掛け売りをしている取引先が倒産すると、まだ受け取っていない売掛金や未払代金が宙に浮きます。「あの代金は取り戻せるのか」「倒産したと聞いた今、何から動けばよいのか」という不安が、最初に頭をよぎるはずです。
倒産した取引先への債権は、原則として破産などの手続のなかで配当を待つ一般債権として扱われ、全額が戻ることは多くありません。一方で、相殺や担保、納品した商品の引き上げといった手段が使える場合には、ほかの債権者に優先して回収できる余地も残されています。動けるかどうかは、初動の早さと手段の選び方で変わります。
本記事では、倒産した取引先から売掛金・未払代金を回収する手段と手続を、根拠となる条文とあわせて整理します。回収しきれなかった場合に損失を税務上で処理する方法、そして次に同じ損失を繰り返さないための備えまでを解説します。
目次
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取引先が倒産したら売掛金は回収できるのか(まず知っておきたい見通し)
最初に結論からお伝えします。倒産した取引先への売掛金は、原則として破産などの手続のなかで配当を待つことになり、全額が戻ることは多くありません。ただし、相殺できる買掛金がある、担保を取っている、所有権を留保したまま納品した商品があるといった場合には、ほかの債権者に優先して回収できる余地があります。
売掛金は「一般債権」として配当を待つのが原則
取引先が破産すると、倒産前の取引で生じた売掛金は、担保などの付いていない一般の破産債権として扱われます。破産債権は個別に取り立てることができず、破産手続のなかで届け出て配当を受けるのが原則です。破産法第100条第1項は、次のように定めています。
破産法 第100条第1項 破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。
出典:破産法|e-Gov法令検索
配当の原資は、破産管財人が換価した破産者の財産です。担保の付いていない一般債権には、税金などの優先する債権や手続費用を差し引いた残りが、債権額に応じて按分されます。手元に戻る割合(配当率)は財産の状況によって大きく変わり、ゼロに近いことも珍しくありません。だからこそ、次に説明する「原則の例外」に自社が当てはまるかを早く確認することが、回収額を左右します。
相殺・担保・所有権留保があれば別扱いで回収余地がある
破産法第100条第1項には「この法律に特別の定めがある場合を除き」という留保が付いています。この特別の定めにあたるのが、相殺権と別除権です。自社が相手に支払う買掛金を持っていれば、破産手続によらずに売掛金と相殺できます。相手の財産に抵当権や質権、動産売買の先取特権といった担保を持っている債権者は、別除権者として配当を待たずに担保を実行できます。
別除権とは、破産手続開始の時点で破産財団に属する財産について担保を持つ人が、その財産から優先して回収できる権利です。破産法は次のように定めています。
破産法 第65条第1項 別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
出典:破産法|e-Gov法令検索
このように、自社が「ただ配当を待つしかない一般債権者」なのか、「優先して回収できる立場」なのかで、取れる手は大きく変わります。次章以降では、倒産の一報を受けた直後の動き方と、どの回収手段が自社のケースで使えるかを順に見ていきます。
倒産の一報を受けてまず動くこと(初動チェックリスト)
ここからは、倒産の一報を受けた直後に何から動くかを、順番に整理します。初動の早さが、優先して回収できる手段を使えるかどうかを分けます。まずは次の3つを上から順に進めてください。
- 取引先の状態を確認する(どの倒産手続か・事業を続けているか)
- 自社の債権と、相手に支払う買掛金を洗い出す
- 未納品は出荷を止め、納品済み商品は引き上げを求める
それぞれの進め方を、以下で順に説明します。
取引先の状態を確認する(どの倒産手続か・事業継続の有無)
まず確かめるのは、取引先が今どのような状態にあるかです。弁護士からの受任通知が届いているか、裁判所の破産手続開始の通知があるか、あるいは夜逃げ同然で連絡が取れないのかによって、次に取れる手が変わります。破産や特別清算のように会社をたたむ手続(清算型)なのか、民事再生や会社更生のように事業を続けながら立て直す手続(再建型)なのかも、早い段階で見極めておきましょう。
