内部監査を任されたものの、「リスクベースで監査しなさい」と言われて何から手をつければよいか分からない、という担当者は少なくありません。全部門・全拠点を毎年同じように点検していては、限られた人員と日数が足りず、肝心の高リスク領域を薄くしか見られないという悩みもよく聞かれます。
リスクベース監査とは、ひと言でいえば、すべての領域を一律に点検するのではなく、全社のリスク評価にもとづいて監査対象と頻度・工数を決め、リスクの高いところへ監査資源を厚く配分する手法です。限られた監査資源を「起きたら困る」領域に集中させる考え方で、国際的な内部監査の基準にも組み込まれています。
この記事では、リスクベース監査とは何かを結論から押さえます。そのうえで網羅型監査との違い、監査対象の洗い出しからリスク評価・監査計画への反映までの進め方を解説します。さらに、リスク評価の具体的な採点の仕方と、評価を誤らないための勘所までを順に見ていきます。あわせて、リスク評価と監査計画・指摘事項の管理を1つの基盤で回すためのツールも紹介します。
目次
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リスクベース監査とは
リスクベース監査とは、全社のリスク評価にもとづいて監査の対象・頻度・工数を決め、リスクの高い領域へ監査資源(人員・日数・調査の深さ)を重点的に配分する内部監査の手法です。すべての部門・業務を毎年一律に点検するのではなく、「どこで問題が起きると影響が大きいか」を見極めて監査にメリハリをつける点に特徴があります。日本銀行の金融高度化セミナー資料では、次のように説明されています。
リスクベース監査とは、多様化、複雑化する業務を有効かつ効率的に監査するため、相対的にリスクの高い分野に、より多くの監査資源を投入する手法。
出典:内部監査の理解と高度化のポイント|日本銀行金融機構局 金融高度化センター
この考え方は、内部監査の国際的な基準にも組み込まれています。内部監査人協会(The IIA)が定める「グローバル内部監査基準」は、原則9「戦略的な計画策定」を掲げています。その配下の基準9.4では、内部監査部門長が組織体の戦略・目標・リスクに関する評価にもとづいて監査計画を立てることを求めています。
つまりリスクベース監査は、個々の企業が独自に編み出した工夫ではなく、内部監査のあるべき進め方として基準に裏づけられた手法だといえます。この基準や制度がどこまで求めているかは、後述の「なぜリスクベース監査が求められるのか」で見ていきます。
準拠性監査・実証性監査との位置づけ
監査の分類でよく登場する「準拠性監査」「実証性監査」とリスクベース監査は、混同されがちですが切り口が異なります。準拠性監査(ルールや手続きどおりに業務が行われているかを確かめる)と実証性監査(取引や残高そのものが正しいかを確かめる)は、何を確かめるかの分類です。
これに対してリスクベース監査は、「どこに監査の重点を置くか」という配分の考え方を指します。軸が違うため対立する概念ではなく、リスク評価で重点を置くと決めた領域に対して、準拠性の確認と実証性の確認を組み合わせて実施する、という関係で両立します。
公認会計士が行う財務諸表監査の分野にも「リスク・アプローチ」という言葉があります。これは、重要な虚偽表示が生じやすい項目に監査の人員や時間を重点的に充てる外部監査の手法です。資源を重点配分する発想は共通しますが、対象(財務諸表の虚偽表示か、全社のリスク全般か)と主体(外部監査人か、社内の内部監査部門か)が異なります。
本記事で扱うリスクベース監査は、社内の内部監査が全社のリスク評価にもとづいて監査計画を組み立てる手法を指します。
網羅型(従来型)監査との違い
リスクベース監査の特徴は、従来型の網羅型監査と並べると分かりやすくなります。網羅型監査は、監査対象を幅広く取り、各領域をおおむね均等に点検する進め方です。公平で漏れが生じにくい一方、対象が増えるほど限られた監査資源が薄く広がり、重要な領域の点検まで浅くなりやすいという弱点があります。リスクベース監査は、リスク評価にもとづいて高リスク領域を選び、そこへ資源を傾斜配分します。
| 観点 | 網羅型(従来型)監査 | リスクベース監査 |
|---|---|---|
| 監査対象の選び方 | 全部門・全業務を幅広く、おおむね均等に対象にする | 全社のリスク評価にもとづき、高リスク領域を重点的に対象にする |
| 監査資源の配分 | 対象全体にほぼ均等に配分する | リスクの高さに応じて傾斜配分する(頻度・日数・深さを変える) |
| 主な長所 | 対象の網羅性が高く、点検の漏れが生じにくい | 限られた人員・時間を重要領域に集中でき、効率がよい |
| 主な弱点 | 対象が増えると資源が不足し、点検が浅くなりやすい | リスク評価を誤ると、重要領域を監査対象から外すおそれがある |
