取引先に見積書や個人情報を含むファイルを送る機会が増え、「このやり方で本当に安全なのか」と不安を感じていませんか。パスワード付きZIPファイルをメールで送るいわゆるPPAPは中央省庁が廃止を進め、社員が個人の無料クラウドやファイル転送サービスを無断で使う状態も、情報漏えいの温床として問題視されています。
ファイル共有の手段にはメール添付・ファイル転送サービス・クラウドストレージ・ファイルサーバー・NAS・PCの共有フォルダ・USBメモリなど複数の選択肢があり、それぞれ安全性と向いている用途が異なります。どの方法が安全でどれが危険なのか、安全に共有するには何を満たせばよいのか、整理できないまま運用している企業は少なくありません。
見直しが後回しにできない背景には、漏えいが現実の経営リスクになっている実態があります。東京商工リサーチの調査では、2024年に上場企業が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は189件と、調査開始以降で最多を更新しました。
原因別では「誤表示・誤送信」が41件(構成比21.6%)を占めています(東京商工リサーチ「2024年上場企業の『個人情報漏えい・紛失』事故」)。メールの宛先の取り違えのような日常的な操作が、そのまま漏えいにつながっているのが実情です。
本記事では、ファイル共有の主な手段を安全・危険の観点で一覧にして整理し、やめたほうがよい方法と、安全に共有するために押さえる対策を具体的に解説します。社外とのやり取りで失敗しないサービスの選び方と、権限管理・操作ログ・暗号化などを備えた法人向けサービスの比較まで、自社の共有方法を見直すための材料としてご活用ください。
目次
ファイル共有の手段と安全・危険が一目でわかる一覧
ファイル共有とは、作成したファイルやフォルダーを社内のメンバーや社外の取引先と受け渡し・共同利用することを指します。手段は大きく分けて8種類あり、手軽さと安全性は手段ごとに大きく異なります。まずは全体像を一覧で確認し、自社の使い方に合う安全な手段を見極めましょう。
| 共有手段 | メールにファイルを直接添付 | パスワード付きZIPの別送(PPAP) | USBメモリなど物理メディアの手渡し・郵送 | 無料のファイル転送サービス・個人向けクラウド | 法人向けクラウドストレージ | 法人向けファイル転送サービス | 社内ファイルサーバー・NAS | PCの共有フォルダ(OSの共有機能) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 安全性の目安 | 低い(社外には非推奨) | 低い(中央省庁が廃止) | 低い(持ち出しは要管理) | 低い(業務利用は要注意) | 高い(対策を設定すれば) | 高い(社外送受信向き) | 中(社内利用向き) | 中〜低(社外共有には不向き) |
| 主なリスク | 誤送信で宛先に届いてしまうと取り消せない、容量制限、盗聴時に中身が読まれる | ZIPがウイルス検査をすり抜ける、同じメール経路でパスワードを送ると盗聴対策にならない | 紛失・盗難、ウイルス感染の媒介、持ち出し自体が把握されない | 社員が無断で使うシャドーITになり管理統制が効かない、保管先が社外基盤 | 共有設定ミスによる意図しない公開、オンライン前提 | 保管期間の制限、受信者へのURL誤送信 | 権限設定ミスによる流出、故障時のデータ喪失、保守の手間 | 権限設定ミスによる意図しない公開、ホストPCの電源・管理に依存、社外とは共有しにくい |
| 向いている用途 | 社内での小容量ファイルの受け渡し | 推奨できる用途は限定的 | ネットワークを使えない現場での限定的な受け渡し | 個人利用。業務では法人向けの利用を推奨 | 社内外での継続的な共有・共同編集 | 社外への大容量ファイルの送受信 | 社内ネットワーク内での共有 | 同一ネットワーク内の少人数での一時的な共有 |
※上記は各手段の一般的な傾向です。実際の安全性は設定・運用や利用するサービスの機能によって変わります。
この一覧で「低い」と評価した手段は、社外とのやり取りでは見直しの対象です。次章でなぜ危険なのかを具体的に説明し、その後に「高い」と評価した手段を安全に使うための対策を整理します。
今すぐ見直したい危険なファイル共有のやり方
ここからは、社外とのファイル共有で避けたいやり方を、なぜ危険なのかとあわせて説明します。いずれも手軽さから使われ続けていますが、情報漏えいにつながる具体的なリスクがあります。
メールへのファイルの直接添付
ファイルをそのままメールに添付して送る方法は最も手軽ですが、社外とのやり取りには向きません。宛先を1文字間違えただけでも送信は取り消せず、誤送信した情報を回収できないためです。メールの通信経路を盗聴されれば添付ファイルの中身も読まれ、数十メガバイトを超える大容量ファイルは送れないという制約もあります。
パスワード付きZIPファイルの別送(PPAP)
