社内で使うクラウドサービスやSaaSが少しずつ増え、気づけば十数個のアカウントを管理している——。入社・異動・退職のたびに各サービスでIDを発行したり止めたりする作業が追いつかず、Excelの台帳で管理するのもそろそろ限界、という情報システム担当(総務などと兼任で見ているケースを含む)の方は少なくありません。
退職者のアカウントが消し忘れのまま残っていないか、不安を抱えながら運用しているケースもあります。
ID管理(社内で使うシステムやサービスのアカウントとアクセス権を管理すること)の方法には、手作業での台帳管理から、Active Directoryによる社内一元管理、IDaaS(クラウドでID管理を行うサービス)、運用そのものを外部に任せるアウトソースまで、いくつかの選択肢があります。
それぞれ初期コストも運用の手間も、守れるセキュリティの水準も違うため、自社の規模や状況に合う方法を選ぶことが出発点になります。
本記事では、ID管理の4つの方法を初期コスト・運用負荷・セキュリティ・向く規模・自動化の範囲で横並びに比較しました。さらに、それぞれの進め方、最もつまずきやすい入退社時のアカウント発行・削除の運用、多要素認証やシングルサインオンの組み合わせ方までを整理しています。自社でどこまで手を打てばよいか、当たりを付けるための材料としてご活用ください。
目次
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ID管理の4つの方法を比較(手動・AD・IDaaS・アウトソース)
ここからは、ID管理の代表的な4つの方法を横並びで見ていきます。どれか一つが絶対的に優れているわけではなく、管理するアカウントの数や社内の体制、求めるセキュリティ水準によって適した方法は変わります。まず全体像を一枚の表で把握してから、各方法の中身を確認してください。
| 項目 / 方法 | 手動管理(Excel/台帳) | Active Directory等での 社内一元管理 | IDaaS (クラウド一元管理) | アウトソース (運用代行) |
|---|---|---|---|---|
| 初期コスト | ほぼなし | 中 サーバー・構築 | 低 月額課金が中心 | 中〜高 委託費 |
| 運用負荷 | 高い 人手で発行・削除・棚卸し | 中 社内に運用知識が必要 | 低 発行・削除を自動化 | 自社では低い 運用を委託 |
| セキュリティ | 属人化しやすく 削除漏れが起きやすい | 社内システムに強い SaaS連携は別途手当て | SSO・多要素認証・ 自動連携で高めやすい | 委託先の体制に依存 |
| 自動化の範囲 | なし | 社内ドメイン内で一元化 | SaaSも含め発行・削除を自動化 | 委託範囲に応じる |
| 向く企業・規模 | 〜数十名程度 | 社内システム中心の企業 | SaaSを多く使う企業全般 | 情シス人員が足りない企業 |
自社の規模・体制に照らして候補を絞り込むための目安です。
初期コストや運用の手間は方法によって大きく異なります。たとえばIDaaSは1ユーザー月数百円程度から始められ、手動管理は追加コストがほぼかからない一方で人手の作業が増えます(製品ごとの実額は後半の比較で示します)。
クラウドサービスを利用する企業は近年増え続けており、総務省の令和5年通信利用動向調査では、クラウドサービスを一部でも利用している企業は約8割に達しました。SaaSが増えるほど管理するアカウントの数も膨らむため、手作業での管理から一元管理へ切り替える動きが広がっています。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:令和5年通信利用動向調査の結果(令和6年6月公表)|総務省(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000169.html)
手動管理(Excel/台帳)
ExcelやスプレッドシートにアカウントIDと利用サービスを記録し、入退社のたびに手作業で各サービスを操作する方法です。新しくツールを導入する必要がなく、追加コストがほぼかからないのが利点で、管理するアカウントが数十名程度までなら現実的に回せます。
一方で、サービスの数と人数が増えるほど作業量が膨らみ、担当者一人に知識が偏る属人化が進みます。とくに退職者のアカウントを各サービスで消し忘れる削除漏れが起きやすく、台帳と実態がずれていくのが最大の弱点です。削除漏れがなぜ危険かは、後述の「入退社・異動時のアカウント発行・削除の運用」で詳しく扱います。
Active Directory 等での社内一元管理
