他社の不正アクセスや情報漏えいのニュースが続き、クラウドサービスや SaaS の利用も増える中で、自社のアクセス管理をセキュリティの観点から見直したいと考える担当者が増えています。監査やISMSで権限管理を指摘された、退職者のアカウントが残っていてヒヤリとした、といったきっかけで検討を始めるケースも多く見られます。
ただ、いざ見直そうとすると「具体的に何を検討すればよいのか」の全体像がつかみにくく、項目が整理されていないと対策に抜けが生まれます。
本記事では、アクセス管理をセキュリティ面で見直すときに検討すべき項目を一覧で示し、各項目が必要な理由と見直しの進め方、取り組みを支えるサービスの選び方までを解説します。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の公的な指針にもとづき、そのまま自社のチェックリストとして使える形で整理しました。
目次
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アクセス管理のセキュリティで検討すべき項目【一覧】
はじめに、アクセス管理をセキュリティ面で見直すときに検討すべき項目を一覧で示します。アクセス管理とは、誰がどの情報やシステムにアクセスできるかを管理する取り組みで、以下の項目はいずれも「アクセスを渡しすぎない」「渡した後も点検し続ける」という考え方に沿っています。
| 検討すべき項目 | 見直す内容 |
|---|---|
| 最小権限の原則 | 必要な人に、必要な権限だけを、必要な期間だけ渡す |
| アクセス権限の棚卸し | 誰が何にアクセスできるかを定期的に可視化し、点検する |
| 認証の強化 | 多要素認証やパスキーでログインを突破されにくくする |
| 異動・退職時の権限処理 | 不要になったIDと権限をただちに削除する |
| 特権ID(管理者権限)の管理 | 権限を分散し、特権を使った操作をログに記録する |
| 委託先・サプライチェーンのアクセス管理 | 委託先に渡す権限を制限し、定期的に確認・監査する |
| アクセスログの監査と定期レビュー | ログを記録・保存し、定期的に内容を確認する |
これらの項目は、IPAが2026年10月に公表した注意喚起が「速やかに取り組むべき対策」として挙げる、認証の強化・権限付与の見直し・アカウント棚卸しの運用見直し・ログ取得内容と保持期間の見直しといった内容に沿って整理したものです。どれから着手するかの優先順位は記事の最後で改めて整理します。次章以降で、各項目が必要な理由と進め方を具体的に見ていきます。
出典・参考資料(1件)
アクセス管理とは?認証・認可・監査という基本の枠組み
検討項目を理解する前提として、アクセス管理を支える3つの要素を押さえておきます。アクセス管理は大きく、認証・認可・監査という枠組みで整理できます。
認証とは、利用者が本人であることを確かめる仕組みです。IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン」は、共有IDやパスワードを使わず、利用者ごとに個別のID・パスワード・ICカードなどで認証することを求めています。認可は、本人確認ができた利用者に対して、どの情報やシステムへのアクセスを許すかを決める仕組みで、後述の最小権限の原則が中心になります。
監査は、誰がいつ何にアクセスしたかのログ(記録)を残し、後から確認できるようにする仕組みです。検討項目のうち、認証の強化は認証に、最小権限や棚卸し・権限処理は認可に、ログの監査は監査に対応すると考えると、各項目の位置づけがつかみやすくなります。

出典・参考資料(1件)
アクセス管理で検討すべき各項目「なぜ必要か」と「進め方」
ここからは、検討すべき各項目について、放置するとどんなリスクがあるのか、どう進めればよいのかを解説します。これらの項目が必要とされる背景には、実際に起きているインシデントの傾向があります。IPAは2026年10月の注意喚起で、近年の侵害の起点を次のように説明しています。
現段階では、特定のプロダクトやサービスの脆弱性を狙った攻撃とは断定されておらず、公表事例の傾向から、外部公開しているアプリケーションやサービスの侵害、アカウントの侵害が起点となっていることがうかがえます。
出典:不正アクセスによる漏えい等の事案を踏まえ、速やかに実施すべき対策等について|IPA(情報処理推進機構)
アカウントの侵害が侵入の起点になりやすいことが、認証の強化や権限の管理が重要とされる理由です。以下、項目ごとに見ていきます。