回収の期待値は手続の種類で変わります。清算型(破産・特別清算)では配当として戻る分だけ、再建型(民事再生・会社更生)では計画に沿って分割弁済で残ることがあります(詳しくは後述)。
自社の債権と、相手に払う買掛金を洗い出す
次に、その取引先に対する自社の債権(売掛金・受取手形・未収請負金など)の金額と、逆に自社がその取引先に支払う予定の買掛金がないかを洗い出しておきましょう。買掛金があれば、売掛金と相殺して実質的に回収できる可能性があるためです。契約書・注文書・納品書・請求書をそろえ、債権の金額と発生時期を証拠とともに整理しておくと、後の債権届出や相殺の主張がスムーズになります。
未納品は出荷を止め、納品済み商品は引き上げを求める
まだ納品していない商品があれば、出荷を止めて損失の拡大を防ぎましょう。すでに納品した商品でも、売買契約で所有権を留保している場合には、代金が支払われるまで所有権は自社に残っているため、相手の同意を得て引き上げられることがあります。ただし、相手が破産手続に入った後は、破産管財人の管理下にある財産を勝手に持ち出すことはできません。
引き上げを求める際は、管財人や相手方と連絡を取り、合意のうえで進める必要があります。実力行使は避け、判断に迷う場合は弁護士に相談してください。
回収手段の使い分け(自社のケースで使えるのはどれか)
倒産した取引先からの回収手段は複数ありますが、どれでも使えるわけではありません。前の章で触れた「優先して回収できる立場か、一般債権として配当を待つ立場か」という分かれ道に沿って、使える手段は大きく2つのグループに整理できます。自社のケースを上から当てはめながら確認してください。
まず、各手段を「自社に何があれば使えるか」で一覧にします。上から順に、自社に当てはまる手段がないかを確認してください。
| 回収手段 | 相殺 | 商品の引き上げ | 担保権の実行 | 債権届出 | 債権譲渡・代物弁済 | 強制執行・仮差押 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 使える条件(自社に何があれば) | 相手に支払う買掛金などの債務がある | 所有権を留保して納品した商品がある | 抵当権・質権などの担保を取っている | 上記がなく、一般債権として配当を受ける | 倒産手続の前で相手とまだ交渉できる | 倒産手続が始まる前の信用不安の段階 |
| 回収の性格 | 優先的に回収(配当を待たず相殺で充当) | 優先的に回収(現物を取り戻す) | 優先的に回収(別除権として手続によらず実行) | 配当を待つ(金額は債権額に応じて按分) | 相手との合意で回収(開始後は管財人に専属) | 財産を保全・差し押さえて回収 |
| 主な根拠 | 民法505条・破産法67条(71・72条の制限あり) | 所有権留保の特約+判例(破産では別除権的処理) | 破産法65条 | 破産法111条 | 民法466条・482条 | (手続開始後は原則不可) |
※各手段の詳しい条件と手続は、以下で順に説明します。実際の可否は個別の事情で変わるため、判断に迷う場合は弁護士にご確認ください。
優先的に回収できる手段(相殺・商品引き上げ・担保権)
相手に支払う買掛金がある、担保を取っている、所有権を留保して納品しているといった場合は、ほかの一般債権者に優先して回収できる可能性があります。まず自社がこのグループに当てはまらないかを確認します。
買掛金があるなら相殺する
その取引先に対して自社も買掛金などの債務を負っているなら、売掛金と相殺することで、配当を待たずに実質的に回収できます。相殺は、互いに同種の債務を負い、双方の弁済期が来ているときに、その対当額について行えると民法第505条第1項が定めています。破産手続では、さらに破産法第67条第1項が相殺を認めています。
破産法 第67条第1項 破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができる。
出典:破産法|e-Gov法令検索
ただし、相殺はいつでも自由にできるわけではありません。破産法第71条・第72条は、相手の支払不能や破産申立てを知った後に負担した債務での相殺などを禁止しています。倒産しそうだと知ってから相手の債務をあえて引き受け、相殺で回収しようとする行為は認められません。すでに負っている買掛金との相殺に限られる点に注意してください。