どちらが常に優れているというものではありません。監査対象の規模や規制上の要件によっては、網羅的な点検が求められる場面もあり、両者を組み合わせて運用することも一般的です。重要なのは、限られた監査資源をどこに重点配分するかをリスク評価で説明できる状態にしておくことです。その弱点である「リスク評価を誤ると重要領域を外す」点への対処は、後述の「よくある落とし穴」で扱います。
なぜリスクベース監査が求められるのか
事業のグローバル化やIT・サイバー、サステナビリティなど、企業が向き合うリスクは多様化・複雑化しています。一方で内部監査に割ける人員と時間には限りがあります。すべてを一律に点検する余力がないなかで、限られた監査資源を影響の大きい領域へ向けるために、リスクベースの考え方が求められるようになりました。この発想は、内部監査の基準と、上場企業向けの制度の双方に組み込まれています。
内部監査の側では、前述のグローバル内部監査基準の基準9.4「内部監査の計画」が、リスク評価にもとづく計画の策定を明確に求めています。
内部監査部門長は、組織体の戦略、目標及びリスクに関する文書化された評価に基づいて、内部監査の計画を策定しなければならない。この評価は、取締役会及び最高経営者からの情報、並びに組織体のガバナンス、リスク・マネジメント及びコントロールの各プロセスに対する内部監査部門長の理解に基づいて行わなければならない。この評価は、少なくとも年1回実施しなければならない。
出典:グローバル内部監査基準(日本語版)基準9.4|The Institute of Internal Auditors
制度の側でも、上場企業に内部統制報告書の提出を義務づける金融商品取引法の内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX、金融商品取引法第24条の4の4)が、評価にあたって「トップダウン型のリスク・アプローチ」を採用しています。企業会計審議会の意見書では、次のように説明されています。
経営者は、内部統制の有効性の評価に当たって、まず、連結ベースでの全社的な内部統制の評価を行い、その結果を踏まえて、財務報告に係る重大な虚偽記載につながるリスクに着眼して、必要な範囲で業務プロセスに係る内部統制を評価することとした。
出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の設定について(意見書)|企業会計審議会
ここで注意したいのは、J-SOXの「トップダウン型のリスク・アプローチ」は経営者による内部統制評価の枠組みであり、内部監査部門が行う手法としてのリスクベース監査とは別の制度だという点です。両者は同じではありませんが、「リスクにもとづいて評価対象を重点化する」という発想が制度にも組み込まれていることは、リスクベース監査が広く求められる背景を示しています。
出典・参考資料(1件)
リスクベース監査の進め方(実務ステップ)
リスクベース監査は、おおむね次の5つのステップで進めます。抽象的な理念にとどめず、自社の年度監査計画に落とし込める形で順に見ていきます。

- 監査対象の洗い出し(監査ユニバースの作成):事業部門・拠点・業務プロセス・システムなど、監査の対象になりうる単位を一覧にします。グローバル内部監査基準では、これを「監査対象領域」と呼び、組織体の構造やリスクの枠組みと整合させることが有用だとしています。
- リスクの識別:過去の監査での指摘、外部環境の変化、内部通報や現場からの情報などをもとに、各対象領域にどんなリスクがあるかを洗い出します。
- リスク評価:識別したリスクを、発生可能性と影響度、統制の効き具合から評価し、優先順位をつけます。採点の具体的な進め方は次章で詳しく説明します。
- 監査計画への反映:評価の結果、リスクが高いと判断した領域に、監査の頻度・日数・調査の深さを厚く配分し、年度(必要に応じて中長期)の監査計画を策定します。
- 実施とモニタリング:計画にもとづいて監査を実施し、その結果を次のリスク評価にフィードバックします。環境の変化に応じて評価と計画を見直し続けます。
リスク評価と監査計画をいつ見直すかについて、グローバル内部監査基準の基準9.4は、少なくとも年1回の全社リスク評価を基礎としつつ、変化に応じて随時更新することを求めています。
この基準では、計画の基礎として、組織体全体のリスク評価を少なくとも年1回完了することを求めている。しかし、内部監査部門長は、リスク情報を継続的に把握すべきであり、それに応じてリスク評価及び内部監査の計画を更新する。組織体の環境が動的なものであれば、内部監査の計画は、6か月ごと、四半期ごと又は毎月といった頻度で更新が必要なことがある。
出典:グローバル内部監査基準(日本語版)基準9.4|The Institute of Internal Auditors