最小権限の原則(必要な権限だけを渡す)
最小権限の原則は、利用者に業務上必要な最小限の権限だけを渡す考え方です。権限が過剰だと、本来アクセスできないはずの重要情報に手が届き、不正利用や漏えいの範囲が広がります。IPAのガイドラインも、適切に設定されない場合のリスクを指摘しています。
進め方としては、誰に・どの権限を・いつまで、の3つをそれぞれ最小限に絞ります。最初の一手としては、既定で広い権限を与えず、部署や職務ごとに必要な権限の範囲を決め、そこから外れる権限を削っていくと進めやすくなります。IPAの内部不正防止ガイドラインは、次のように定めています。
重要情報へのアクセス権限を付与すべき者を必要最小限とします。また、アクセス権限を持つ者に付与する権限を必要最小限とし、権限を付与する期間も必要な時期に限って行うこととします。
出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|IPA(情報処理推進機構)
アクセス権限の棚卸し(誰が何にアクセスできるかの可視化)
権限は一度付与して終わりではなく、定期的に見直す必要があります。異動や業務変更で不要になった権限が残っていると、過剰権限の温床になるためです。IPAの内部不正防止ガイドラインは、見直しのタイミングと観点を示しています。
利用者 ID 及びアクセス権が適切に付与されているかを確認するために、定期的にアクセス権の要件を見直します。例えば、人事異動の時期に一斉に見直す等を行うことが望まれます。特に、アクセス権限が集中している者に対しては、適切性を確認し、不必要なアクセス権限は削除を行います。
出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|IPA(情報処理推進機構)
中小企業向けの指針でも、アクセス権限を見直すルールを定め、付与状況を管理し、運用や利用状況を監視する仕組みを整えることが推奨されています。最初は、重要情報を扱うシステムやSaaSから対象を絞り、誰がどの権限を持っているかの一覧を作るところから始めると着手しやすくなります。人手だけで台帳を維持するのが難しい場合は、後述のツールで棚卸しを自動化する方法もあります。
出典・参考資料(1件)
認証の強化(多要素認証・パスワードレス)
アカウントの侵害が侵入の起点になりやすい以上、ログインそのものを突破されにくくする認証の強化は欠かせません。パスワードだけに頼らず、多要素認証(複数の要素を組み合わせて本人確認する方式)やパスキー(パスワードを使わない認証方式)を取り入れることが、公的な指針でも推奨されています。
IPAの内部不正防止ガイドラインは、リモート保守を行うシステム管理者の認証について「多要素認証の適用を検討します」と述べています。中小企業向けガイドラインも、ログイン認証に多段階認証・多要素認証・パスキーの利用を挙げており、IPAの2026年注意喚起も対策の筆頭に「認証機能(多要素認証・パスワード)の強化」を掲げています。
出典・参考資料(2件)
多要素認証やパスキーは、製品によって対応する認証方式(SMS・アプリ・生体認証など)や使い勝手が異なります。自社の環境に合う認証方式を具体的に選びたい場合は、主要サービスを認証方式・料金・タイプ別に比較した次の記事が参考になります。
異動・退職時の権限処理(削除漏れを防ぐ)
見落とされやすいのが、異動や退職で不要になったアカウントの扱いです。削除されずに残ったIDは、元従業員や第三者に悪用され、重要情報へのアクセスを許す恐れがあります。IPAの内部不正防止ガイドラインは、この点を明確な義務として定めています。
異動又は退職により不要となった利用者 ID 及びアクセス権は、ただちに削除しなければならない。
出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|IPA(情報処理推進機構)
削除漏れを防ぐには、IDとアクセス権の登録・変更・削除を、人事異動の手続きと連携した運用にすることが有効です。人事情報と連動してアカウントを自動で停止・削除できる仕組みを整えると、手作業による抜けを減らせます。
特権ID(管理者権限)の管理
システム全体を操作できる管理者権限(特権ID)は、悪用された場合の被害が大きく、特に慎重な管理が必要です。IPAの内部不正防止ガイドラインは、権限の分散とログ記録を挙げています。
システム管理者は、特権を必要とする操作以外では特権を用いて操作を行わないようにします。特権の使用をログに記録することで、特権を必要とする操作をトレースすることができ、システム管理者による内部不正の抑止・検知・証拠保全に役立ちます。