PPAPは、ファイルをパスワード付きZIPにしてメールで送り、同じくメールでパスワードを別送するやり方です。長く使われてきましたが、ZIPファイルはメールのウイルス検査をすり抜けやすく、マルウェアの感染経路になりやすい点が問題です。さらに、暗号化したファイルと解除用のパスワードを同じメール経路で送れば、その経路を盗聴されたときに両方が同時に漏れるため、盗聴対策として意味をなしません。
この問題は民間企業だけのものではなく、中央省庁も廃止に踏み切っています。2020年11月、内閣府・内閣官房は、自動でパスワード付きZIPファイルを送る方式の廃止を公表しました。当時の平井デジタル改革担当大臣(内閣府特命担当大臣)は、記者会見で次のように述べています。
内閣府、内閣官房で採用していたZIPファイル送付と同じ経路でパスワードを自動で送る方式は、セキュリティ対策の観点からも、受け取る側の利便性の観点からも、適切なものではないと考えています。
出典:平井内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和2年11月24日|内閣府
同じ会見では、機密性の高いファイルを送る場合は、パスワードをかけたうえで「全く別の経路でパスワードを知らせる」ことがまずは適切な対応だったとも述べられています。問題の核心は、ファイルとパスワードを同じ経路で送ってしまう点にあります。後述するクラウドストレージやファイル転送サービスは、ダウンロード用URLと別手段での通知を組み合わせることで、この弱点を避けられます。
個人向けクラウドや無料サービスの無断利用(シャドーIT)
社員が会社の許可を得ずに個人のクラウドストレージや無料のファイル転送サービスを業務で使う状態は、シャドーITと呼ばれます。手元ですぐ使える手軽さがある一方、会社の管理者が「誰が・どのファイルを・どこへ共有したか」を把握できないため、退職者のアカウントにデータが残り続けたり、誤って公開設定のまま共有されたりしても気づけません。
無料サービスはあくまで個人利用を前提としたものが多く、保管先が社外の基盤である点や、権限管理・操作ログといった統制機能が業務水準に満たない点も見過ごせません。会社として安全な共有手段を用意し、個人利用を禁止したうえで代替を示すことが、シャドーIT対策の基本になります。
USBメモリなど物理メディアによる手渡し
USBメモリや外付けディスクでの手渡し・郵送は、ネットワークを介さない安心感から使われがちですが、紛失・盗難のリスクが常につきまといます。暗号化されていないメディアを落とせば、拾った第三者が中身を読めてしまいます。加えて、持ち込まれたメディアがウイルスの感染経路になることもあり、持ち出し自体を会社が把握しにくい点も管理上の弱点です。
やむを得ず使う場合でも、暗号化機能付きメディアに限定し、持ち出しの記録を残す運用が欠かせません。日常的な社外とのやり取りは、後述する法人向けサービスへ置き換えるほうが安全です。
安全なファイル共有のために押さえる必須対策
ここからは、ファイル共有を安全に行うために押さえておきたい対策を整理します。これらは、共有する前に相手とアクセス範囲を絞る対策、共有した後も送信者側でコントロールする対策、ファイルそのものを守り記録する対策の3つに分けて考えると、抜け漏れを防げます。個人データを扱う場合、こうした対策は望ましいだけでなく法律上の要請でもあります。
個人情報保護法は、個人データを取り扱う事業者に対し、次のように安全管理措置を義務づけています。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
出典:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)法第23条|個人情報保護委員会
個人情報保護委員会のガイドラインは、講じるべき技術的安全管理措置として、アクセス制御・アクセス者の識別と認証・外部からの不正アクセスの防止・情報システムの使用に伴う漏えいの防止などを挙げています。以下で紹介する権限管理・多要素認証・操作ログといった対策は、この安全管理措置に対応するものです。
安全に共有できていると言うために満たしたい対策は、次の7つです。以降でそれぞれを詳しく解説します。
- アクセス権限の最小化(閲覧・編集・ダウンロードの制御)
- 多要素認証による本人確認
- 共有リンクの有効期限・ダウンロード回数制限
- 送信後の共有停止・取り消し(遠隔削除)
- 公開モード(閲覧のみ・ダウンロード禁止・透かし)
- 保存時・通信時の暗号化
- 操作ログ・監査証跡の記録
この7つの対策は、共有する前・共有した後・ファイルそのものという3つの段階に整理すると、抜け漏れなく捉えられます。

共有する前に絞る(アクセス制御・本人確認)
アクセス権限の最小化(閲覧・編集・ダウンロードの制御)