このように、リスク評価は「年1回作って終わり」ではなく、重大な環境変化があればそのつど見直す運用が前提になります。この点は、後述の落とし穴とも深く関わります。
リスク評価の具体とリスク領域の見極め
進め方の3番目に挙げたリスク評価は、リスクベース監査の要になる工程です。ここでは、リスクをどう採点するか(スコアリング)、どの領域を重く見るか(リスク領域)、どう進めるか(評価手法)の3点に分けて見ていきます。
残存リスクのスコアリングとリスクマップ
リスクの優先順位づけは、まず発生可能性と影響度の組み合わせで候補を絞り込むのが基本です。日本内部監査協会の研究報告では、リスクの評価基準として影響度・発生可能性・顕在化に至る速度・対応策の有効性の4つを挙げ、評価の第1段階を次のように説明しています。
まず、リスクの影響度と発生可能性の組み合わせで、対応すべきリスクの候補を選択します。(このためのツールがリスクマップやヒートマップです。)
出典:リスク評価手法の内部監査での25の活用事例|日本内部監査協会 CIAフォーラム ERM研究会
発生可能性と影響度でリスクの大きさを見積もったうえで、統制がどれだけ効いているか(統制で抑えた後に残る「残存リスク」)を加味して最終的な優先順位を決めます。
こうして採点した結果を、縦軸と横軸のマス目に落とし込んで可視化したものがリスクマップ(ヒートマップ)です。どの領域が右上(発生可能性も影響度も高い)に位置するかが一目で分かり、経営層や監査役に「なぜこの領域を重点監査するのか」を説明する根拠としても使えます。

採点の手を動かすイメージをつかむために、簡単な例で考えます。発生可能性と影響度をそれぞれ5段階(1〜5)で評価し、両者を掛け合わせてリスクの大きさを点数化します。さらに統制の効き具合を加味し、統制が有効に働いていれば点数を一段下げて残存リスクとします。
この採点を監査対象ごとに並べたものが、監査対象領域(監査ユニバース)の一覧です。対象領域ごとに想定リスク・発生可能性・影響度・統制評価・残存リスク・監査頻度の目安を書き出すと、どこを重点的に監査すべきかが整理できます。下は、その最小の記入例です。
| 監査対象領域 | 想定される主なリスク | 発生可能性 (1〜5) | 影響度 (1〜5) | 統制評価 | 残存リスク | 監査頻度の目安 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 購買・支払プロセス | 架空・水増し発注、二重払い | 4 | 4 | 一部有効 | 高 | 毎年 |
| IT・情報セキュリティ | 不正アクセス、情報漏えい | 3 | 5 | 一部有効 | 高 | 毎年 |
| 海外子会社・新規事業 | 統制未整備、法令対応の遅れ | 3 | 4 | 弱い | 高 | 毎年〜随時 |
| 総務・庶務 | 備品・小口現金の管理不備 | 2 | 2 | 有効 | 低 | 2〜3年ごと |
上の数値・頻度は考え方を示す一例です。評価を何段階にするか、点数をどう掛け合わせるか、何点以上を高リスクとみなすかは、決まった正解があるわけではなく、組織の規模やリスクの実情に合わせて自社で決めます。
重視すべきリスク領域
どの領域に監査資源を厚く配分すべきかの見極めも、リスク評価の重要な要素です。グローバル内部監査基準の基準9.4は、監査計画で考慮すべき高リスク分野として、次を挙げています。
IT(情報技術)ガバナンス、不正リスク、組織体のコンプライアンスと倫理プログラムの有効性、及びその他の高リスク分野をカバーすることを考慮しなければならない。
出典:グローバル内部監査基準(日本語版)基準9.4|The Institute of Internal Auditors
IT(サイバーセキュリティやデータ管理を含む)・不正・コンプライアンスは、基準が明示的に挙げる領域です。
これらに加えて、近年はサステナビリティ(ESG)に関するリスクや、業務委託先・サプライヤーに依存することで生じる第三者(サードパーティ)リスクも、監査計画で意識される「その他の高リスク分野」として広がっています。自社の事業内容や環境に照らして、どの領域が重大な影響を及ぼしうるかを見極めることが出発点になります。
評価の進め方のアプローチ
リスク評価の進め方には、いくつかのアプローチがあります。現場の各部門が自部門のリスクを積み上げる方法、全社の業務プロセスを基盤にプロセスごとに評価する方法、複雑性・規制の強さ・戦略上の重要性といったリスク要因から経営レベルで評価する方法などです。組織の規模や特性に応じて、これらを使い分けたり組み合わせたりします。
定量的な点数づけと定性的な判断を組み合わせ、リスクマップやヒートマップで経営層・取締役会に見える形にすることが望まれます。具体的な評価手法や事例は、日本内部監査協会が多数の活用事例を公開しています。
出典・参考資料(1件)
よくある落とし穴と継続的モニタリングによる対処