出典・参考資料(2件)
納品した商品を引き上げる(所有権留保・動産売買先取特権)
納品した商品そのものを取り戻せるのは、主に売買契約で所有権を留保していた場合です。所有権留保とは、代金が完済されるまで商品の所有権を売主に残しておく特約で、民法に専用の条文があるわけではなく、契約条項と判例によって担保的な権利として認められています。破産手続では別除権に準じて扱われ、所有権が自社に残っていることを前提に、管財人と協議して引き上げを進めます。
所有権を留保していない場合でも、動産を売った代金については、民法第321条の動産売買の先取特権が認められます。もっとも、これは売った商品そのものを引き上げる権利ではなく、その商品の価値から優先して弁済を受ける権利(優先弁済権)である点に注意が必要です。さらに民法第333条により、その商品が第三者に引き渡された後は先取特権を行使できません。
転売されている場合は、現物ではなく転売代金を押さえる方向で検討することになります。
出典・参考資料(1件)
担保権を実行する(別除権)
取引開始時に抵当権や質権などの担保を設定していれば、別除権者として、破産手続によらずに担保を実行して回収できます(破産法第65条第1項)。担保でカバーしきれなかった不足分は、一般の破産債権として届け出て配当を受けることになります。担保を取っていたかどうかは、取引基本契約や個別の担保設定契約を確認してください。
一般債権として少しでも回収する手段(債権届出・債権譲渡・代物弁済・強制執行)
相殺・担保・所有権留保のいずれにも当てはまらない場合は、一般債権として、配当や相手との合意、法的手続で少しでも取りに行くことになります。
債権を届け出て配当を受ける(債権届出)
破産や民事再生などの手続に参加して配当を受けるには、裁判所が定める債権届出期間内に債権を届け出る必要があります。破産法第111条第1項は、破産手続に参加しようとする債権者が、債権届出期間内に各破産債権の額や原因などを裁判所に届け出なければならないと定めています。届出を忘れると配当から除かれてしまうため、裁判所や管財人からの通知を見落とさないことが大切です。
別除権を持つ場合や所有権留保がある場合も、担保の目的財産や不足見込額を届け出ます。
出典・参考資料(1件)
債権譲渡・代物弁済で回収する
相手にまだ資産が残っていて交渉できる段階であれば、債権を第三者に譲渡して資金化する(民法第466条)、あるいは金銭の代わりに商品や機械などで弁済を受ける代物弁済(民法第482条)といった方法もあります。ただし、破産手続が始まった後は、破産者の財産の処分権は破産管財人に専属するため、倒産した相手と直接これらの取り決めをすることは原則できません。
倒産直前の危機的な時期に特定の債権者だけが代物弁済を受けると、後から否認される(効力を失う)おそれもあります。実行の可否とタイミングは慎重に判断してください。
出典・参考資料(1件)
強制執行・仮差押による回収
相手がまだ倒産手続に入っておらず、支払いが滞り始めた信用不安の段階では、相手の財産を保全する仮差押や、債務名義を得たうえでの強制執行が有効なことがあります。一方、いったん破産手続が始まると、個別の強制執行は原則としてできなくなり、手続のなかで配当を受けることになります。強制執行・仮差押が選択肢になるのは、主に倒産手続が始まる前の局面だと理解しておくとよいでしょう。
これらのほか、取引開始時に代表者などの連帯保証を取っていれば、倒産手続とは別に保証人へ請求できます。受取手形を持っている場合も、手形上の権利として別途取り立てを検討できます。自社がこうした切り札を持っていないか、あわせて確認してください。
弁護士など専門家に相談すべきケース
次のようなケースは、自己判断で進めず弁護士に相談するのが安全です。債権額が大きい、相殺や別除権が使えそうだが可否の判断が難しい、管財人との交渉や否認のリスクがからむ、といった場合です。
法的な見極めを誤ると、使えたはずの手段を逃したり、かえって不利になったりすることがあります。費用はかかるため、回収できる見込み額と手間を照らし合わせて依頼の要否を判断してください(相談すべき具体的なタイミングは後述のFAQで補足します)。
倒産手続の種類で回収の期待値はどう変わるか
