ランサムウェアや標的型攻撃による被害が後を絶たず、ウイルス対策ソフトを1つ導入するだけでは社内の端末やデータを守りきれない時代になっています。攻撃者は、メール・Webサイト・持ち込み端末などさまざまな経路から侵入を試み、社内に入り込んだ後は時間をかけて情報の持ち出しを狙います。
こうした状況で重要になるのが「多層防御」という考え方です。入口・内部・出口の各層に役割の違うツールを重ね、1つの対策を突破されても次の層で食い止める発想ですが、いざ導入しようとすると「結局、どの種類のツールを、どこに置けば多層防御になるのか」が分かりにくいという課題があります。
本記事では、多層防御の各層で使うツールの種類と、それぞれが何を防ぐのかを一覧で整理します。あわせて、自社に足りていない層の見つけ方、限られた予算・人手で何から始めるべきか、各層を埋める具体的なサービスまで、自社の対策を点検できる形で解説します。
目次
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多層防御とは
多層防御とは、社内のシステムを「入口」「内部」「出口」という複数の領域に分け、それぞれに役割の違う対策を配置する考え方です。1つの対策を突破されても、次の層で攻撃を食い止めることを狙います。東京都の中小企業向け解説では、次のように説明されています。
多層防御は、多様化するサイバー攻撃に対して、企業や組織のシステムを「入口」「内部」「出口」の3つの主要な領域に分け、それぞれに対策を講じる考え方です。
出典:用語解説「多層防御」|東京都 中小企業サイバーセキュリティ対策普及啓発(https://cybersecurity-taisaku.metro.tokyo.lg.jp/glossary/yogokaisetu20)
各層の役割は、攻撃の流れに沿って整理すると分かりやすくなります。入口対策は社内ネットワークへの脅威の侵入を防ぎ、内部対策は侵入されてしまった場合に被害の拡大を阻止し、出口対策は重要情報が外部へ漏えいするのを防ぎます。玄関の鍵(入口)だけに頼らず、室内の金庫(内部)や持ち出しの監視(出口)まで備えるイメージに近い考え方です。
層の呼び方や数え方には流儀があり、「入口・内部・出口」の3層で整理する説明のほか、情報処理推進機構(IPA)の資料のように「入口対策」と「出口対策」の2つの考え方を軸に論じるものもあります。本記事では、公的機関の解説で用いられている入口・内部・出口の3層に沿って、各層で使うツールの種類を見ていきます。
入口・内部・出口の各層で使うツールの種類
ここからは、多層防御の中核として、各層で使うツールの種類と、それぞれが何を防ぐのかを整理します。まず全体像を一覧で示します。自社にすでにあるツールと照らし合わせ、手薄になっている層がないかを確認する際の地図として活用してください。

| 多層防御の層とツールの種類 | 入口 | 入口 | 入口 | 入口 | 入口 | 内部 | 内部 | 内部 | 内部 | 内部 | 出口 | 出口 | 出口 | 出口 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ツールの種類 | ファイアウォール/UTM | IDS/IPS(不正侵入検知・防止) | メールセキュリティ(メールフィルタ) | サンドボックス | WAF(Webアプリケーションファイアウォール) | ウイルス対策ソフト/EPP | EDR(端末の検知・対応) | 認証強化(多要素認証・ID管理) | 操作ログ記録・監視 | ネットワーク分離 | プロキシ/Webフィルタ | DLP(データ損失防止) | 通信の検知(NDR) | 暗号化 |
| 主な役割(何を防ぐか) | ネットワークの出入口で通信を制限し、許可した通信だけを通す | 不正な通信を検知し(IDS)、通信を遮断して止める(IPS) | 標的型攻撃メール・迷惑メール・ウイルスメールを受信前にブロックする | 疑わしいファイルを隔離した環境で実行し、安全かどうかを確かめる | 自社が公開するWebサイト・Webアプリを狙う攻撃(SQLインジェクション・クロスサイトスクリプティングなど)を検知・遮断する | 端末に入り込んだマルウェアを検知して隔離・駆除する | 端末上の不審な挙動を検知し、調査・封じ込め・復旧を支援する | 本人確認を強化し、不正ログインや権限を超えたアクセスを防ぐ | 誰が・いつ・何をしたかを記録し、不正操作や異常を後から追える状態にする | 重要なシステムを他と分け、侵入されても被害の広がりを抑える | 外部への通信を仲介・制御し、危険なサイトや不審な宛先への通信を止める | 機密データの不正な持ち出し・送信を検知して防ぐ | ネットワークを流れる通信を監視し、侵入後の不審な通信や情報の持ち出しを見つける | データを暗号化し、万一持ち出されても中身を読めなくする |