出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|IPA(情報処理推進機構)
進め方の要点は3つです。1人の管理者に権限を集中させず分散すること、普段の作業では特権を使わず必要な操作のときだけ使うこと、そして特権を使った操作をログに残すことです。管理者IDの発行から削除までのプロセスを定め、割り当てを必要最小限にすることも求められます。
専用の特権ID管理(PAM)ツールを使わない場合でも、管理者権限は申請・承認を経て付与し、作業のときだけ一時的に昇格させ、特権操作のログを定期的に確認する運用で、悪用の芽を減らせます。
委託先・サプライチェーンのアクセス管理
自社の対策が十分でも、重要情報にアクセスできる委託先の対策が弱ければ、そこが侵入口になります。IPAの内部不正防止ガイドラインは、委託先を含めたサプライチェーン対策の強化を基本方針に掲げています。
対策が脆弱な業務委託先・関連先等の内部不正によって重要情報が漏えいしないように、業務委託時の確認、アクセスできる重要情報の制限等のサプライチェーン対策を強化します。
出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|IPA(情報処理推進機構)
委託先に渡すアクセス権は必要な範囲に制限し、確認や監査を定期的・不定期に実施することが求められます。IPAは2026年の注意喚起でも、取引先や委託先と連携してサプライチェーン全体のリスクを把握するよう求めています。
さらにIPAは、企業のセキュリティ対策状況を共通基準で評価・可視化する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ評価制度(SCS評価制度)」を2027年3月の開始に向けて準備しています。委託関係の多い企業は、この制度の動向も押さえておくとよいでしょう。
出典・参考資料(2件)
アクセスログの監査と定期レビュー
権限を適切に設定しても、実際のアクセス状況を記録し確認できなければ、不正の兆候に気づけません。IPAの内部不正防止ガイドラインは、ログ・証跡の記録と保存を次のように位置づけています。
内部不正の早期発見及び(30)の事後対策の影響範囲の観点から、重要情報へのアクセス履歴及び利用者の操作履歴等のログ・証跡を記録し、定めた期間に安全に保存することが望ましい。
出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|IPA(情報処理推進機構)
重要なのは、ログを記録・保存するだけでなく、定期的に内容を確認することです。確認していなければ、不正の前兆を見逃し、発見が遅れて被害が広がる恐れがあります。IPAの2026年注意喚起も、ログの取得内容と保持期間の見直しを対策に挙げています。
進め方としては、重要情報へのアクセス履歴や利用者の操作履歴を対象に、どのログを取得し、どの期間保存するかを決め、誰がどのくらいの頻度で確認するかを運用として定めることが求められます。
出典・参考資料(2件)
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アクセス管理の見直しの進め方
ここからは、検討項目を実際に見直していく手順を整理します。個々の項目は前章のとおりですが、全体としては「現状把握」から始めて「継続的な運用」につなげる流れになります。
基本の流れは、アクセス権限の棚卸しで現状を可視化することから始まります。次に過剰な権限を最小権限に絞り込み、権限付与や異動・退職時の処理をルール化したポリシーを定め、認証を多要素認証などで強化します。あわせてアクセスログを取得・保存できるようにし、定期的なレビューの体制を整える、という順序が基本です。これらは一度で終わらせず、継続して回していくことが前提です。
一度にすべてを完璧にしようとすると負担が大きいため、IPAは2026年の注意喚起で、点検範囲を段階的に広げる進め方を示しています。
直近1ヵ月、その後3ヵ月といったように、段階的に対象範囲を広げて確認してください。さらに、今後複数回調査を行う可能性も踏まえ、誰がどのように調査できるかについても把握しておいてください。
出典:不正アクセスによる漏えい等の事案を踏まえ、速やかに実施すべき対策等について|IPA(情報処理推進機構)