ひとくちに倒産といっても、手続の種類によって会社が消滅するのか存続するのかが分かれ、売掛金の回収見込みも変わります。手続は大きく、会社をたたむ「清算型」と、事業を続けながら立て直す「再建型」に分けられます。この2区分は実務上の整理の呼び方で、条文そのものの言葉ではありません。

清算型(破産・特別清算)
破産は、裁判所が選任した破産管財人が会社の財産を換価し、債権者に配当して会社を消滅させる手続です。破産法第2条第1項も、破産手続を債務者の財産を清算する手続と位置づけています。特別清算は、解散した株式会社について、裁判所の監督のもとで清算を進める会社法上の手続です。いずれも会社は最終的になくなるため、売掛金は配当として戻る分だけが回収できる上限になります。
配当率は財産の多寡で決まり、低くとどまることが多いのが実情です。
出典・参考資料(2件)
再建型(民事再生・会社更生)
民事再生と会社更生は、会社を存続させながら、債権者の同意と裁判所の認可を得た計画に沿って債務を整理する手続です。民事再生法第1条は、債務者の事業や経済生活の再生を図ることを目的に掲げ、会社更生法第1条は、株式会社の事業の維持更生を図ることを目的としています。再建型では、売掛金の一部がカットされたうえで、残りが再生計画・更生計画に従って分割弁済されるのが一般的です。
全額ではないものの、清算型より回収できる見込みが残る場合があります。
出典・参考資料(2件)
回収できないときの貸倒損失(損金算入)で税負担を抑える
手を尽くしても回収しきれない売掛金は、一定の要件を満たせば貸倒損失として損金に算入でき、法人税の負担を抑えられます。要件と計上できる時期は、法人税基本通達9-6-1から9-6-3で3つの類型に分かれています。法律上の貸倒れ・事実上の貸倒れ・形式上の貸倒れという呼び方は実務で広く使われる通称で、通達の原文の見出しではありません。どの類型に当てはまるかで、計上できる金額と時期が変わります。
法律上の貸倒れ(切り捨てられた金額)
再生計画や更生計画の認可、債権者集会の協議決定などによって、法律上その債権が切り捨てられた場合には、その切り捨てられた金額を、事実が発生した事業年度の損金に算入します。法人税基本通達9-6-1は次のように定めています。
法人税基本通達 9-6-1(一部) 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
出典:法人税基本通達9-6-1|国税庁
- 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
- 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
この類型は、切り捨てが確定した事業年度に損金へ算入します。会社が帳簿に費用計上する(損金経理する)かどうかにかかわらず算入する点が、次の2類型との違いです。
事実上の貸倒れ(全額回収不能が明らかになったとき)
債務者の資産状況や支払能力からみて、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合には、その事業年度に損金経理をすることで貸倒れにできます。
法人税基本通達 9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。
出典:法人税基本通達9-6-2|国税庁
ここでのポイントは3つあります。回収できないのが債権の一部ではなく「全額」であること、担保物があるときは処分した後でなければ損金経理できないこと、そして帳簿に費用計上(損金経理)することが要件になることです。保証人がいる場合は、保証債務を現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にできません。
形式上の貸倒れ(1年以上の取引停止等)と債権放棄通知書
取引停止から1年以上が経過した売掛債権などについては、全額が回収不能と証明できなくても、形式的に貸倒れとして処理できる道があります。法人税基本通達9-6-3は、備忘価額を残して損金経理することを認めています。
法人税基本通達 9-6-3(一部) 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。
出典:法人税基本通達9-6-3|国税庁