アクセス権限の最小化とは、各ファイル・フォルダーに対して「誰が」「何をできるか」を必要最小限に絞る考え方です。閲覧だけでよい相手に編集権限やダウンロード権限を与えないことで、万一アカウントが乗っ取られても被害範囲を限定できます。役割ごとに権限をまとめて付け外しできるサービスを選ぶと、設定の手間と付け忘れのリスクを同時に減らせます。
一方で、権限を細かく分けるほど設定は複雑になり、かえって設定ミスを招きやすくなる面もあります。運用に乗せられる範囲で設計し、定期的に権限を棚卸しすることが大切です。
多要素認証による本人確認
多要素認証は、ログイン時にパスワードだけでなく複数の要素を組み合わせて本人を確認する仕組みです。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、次のように説明しています。
また、認証の際、複数の要素(記憶情報、所持情報、生体情報のうち2つ以上)を用いた方式は「多要素認証」と呼ばれることもあります。「多要素認証」を利用している場合、仮にIDおよび1つ目のパスワードを不正利用されてもログインはできないことから、不正ログイン防止に効果があります。
出典:不正ログイン対策特集ページ|情報処理推進機構(IPA)
記憶情報(パスワード)、所持情報(スマートフォンアプリやメールに届く確認コード)、生体情報(指紋・顔)のうち2つ以上を使うことで、パスワードが漏れても不正ログインを防ぎやすくなります。社外とのやり取りでは、共有リンクにパスワードをかけるだけでなく、受け取る相手の本人確認までできるかを確認しておくと安心です。
共有した後もコントロールする(誤送信・退職者流出を止める)
有効期限・ダウンロード回数制限
共有リンクに有効期限を設定すると、期限が過ぎたリンクは自動的に無効になり、やり取りが終わったファイルにいつまでもアクセスできる状態を防げます。ダウンロード回数の上限を設ければ、想定した相手が受け取った後に第三者が繰り返しダウンロードする余地も減らせます。短期の受け渡しでは期限を短く、継続的な共有では用途に応じて設定するなど、場面で使い分けるのが基本です。
送信後の共有停止・取り消し(遠隔削除)
メール添付と違い、共有リンク方式では送信後でもリンクを無効化して共有を止められます。宛先を間違えて送ってしまった場合でも、相手がダウンロードする前にリンクを停止できれば被害を防げます。退職者や取引終了先に渡したファイルを後からまとめて無効化できる機能も、流出対策として有効です。この「送った後に取り消せる」点は、送信したら取り返せないメール添付に対する大きな利点です。
公開モード(閲覧のみ・ダウンロード禁止・透かし)
相手に内容を見せる必要はあるがファイルを手元に残させたくない場合は、ダウンロードを禁止して画面上の閲覧だけを許可する公開モードが役立ちます。ブラウザー上でのプレビューに限定したり、画面に利用者名の透かしを表示してスクリーンショットによる持ち出しを抑止したりする機能を備えたサービスもあります。契約書や提案資料のように、確認はさせたいが二次利用は避けたいファイルで有効です。
別の方式として、ファイルそのものに暗号化と利用権限を埋め込むIRM/DRM(情報権利管理)型の仕組みもあります。ダウンロードされた後も、閲覧・編集・印刷の可否や有効期限を制御し続けられる点が特徴です。
共有リンクやストレージ側の制御が「渡すまで」を守るのに対し、IRM/DRMは「渡した後」のファイルの扱いまで追いかけられます。手元に渡った後の二次利用まで抑えたい機密ファイルを扱う場合は、こうした方式に対応しているかも確認しておきましょう。
ファイルを守る・記録する(暗号化と監査)
暗号化(保存時・通信時)と「暗号化だけでは不十分」な理由
暗号化には、サーバーに保管したファイルを暗号化する保存時の暗号化と、通信経路を暗号化する通信時の暗号化(SSL/TLS)があります。これらにより、保管場所への不正アクセスや通信の盗聴が起きても、中身を読まれるリスクを下げられます。多くの法人向けサービスはAES256ビットなどの方式で保存データを暗号化し、通信はTLSで保護しています。
ただし、暗号化が守るのは「保管場所や通信経路からの漏えい」までです。正しく受け取った相手がその後ファイルをどう扱うか、相手が本当に意図した本人かどうか、共有した後の挙動までは暗号化では管理できません。そのため、暗号化は前章のアクセス制御・本人確認や、次に述べる操作ログと組み合わせて初めて実効性を持ちます。
操作ログ・監査証跡
操作ログは「誰が・いつ・どのファイルに・どんな操作をしたか」を記録する機能です。万一の情報漏えい時に原因や影響範囲を追跡でき、取引先や監督官庁への説明根拠にもなります。平常時も、不審なアクセスやダウンロードの急増を定期的に分析することで、事故の兆候を早期に捉えられます。ログの保存期間や、CSVなどで出力して分析できるかはサービスごとに差があるため、監査要件がある企業は確認しておきましょう。
対策を活かす運用の勘所──設定ミス・放置・ログ未活用で事故を起こさない
ここまでの対策は、機能を導入しただけでは効果を発揮しません。実務では、機能を入れた後の運用でつまずく事故が多く見られます。