※上記は各層で使われる代表的なツールの種類と役割の整理です。製品によって対応範囲は異なり、複数の役割を1つで兼ねるものもあります。
入口対策で使うツール
入口対策は、社内ネットワークへの脅威の侵入そのものを防ぐ層です。IPAの資料では、従来からの入口対策の例として「ファイアウォールや侵入検知システム、ウイルス対策ソフトの導入、パッチ適用による脆弱性対策」が挙げられています。
中心になるのがファイアウォールです。米国国立標準技術研究所(NIST)の用語集では、ファイアウォールを「セキュリティポリシーに従ってネットワーク間のアクセスを制限するゲートウェイ」と定義しています。許可した通信だけを通し、それ以外を遮断する関所の役割を担います。
ファイアウォールだけでは見抜けない攻撃に備えるのが、IDS(不正侵入検知システム)とIPS(不正侵入防止システム)です。NISTの定義では、IDSが不正なアクセスの試みを監視・検知して警告する仕組みであるのに対し、IPSは「侵入の兆候を検知したうえで、標的に到達する前に活動を止めようとするシステム」とされています。
検知にとどまるのがIDS、遮断まで行うのがIPSという違いです。近年はこれらの機能をまとめたUTM(統合脅威管理)として提供されることも増えています。
攻撃の多くはメール経由で届くため、メールセキュリティ(メールフィルタ)も入口対策の要です。標的型攻撃メールや迷惑メール、ウイルスを含むメールを、社員の受信箱に届く前にふるい分けます。
添付ファイルが疑わしい場合は、サンドボックスで安全性を確認する方法もあります。NISTはサンドボックスを「隔離された制御環境で、許可された範囲以外のリソースへのアクセスを防ぎながら、悪意のある可能性のあるソフトウェアを動かす仕組み」と説明しています。
自社でWebサイトやWebアプリを公開している場合は、WAF(Webアプリケーションファイアウォール)も入口対策の選択肢です。通常のファイアウォールでは見分けにくいSQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなど、Webアプリを狙う攻撃を通信の中身から検知・遮断します。
出典・参考資料(2件)
- 出典:「新しいタイプの攻撃」の対策に向けた設計・運用ガイド 改訂第2版|情報処理推進機構(IPA)(https://www.ipa.go.jp/files/000017308.pdf)
- 出典:Glossary「firewall」「intrusion detection system」「intrusion prevention system」「sandbox」|NIST Computer Security Resource Center(https://csrc.nist.gov/glossary/term/firewall)
内部対策で使うツール
内部対策は、脅威が侵入してしまった場合に、その拡大を阻止することを目的とした層です。入口をすり抜ける攻撃は必ず一定数あるという前提で備えます。
端末を守る基本は、ウイルス対策ソフトやEPP(端末保護の仕組み)によるマルウェアの検知・隔離です。これに加えて近年広がっているのがEDR(端末の検知・対応)で、端末上の不審な挙動を検知し、ログの収集・調査から封じ込め・復旧の支援までを担います。ウイルス対策ソフトが「入れない・動かさない」を担うのに対し、EDRは「入られた後に素早く気づいて対処する」役割を補います。
内部に入った攻撃者は、正規の社員になりすまして活動を広げようとします。これを防ぐのが、多要素認証やID管理による認証強化です。パスワードだけに頼らず、本人確認を複数の要素で行うことで、盗んだIDでのログインや権限を超えたアクセスを抑えます。
さらに、誰が・いつ・何を操作したかを記録する操作ログの監視があれば、不正や異常の兆候を早期に捉えられます。重要なシステムを他のネットワークから切り離すネットワーク分離も、被害の広がりを抑える有効な手段です。