Active Directory(マイクロソフトが提供する、社内ネットワークのユーザーや端末を一元管理する仕組み)に代表される方法で、社内のサーバーやドメインにアカウント情報を集約します。社内システムやWindows端末のログイン管理には強く、一度構築すれば社内の認証を一元化できます。
ただし、Active Directoryはもともと社内(オンプレミス)の環境を前提とした仕組みで、クラウドのSaaSと直接つなぐには別の手当てが必要になります。マイクロソフト自身も、クラウド側のID管理はActive Directoryとは別のサービス(Microsoft Entra IDなどのIDaaS)が担うと整理しており、両者を併用するハイブリッド構成を取る企業もあります。
社内システムが中心で、構築・運用の知識を社内に持てる企業に向く方法です。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:Compare Active Directory to Microsoft Entra ID|Microsoft Learn(https://learn.microsoft.com/entra/fundamentals/compare)
IDaaS(クラウドでの一元管理)
IDaaS(Identity as a Service)は、クラウド上でアカウントとアクセス権を一元管理するサービスです。社内システムとクラウドのSaaSをまとめて管理でき、シングルサインオン(一度の認証で複数サービスを使える仕組み)や多要素認証を標準で備える製品が多く、入退社時のアカウント発行・削除の自動化までカバーできます。
アカウントの発行・削除を自動で各サービスに反映する仕組みには、SCIM(複数のサービス間でユーザー情報の作成・更新・削除を自動連携する標準プロトコル)が使われます。人事システムやIDの基盤とSaaSをSCIMでつないでおくと、入社・退職の情報に合わせてアカウントが自動で作られ、止められます。SaaSを多く使う企業全般に向き、運用の手間を下げながらセキュリティを高めやすいのが特徴です。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:RFC 7644 System for Cross-domain Identity Management: Protocol(SCIM)|IETF(https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc7644)
アウトソース(運用代行)
アカウントの発行・削除や棚卸しといった運用作業そのものを、外部の事業者に委託する方法です。情報システムの専任担当を置きにくい企業でも、ID管理の品質を一定に保てるのが利点です。SaaS管理ツールの提供事業者が、棚卸しやコスト最適化の代行を組み合わせて提供しているケースもあります。
委託費がかかること、そしてセキュリティの水準が委託先の体制に左右される点には注意が必要です。どこまでを任せ、どこから自社で判断するかの線引きを契約時に明確にしておくと、後からの認識のずれを防げます。情シスの人員が足りず、運用を回しきれない企業に向く選択肢です。
各方法の進め方
ここからは、方法を選んだ後に実際どう進めるかを具体的に見ていきます。手動運用をどこまで粘れるか、ツールやIDaaSを入れるならどんな順序で進めるか、アウトソースを使う場合の流れを順に整理します。
手動運用の回し方と「ここが限界」の線引き
手作業でもやり方を決めておけば、一定規模までは安全に運用できます。まず押さえたいのは次の3点です。
- 命名規則を決める:アカウントIDの付け方を社内で統一し、誰のどのアカウントか台帳で追えるようにする
- 棚卸しを定期的に行う:長期間使われていないアカウントや消し忘れたアカウントがないか定期的に確認し、不要なものは無効化・削除する
- 最小権限を徹底する:各アカウントに業務上必要な範囲の権限だけを与え、過剰な権限を残さない
棚卸しについて、総務省は「長期間利用されていないアカウントや、本来であれば削除しておくべきアカウントがないか定期的に確認し、不要なアカウントは無効化したり、削除したりする」よう呼びかけています。
長期間利用されていないアカウントや、本来であれば削除しておくべきアカウントがないか定期的に確認し、不要なアカウントは無効化したり、削除したりするようにしましょう。
総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」管理者向け「アカウント管理」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/security/business/admin/10/)