中小企業向けガイドラインも、リスク分析を行って対応すべきリスクを特定し、対策を決めて運用に落とすという枠組みを示しています。自社の状況に合わせて、担当者や体制を決めたうえで段階的に進めるとよいでしょう。
出典・参考資料(2件)
アクセス管理を支えるサービス・ツールの選び方
ここからは、検討項目を支えるサービス・ツールの選び方を解説します。権限の棚卸しやアカウントの発行・削除を人手だけで続けるのは、クラウドやSaaSが増えるほど難しくなります。IPAの内部不正防止ガイドラインも、きめ細かい権限管理に対応できる基盤の整備を推奨しています。
今後、さらに普及・常態化するテレワーク等においては、組織外部からの重要情報へのアクセスをより細かい単位で制御することが求められるようになるため、きめ細かいアクセス権限管理に対応できるアクセス管理基盤の整備が望まれます。
出典:組織における内部不正防止ガイドライン 第5版|IPA(情報処理推進機構)
ツールの役割分担(ID基盤・SaaSアカウント管理・特権ID管理)
アクセス管理を支えるツールは、役割によって大きく3種類に分けると選びやすくなります。それぞれが対応する検討項目が異なるため、自社の課題に合うものを見極めることが大切です。
1つ目はID基盤(IDaaS)です。シングルサインオン(SSO)や多要素認証でログインを一元化・強化し、アクセス制限やアカウントの発行・削除(ID管理)をまとめて担います。認証の強化・最小権限・異動退職時の処理に効きます。
2つ目はSaaSアカウント管理ツールです。社内で使われているSaaSのアカウントを可視化し、棚卸しや退職者アカウントの検知・削除を支えます。棚卸しやシャドーIT(管理外のSaaS利用)対策に向きます。
3つ目は特権ID管理(PAM)で、管理者権限の付与・利用・ログ記録を厳格に統制します。

このうちID基盤(IDaaS)は、認証の強化からアクセス制限、異動・退職時のID管理までを一手に担うため、検討の中心になりやすい領域です。代表的なIDaaSをメリットや選び方・料金の観点で見比べたい場合は、主要サービスを比較した次の記事が参考になります。
以下では、ID基盤(IDaaS)とSaaSアカウント管理それぞれの代表的なサービスを一例として紹介します(特権ID管理の製品はここでは扱いません)。どの役割のツールが自社に必要かは、前章で洗い出した検討項目のうち、どこに課題が集中しているかで判断し、同じ種類のサービスを広く比較したいときは上記のまとめ記事もあわせて参照してください。
| サービス名 | CloudGate UNO | マネーフォワード Admina |
|---|---|---|
| ツールの種類 | ID基盤(IDaaS) | SaaSアカウント管理 |
| 主に支える検討項目 | 認証の強化 最小権限(アクセス制限) 異動・退職時の権限処理 | アクセス権限の棚卸し 異動・退職時の権限処理 |
| シングルサインオン(SSO) | ● | ×提供なし(IdP連携) |
| 多要素認証・パスワードレス | ● | ×提供なし(IdP連携) |
| アクセス制限(端末・場所・時間) | ●端末・場所・時間で制御 | × |
| アカウントの発行・削除(ID管理) | ●プロビジョニングで自動化 | ●従業員マスター連携 |
| SaaSアカウントの可視化・棚卸し | ×SaaS管理ツールではない | ●従業員軸で可視化 |
| シャドーIT検知 | × | ●Tracker・ブラウザ拡張で検知 |
| 料金(月額) | 400円〜600円/ユーザー(税抜) | 50ID以下無料 51ID以上300円/ID |
| 無料トライアル | 30日間 | 14日間 |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 |
主なサービスの紹介
CloudGate UNO(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

CloudGate UNO(クラウドゲートウノ)は、1993年創業の株式会社インターナショナルシステムリサーチが自社開発する国産のID基盤(IDaaS)です。
シングルサインオン・多要素認証・パスキー(FIDO2)によるパスワードレス認証・アクセス制限・ID管理を1つの管理画面で提供し、認証の強化・最小権限にもとづくアクセス制限・異動退職時のID管理といった検討項目にまとめて対応します。
アクセス制限は、端末・場所・時間の3つの軸で細かく設定でき、私用端末からのアクセス禁止や特定拠点・時間帯の制限が可能です。パスキーによるパスワードレス認証は全プラン・全ユーザーで利用でき、アカウント作成・更新・削除を自動化するID管理(プロビジョニング)も備えます。