認証強化の中心となる多要素認証について、仕組みや二段階認証との違いをもう少し詳しく知りたい場合は、以下の記事で整理しています。
MFA(多要素認証)とは?仕組み・3要素と二段階認証との違いをわかりやすく解説
クラウドサービスの利用が当たり前になり、取引先やセキュリティガイドライン、サイバー保険の加入条件などで「MFA(多要素認証)を有効にしてほしい」と求められる場面が増えています。とはいえ、いざMFAという言葉に向き合うと、「二段階認証と何が違…
出口対策で使うツール
出口対策は、侵入を許した後でも、重要情報が外部へ持ち出されるのを防ぐ最後の層です。IPAは従来型の入口対策を「脅威を中に入れない(境界防護)」の設計思想と位置づけ、これに対して「脅威が入っても被害は防ぐ」という考えで検討された対策を出口対策と呼んでいます。
出口対策の中心は、外部への通信の制御と監視です。プロキシやWebフィルタは外部への通信を仲介し、危険なサイトや不審な宛先への通信を止めます。DLP(データ損失防止)は、NISTの定義で「使用中・通信中・保存中のデータを識別・監視し、情報の不正な利用や送信を検知・防止する」仕組みとされ、機密データそのものの持ち出しを監視します。
通信の中身まで踏み込んで監視するのがNDR(ネットワークの検知・対応)です。ネットワークを流れる通信を記録・分析し、侵入後にひそかに行われる外部との不審な通信や情報の持ち出しを見つけ出します。あわせて、データを暗号化しておけば、万一持ち出されても中身を読み取られるリスクを下げられます。
出典・参考資料(2件)
- 出典:「新しいタイプの攻撃」の対策に向けた設計・運用ガイド 改訂第2版(4.2節)|情報処理推進機構(IPA)(https://www.ipa.go.jp/files/000017308.pdf)
- 出典:Glossary「data loss prevention」|NIST Computer Security Resource Center(https://csrc.nist.gov/glossary/term/data_loss_prevention)
なぜウイルス対策ソフト1つでは不十分なのか
多層防御が必要とされる背景には、「侵入を100%防ぐことはできない」という前提があります。入口の対策をどれだけ固めても、巧妙化する攻撃をすべて水際で止めることは難しいためです。IPAは、入口対策の限界を次のように指摘しています。
このような「入口対策」だけで十分ではありません。それは、入口からだけでは攻撃を防げない場合もあるためです。
出典:「新しいタイプの攻撃」の対策に向けた設計・運用ガイド 改訂第2版|情報処理推進機構(IPA)(https://www.ipa.go.jp/files/000017308.pdf)
攻撃は、侵入して終わりではありません。多くの場合、攻撃者は社内に入り込んだ後、別の端末やサーバーへ活動を広げ(拡大)、最終的に機密情報を外部へ持ち出します(持ち出し)。
この「侵入→拡大→持ち出し」という流れの各段階に対策を置くことで、入口を突破されても内部で気づき、気づけなくても出口で持ち出しを止める、という重ねた守りが成立します。ウイルス対策ソフト1つでは、この流れのうち端末での検知という一部分しかカバーできません。
脅威の深刻さは年々増しています。IPAが公表する「情報セキュリティ10大脅威 2025」では、組織向けの脅威として「ランサム攻撃による被害」が1位に挙げられており、サプライチェーンや委託先を狙った攻撃、脆弱性を突いた攻撃が続きます。こうした多様な攻撃に対して、単一の対策だけで立ち向かうのは現実的ではなくなっています。
出典・参考資料(1件)
- 出典:情報セキュリティ10大脅威 2025|情報処理推進機構(IPA)(https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2025.html)
多層防御と多重防御・境界防御の違い
多層防御とよく似た言葉に「多重防御」と「境界防御」があります。混同しやすいため、違いを整理しておきます。