手動運用の限界は、サービスの数と従業員数が増えて、発行・削除・棚卸しの作業が人手で追いつかなくなる点にあります。棚卸しの頻度が落ちると台帳と実態がずれ、削除漏れが積み上がります。作業に追われて確認が後回しになってきたら、一元管理の仕組みへ移る検討のタイミングです。
ツール/IDaaS 導入の進め方
ツールやIDaaSを導入する場合は、次のような順序で進めるのが一般的です。いきなり製品を選ぶのではなく、現状の棚卸しと要件の整理から始めると、導入後のミスマッチを防げます。
- 現状把握:社内で使っているサービスとアカウントを洗い出し、誰が何を使っているかを可視化する
- 要件定義:連携したいSaaS、必要な認証方式(多要素認証・シングルサインオン)、人事システムとの連携の有無を整理する
- 製品選定:要件に合うIDaaS・ID管理システムを比較し、候補を絞る。比較は、既存システム(人事・SaaS)との連携のしやすさ、必要な機能の充足度、多要素認証などのセキュリティ要件、料金(初期費用と月額単価)、サポート体制といった軸で見比べると判断がぶれにくい
- 試験導入(PoC):一部の部署やサービスで試し、既存の運用に無理なく組み込めるか確かめる
- 運用体制の整備:発行・削除・棚卸しのルールと担当を決め、全社へ展開する
この手順は特定のガイドラインが定めた公式手順ではなく、一般的な進め方の目安です。各ステップで何を確認するか(最小権限の徹底、棚卸しのルール、退職時の即時削除)は、後述の運用の章で具体的に整理します。
アウトソース活用の進め方
アウトソースを使う場合は、まず自社で「任せる範囲」と「自社で判断する範囲」を切り分けることから始めます。アカウントの発行・削除だけを委託するのか、棚卸しやコスト最適化まで含めるのかで、委託費も効果も変わります。
委託先には大きく、情報システムの運用全般を請け負う情シスアウトソーシング(情シスBPO)事業者と、SaaS管理ツールの提供元が運用代行プランとして提供するものがあります。費用は委託する範囲・アカウント数・対応時間によって変わり、相場を一律では示しにくいため、複数社から見積もりを取って比べるのが基本です。
委託する前には、最低限次の点を決めておくと、後からの認識のずれを防げます。
- 委託する作業の範囲(発行・削除だけか、棚卸し・コスト最適化まで含むか)
- アカウントの承認・権限付与の最終判断を自社に残すか、委託先に任せるか
- 対応の時間帯と、緊急時(退職者の即時削除など)の連絡経路
- 棚卸しの結果や削除の実施状況を報告してもらう頻度と形式
委託後も、アカウントの最終的な承認や権限の方針は自社に残すのが基本です。委託先からの定期報告で棚卸しの結果や削除の実施状況を確認できる体制にしておくと、監査で証跡を求められたときにも対応しやすくなります。
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入退社・異動時のアカウント発行・削除の運用
ここからは、ID管理で最もつまずきやすい入退社・異動時の運用を扱います。とくに退職時の削除漏れは、放置すると不正アクセスの入り口になりかねません。発行時と削除時、それぞれのチェックリストと、棚卸しのやり方を具体的に整理します。

入社・異動時の発行チェックリスト
入社・異動時は、必要なアカウントを過不足なく用意することが目的です。権限を広く渡しすぎると、後の削除漏れや不正利用のリスクにつながります。
- 配属先・役割に応じて必要なサービスのアカウントだけを発行する(最小権限)
- 人事情報(入社日・所属・雇用区分)とアカウントをひも付けて記録する
- 異動時は、新しい役割で不要になった権限を外し、必要な権限を追加する(棚卸しと同時に行う)
- IDaaSを使う場合は、人事システムと連携した自動プロビジョニング(SCIMによるアカウントの自動作成)で発行の手間と付け忘れを減らす
退職・異動時の削除チェックリストと即時無効化
退職・異動で不要になったアカウントは、放置すると大きなリスクになります。IPA(情報処理推進機構)は、削除漏れが不正利用の起点になりうると明確に指摘しています。
異動又は退職によって不要となった利用者 ID が削除されていないと、役職員及び元役職員によって不正に利用されて、重要情報にアクセスされる恐れがあります。
IPA「組織における内部不正防止ガイドライン 第5版」(2022年4月)(https://www.ipa.go.jp/security/guide/hjuojm00000055l0-att/ps6vr7000000jvcb.pdf)