リスクベース監査の最大の弱点は、リスク評価を誤ると重要な領域を監査対象から外してしまう点です。日本銀行の資料は、この落とし穴を次のように整理しています。
リスク評価、予備調査が適切に行われない場合、リスクを見落とす惧れがある。影響が軽微と判定されると、監査周期が長期化する。監査周期が長期化すると、新たな重大なリスクが看過される可能性がある。
出典:内部監査の理解と高度化のポイント|日本銀行金融機構局 金融高度化センター
とくに、年1回のリスク評価は「その時点のスナップショット」になりやすく、評価の後に生まれた新しいリスク(組織変更後の権限の残り、繁忙期の承認の形骸化など)は次の監査まで見落とされがちです。低リスクと判定した領域の監査周期が延びた谷間に、重大な問題が育つおそれもあります。
こうした評価後のリスクは、なかでも不正で問題になります。不正の動機・機会・正当化の3要素からなる「不正のトライアングル」のうち、内部統制や内部監査で最も抑えやすいのが、不正を実行できてしまう隙である「機会」です。
この機会は年度当初の評価の後に開くことが多く、取引の異常な集中や承認フローを迂回する処理といった予兆(レッドフラグ)も定期監査の谷間で立ち上がりやすいため、年1回の抽出的な点検では把握が遅れがちです。
この弱点への対処として、同資料は、平時からリスクの状況変化を捉える「オフサイト・モニタリング」の強化や、一定周期の監査・抜き打ち監査との併用を挙げています。
「オフサイト・モニタリング」を強化し、リスクの状況の変化を見逃さないようにする。一定周期で監査を行う「サイクル監査」や、「抜き打ち監査」と併用し、牽制効果を高めることも検討の余地。
出典:内部監査の理解と高度化のポイント|日本銀行金融機構局 金融高度化センター
これは、前章で触れた「リスク情報を継続的に把握し、評価と計画を随時更新する」というグローバル内部監査基準の考え方とも一致します。
リスクベース監査を機能させる鍵は、年1回の評価を起点にしつつ、高リスク領域は継続的なモニタリングで補い、評価の根拠を明確にして経営層・監査役と対話を重ねることにあります。近年は、取引データやログの変化を平時から継続的に捉えるために、こうしたモニタリングをシステムで支える動きも広がっています。
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リスク評価・監査計画を1つの基盤で回すには
ここまで見てきたリスク評価・監査計画・指摘事項の管理は、表計算ソフトや個別の文書でも進められますが、評価の履歴や統制との対応づけ、継続的な見直しを手作業で回し続けると負担が大きく、形骸化しがちです。
リスク評価の台帳やリスクマップ、監査計画・調書・指摘事項の追跡を1つの基盤にまとめて運用できるのが、GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)ツールや統合リスク管理(IRM)ツールと呼ばれる製品群です。
もっとも、最初から専用ツールを入れる必要はありません。小さく始めるなら、前章の記入例のような一覧をExcelや簡素な様式で作るところからで十分です。対象や拠点が増えて手作業の管理がつらくなった段階で、ツールの導入を検討するという順序でかまいません。
ここでは、効かせ方の異なる3つのサービスを取り上げます。1つは監査業務そのものを専用機能で支える統合リスク管理、もう1つは監査・リスク・コンプライアンスを単一基盤に統合したGRC、最後は全社のリスク評価とリスクマップ作成に強みを持つ国産のERM(全社的リスク管理)ツールです。以下の比較は優劣を示すものではなく、それぞれが得意とする領域の違いとしてご覧ください。
| サービス名 | Archer | MetricStream | Enterprise Risk MT(ERMT) |
|---|---|---|---|
| 主な位置づけ | 統合リスク管理(IRM) 監査管理に強み | GRC統合基盤 (AI-First Connected GRC) | 国産ERM (ISO 31000準拠) |
| 全社リスク評価・リスクマップ | ●ERM・リスク定量化 | ●Risk(エンタープライズリスク) | ◎ISO 31000準拠・リスクマトリックス標準装備 |
| 監査計画・調書・指摘管理 | ◎専用の監査管理機能 | ●内部監査・SOX対応 | ×監査管理一式は非提供 |
| 提供形態 | SaaS/オンプレミス | 公式に記載なし | クラウド(Salesforceベース) |
| 対象企業規模 | 大企業・金融機関向け | 大企業(エンタープライズ)向け | 公式に記載なし (スモールスタート可能) |
| 料金 | 要問い合わせ (公式非公開) | 要問い合わせ (公式非公開) | 要問い合わせ (公式非公開) |
| 詳細情報 | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