多重防御は、一般に、同じ領域に複数の対策を重ねて防御を厚くする考え方を指して使われます。たとえば入口に複数のメール対策を併用するように、1つの層の中で守りを二重・三重にするイメージです。これに対して多層防御は、入口・内部・出口という異なる領域それぞれに、役割の違う対策を配置します。守りを厚くする方向(多重防御)と、守る場所を広げる方向(多層防御)という違いとして捉えると分かりやすくなります。
境界防御は、社内と社外の境目に防御を集中させ、脅威を中に入れないことを重視する考え方です。IPAは従来の入口対策を「脅威を中に入れない(境界防護)」の設計思想と表現し、これに対して出口対策を「例え入られても、盗まれないようにする」対策と対比しています。
多層防御は、境界で止めきれなかった脅威を内部と出口でも食い止める点で、境界防御を一歩進めた考え方といえます。近年広がっている「ゼロトラスト」も、ネットワークはすでに侵害されているかもしれないという前提に立ち、アクセスのたびに正当性を確認する考え方で、境界だけに頼らない点で多層防御と問題意識を共有しています。
出典・参考資料(2件)
- 出典:「新しいタイプの攻撃」の対策に向けた設計・運用ガイド 改訂第2版(境界防護の記述)|情報処理推進機構(IPA)(https://www.ipa.go.jp/files/000017308.pdf)
- 参考資料:Glossary「zero trust」(NIST SP 800-207)|NIST Computer Security Resource Center(https://csrc.nist.gov/glossary/term/zero_trust)
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多層防御の進め方
多層防御はすべての層のツールを一度にそろえる必要はありません。限られた予算と人手の中で、自社にとって手薄な層から順に埋めていくのが現実的です。ここでは進め方の考え方を整理します。
手薄な層から優先して埋める
まず、自社の現状を入口・内部・出口の3層に当てはめて棚卸しすることから始めます。多くの企業では、ウイルス対策ソフトやファイアウォールといった入口・端末の対策は入っている一方、侵入後に気づくための内部対策(EDRや操作ログ)や、持ち出しを止める出口対策(通信の監視)が手薄になりがちです。本記事前半の一覧表と照らし合わせ、まったく対策が無い層を最優先で埋めると、少ない投資で守りの穴を減らせます。
棚卸しは、次の3点を層ごとに「ある/ない」で確認すると手を動かしやすくなります。1つでも「ない」があれば、その層が優先的に埋める候補です。
- 入口:ファイアウォール/UTMとメール対策はあるか。公開しているWebサイト・Webアプリがあれば、WAFで守れているか。
- 内部:侵入後の不審な挙動に気づくEDRや操作ログの記録はあるか。重要なシステムをネットワークで分離できているか。
- 出口:外部への不正な通信や情報の持ち出しを止める仕組み(通信の監視・DLP)はあるか。
次に、守りたい情報資産や想定する攻撃から優先順位を考えることが重要です。顧客情報や決済データなど持ち出されると影響が大きい情報を扱う場合は、出口対策と認証強化の優先度が上がります。社内に不正の懸念があるなら、操作ログの記録が効果的です。「全部そろえる」ことを目標にするのではなく、自社のリスクが高い経路から着実に重ねていくのが進め方の基本です。
多層防御に限らず、人手や予算が限られるなかでセキュリティ対策を何から始めるか迷う場合は、優先順位と費用感をまとめた以下の記事も参考になります。
中小企業のセキュリティ対策は何から始める?優先順位と費用感つきでやるべきことを解説
取引先からセキュリティ対策状況の確認を求められたり、同業他社の被害をニュースで見た社長から「うちは大丈夫なのか」と指示が飛んできたりして、何から手を付ければよいのか分からず困っていませんか。セキュリティが大切なことは分かっていても、専任の担…
複数の層を1つにまとめる選択肢
専任の担当者を置けない企業では、層ごとに個別のツールを積み上げると管理が複雑になります。そこで、複数の機能を1つにまとめた提供形態を選ぶ方法があります。
代表的なのがUTM(統合脅威管理)で、ファイアウォール・IPS・アンチウイルス・迷惑メール対策・Webフィルタリングなどを1つの基盤に統合します。入口対策をまとめて導入・運用できるため、拠点ごとに個別の機器を管理する負担を抑えられます。同様に、クラウド経由で通信を集約してセキュリティと接続を一体で提供するSASEや、端末対策とログ管理などを束ねた対策パッケージもあります。