同ガイドラインは、こうしたリスクを避けるために「異動又は退職により不要となった利用者 ID 及びアクセス権は、ただちに削除しなければならない」と定めています。退職日に合わせて、各サービスのアカウントを漏れなく止めることが基本です。
- 退職日を起点に、本人が使っていた全サービスのアカウントを無効化・削除する
- 共有アカウントを使っていた場合は、パスワードを変更して本人がアクセスできない状態にする
- 削除の記録(いつ・誰が・どのアカウントを止めたか)を残し、証跡として保全する
- IDaaSを使う場合は、退職ワークフローでアカウントの自動削除と担当者への通知を設定しておく
証跡については、アカウントを消すとアクセス記録まで消えてしまう場合があります。IPAは、そうした場合はIDを削除せずロックしてログを保全するよう促しており、監査でアクセス管理の証跡を求められる企業はこの点も押さえておくと安心です。総務省も、退職したユーザーのアカウントの悪用を不正アクセスの原因の一つに挙げており、削除漏れの放置は避けるべきです。
出典・参考資料(2件)
- 出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|情報処理推進機構(IPA)(https://www.ipa.go.jp/security/guide/hjuojm00000055l0-att/ps6vr7000000jvcb.pdf)
- 参考資料:国民のためのサイバーセキュリティサイト 管理者向け「アカウント管理」|総務省(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/security/business/admin/10/)
アカウント棚卸しの頻度とやり方
棚卸しは、台帳と実際のアカウントのずれを定期的に正す作業です。やり方の基本は、各サービスのアカウント一覧を出し、在籍者・権限と突き合わせて、不要なものを無効化・削除することです。
頻度については、総務省も「定期的に確認」とするにとどまり、公的に決まった間隔はありません。実務上は、人の出入りが多い時期や、監査の前に合わせて行う企業が多く見られます。手作業での棚卸しが負担になってきた場合は、アカウントの一覧化や退職者の自動判定を備えたIDaaSの利用で、作業を減らせます。
セキュリティを高める打ち手(多要素認証・SSO・特権ID)
ここからは、どの方法を選んだ場合にも押さえておきたいセキュリティの打ち手を整理します。多要素認証とシングルサインオンの仕組みと組み合わせ方、そして管理者アカウント(特権ID)の扱いを順に見ていきます。
多要素認証(MFA)とは/2段階認証・2要素認証との違い
多要素認証(MFA)は、ログイン時に異なる種類の認証要素を2つ以上組み合わせる方法です。認証の要素には、パスワードなどの知識情報、スマートフォンやトークンなどの所持情報、指紋や顔などの生体情報の3種類があり、このうち2つ以上を使うのが多要素認証です。

混同されやすい言葉に「2段階認証」と「2要素認証」があります。2段階認証は認証の手順を2回に分ける方法で、同じ種類の要素(パスワードと秘密の質問など)を2回使う場合も含みます。2要素認証は、異なる種類の要素を2つ使う方法を指します。多要素認証は後者の考え方を広げたもので、要素の種類が違うほど、片方が破られても突破されにくくなります。
総務省も、設定が可能な場合は多要素認証を積極的に利用するよう推奨しています。
利用するシステムで多要素認証の設定が可能な場合は積極的に利用しましょう。
総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」社員向け「安全なパスワードの設定・管理」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/security/business/staff/06/)
なお同サイトは、パスワードを定期的に変更するよりも、サービスごとに使い回しのない固有のパスワードを設定することが重要だとしています。手動管理でセキュリティを高めたい場合も、まずは使い回しの排除と多要素認証の導入が効果的です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:国民のためのサイバーセキュリティサイト 社員向け「安全なパスワードの設定・管理」|総務省(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/security/business/staff/06/)
- 参考資料:NIST Special Publication 800-63B Digital Identity Guidelines|NIST(https://pages.nist.gov/800-63-3/sp800-63b.html)