料金は月額400円〜600円(税抜、ユーザー単位、2026年11月時点)です。提供会社のインターナショナルシステムリサーチは情報セキュリティマネジメントの国際規格 ISO/IEC 27001(ISMS)認証を取得し、CloudGate UNO はFIDO2認定を受けています。
認証の強化で焦点になる、パスキーによるパスワードレス認証と従来の多要素認証との違いについて、同社は次のように説明しています。

当社が採用しているパスキーのパスワードレス認証は、フィッシング攻撃に対して非常に強い耐性を持ちます。SMS認証やワンタイムパスワードなどの一般的な多要素認証を突破する攻撃手法が顕在化する中、より安全な認証環境を提供します。
マネーフォワード Admina(マネーフォワードi株式会社)

マネーフォワード Adminaは、社内で使われているSaaSのアカウントを従業員軸で可視化し、棚卸しや入退社時のアカウント管理をまとめて行うSaaS管理ツールです。棚卸しとオフボーディング(退職時のアカウント停止・削除)に強みがあり、「アクセス権限の棚卸し」「異動・退職時の権限処理」の検討項目を支えます。
情報システム部門が把握できていないSaaSを検知するシャドーIT対策を標準搭載し、退職済みアカウントをアラートで示して削除する機能や、退職日・雇用区分の条件にもとづく自動削除も利用できます。
Admina自体はログイン認証(SSOや多要素認証)を提供するサービスではなく、Google WorkspaceやMicrosoft 365などのIDを従業員マスターとして連携して使う位置づけです。認証の強化はID基盤と組み合わせて考えます。料金は50ID以下が無料、51ID以上は1IDあたり月額300円(2026年11月時点)です。
まず何から着手すべきか(優先順位の付け方)
検討項目と進め方、支えるサービスまで見てきましたが、すべてを一度に対応するのは現実的ではありません。ここでは、何から着手するかの優先順位の付け方を整理します。
考え方の軸になるのが、リスクの大きさに応じて対策を選ぶ「リスクベース」の発想です。IPAの中小企業向けガイドラインは、優先順位の付け方を次のように示しています。
全てのリスクに対応しようとすると、費用が多額になったり、仕事が非効率になったりすることがあります。そこで、いつ事故が起きてもおかしくない、あるいは事故が起きると大きな被害になるなど、リスクが大きなものを優先して対策を実施します。
出典:中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版|IPA(情報処理推進機構)
前章で示した見直しの進め方は、棚卸しから順に全体を整える理想的な流れです。一度にすべてを回しきれない場合は、このリスクベースの考え方で着手順を決めます。
まず現状を把握するための権限の棚卸しを早い段階で行い、どこにリスクが集中しているかを見えるようにします。そのうえで、侵入の起点になりやすい認証の強化と退職者アカウントの削除漏れ対策、被害が大きくなりやすい特権IDの管理を優先的に進めると、効果が見えやすくなります。
まとめ
アクセス管理をセキュリティ面で見直すときは、最小権限・棚卸し・認証の強化・異動退職時の権限処理・特権ID管理・委託先対策・ログの監査という項目を、抜けなく検討することが出発点になります。いずれもIPAの公的な指針が対策として挙げている内容で、放置すればアカウントの侵害や権限の悪用につながります。
進め方は、棚卸しで現状を可視化し、最小権限に絞り、ポリシー策定・認証強化・ログ監査へと段階的に広げます。被害が大きい項目から優先して着手し、ID基盤やSaaSアカウント管理ツールを活用すれば、手作業に頼らず継続的に運用できます。自社の検討項目に合うサービスは、資料を取り寄せて機能や料金を見比べるところから始めるとよいでしょう。
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よくある質問(FAQ)
Q. アクセス管理とは何ですか?
アクセス管理とは、誰がどの情報やシステムにアクセスできるかを管理し、必要な人に必要な権限だけを渡して点検し続ける取り組みです。本人であることを確かめる認証、アクセスできる範囲を決める認可、誰がいつ何にアクセスしたかを記録する監査の3つの要素で構成されます。セキュリティ面で見直す際は、この枠組みに沿って最小権限・棚卸し・認証強化などの項目を点検します。