よくある落とし穴は3つあります。第一に、権限の付けすぎです。「とりあえず全員に編集権限」のような設定は、権限を絞る意味を失わせます。
第二に、共有リンクの放置です。有効期限を設定せずに発行したリンクが残り続けると、退職者や取引終了先からアクセスできる状態が続きます。第三に、操作ログの取りっぱなしです。記録していても誰も確認しなければ、異常を検知できず監査にも活かせません。
導入時に権限・リンク・ログの運用ルールを決め、定期的に棚卸しする体制までセットで整えることが、対策を実効性のあるものにします。
社外とのファイル共有で失敗しないサービスの選び方
ここからは、社外とのファイル共有サービスを選ぶときに確認したい観点を解説します。社内利用と違い、社外共有では相手の使いやすさや本人確認、第三者認証の有無まで見ておくと失敗が減ります。
受信者認証はパスワードだけで十分か
共有リンクにパスワードをかけるだけでは、そのパスワードを知る人なら誰でもアクセスできます。前章の多要素認証と同じく、受け取る相手の本人をどこまで確認できるかが重要です。宛先に指定したメールアドレスの相手にだけ届く仕組みや、ワンタイムパスワードでの受信者認証に対応しているかを確認しましょう。特に機密性の高いファイルでは、パスワード単独ではなく複数の手段を組み合わせられるサービスが安心です。
宛先制限・誤送信を防ぐ仕組みがあるか
誤送信は情報漏えいの主要な原因の1つです。送信前に上長が宛先と内容を確認して承認するワークフロー、登録済みの宛先以外への送信を禁止する制限、送信後の取り消しといった仕組みがあると、人のミスをシステムで食い止められます。社外とのやり取りが多い部署ほど、こうした誤送信対策の有無が効いてきます。
相手(社外ユーザー)の使いやすさ・負担の少なさ
どれほど安全でも、受け取る相手に専用ソフトのインストールや複雑な手続きを強いると、現場で使われず形骸化します。相手がブラウザーだけで受け取れるか、アカウント登録が必要かどうかは、導入前に確認したいポイントです。自社の統制と相手の負担のバランスを取れるサービスが、結果的に定着します。
Pマーク・ISMS・ISMAPなどの第三者認証と導入実績
サービス提供事業者が第三者認証を取得していれば、一定の管理体制が外部の審査で確認されている目安になります。ただし認証ごとに対象範囲が異なるため、違いを理解して見ることが大切です。
プライバシーマーク(Pマーク)は、日本産業規格JIS Q 15001に準拠し、個人情報を適切に保護する体制を整えた事業者を一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が評価する、個人情報保護に特化した認証です。
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)適合性評価制度は、国際規格ISO/IEC 27001(国内規格JIS Q 27001)に基づき、情報セキュリティ全般のマネジメント体制を評価する制度です。ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)は性格が異なり、総務省の資料では次のように説明されています。
登録されたクラウドサービスは「ISMAPクラウドサービスリスト」に掲載され、政府機関等は原則としてこのリストからクラウドサービスを調達することとされています。
出典:はじめてのISMAP ─ 政府情報システムのためのセキュリティ評価制度の概要|総務省
ISMAPは本来、政府機関等の調達のための制度であり、民間企業に利用義務があるわけではありません。民間企業にとっては「政府が求める水準を満たした第三者評価を受けているサービス」という選定の信頼材料として捉えるのが適切です。自社がどの水準を求めるかに応じて、これらの認証の有無と、同業種での導入実績を合わせて確認しましょう。
- 個人情報を多く扱う → Pマークの取得を確認
- 情報セキュリティ全般の管理体制を重視 → ISMS(ISO/IEC 27001)を確認
- 官公庁並みの高い水準を求める → ISMAPクラウドサービスリストへの登録を確認
容量・料金・操作性・対応デバイス
基本的な選定軸として、必要な保管容量、料金体系、操作性、対応デバイスも押さえましょう。料金はユーザー数に応じて増える方式と、容量に応じた定額方式があり、全社で使うなら容量課金のほうがコストを見通しやすい場合があります。スマートフォンやタブレットからの利用、既存のMicrosoft 365などとの連携の可否も、現場の使い勝手を左右します。
安全なファイル共有を実現する法人向けサービス
ここからは、これまで解説した対策を備えた法人向けのファイル共有サービスを紹介します。以下はご紹介するサービスの比較表です。権限設定・操作ログ・多要素認証・有効期限・送信取り消し・料金の観点でまとめています。