シングルサインオン(SSO)と各方法での組み合わせ方
シングルサインオン(SSO)は、一度の認証で複数のサービスにログインできる仕組みです。サービスごとに個別のパスワードを覚える必要がなくなり、使い回しや弱いパスワードの温床を減らせます。多要素認証と組み合わせれば、入り口を一本化したうえで、その一本をしっかり守る構成になります。
方法ごとの組み合わせ方を整理すると、IDaaSはシングルサインオンと多要素認証を標準で備える製品が多く、導入と同時に全社の認証を一本化できます。Active Directory中心の環境では、クラウド側のシングルサインオンを別のサービスで補うのが一般的です。手動管理の段階でも、主要なサービスで多要素認証を有効にするだけでもセキュリティを確実に高められます。
特権ID(管理者アカウント)の扱い
一般の従業員アカウントとは別に、システムの管理者権限を持つ特権ID(rootやAdministratorなど)の管理にも注意が必要です。特権IDは影響範囲が大きいため、一般アカウント以上に慎重な扱いが求められます。IPAは、権限を一人に集中させず分散すること、必要な操作以外では特権を使わないこと、特権の使用をログに記録することを挙げています。
特権IDの管理は、一般的なアカウント管理とは別の専門領域(特権アクセス管理)として深掘りされることが多いテーマです。本記事の中心からは外れるため、ここでは「一般アカウントとは分けて最小限の人数・用途に絞り、使用の記録を残す」という原則の確認にとどめます。
出典・参考資料(1件)
- 出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|情報処理推進機構(IPA)(https://www.ipa.go.jp/security/guide/hjuojm00000055l0-att/ps6vr7000000jvcb.pdf)
自社に合う方法の選び方
ここまでの4つの方法を、自社の状況に当てはめて選ぶための判断軸を整理します。目安として、次のように考えると当たりを付けやすくなります。
- 従業員数が数十名までで、使うサービスも少ない:命名規則・棚卸し・最小権限のルールを決めた手動管理で、まずは運用を整える
- 社内システムが中心で、運用知識を社内に持てる:Active Directory等での社内一元管理を軸にし、クラウド連携が増えたら補強を検討する
- SaaSが増え、入退社の作業や棚卸しが追いつかない:IDaaSで発行・削除・認証を一元化し、運用を自動化する
- 情シスの人員が足りず、運用を回しきれない:アウトソースで運用を委託し、方針と承認だけ自社に残す
複数の方法を併用する企業も少なくありません。たとえば、社内システムはActive Directory、クラウドのSaaSはIDaaS、というように役割で使い分ける構成です。いまの運用のどこに手間とリスクが集中しているかを起点に、その部分を解消できる方法から取り入れると、無理のない移行につながります。
ID管理を担うサービスで解決する
手動管理の限界を感じ、一元管理への移行を検討する段階になったら、具体的な製品を比べてみるのが近道です。ここで取り上げるのは役割の異なる2つのサービスです。認証を一元化するIDaaS(CloudGate UNO)と、SaaSアカウントの可視化・棚卸し・入退社管理を担うSaaS管理ツール(マネーフォワード Admina)で、課題に応じて組み合わせて使うこともできます。
| サービス名 | CloudGate UNO | マネーフォワード Admina |
|---|---|---|
| 提供形態 | IDaaS(クラウド型) | SaaS・IT資産管理プラットフォーム |
| 主な特徴 | SSO・多要素認証・アクセス制限・ID管理を 統合した認証プラットフォーム | SaaSアカウントの可視化・棚卸し・ 入退社管理を一元化(情シス向け業務OS) |
| SSO(シングルサインオン) | ● | ×IdPと連携して利用 |
| 多要素認証(MFA) | ●FIDO2・パスキー対応 | × |
| アクセス制限 | ●IP・端末・時間帯など | × |
| アカウントの発行・削除 | ● | ●退職時の自動削除に対応 |
| SaaS可視化・シャドーIT検知 | ×認証・アクセス管理が主軸 | ● |
| 料金(月額) | 1ユーザー440円〜660円(税込) Standard Plus 440円/Enterprise Plus 550円/Smart Pack 660円 | 50ID以下:無料 51ID以上:1IDあたり300円 |