※各サービスの対応領域・提供形態は2026年10月時点の各社公式情報にもとづく整理です。表はそれぞれが得意とする領域の違いを示すもので、優劣を表すものではありません。料金はいずれも公式非公開のため、最新の内容は各社へお問い合わせください。
ここで取り上げた3つは、GRC・リスク管理ツールのごく一部です。対応領域や提供形態、料金、失敗しない選び方まで含めて製品全体を比較検討したい場合は、以下の記事で主要26サービスを詳しく解説しています。
Archer(Archer Technologies Japan合同会社)

Archerは、エンタープライズ向けの統合リスク管理(IRM)プラットフォームです。監査管理・エンタープライズリスク管理(ERM)・ITセキュリティリスク・コンプライアンス・サードパーティガバナンスなど9つのソリューション領域を1つの基盤に統合しています。旧称「RSA Archer Suite」として、国内では金融機関を中心に展開されてきた経緯があります。
リスクベース監査との関係では、監査管理(Archer Audit Management)が、リスク評価にもとづく監査計画の策定から、監査調書の作成、指摘事項の管理までを一連の流れで扱える点が特徴です。全社のリスク管理と監査業務を同じ基盤の上で連携させられるため、評価したリスクをそのまま監査計画に反映しやすくなります。
Archerの公式サイトによると、グローバルで1,200社を超える導入があり、Fortune 500企業の半数以上が導入しています。SaaSとオンプレミスの両方に対応し、ライセンスは従業員数にもとづく階層制です。金融機関や大企業など規制対応が重い組織での利用が中心です。
MetricStream(MetricStream, Inc.)

MetricStreamは、リスク・コンプライアンス・監査・サイバー・レジリエンスの各領域を単一プラットフォームで扱う「AI-First Connected GRCプラットフォーム」を掲げるGRCベンダーです。製品はRisk、Compliance、Audit & Controls、Cyber GRC、Third-Party Risk、Resilienceの6区分で構成されています。
リスクベース監査に関わるのは、内部監査とSOX対応を担う「Audit & Controls」の区分です。監査機能が独立して完結するのではなく、リスク管理やコンプライアンス、統制と同じ基盤の上でつながっている点が、単機能の監査ツールとの違いです。
評価したリスクや統制を監査の対象と結びつけて管理でき、全社的に一貫したリスク・監査の運用を志向する大企業に向いています。公式サイトの訴求は一貫してエンタープライズ(大企業)向けで、料金は個別見積もりです。
Enterprise Risk MT(ERMT)(株式会社GRCS)

株式会社GRCSが開発する国産の全社的リスク管理(ERM)クラウドツールが、Enterprise Risk MT(ERMT)です。リスク管理の国際ガイドラインであるISO 31000に準拠し、リスクの特定・分析・評価を行うリスクアセスメント機能を備えています。
発生可能性と影響度(重大度)からリスクレベルを算出して可視化し、リスクマトリックスやリスクマップで多角的に分析できる点が、前章で説明したリスク評価の工程に直接役立ちます。対応策の実施状況をモニタリングする機能や、ヒヤリハット・インシデントを報告・分析する機能も持ちます。
監査計画の策定や監査調書・指摘事項の追跡までを担う監査管理一式のツールではありませんが、リスクベース監査の起点となる全社リスク評価の基盤になります。Excel管理からの脱却を目的に導入しやすいライセンスモデルで、戸田工業・セガサミーホールディングス・青山商事などの導入が公表されており、東京海上日動火災保険が販売紹介を行っています。
まとめ
リスクベース監査は、全社のリスク評価にもとづいて監査対象と頻度・工数を決め、リスクの高い領域へ監査資源を重点配分する手法です。すべてを一律に点検する網羅型と違い、限られた人員と時間を重要領域に集中できる一方、リスク評価を誤ると重要領域を外すおそれがあるため、評価の根拠を明確にし、継続的なモニタリングで補うことが欠かせません。
進め方は、監査対象の洗い出し(監査ユニバース)、リスクの識別、発生可能性と影響度・統制状況にもとづくリスク評価、監査計画への反映、実施とモニタリングという流れになります。この一連のリスク評価と監査計画・指摘事項の管理は、GRC・統合リスク管理ツールを使えば1つの基盤でまとめて回せます。自社の来期の内部監査計画を、リスク評価にもとづいて組み直す出発点として役立ててください。
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よくある質問(FAQ)