- 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
この類型は対象が売掛債権に限られ、貸付金は含まれません。また、全額ではなく備忘価額(通常1円)を残した残額を損金経理します。「取引停止後1年以上」は、継続的に取引していた相手の信用が悪化して取引を止めた場合を指し、不動産取引のようにたまたま一度だけ取引した相手には適用されない点にも注意が必要です。
相手に書面で債務免除を通知して行う債権放棄は、前述の9-6-1の「書面により明らかにされた債務免除額」として処理する別のルートであり、取引停止1年の形式基準とは分けて考えます。
債権放棄(債務免除)を書面で行う場合、通知書には最低限、次の要素を記載し、配達証明付き内容証明郵便など送達の記録が残る方法で送ります。
- 通知日・宛先(相手方の会社名・代表者名)・差出人(自社)
- 免除する債権の特定(取引の内容・発生日・金額。「○年○月○日付の売掛金○○円」など)
- その債権の全額(または一部)を免除する旨の明確な意思表示
債務免除は損金算入の根拠になる一方で、相手に利益を与える行為でもあります。相手の状況によっては税務上の取り扱いが問題になることもあるため、金額が大きい場合は税理士に確認してから送るのが安全です。
出典・参考資料(1件)
回収できなかった損失を貸倒れとして処理しても、売上は計上されるのに現金が入らず資金繰りを圧迫する「黒字倒産」のリスクが残ることがあります。貸倒れの全体像と、損失を自社がかぶらないための防ぎ方までまとめて知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
連鎖倒産・資金繰りへの影響と使える公的支援
大口の取引先が倒産すると、売掛金の焦げ付きだけでなく、自社の資金繰りが急に苦しくなり、連鎖倒産に至るおそれもあります。こうしたときに使える公的な支援制度を知っておくと、当面の資金を確保できます。
まず、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)です。取引先が倒産した際、無担保・無保証人で掛金総額の最大10倍(上限8,000万円)まで共済金を借り入れられ、掛金は月額5,000円〜20万円から選べます。ただし対象の「倒産」は法的整理や取引停止処分などに限られ、夜逃げは含まれません。あらかじめ加入しておく備えの制度です。
次に、信用保証協会のセーフティネット保証です。取引先の倒産などで経営の安定に支障が生じた中小企業が、市区町村長などの認定を受けることで、通常の保証限度額とは別枠で保証を受けられます。類型のうち1号が、大型倒産の影響を受けた事業者の連鎖倒産防止を目的とするものです。
借入れそのものを支援する制度としては、日本政策金融公庫の「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」があり、倒産した企業に対して売掛金債権などを持つ事業者が、別枠で運転資金の融資を受けられます。制度ごとに認定要件や限度額が定められているため、利用の際は最新の条件を確認してください。
出典・参考資料(3件)
【逆のケース】破産した取引先に自社が代金を支払う側のときは
ここまでは売掛金を回収する側の話でしたが、逆に、自社が買掛金を支払う側で、支払先が破産したというケースもあります。この場合、破産した相手の会社へそのまま代金を払ってよいのかが問題になります。
破産手続が始まると、破産者の財産の管理処分権は破産管財人に専属します(破産法第78条第1項)。したがって、代金は原則として破産管財人に支払うべきもので、破産した相手の会社に直接払うのは避けるのが基本です。もっとも、破産手続が始まったことを知らずに相手へ支払った場合の扱いについては、破産法が善意と悪意で区別しています。
破産法 第50条
出典:破産法(第50条)|e-Gov法令検索
- 破産手続開始後に、その事実を知らないで破産者にした弁済は、破産手続の関係においても、その効力を主張することができる。
- 破産手続開始後に、その事実を知って破産者にした弁済は、破産財団が受けた利益の限度においてのみ、破産手続の関係において、その効力を主張することができる。