| 無料トライアル | ●30日間 | ●2週間(クレジットカード不要) |
| 向いている企業 | クラウド移行でSaaS利用が増え、 SSO・MFAで認証を一元化したい企業 | SaaSの可視化・棚卸し・ 入退社の管理を効率化したい情シス |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 |
ここで取り上げたのは代表的な2製品ですが、IDaaS(ID管理システム)は多数あり、対応する認証方式や料金、選び方は製品ごとに異なります。より多くの製品を横並びで比較し、自社に合うものを絞り込みたい場合は、以下の記事で主要なサービスの機能・料金・選び方を詳しく整理しています。
IDaaSとは?おすすめ6選を徹底比較|メリットや選び方・導入事例も紹介
「IDaaSを比較したい」「IDaaSとは何?どのサービスがおすすめ?」 IDaaSとは、ID管理と認証をクラウド上で統合できる仕組みで、複数のクラウドサービスをまとめて管理したい企業に広がっています。 クラウドサービスの利用が増えた近年で…
1. CloudGate UNO(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

2008年からサービスを提供する国産のIDaaSが、CloudGate UNOです。株式会社インターナショナルシステムリサーチが自社開発し、シングルサインオン・多要素認証・アクセス制限・ID管理(プロビジョニング)をクラウド上で一体的に提供します。クラウドのSaaSと社内システムの認証をまとめて一元化したい企業に向きます。
認証面では、FIDO2準拠のパスキー(パスワードを使わない認証)を全プラン・全ユーザーで利用できます。アクセス制限はIPアドレス・デバイス証明書・国/地域・時間帯・ブラウザといった単位で設定でき、端末や勤務時間に応じた細かな制御が可能です。
料金は1ユーザー月額で、Standard Plusが税込440円、Enterprise Plusが税込550円、Smart Packが税込660円です(2026年8月時点)。Active Directoryとの連携はEnterprise Plus以上のプランで提供されます。
提供元の株式会社インターナショナルシステムリサーチは、IDaaSへの移行が情報システム部門の運用負荷に与える効果について、独自インタビューで導入現場の事例を挙げています。

導入と同時にパスワードレス認証に切り替えた企業では、IT部門の業務の約20%を占めていたパスワード関連のヘルプデスク業務が「0%」になったという事例があります。
2. マネーフォワード Admina(マネーフォワードi株式会社)

マネーフォワード Adminaは、「情シス向け業務OS」を掲げ、従業員を軸にSaaSアカウントの可視化・棚卸し・入退社時の発行や停止を一元化するSaaS・IT資産管理プラットフォームです。この記事で扱ってきた削除漏れや棚卸しの負担に正面から応える点が特徴です。
入社から退職までのアカウント発行・削除を統一管理でき、退職済みアカウントはアラートで示され、ボタン操作で削除できます。退職時のワークフローで、退職日や雇用区分などの条件に応じてSaaSアカウントを自動削除し、Slackやメールで通知する設定も可能です。情報システム部門が把握していないSaaSを検知するシャドーIT対策も備えます。
料金は50ID以下なら無料で全機能を利用でき、51ID以上は1IDあたり月300円です(2026年9月時点)。
各製品の実際の料金を詳しく比べて社内の検討資料にまとめたい場合は、主要なID管理システムの初期費用・月額単価・最小契約人数を公式の料金ページ準拠で一覧にした以下の記事が役立ちます。
まとめ
ID管理の方法には、手動管理・Active Directory等での社内一元管理・IDaaS・アウトソースの4つがあり、初期コスト・運用負荷・セキュリティ・向く規模が異なります。どれが合うかは、自社の規模と、いまどこに手間とリスクが集中しているかで決まります。
どの方法を選ぶ場合でも、最もつまずきやすいのは退職時の削除漏れです。発行時は最小権限、退職時は即時の無効化と証跡の保全、そして定期的な棚卸しを徹底することが、安全な運用の土台になります。多要素認証とシングルサインオンを組み合わせれば、利便性を保ちながらセキュリティを高められます。自社の規模と体制に合う方法を見極め、手間とリスクが集中している部分から手を打っていきましょう。
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よくある質問(FAQ)