Q. IDaaS・SaaSアカウント管理ツール・特権ID管理ツールは何が違いますか?
アクセス管理を支えるツールは、役割によってID基盤(IDaaS)・SaaSアカウント管理・特権ID管理(PAM)の3種類に大きく分かれます。IDaaSはシングルサインオンや多要素認証でログインを一元化・強化し、アカウントの発行・削除(ID管理)をまとめて担います。
SaaSアカウント管理は社内で使われているSaaSのアカウントを可視化し、棚卸しや退職者アカウントの検知・削除を支えます。特権ID管理は管理者権限の付与・利用・ログ記録を厳格に統制します。自社の課題がどの検討項目に集中しているかで、必要なツールを見極めるとよいでしょう。
Q. アクセス管理のツールは、まず何から導入すればよいですか?
アクセス管理のツール導入は、被害が大きくなりやすい特権IDの管理と、侵入の起点になりやすい認証の強化・退職者アカウントの削除漏れ対策から着手すると効果が見えやすい傾向があります。あわせて早い段階でアクセス権限の棚卸しを済ませておくと、どこにリスクが集中しているかが分かり、次に導入すべきツールを判断しやすくなります。リスクの大きいものを優先するリスクベースの考え方が基本です。
Q. 多要素認証を導入すれば、アクセス管理のセキュリティ対策は十分ですか?
多要素認証は有効な対策ですが、それだけではアクセス管理のセキュリティ対策として十分とはいえません。認証の強化はログインを突破されにくくする対策で、過剰な権限付与や退職者アカウントの残存、特権IDの悪用といったリスクには対応できないためです。最小権限・棚卸し・異動退職時の権限処理・特権ID管理・ログ監査といった項目を抜けなく併せて検討する必要があります。
Q. アクセス管理のツール導入には、どれくらいの費用がかかりますか?
ツールの種類や利用人数によりますが、SaaSアカウント管理ツールは少人数なら無料から、ID基盤(IDaaS)は1ユーザーあたり月数百円程度から始められるものもあります。たとえばマネーフォワード Adminaは50ID以下が無料・51ID以上が1IDあたり月額300円、CloudGate UNOは月額400円〜600円(税抜、2026年11月時点)です。
初期費用や上位プランの価格は要問い合わせのことも多いため、資料請求で自社の人数・用途に合わせた見積もりを確認するのが確実です。
Q. 退職者や異動者のアカウント削除漏れを防ぐには、どうすればよいですか?
削除漏れを防ぐには、IDとアクセス権の登録・変更・削除を、人事異動の手続きと連携した運用にすることが有効です。IPAのガイドラインは、異動や退職で不要になった利用者IDとアクセス権はただちに削除しなければならないと定めています。
人事情報と連動してアカウントを自動で停止・削除できる仕組み(IDaaSのプロビジョニングやSaaSアカウント管理ツールのオフボーディング機能など)を整えると、手作業による抜けを減らせます。
Q. 特権ID(管理者権限)は、具体的にどう管理すればよいですか?
特権IDの管理は、権限を1人に集中させず分散する・普段の作業では特権を使わず必要なときだけ使う・特権を使った操作をログに残す、の3点が要点です。管理者権限は悪用された場合の被害が大きいため、IDの発行から削除までのプロセスを定め、割り当てを必要最小限にすることが求められます。より厳格に統制したい場合は、特権ID管理(PAM)ツールの活用も選択肢になります。
Q. 委託先のアクセス管理まで、自社で対応する必要がありますか?
重要情報にアクセスできる委託先がある場合は、自社の対策に加えて委託先のアクセス管理まで確認する必要があります。対策が弱い委託先が侵入口になり得るためで、IPAも委託先を含めたサプライチェーン対策の強化を基本方針に挙げています。
委託先に渡すアクセス権は必要な範囲に制限し、確認や監査を定期的に実施することが求められます。委託関係の多い企業は、2027年3月の開始に向けて準備が進むSCS評価制度(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ評価制度)の動向も押さえておくとよいでしょう。
Q. 情シス専任がいない中小企業でも、アクセス管理の見直しはできますか?
専任担当がいなくても、リスクの大きい項目から段階的に進めれば、アクセス管理の見直しは可能です。IPAの中小企業向けガイドラインは、すべてのリスクに一度に対応するのではなく、事故が起きると被害が大きいものを優先して対策するリスクベースの進め方を示しています。棚卸しや認証強化、アカウントの発行・削除といった負担は、IDaaSやSaaSアカウント管理ツールを活用することで手作業に頼らず継続できます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。