Q. リスクベース監査とは何ですか?
A. リスクベース監査とは、全社のリスク評価にもとづいて監査の対象・頻度・工数を決め、リスクの高い領域へ監査資源を重点的に配分する内部監査の手法です。すべての部門・業務を毎年一律に点検するのではなく、「問題が起きると影響が大きい領域」にメリハリをつけて監査する点に特徴があります。
個々の企業の工夫ではなく、内部監査人協会(The IIA)のグローバル内部監査基準にも組み込まれた、内部監査のあるべき進め方として裏づけられた考え方です。
Q. リスクベース監査とリスク・アプローチ監査は違うものですか?
A. リスクベース監査とリスク・アプローチ監査は、資源を重点配分するという発想は共通しますが、対象と主体が異なります。リスク・アプローチは主に公認会計士が行う財務諸表監査で、重要な虚偽表示が生じやすい項目へ人員・時間を重点配分する外部監査の手法です。
これに対してリスクベース監査は、社内の内部監査部門が全社のリスク評価にもとづいて監査計画を組み立てる手法を指します。言葉は似ていますが、だれが・何を対象に行うかという点で区別されます。
Q. リスクベース監査が広まると、網羅型監査はもう使われないのですか?
A. 網羅型(従来型)監査がなくなるわけではなく、対象や規制上の要件に応じて使い分け・併用するのが一般的です。網羅型は点検の漏れが生じにくいという長所があり、網羅的な確認が求められる場面では引き続き有効です。どちらが常に優れているというものではなく、重要なのは、限られた監査資源をどこに重点配分するのかをリスク評価で説明できる状態にしておくことです。
Q. リスクベース監査にデメリットはありますか?
A. リスクベース監査の最大の弱点は、リスク評価を誤ると、重要な領域を監査対象から外してしまうおそれがある点です。影響が軽微と判定された領域は監査周期が延びやすく、その谷間に新たな重大リスクが育つ懸念もあります。
対処としては、評価の根拠を明確にして経営層・監査役と対話し、平時からリスクの変化を捉えるオフサイト・モニタリングや、一定周期の監査・抜き打ち監査を併用して、年1回の評価を継続的に補うことが挙げられます。
出典・参考資料(1件)
Q. 小規模な組織でもリスクベース監査は必要ですか?
A. 監査に割ける人員や日数が限られる小規模な組織ほど、リスクベース監査の考え方は有効です。少ない資源で全領域を一律に点検するのは現実的でなく、影響の大きい領域へ資源を集中させる判断がより重要になるためです。最初から精緻な仕組みを組む必要はなく、監査対象の洗い出し(監査ユニバース)やリスク評価を簡素な様式から始め、無理なく運用できる形に整えていくのが現実的です。
Q. リスクベースで監査頻度を減らした拠点では、不正が起きやすくなりませんか?
A. 監査頻度を下げた拠点の不正リスクは、継続的なモニタリングの併用で補います。リスクベース監査では低リスクと判定した領域の監査周期が延びますが、年1回のリスク評価は「その時点のスナップショット」になりやすく、評価の後に生まれたリスクは次の監査まで見落とされがちです。
平時からリスクの変化を捉えるオフサイト・モニタリングや、抜き打ち監査による牽制を組み合わせることで、監査の谷間に問題が育つのを防ぎます。
Q. リスクベース監査のリスク評価や監査計画は、Excelでも管理できますか?
A. Excelでも始められます。小さく運用する段階ではExcelや簡素な様式で十分で、まずはそこから着手してかまいません。ただし、評価の履歴や統制との対応づけ、継続的な見直しを手作業で回し続けると負担が重く、形骸化しやすくなります。対象や拠点が増えて管理が手に負えなくなったら、GRC・統合リスク管理ツールで一元化する選択肢を検討するとよいでしょう。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