Q. ID管理とは何ですか?
A. ID管理とは、社内で使うシステムやクラウドサービスのアカウントとアクセス権を管理することです。入社時のアカウント発行、異動時の権限変更、退職時の削除、そして定期的な棚卸しまでを含みます。
やり方は手動管理(Excel/台帳)・Active Directory等での社内一元管理・IDaaS(クラウド一元管理)・アウトソースに大きく分かれ、企業の規模や使うサービスの数によって適した方法が変わります。
Q. ID管理はExcel(台帳)でどこまでできますか?
A. ID管理をExcelや台帳で回せるのは、従業員数が数十名程度まで・使うサービスも少ない場合が目安です。命名規則・定期的な棚卸し・最小権限のルールを決めておけば、一定規模までは手作業でも安全に運用できます。ただしサービスの数と人数が増えると発行・削除・棚卸しの作業が人手で追いつかなくなり、担当者への属人化や退職者アカウントの削除漏れが起きやすくなります。
作業に追われて棚卸しが後回しになってきたら、一元管理の仕組みへ移る検討のタイミングです。
Q. ID管理で退職者アカウントの削除漏れを防ぐには?
A. ID管理では、退職日を起点に本人が使っていた全サービスのアカウントを漏れなく無効化・削除し、いつ・誰が・どのアカウントを止めたかを証跡として残すことが基本です。IPA(情報処理推進機構)も、異動・退職で不要になった利用者IDとアクセス権はただちに削除するよう求めています。
共有アカウントを使っていた場合はパスワードを変更し、アクセス記録が消えると困る場合はIDを削除せずロックしてログを保全します。手作業での削除漏れが不安なら、退職ワークフローでアカウントの自動削除と担当者への通知を設定できるIDaaSの利用が有効です。
Q. IDaaSとActive Directory、パスワード管理ツールは何が違いますか?
A. IDaaSはクラウド上で社内システムとSaaSをまとめて一元管理する仕組み、Active Directoryは社内(オンプレミス)環境のユーザーや端末を一元管理する仕組みです。Active DirectoryはWindows端末や社内システムのログイン管理に強い一方、クラウドのSaaSと直接つなぐには別の手当てが必要です。
IDaaSはこれに加え、シングルサインオンや多要素認証、入退社時のアカウント発行・削除の自動化までカバーします。パスワード管理ツールはパスワードの保管や自動入力が主目的で、アカウントの発行・削除や権限管理までは担わない点が異なります。
Q. ID管理のアカウント棚卸しはどのくらいの頻度で行えばよいですか?
A. ID管理の棚卸しの頻度に公的に決まった間隔はなく、総務省も「定期的に確認」とするにとどまっています。実務上は、人の出入りが多い時期や、監査の前に合わせて行う企業が多く見られます。棚卸しは各サービスのアカウント一覧を出し、在籍者・権限と突き合わせて、不要なものを無効化・削除する作業です。
手作業での棚卸しが負担になってきた場合は、アカウントの一覧化や退職者の自動判定を備えたIDaaSの利用で、作業を減らせます。
Q. 中小企業に向くID管理の方法はどれですか?
A. ID管理の方法は、自社の規模・体制と、いまどこに手間とリスクが集中しているかで選ぶのが基本です。従業員数が数十名までで使うサービスも少なければ、命名規則・棚卸し・最小権限を決めた手動管理でまず運用を整えます。
SaaSが増えて入退社の作業や棚卸しが追いつかなくなったら、IDaaSで発行・削除・認証を一元化します。情シスの人員が足りず運用を回しきれない場合は、アウトソースで運用を委託し、方針と承認だけ自社に残すとよいでしょう。
Q. 多要素認証と2段階認証・2要素認証は何が違いますか?
A. 多要素認証は、知識情報・所持情報・生体情報という異なる種類の認証要素を2つ以上組み合わせる方法です。2段階認証は認証の手順を2回に分ける方法で、パスワードと秘密の質問のように同じ種類の要素を2回使う場合も含みます。2要素認証は異なる種類の要素を2つ使う方法を指し、多要素認証はその考え方を広げたものです。
要素の種類が違うほど片方が破られても突破されにくく、総務省も設定が可能な場合は多要素認証を積極的に利用するよう推奨しています。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