倒産を知らずに相手へ払ってしまった場合は、弁済の効力を主張できます。しかし倒産を知りながら払うと、破産財団が受けた利益の範囲でしか効力を主張できず、管財人から改めて請求されて二重払いになるおそれがあります。
自社が相手に対して売掛金などの債権も持っているなら、前述の相殺(破産法第67条第1項)で支払額を圧縮できる場合があります。支払うべき相手と方法に迷ったら、管財人に確認するのが確実です。
次の取引で同じ損失を出さないためには、売掛金の未回収リスクに備えるサービスを検討する手もあります。
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次の取引先倒産で同じ損失を繰り返さない備え
一度こうした事態を経験すると、「次に同じことが起きたら」という不安が残ります。倒産そのものは防げなくても、売掛金が焦げ付いたときの損失を自社がかぶらない仕組みは、あらかじめ用意できます。
「今回の倒産」には使えない — 備えは次の取引から
最初に押さえておきたいのは、ここで紹介する売掛保証などの仕組みは、すでに起きてしまった今回の倒産には使えないという点です。これらは、保証をかけた後に発生した倒産や未回収に備えるもので、保証開始前の取引やすでに焦げ付いている債権は対象外です。あくまで、次の取引から損失を繰り返さないための備えとして検討します。
備えの選択肢と仕組み・保証範囲の違い
備えの手段は、大きく4つの方向があります。1つ目は与信管理の見直しで、取引開始前や継続取引中に相手の信用状況を調べ、与信限度額を設けて取引量をコントロールする、最も基本的な自衛策です。2つ目は売掛保証(債権保証)で、保証会社に保証料を払っておくと、取引先の倒産や支払遅延で売掛金が回収できなくなったときに、保証限度額の範囲で保証金を受け取れます。
3つ目は取引信用保険で、損害保険会社が提供する保険です。多くは取引全体を包括的に対象とするため、安全な取引先も含めて保険料がかかる一方、高い保証限度額に対応しやすいという特徴があります。4つ目は未回収保証付きの企業間後払い(掛け払い)決済で、請求・回収の代行とあわせて、与信審査を通った取引の代金が保証される仕組みです。
自社の取引量や、特定の取引先に売上が偏っているかどうかに応じて、合う手段は変わります。
ここからは、売掛金の未回収リスクに備える代表的なサービスを紹介します。手軽に始められる定額のネット完結型と、保証設計を柔軟に組める大手の債権保証型という、性格の異なる2つを取り上げます。
リコーリースの債権保証(Mamotte)(リコーリース株式会社)

東証プライム市場に上場するリコーリース株式会社が、2023年4月に始めた法人向けの債権保証サービスです。取引先の倒産・夜逃げ・支払遅延で売掛金が回収できなくなったとき、あらかじめ設定した保証限度額の範囲内で、実損失分に相当する保証金を受け取れます。
1976年からのリース事業で培った審査ノウハウと、約40万社の取引データ・年間35万件の審査実績を与信の基盤に使っています。取引先の信用力を8段階で評価し、取引の拡大・縮小の判断材料としても活用できます。
特徴は保証設計の柔軟さです。取引全体を包括対象にするのではなく、気になる取引先を5社以上選んで保証をかけられます。料金は、月額19,800円からの定額プラン(パッケージプラン)と、保証限度額に応じて個別に見積もるオーダーメイド型(Mamotte+)の2系統があり、小口から高額の債権まで対応します。
保証をかけたことは取引先に通知されない2社間契約で、審査の際にリコーリースが取引先へ接触することもありません。保証期間は1年で、契約の申込から取引先の審査依頼・結果確認までをWeb上で完結できます。契約の初期段階から保証期間中まで専任の担当者が伴走し、更新のタイミングで保証対象や限度額を見直せる点も、継続して使ううえで安心材料になります。
取引全体を包括的に対象とする取引信用保険や、売掛債権を資金化するファクタリングとの違いについて、提供元のリコーリースは次のように述べています。

たとえば取引信用保険の場合、保険対象先を選ぶことができず、全取引先を包括的にかけなければならないという制約があります。ファクタリングですと、1社2社の大きな売掛金を現金化するという使い方が中心です。一方、当社の場合は、気になる取引先だけを複数社ピックアップして保証をかけることができます。保証の設定額もお客様ご自身で決めていただけますし、繁忙期には厚く、閑散期には薄くといった調整も可能です。
