見るのかという観点で確認し、買収の可否や価格・条件の判断につなげます。
費用は「規模 × 範囲 × 単価×工数」で決まると理解し、見積もりでは調査範囲・成果物・追加費用を確認すると比較しやすくなります。依頼先は、会計監査との違いや、仲介とFAの役割の違いを踏まえ、M&A実務の経験がある専門家を選ぶことが大切です。まずは複数の相談先を比較し、自社の案件に合う体制を見つけることから始めてみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 財務デューデリジェンス(財務DD)とは何ですか?
A. 財務デューデリジェンス(財務DD)とは、M&Aの対象企業の財務内容を精査し、決算書には表れないリスクや、実態の収益力・純資産を明らかにする調査です。主に買い手が公認会計士やFAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)などの専門家に依頼し、基本合意の後・最終契約を結ぶ前に実施します。ここで把握した内容は、買収の可否や譲渡額・契約条件の判断に反映されます。
Q. 財務DDと会計監査は何が違いますか?
A. 財務DDと会計監査は、目的も実施者も異なります。会計監査は財務諸表が適正に作成されているかを意見表明する監査で、上場会社や大会社に法律で義務づけられ、公認会計士・監査法人の独占業務です。
一方、財務DDはM&Aの意思決定や価格・条件の判断のために当事者が任意で行う調査で、公認会計士法上の「財務に関する調査」にあたり、公認会計士に限らずFASなども担えます。会計監査を受けている会社でも、M&A特有のリスク発見のために財務DDは別途必要になります。
出典・参考資料(1件)
- 出典:公認会計士法 第2条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000103)
Q. 財務DDは法務DDやビジネスDDとどう違いますか?
A. 財務DDは資産・負債や収益力などの財務面を調べる調査であるのに対し、法務DDは契約・許認可・訴訟などの法的側面を、ビジネスDDは事業モデルや市場から将来の成長性を調べる点が異なります。M&Aではこれらを目的に応じて組み合わせて実施し、税務DDは財務DDに一部含めて行うことがあります。財務DD単体で完結するのではなく、案件の性質に応じて役割を分担しながら並行して進みます。
Q. 財務DDにはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 財務DDの期間は、中小企業の案件で2〜4週間、一般的なケースで1か月半〜2か月程度が目安です。案件の規模や資料の準備状況によって変わり、売り手が決算書や契約書などを事前に整理しておくと、調査は短く効率的に進みやすくなります。反対に資料が揃っていないと、追加のやり取りが増えて期間が延びる要因になります。
Q. 財務DDの費用を抑える方法はありますか?
A. 財務DDの費用を抑えるには、売り手が資料を事前に整理し、調査範囲を必要な論点に絞ることが有効です。費用は「規模 × 範囲 × 単価×工数」で決まるため、資料が揃っていて専門家が短期間で効率的に調査できれば工数が減り、費用を抑えやすくなります。ただし、コスト削減のために重要な調査項目まで外すと、簿外債務などの見落としにつながるため、範囲の絞り込みは専門家と相談して決めることが大切です。
Q. 財務DDは誰に依頼すればよいですか?
A. 財務DDは、M&A実務の経験が豊富な公認会計士やFASに依頼するのが基本です。監査経験は豊富でも、M&A特有のリスク発見や価格交渉に用いる分析に慣れていない専門家では、買収判断に必要な視点が十分に得られないことがあります。また、中小M&Aガイドラインは、利益相反を避けるため仲介者は財務DDを自ら実施すべきでないとしており、実際の調査は買い手が依頼する専門家が担います。
出典・参考資料(1件)
- 出典:中小M&Aガイドライン(第3版)|中小企業庁(令和6年8月)(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf)
Q. 売り手(譲渡側)は財務DDに向けて何を準備すればよいですか?
A. 売り手は、過去3〜5期分の決算書・試算表、総勘定元帳、税務申告書、主要な契約書などを事前に整理し、質問に迅速・正確に答えられる体制を整えることが重要です。係争・保証・退職金など簿外・偶発債務につながり得る事項も洗い出しておくと、調査がスムーズに進みます。準備が不十分で調査が行き届かないと、後の最終契約で売り手が負う表明保証や補償の負担が重くなりかねない点にも留意しておくとよいでしょう。
Q. 財務DDの結果、M&Aが中止になることはありますか?
A. 財務DDの結果、許容できない重大な簿外債務や会計上の問題が見つかった場合、M&Aが中止になることは実際にあります。多くの場合は、発見されたリスクをもとに買収価格を調整したり、表明保証・補償など契約条件を見直したりして対応しますが、リスクが重大であれば取引そのものを見送る判断もあり得ます。財務DDは、こうした重大なリスクを最終契約の前に把握するための工程です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