「1台にまとめるか、層ごとに最適なツールを個別に積むか」は、運用できる人手と、特定の層をどこまで強化したいかで判断することになります。ただし、同じ層を異なるベンダーの製品で二重化する選択は守りを厚くできる一方、運用の手間とコストが増えるため、人手が限られる場合はまず各層を1つずつ埋めることを優先するのが現実的です。
費用と運用負荷の現実
多層防御は守りを広げられる一方で、注意すべき側面もあります。東京都の解説は、多層防御のデメリットとして「複数の導入ツール、機器によるコスト増大」「管理の複雑化」「運用負荷の増大」を挙げています。ツールを増やすほど、導入費用だけでなく、日々のアラート確認や運用の手間も増えていきます。
特に見落とされやすいのが「入れた後、誰が監視するのか」という問題です。EDRやNDRのように検知を担うツールは、検知結果を確認して対応する人が必要です。専任者を置けない場合は、監視・運用を提供元やサービス事業者に任せられるマネージド型や、運用がクラウドで完結するサービスを選ぶと、自前で抱える負担を抑えられます。
ツールの機能だけでなく、自社の体制で運用し続けられるかまで含めて選ぶことが、多層防御を形だけで終わらせないための要点です。
ツールを導入することと、それが期待どおりに機能し続けていることは別の問題です。導入済みの企業の実情について、社内ネットワークの脆弱性診断を手がけるSYNCHROの北口氏は次のように話しています。

すでに対策をされている企業の場合は、UTM(ファイアウォール機能付きルーター)やアンチウイルスソフト、EDR、NDRなどが導入されています。ただ、それらが適切に機能しているかどうかは、やはりチェックしたくなるものです。
この「導入後に効き続けているか」を確かめるには、各層に穴がないかを外部の視点で点検する脆弱性診断が有効です。定期的に点検して弱くなった層を補強することまで含めて、多層防御は機能し続けます。
出典・参考資料(1件)
- 出典:用語解説「多層防御」(メリットとデメリット)|東京都 中小企業サイバーセキュリティ対策普及啓発(https://cybersecurity-taisaku.metro.tokyo.lg.jp/glossary/yogokaisetu20)
各層を埋める具体的なサービス
ここからは、多層防御の各層を埋める具体的なサービスを、入口・内部・出口の層ごとに紹介します。各層の代表的なツールの種類を埋めるサービスを取り上げており、前半の一覧表で挙げたプロキシ・DLP・暗号化のように、UTMやエンドポイント対策などに機能として含まれることが多いツールは、それらを束ねるサービスの中で触れます。自社で手薄な層が分かったら、その層に対応するサービスから検討するとよいでしょう。
まず、紹介するサービスの対応する層と提供形態を一覧で示します。料金が要問い合わせのサービスも、多くは無料トライアルや資料請求に対応しているため、気になるサービスは各紹介と公式資料で詳細を確認できます。
| 各層を埋めるサービスの比較 | Eye"247" Spam Shield | SmartConnect クラウド型UTM | Eye"247" Safety Zone | CloudGate UNO | Eye"247" Work Smart Cloud | Network Blackbox |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 守る層 | 入口 | 入口 | 内部 | 内部 | 内部 | 出口 |
| ツールの種類(主な役割) | メールセキュリティ (標的型・迷惑・ウイルスメールのブロック) | UTM (FW・IPS・アンチウイルス・Webフィルタ等を統合) | エンドポイント対策 (EPP+EDR/端末の検知・対応) | 認証強化 (SSO・多要素認証・ID管理) | 操作ログ記録・監視 (PCログ・デバイス制御) | NDR(通信の検知・対応) (フルパケットの記録・分析) |
| 提供形態 | クラウド型 (MXレコード変更で導入) | クラウド型 (拠点に機器を設置せずDC集約) | 端末インストール型 (ブラウザ管理画面) | クラウド型(IDaaS) | クラウド型(SaaS) | ミラーリング方式で導入 |