表のタイプ列は冒頭の手段一覧と対応しています。継続的な保管・共同編集が主眼のストレージ型(法人向けクラウドストレージ)、社外への送受信に特化した転送・交換型(法人向けファイル転送サービス)、その両方を1つで担う両対応の3つに分かれ、自社の使い方がどれに近いかを起点に見ると絞り込みやすくなります。
| サービス名 | ABLENETストレージ | クリプト便 | GigaCC | DirectCloud | PrimeDrive | Bizストレージ ファイルシェア |
|---|---|---|---|---|---|---|
| タイプ | ストレージ型 | 転送・交換型 | 両対応 | ストレージ型 | 両対応 | 両対応 |
| 料金タイプ | 容量課金 | ユーザー課金 | ID課金 | 容量課金 | 容量課金 | 容量課金 |
| 初期費用 | 16,500円〜 (ベーシック、税込) | 要問い合わせ (公式は金額非公開) | 50,000円 (税別、全製品共通) | 0円 | 30,000円〜 (1GB契約時) | 20,000円 (Web申込は無料、税別) |
| 月額費用(最小構成) | 19,800円/月〜 (1TB・1年契約、税込) | 900〜1,000円/ユーザー・月 (税区分は公式要確認。最小20人規模で月2万円が目安) | 12,000円〜 (ASP 10ID、税別) | 44,000円〜 (Standard・500GB・税抜、ユーザー数無制限) | 12,000円〜 (1GB契約時) | 15,000円〜 (1GB・最大1,000ID、税別) |
| アクセス権限設定 | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
| 多要素認証 | ● | ● | ● | △標準はSSO/SAML連携で対応 | △証明書認証・SAML連携で対応 | ● |
| 共有リンクの有効期限 | ●最大60日まで設定可 | ●送受信は最大25日保管 | ●送信ファイルの自動削除設定 | 要問い合わせ | ●URLに有効期限を設定可 | ●アクセス期限で自動削除 |
| 送信取り消し・リンク無効化 | ●共有リンクの削除で対応 | ● | ●ダウンロードURLの配信停止 | ●DRMで配布後も開封を制御 | ●緊急ロックで一括無効化 | ●送信取り消し・送信先制限 |
| 操作ログ | ● | ● | ●CSVで自動出力 | ●250種類以上 | ●CSV出力・5年保管 | ● |
| 詳細情報 | オンライン相談を予約 | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
※月額費用は各社で前提の容量・人数が異なるため、金額は横並びの単純比較ではなく「料金タイプ(容量課金/ユーザー課金)」とあわせてご確認ください。●は標準対応、△は標準では付かず連携・上位プラン等で対応、「要問い合わせ」は公式に明記がなく個別確認が必要な項目です(2026年10月時点の各社公式情報による)。
1. ABLENETストレージ(株式会社ケイアンドケイコーポレーション)

ABLENETストレージは、株式会社ケイアンドケイコーポレーションが提供する、ユーザー数無制限の容量課金制を採用した法人向けクラウドストレージです。社員や取引先が増えても費用が容量だけで決まるため、全社員で使う前提で導入しやすい料金設計が特徴です。WindowsのエクスプローラーやMacのFinderから仮想ドライブとして扱え、専用画面の習熟なしに使い始められます。
セキュリティ面では、AES256ビット暗号化・2要素認証・遠隔削除・国内データセンター保管を備え、ファイルを添付せず共有リンク(パブリックリンク)で受け渡すことでPPAPからの脱却を図れます。共有リンクには有効期限(最大60日)とパスワードを両プランで設定でき、ダウンロード回数制限・宛先指定・公開承認といった踏み込んだ制御は上位のプロプランで利用できます。
料金はベーシックプランが月額19,800円(税込、1TB・1年契約時の月額換算)からで、初期費用は16,500円です。10日間の無料トライアルが用意されています(2026年9月時点)。
安全な共有手段は、一部の社員だけが使う状態だと個人サービスの無断利用(シャドーIT)が残り、全社に行き渡ってはじめて機能します。料金モデルの違いがこの全社利用の広がりにどう関わるかについて、提供元の株式会社ケイアンドケイコーポレーションは次のように説明しています。

多くのクラウドストレージサービスはID課金を採用していますので、利用する社員が増えれば増えるほど月額料金が膨らんでいく仕組みになっています。これがどういう現象を引き起こすかと言いますと、コストを抑えるために「一部の社員だけが使う」という運用になってしまって、せっかくのDXツールが会社全体に広がっていかない、ということが起きてしまいます。
2. クリプト便(NRIセキュアテクノロジーズ株式会社)

情報セキュリティ専門企業のNRIセキュアテクノロジーズが開発・運用する、機密情報の受け渡しに特化したファイル交換サービスがクリプト便です。メール感覚で社外に送る「ファイル送受信」と、オンラインストレージのように社外と中長期で共有する「ファイル共有」の2機能を持ち、金融機関を中心に導入が広がっています。