URIHO(ウリホ)(株式会社ラクーンフィナンシャル)

月額定額制で、申込から保証金請求までをオンラインで完結できる売掛保証サービスです。運営する株式会社ラクーンフィナンシャルは、東証プライム上場の株式会社ラクーンホールディングスの100%子会社にあたります。取引先の倒産や1ヵ月以上の支払遅延で売掛金が回収できなくなった場合に、保証会社が取引代金を支払います。
料金は月額4,980円からのミニプランを入り口に、Aプラン9,800円、Bプラン29,800円、Cプラン99,800円と、保証上限に応じて選べます。保証料の従量課金がなく、保証する取引先の数に上限を設けない料金構造のため、費用を見積もりやすいのが利点です。取引先の信用リスクを5段階の保証推奨度で可視化する与信審査も使え、新規取引の可否判断の材料になります。
導入企業は3,000社以上で、初回1ヵ月は無料で試せます。小口の取引先を数多く抱え、手軽に広く備えたい事業者に向いています。
| サービス名 | リコーリースの債権保証(Mamotte) | URIHO(ウリホ) |
|---|---|---|
| 保証対象 | 倒産・夜逃げ・支払遅延 | 倒産・1ヵ月以上の支払遅延 |
| 契約タイプ | 取引先を選んで契約(5社以上) | 取引先数の上限なし(月額定額で複数社を保証) |
| 初期費用 | 無料 | 無料 |
| 月額費用 | 定額プラン19,800円〜 (19,800/29,800/49,800円) ※オーダーメイドは個別見積 | 4,980円〜(ミニ) 9,800/29,800/99,800円(A/B/C) |
| 保証限度額 | 1社上限200万〜500万円 合計2,000万〜5,000万円 ※オーダーメイドは個別対応 | 1社上限50万〜3,000万円 合計1,000万〜7,000万円 ※プランにより異なる |
| 与信審査(取引先チェック) | 取引先の信用力を8段階で評価 | 保証推奨度を5段階で表示 |
| 取引先への通知 | 通知なし(2社間契約) | 要問い合わせ |
| 無料トライアル | なし | 初回1ヵ月無料 |
| 申込・手続き | ネット完結(契約申込〜審査・結果確認) | ネット完結(申込〜取引先登録〜保証金請求) |
| 運営会社 | リコーリース株式会社 (東証プライム上場) | 株式会社ラクーンフィナンシャル (親会社が東証プライム上場) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 詳細を見る |
※上記は各社の公式サイトの公開情報(2026年10月時点)をもとに作成しています。料金・保証限度額・保証条件は変更される場合があり、プランや契約内容によっても異なります。最新の内容や詳細は各社の資料・公式情報をご確認ください。
ここで取り上げた2サービスのほかにも、売掛保証サービスは数多くあります。保証範囲・料金や目的別の選び方をまとめて比較し、自社の取引に合う一社を見極めたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
取引先が倒産したときの売掛金は、原則として破産手続のなかで配当を待つ一般債権になり、全額が戻ることは多くありません。だからこそ、相殺できる買掛金はないか、担保や所有権留保で優先して回収できないかを、初動の段階で早く確認することが回収額を左右します。
- 優先して回収できるか: 相殺できる買掛金、担保、所有権を留保した商品があれば、配当を待たずに回収できる余地がある。
- 一般債権としての回収: 当てはまらなければ、債権届出で配当を受けるのが基本。強制執行・仮差押は倒産手続が始まる前の局面で有効。
- 回収できないとき: 要件を満たせば貸倒損失として損金に算入し、税負担を抑えられる(法人税基本通達9-6-1〜9-6-3)。
- 次への備え: 売掛保証・取引信用保険・未回収保証付きの掛け払いは、次の取引からの損失に備える手段。今回の倒産には遡って使えない。
判断に迷う場面では弁護士に相談しつつ、同じ損失を繰り返さないために、自社の取引に合った備えもあわせて検討してください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 取引先が倒産したら、売掛金の回収はもう諦めるしかないですか?