| 初期費用 | 要問い合わせ | 110,000円〜 (税込121,000円〜) | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 0円 | 要問い合わせ |
| 月額費用 | 要問い合わせ | 38,500円〜 (税込42,350円〜) | 要問い合わせ | 400円〜/ユーザー (税込440円〜) | 400〜1,100円/台 (台数に応じた従量制、税別) | 要問い合わせ |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | サービス詳細を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る |
入口を埋めるサービス
メールの受信とネットワークの出入口は、攻撃が最初に狙う入口です。ここを守るサービスを2つ紹介します。
Eye”247″ Spam Shield(株式会社フーバーブレイン)

Eye”247″ Spam Shield は、株式会社フーバーブレインが提供する完全クラウド型のメールセキュリティサービスです。自社のメールサーバーの手前にクラウドのフィルタを置き、標的型攻撃メール・迷惑メール・ウイルスメールがメールサーバーに届く前にブロックする仕組みを採っています。
導入はメールの宛先情報(MXレコード)を変更するだけで、端末へのソフトウェアのインストールは不要です。受信側のフィルタリングに加え、自社から迷惑メールを送ってしまうのを防ぐ送信側の対策や、なりすましを見分けるDMARC・送信ドメイン認証のチェックも備えています。料金は公式サイトに金額の記載がなく、プランに応じた問い合わせとなります(2026年11月時点)。
SmartConnect Network & Security クラウド型UTM(NTTスマートコネクト株式会社)

NTTスマートコネクト株式会社が提供するクラウド型UTMは、ファイアウォール・IPS・アンチウイルス・アンチスパム・Webフィルタリング・アプリケーション制御といった複数の入口対策を1つに統合したサービスです。UTM機器を自社の拠点に設置せず、同社のデータセンターに集約した基盤に通信を集めて提供するため、拠点ごとに機器を購入・運用する手間を抑えられます。
製品にはフォーティネット社の「FortiGate」が採用されています。料金は初期費用110,000円(税込121,000円)から、月額38,500円(税込42,350円)からで、帯域などのプランにより変動します。最低利用期間は1年です(2026年11月時点)。複数拠点の設定・管理を一元化できるため、拠点ごとに担当者を置けない企業に向いています。
内部を埋めるサービス
侵入された後に被害を広げないための内部対策として、端末の検知・対応、認証の強化、操作ログの記録を担うサービスを紹介します。
Eye”247″ Safety Zone(株式会社フーバーブレイン)

Eye”247″ Safety Zone は、端末を守るEPP(ウイルス対策)と、侵入後の検知・対応を担うEDRを組み合わせたエンドポイントセキュリティソフトです。検知エンジンにはBitdefenderと共同開発したものを採用し、アプリケーションの動作を常時監視する振る舞い検知で、未知の脅威にも対応します。
ランサムウェア対策として、ファイルを自動でバックアップし、被害を受けても直近の状態へ復元できる機能を標準で備えます。EDR機能では、端末上の不審な挙動の検知、ログの収集・調査、マルウェアの駆除・復旧支援までを行い、ブラウザから使える管理画面で検知状況を一元的に確認できます。料金は導入台数や契約期間に応じた個別見積もりで、公式サイトには金額の記載がありません(2026年11月時点)。
CloudGate UNO(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

CloudGate UNO は、株式会社インターナショナルシステムリサーチ(ISR)が自社開発するクラウド型のID基盤です。シングルサインオン(SSO)、多要素認証、パスキー(FIDO2)によるパスワードレス認証、アクセス制限、ID管理をまとめて提供し、認証を強化して内部での不正ログインや権限を超えたアクセスを防ぎます。