交換相手を登録ユーザーに限定するクローズドグループ、送信前後の承認機能、IPアドレス制限や送信先の許可制限など、人的なミスや持ち出しを抑える統制機能が充実しています。通信はTLS1.2/1.3、保管ファイルはAES暗号化で、国内のデータセンターで管理されます。
ISMAPクラウドサービスリストへの登録に加え、ISO/IEC 27017・27018やPCI DSSなど金融水準の第三者認証を取得している点も、機密データを扱う企業にとって選びやすい材料です。料金はスタンダードプランで1ユーザーあたり月額900円から(2026年10月時点、公式確認値)で、1か月の無料トライアルを利用できます。
一方で初期費用は公式に金額が公開されておらず、契約総額は利用人数や規模に応じた見積りとなるため、正確な費用は問い合わせが必要です。機密ファイルの受け渡しに機能を絞った設計のため、社内の汎用的な文書保管を主目的とする用途には向きません。
3. GigaCC(日本ワムネット株式会社)

GigaCCは日本ワムネットが運営する、企業間のファイル転送・共有に特化した純国産のサービスです。サービス開発から販売、データセンター、導入後のサポートまで国内で完結する体制を掲げ、累計1,000社以上の導入実績があります。汎用的に使える「GigaCC ASP」を中核に、送信特化の「OKURN」、共有特化の「SHARERN」と、用途に応じて製品を選べる構成です。
送信前の上長承認、ダウンロードURLの配信停止、送信済みファイルの自動削除など、誤送信・情報漏えいを抑える機能を標準的に備えます。通信のSSL/TLS暗号化とサーバー内のAES暗号化、2要素認証、IPアドレス制限、プレビュー時の電子透かしに対応し、履歴ログはCSVで自動出力できます。ISO/IEC 27017やISMS、プライバシーマークを取得しています。
料金は中核のASPが最小構成(10ID)で月額12,000円から、初期費用50,000円(いずれも税別)で、全製品に14日間の無料トライアルがあります。
ただし初期費用が一律で発生し、共有特化のSHARERNは月額85,000円からと規模により費用が上がります。送信・共有のどちらを主に使うかで適したプランが変わるため、用途を整理してから選ぶとよいでしょう。
4. DirectCloud(株式会社ダイレクトクラウド)

株式会社ダイレクトクラウドが運営するDirectCloudは、ユーザー数無制限・席課金なしの容量課金を主軸にした国産の法人向けクラウドストレージです。全社導入してもユーザー増でコストが膨らまない料金体系が強みで、2026年9月提供開始のTeam Businessプランのみ1ユーザー単位の課金制となります。導入社数は3,000社を超え、利用ユーザー数は140万人に達しています。
ファイルにAES256ビットの暗号化を施して許可された相手以外は開けないようにするDRM機能(DirectCloud-SHIELD)、持ち出し時に承認者の許可を求めるワークフロー、250種類以上の操作ログなど、ガバナンスを効かせた共有が可能です。データはAWS東京リージョンの国内データセンターに保管され、通信は256ビットSSL、ファイルはAES256ビットで暗号化されます。
ISO/IEC 27001・27017やプライバシーマークを取得しています。料金はStandardプランが月額44,000円(税抜)・容量500GBからで初期費用は0円、14日間の無料トライアル(トライアル中は容量10GBまで)を利用できます。
最小のStandardプランでも月額44,000円からと小規模では割高になりやすく、共有リンクの有効期限や標準での多要素認証は公式に明記がありません。該当する要件がある場合は、事前に対応可否を確認しておくと安心です。
5. PrimeDrive(ソフトバンク株式会社)

通信事業者のソフトバンク株式会社が運営するPrimeDriveは、オンラインストレージとファイル転送を1つにした法人向けサービスです。容量課金制で、契約容量内であれば最大10,000ユーザーまで追加課金なしで登録でき、大人数での利用でもコストが容量に連動します。データはソフトバンクが運用する国内データセンターに保存されます。
ダウンロード用URLへのパスワード付与とアクセス有効期限の設定、発行前の上長承認ワークフローにより、PPAPからの脱却と誤送信リスクの軽減を主眼にできます。発行済みリンクを一括で無効化する緊急ロック機能、5年保管の操作ログ、IPアドレス制限や証明書ベースのクライアント認証など、管理者による統制機能も厚めです。
ISO/IEC 27001・27017の取得に加え、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)に登録されています。料金は1GB契約時で月額12,000円から・初期費用30,000円で、30日間・容量1GBの無料トライアルが用意されています。