A. 取引先が倒産しても、諦める前に「優先して回収できる立場」に自社が当てはまらないかを必ず確認すべきです。倒産した取引先への売掛金は、原則として破産手続のなかで配当を待つ一般債権となり、戻る割合が低くとどまることが多いのは事実です。ただし、相手に支払う買掛金があれば相殺でき、担保や所有権を留保した商品があれば、ほかの債権者に優先して回収できる余地があります(破産法第65条・第67条)。
これらが使えるかは倒産の一報後の数日で決まることも多いため、早く確認することが回収額を左右します。
出典・参考資料(1件)
Q. 倒産した取引先への売掛金にも時効はありますか?請求を後回しにしても大丈夫ですか?
A. 売掛金には消滅時効があり、原則として「権利を行使できることを知った時から5年」で時効にかかります(民法第166条第1項)。倒産前の信用不安の段階で請求を放置すると、時効の完成によって回収そのものができなくなるおそれがあります。かつての商法上の商事消滅時効(5年)や短期消滅時効は2020年施行の民法改正で廃止され、現在は民法第166条に一本化されています。
古い条文を前提にした時効の考え方は現行法と異なる点に注意してください。破産手続に入った後は、債権届出期間内に届け出ることで手続のなかで扱われます。
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Q. 回収できそうにない売掛金は、すぐに貸倒損失として処理できますか?
A. 回収できそうにないというだけでは貸倒損失にはできず、法人税基本通達が定める要件を満たした事業年度でなければ損金に算入できません。具体的には、再生計画などで債権が切り捨てられた場合(9-6-1)、相手の資産状況から全額が回収できないことが明らかになった場合(9-6-2)、取引停止から1年以上経過した売掛債権の場合(9-6-3)などに限られます。
「法律上・事実上・形式上の貸倒れ」という呼び方は実務上の通称で、通達の原文の見出しではありません。要件を満たさないうちに自己判断で費用計上すると否認されることがあるため、どの類型に当てはまるか、いつ計上できるかの確認が重要です。
出典・参考資料(1件)
Q. 取引先が倒産したとき、弁護士にはどのタイミングで相談すべきですか?
A. 弁護士への相談は、相殺や担保・所有権留保による優先回収が使えそうなケースや、債権額が大きいケースでは、倒産の一報を受けた直後のできるだけ早い段階が適切です。商品の引き上げや相殺は初動の数日が勝負になることが多く、法的な可否を自己判断で進めると、かえって不利になったり、危機時期の取り決めが後から否認されたりすることがあります。破産管財人との交渉がからむ場合も専門家の関与が安全です。
回収できる見込み額と費用・手間を照らし合わせて、相談のタイミングを決めてください。
Q. 売掛保証とは何ですか?今回倒産した取引先の売掛金にも使えますか?
A. 売掛保証とは、保証会社に保証料を支払っておくことで、取引先の倒産や支払遅延で売掛金が回収できなくなったときに、保証限度額の範囲で保証金を受け取れるサービスです。ただし、すでに起きてしまった今回の倒産や、保証をかける前から焦げ付いている売掛金は対象外です。売掛保証は契約後に新たに発生する取引の未回収に備える仕組みで、過去にさかのぼって今回の損失を補填するものではありません。
あくまで、次の取引から同じ損失を繰り返さないための備えとして検討します。
Q. すでに支払いが遅れ始めている取引先でも、売掛保証の対象にできますか?
A. 支払いが遅れ始めている取引先は、保証会社の与信審査の結果しだいで、保証の対象にできなかったり、保証限度額が低く抑えられたりすることがあります。売掛保証は申込時に取引先ごとの信用力を審査して保証の可否や限度額を決める仕組みのため、すでに信用不安が表面化している相手ほど保証は付きにくくなります。だからこそ、取引先の経営が健全なうちに早めに備えておくことが有効です。
特定の取引先に売上が偏っている場合は、その取引先を保証対象に含められるかを事前に確認するとよいでしょう。
Q. 売掛保証とファクタリングはどう違いますか?
A. 売掛保証とファクタリングは、売掛保証が「未回収リスクへの備え」であるのに対し、ファクタリングは「売掛債権を早期に資金化する資金調達」である点が異なります。売掛保証は保証料を払っておき、取引先が倒産・未払いになったときに保証金を受け取る仕組みで、通常どおりの入金や債権そのものはそのまま残ります。ファクタリングは売掛債権を売却して支払期日より前に現金化する手段で、主な目的は資金繰りの改善です。
取引先の倒産による未回収への備えが目的であれば、売掛保証が合っています。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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