IPアドレス・端末・国や地域・時間帯による細かなアクセス制限ができ、パスキーによるパスワードレス認証は全プランで利用できます。料金は月額400円(税込440円)からで、プランによって利用できる機能が異なります。30日間の無料体験も用意されています(2026年11月時点)。端末を問わず認証を一元管理したい企業に向いた選択肢です。
認証強化といっても、多要素認証は方式によって攻撃への耐性が異なります。CloudGate UNO を提供するISRの平澤氏は、認証方式の違いについて次のように説明しています。

当社が採用しているパスキーのパスワードレス認証は、フィッシング攻撃に対して非常に強い耐性を持ちます。SMS認証やワンタイムパスワードなどの一般的な多要素認証を突破する攻撃手法が顕在化する中、より安全な認証環境を提供します。
Eye”247″ Work Smart Cloud(株式会社フーバーブレイン)

Eye”247″ Work Smart Cloud は、PCの操作ログから「誰が・いつ・どこで・何を操作したか」を記録・可視化するクラウド型サービスです。内部不正による情報漏えい対策として、Web閲覧・ファイル操作・印刷・USBの使用・クリップボードの操作といった履歴を1分間隔で記録し、後から追跡できる状態をつくります。
USBなど外部メディアの使用制限や印刷制限といったデバイス制御、個人情報を含むファイルの検知にも対応し、PCの資産管理も1つのツールで扱えます。初期費用は無料で、月額費用は契約台数に応じた従量制です(100台以上の場合は1台あたり月額400円から、税別。最低契約は5台、2026年11月時点)。14日間の無料トライアルも利用できます。
出口を埋めるサービス
侵入後の情報の持ち出しを食い止める出口・監視の層では、ネットワークの通信を記録・分析して不審な通信を見つけるNDR(通信の検知)を担うサービスを紹介します。DLPや暗号化といった出口対策は、前半の一覧表で種類として示したとおり、UTMやエンドポイント対策の機能として備わっていることも多いため、それらを導入する際に対応状況を確認するとよいでしょう。
Network Blackbox(Quad Miners)

Network Blackbox は、ネットワークを流れる全パケット(通信データ)を収集し、脅威を可視化・分析・対応するNDR(ネットワークの検知・対応)製品です。通信をそのまま保存するため、侵入後にひそかに行われる外部との不審な通信や情報の持ち出しを検知し、後から通信をさかのぼって詳しく調べられる点に強みがあります。
収集・検知・ハンティング(脅威の探索)・フォレンジック(詳細調査)・対応の5つの機能を1つの製品に備え、ミラーリング方式で導入するためネットワークへの影響を抑えられます。攻撃の手口を体系化したMITRE ATT&CKに基づく脅威の探索にも対応します。
EDRやログ管理と組み合わせることで、端末だけでは見えない通信レベルの異常まで監視できます。料金は公式サイトに記載がなく、問い合わせとなります(2026年11月時点)。
まとめ
多層防御は、入口・内部・出口の各層に役割の違うツールを重ね、1つの対策を突破されても次の層で食い止める考え方です。侵入を100%防ぐことが難しい以上、端末のウイルス対策だけに頼らず、侵入後に気づく内部対策と、持ち出しを止める出口対策まで備えることが、被害を最小限に抑える鍵になります。
すべてを一度にそろえる必要はありません。本記事の一覧表で自社に手薄な層を見つけ、リスクの高い経路から優先して埋めていくこと、そして「入れた後に誰が運用するか」まで含めて選ぶことが現実的な進め方です。各層を埋めるサービスの資料を比べて、自社の体制に合う形を検討してみてください。
本記事で紹介したサービス以外も含め、社内セキュリティソリューション全体を守る対象別のタイプから比較して選びたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
社内セキュリティソリューション比較|守る対象別のタイプ・代表サービスと選び方
社内のセキュリティを強化したいものの、端末の保護から不正アクセス対策、情報漏えいの防止まで課題が広く、何から手をつければよいか判断がつかないという声は少なくありません。テレワークやクラウド利用が定着し、社外に持ち出される端末やIDが増えたこ…
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よくある質問(FAQ)