ログインの本人確認は証明書によるクライアント認証やSAML連携が中心で、一般的な「多要素認証」としての標準提供は公式に明示されていません。本人確認の要件がある場合は、対応方式を確認しておくとよいでしょう。
6. Bizストレージ ファイルシェア(NTTドコモビジネス株式会社)

Bizストレージ ファイルシェアは、NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)が提供する法人向けのファイル転送・オンラインストレージサービスです。社外への大容量ファイル送受信と、社内外メンバーでの共有フォルダー運用を1つのサービスで完結できます。Webブラウザーだけで利用でき、受け取る相手に専用ソフトのインストールを求めない点も、社外とのやり取りで使いやすい特徴です。
導入は1,100社以上・30万ID以上に広がっています。
送信時の上長承認ワークフロー、パスワード・メールアドレス・IPアドレスの3方式によるダウンロード制限、アクセス期限到達での自動削除、送信取り消しや送信先制限といった誤送信対策を組み合わせられます。共有フォルダーは8種類のアクセス権限で管理でき、最大99世代のバックアップや操作ログの出力にも対応します。
通信はSSL/TLSで暗号化し、2要素認証やIPアドレス制限を備え、国内の自社データセンターで関東・関西によるディザスタリカバリー構成を取っています。料金は1GB・最大1,000ユーザーで月額15,000円(税別)から、初期費用はオンラインショップ申込なら無料で、2週間の無料トライアルがあります。
申込書での申込みには初期費用がかかり、月額は必要な容量プランに応じて上がります。1回の送信容量の上限などもあるため、自社の送受信量と申込方法を踏まえて費用と要件を見積もるとよいでしょう。
ここで紹介したのは、安全なファイル共有に使える法人向けサービスの一部です。クラウドストレージ型を中心に、より多くの製品を容量・料金・セキュリティ機能で横断的に比較検討したい場合は、以下の記事でカテゴリ全体を一覧できます。自社の共有基盤を本格的に選定する段階では、あわせて確認すると選択肢を広げられます。
【2026年最新】法人向けクラウドストレージ比較17選|料金・容量・セキュリティで選ぶ
社内のファイル共有や外出先からのデータ活用、取引先との受け渡しを見直すなかで、「自社に合った法人向けクラウドストレージをそろそろ本格的に導入・刷新したい」と考えていないでしょうか。サービスは数多く、料金体系もセキュリティも横並びで見えにくい…
補足:PPAP廃止の背景と暗号化の仕組み
最後に、本文で触れた背景を補足します。社内ルールの見直しや稟議の根拠として確認しておくと役立ちます。
官公庁のPPAP廃止方針はどう進んだか
PPAPの廃止は、国民からの提案をきっかけに進みました。2020年11月17日の記者会見で、平井デジタル改革担当大臣は、行政への意見募集で得票数が第1位だった「暗号化ZIPファイルの廃止」について、内閣府・内閣官房で廃止する方向で検討を進めていると表明しました。その1週間後の11月24日には、11月26日から内閣府・内閣官房で廃止すると公表し、他省庁にも廃止を促す方針が示されました。
この動きは民間にも影響が及ぶものとされ、以降、多くの企業がPPAPの見直しに取り組んでいます。
自社で脱PPAPを進める際は、単に禁止するだけでなく、クラウドストレージやファイル転送サービスといった代替手段を同時に用意することが欠かせません。代替がないまま禁止すると、かえって個人サービスの無断利用(シャドーIT)を招くためです。
保存時・通信時の暗号化とは
暗号化とは、データを定められた手順で読めない形に変換し、正しい鍵を持つ者だけが元に戻せるようにする技術です。言葉の意味を押さえておくと、各サービスのセキュリティ説明を読み解きやすくなります。
ファイル共有で使われる保存時・通信時の2種類の暗号化の役割と、暗号化だけでは安全を担保できない理由は、「必須対策」の章で解説したとおりです。
まとめ
ファイル共有の安全性は手段ごとに大きく異なります。メール添付・PPAP・個人クラウドの無断利用・USB手渡しは社外とのやり取りでは見直しの対象で、法人向けのクラウドストレージやファイル転送サービスへ置き換えるのが基本です。
そのうえで、アクセス権限の最小化・多要素認証・有効期限・送信取り消し・暗号化・操作ログといった対策を組み合わせ、導入後の運用ルールまで整えることで、はじめて実効性のある安全な共有になります。
サービスを選ぶ際は、受信者の本人確認・誤送信対策・相手の使いやすさ・第三者認証と導入実績を確認し、自社が求める水準に合うものを絞り込みましょう。まずは本記事で紹介したサービスの資料を取り寄せ、機能と料金を具体的に比較してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 安全なファイル共有とは何ですか?