Q. 多層防御とは何ですか?
A. 多層防御とは、社内システムを入口・内部・出口の複数の層に分け、それぞれに役割の違う対策を重ねて、1つの層を突破されても次の層で攻撃を食い止める考え方です。入口対策で侵入を防ぎ、内部対策で侵入後の被害拡大を抑え、出口対策で重要情報の持ち出しを止めます。1種類のツールだけに頼らず複数の守りを重ねることで、巧妙化するサイバー攻撃に対応します。
Q. 多層防御はすべての層のツールをそろえないといけませんか?
A. 多層防御は、すべての層のツールを一度にそろえる必要はありません。限られた予算と人手の中では、自社の現状を入口・内部・出口の3層に当てはめて棚卸しし、まったく対策が無い層から優先して埋めるのが現実的です。守りたい情報資産や想定する攻撃からリスクの高い経路を見極め、着実に層を重ねていくことが進め方の基本になります。
Q. 多層防御は中小企業にも必要ですか?
A. 多層防御は、専任の担当者を置けない中小企業にも必要な考え方です。ランサムウェアやサプライチェーンを狙った攻撃は企業規模を問わず広がっており、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2025」でも組織向けの脅威の1位にランサム攻撃による被害が挙げられています。
人手が限られる場合は、UTMのように複数の機能を1つにまとめた提供形態や、監視・運用を事業者に任せられるマネージド型を選ぶことで、少ない体制でも多層防御に近づけられます。
Q. 多層防御とゼロトラストは何が違いますか?
A. 多層防御とゼロトラストは、どちらも「侵入される前提」で守りを考える点は共通していますが、ゼロトラストはアクセスのたびに正当性を検証することに重きを置く考え方です。多層防御が入口・内部・出口という場所ごとに対策を配置するのに対し、ゼロトラストはネットワークの内側か外側かを問わず、利用者・端末・通信を常に確認します。
境界だけに頼らない発想は共通しており、認証強化やログ監視といった多層防御の内部対策は、ゼロトラストの実装とも重なります。
Q. 同じ層を複数のベンダーの製品で二重化する意味はありますか?
A. 同じ層を異なるベンダーの製品で二重化することには、片方の製品が見逃した脅威をもう一方が検知できる可能性が高まり、その層の守りを厚くできるという意味があります。一方で、導入・運用のコストと管理の手間が増えるため、専任者を置けない企業では効果に見合わないこともあります。
人手が限られる場合は、まず対策が無い層を1つずつ埋めて入口・内部・出口の3層をそろえることを優先し、二重化は特に重要な情報資産を扱う層に絞って検討するのが現実的です。
Q. 多層防御の導入にはどのくらいの費用がかかりますか?
A. 多層防御の費用は、埋める層と選ぶツールによって幅があり、認証強化やログ管理のように1ユーザー・1台あたり月額数百円から始められるものもあれば、入口をまとめて守るUTMのように月額数万円からのものもあります。
複数の層をそろえるほど費用は積み上がり、導入費用だけでなく日々のアラート確認などの運用負荷も増えていきます。手薄な層から段階的に導入し、自社の体制で運用し続けられる範囲で選ぶことが、費用を抑えるうえでの要点です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。


