安全なファイル共有とは、暗号化・アクセス権限の制御・受信者の本人確認・操作ログの記録といった対策によって、ファイルが意図した相手にだけ届き、漏えいや誤送信を防げる状態でやり取りすることを指します。単にパスワードをかけるだけでは不十分で、共有する前・共有した後・ファイルそのものという複数の段階で守りを重ねることで実現します。
Q. 安全なファイル共有に最低限必要な条件は何ですか?
ファイル共有を安全に行うために最低限押さえたいのは、アクセス権限の最小化・多要素認証による本人確認・保存時と通信時の暗号化・操作ログの記録・共有リンクの有効期限と送信後の取り消しです。これらは個人情報保護法が事業者に求める安全管理措置とも対応しており、個人データを扱う場合は実務上の必須条件になります。
無料の個人向けサービスではこれらが揃わないことが多いため、業務では法人向けサービスで満たすのが基本です。
Q. ファイル共有で使うクラウドストレージとファイル転送サービスは何が違いますか?
両者の違いは、クラウドストレージが社内外で継続的にファイルを保管・共同編集する「置き場」なのに対し、ファイル転送サービスは社外への大容量ファイルの送受信に特化した「受け渡し」の手段である点です。日常的に同じ相手とフォルダーを共有して共同編集するならクラウドストレージ、取引先へ見積書や大容量データをその都度安全に送るのが主目的ならファイル転送サービスが向いています。
近年は両方の機能を1つのサービスで備える製品も増えており、自社の使い方に合わせて選べます。
Q. 無料のファイル転送サービスやオンラインストレージを業務で使ってはいけませんか?
無料サービスの業務利用は、原則として避け、会社が用意した法人向けサービスに切り替えるのが安全です。無料サービスの多くは個人利用を前提としており、権限管理・操作ログ・本人確認といった統制機能が業務水準に満たないうえ、社員が無断で使うと「誰がどのファイルをどこへ送ったか」を会社が把握できないシャドーITの状態になります。
やむを得ず使う場合でも、機密情報や個人情報は扱わないといった線引きを社内で定めておくことが必要です。
Q. ファイルを暗号化していれば、それだけで安全に共有できますか?
ファイルを暗号化していても、それだけで安全とは言えません。暗号化が守るのは、保管場所への不正アクセスや通信経路での盗聴といった「中身を読まれること」までで、正しく受け取った相手がその後ファイルをどう扱うか、受け取ったのが本当に意図した本人かどうかまでは管理できません。暗号化は、アクセス権限の制御・受信者の本人確認・操作ログの記録と組み合わせて、はじめて社外共有で実効性を持ちます。
Q. 社外の取引先に負担をかけずに安全にファイルを渡すにはどうすればよいですか?
取引先の負担を抑えてファイルを渡すには、相手がブラウザーだけで受け取れ、専用ソフトのインストールや新たなアカウント登録を求めないサービスを選ぶのが有効です。どれほど安全でも手続きが煩雑だと現場で使われず形骸化します。ダウンロード用URLをメールで通知しつつ、パスワードやワンタイムパスワードは別の手段で伝える方式なら、相手の操作を増やさずに安全性と使いやすさを両立できます。
導入前に、受信側にどこまでの操作を求めるのかを確認しておきましょう。
Q. 社内で脱PPAP(パスワード付きZIPの廃止)を進めるにはどうすればよいですか?
脱PPAPを進める際は、PPAPを禁止すると同時に、クラウドストレージやファイル転送サービスといった代替手段をセットで用意することが欠かせません。代替がないまま禁止だけを通達すると、社員が個人の無料サービスを無断で使うシャドーITを招き、かえって危険になります。
会社として使う手段を決め、共有リンクの有効期限・権限・パスワードの運用ルールと、個人アカウント利用の禁止を明文化したうえで、段階的に切り替えるのが現実的です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















