会員登録やログインの画面で、「Googleでログイン」「LINEでログイン」といったボタンを目にする機会が増えました。ソーシャルログイン(SNSアカウントを使って別のサービスにログインする仕組み)は、利用者の入力の手間を減らせる一方で、「危険ではないか」という声も聞かれます。
本記事は、自社の会員サイトやECを運営する事業者に向けて、ソーシャルログインの危険性が具体的に何かを一つずつ整理します。あわせて、利用者として「SNSのパスワードは連携先に渡るのか」と心配な方の疑問にも、冒頭で結論から答えます。
危険性の事実を押さえたうえで、利用者がやる対策と事業者が設計で防ぐ対策を混ぜずに分けて示します。自社サービスに導入してよいか、導入するならどう設計すれば安全かを判断するための材料としてご活用ください。
目次
一括ダウンロードする
ソーシャルログインの危険性|具体的に何が危ないのか
ここでは、仕組みの解説を待たずに、ソーシャルログインで起こりうる悪いことを一つずつ挙げます。いずれも、ログインを外部のSNSに委ねる構造そのものから生じるものです。
大元のSNSアカウントが乗っ取られると連携先に被害が連鎖する
ソーシャルログインでは、連携先のサービスはSNS(IdP、ID提供者)による認証の結果を信頼してログインを通します。そのため、大元のSNSアカウントが乗っ取られると、そのアカウントでログインできる連携先すべてに芋づる式に被害が及びます。
パスワードの使い回しや漏えいが1件あるだけで、それが連鎖の起点になりやすい点が、個別にID・パスワードを登録する従来のログインとの大きな違いです。
過剰な権限(スコープ)の要求で必要以上の情報が渡る
ソーシャルログインでは、連携先が要求する権限の範囲(スコープ)に応じて、SNS側が持つプロフィールやメールアドレスなどの情報が渡されます。必要以上に広い権限を要求するサービスを使うと、ログインに本来不要な情報まで提供してしまいます。
何が渡るかは同意画面に表示されますが、内容を読まずに許可する利用者も多く、過剰な取得が見過ごされがちです。各SNSの同意画面とスコープで実際に何が渡るかは、後述の仕組みの節で具体的に確認します。
SNSアカウントの凍結・停止でログインできなくなる
ログインを特定のSNSに依存させると、そのSNSのアカウントが凍結・停止されたり、提供側の障害が起きたりしたときに、連携先サービスにも入れなくなります。利用者にとっては、原因が自社サービス側にないにもかかわらず締め出される状態です。
メールアドレスでの誤った統合(別人のアカウントへの乗り入れ)
SNSから受け取ったメールアドレスを既存アカウントの照合キーに使う実装では、同じメールアドレスを持つ別のアカウントに誤って紐づけてしまう設計上の落とし穴があります。メールの所有確認が不十分なまま統合すると、別人のアカウントに乗り入れられる余地が生まれます。
これはプロトコルの欠陥ではなく、アカウント統合をどう設計するかという事業者側の実装責任の問題です。
実装の不備によるなりすまし
ソーシャルログインの裏側で動くOAuth 2.0(アクセスを委ねる認可の枠組み)・OpenID Connect(本人確認を担う認証の層)の処理を正しく実装しないと、攻撃者が認証の応答を横取り・注入してなりすます余地が生まれます。リダイレクト先の検証やトークンの検証を省くと、正規の利用者になりすましたログインを許してしまいます。
具体的な防ぎ方は、後述の事業者編(stateやトークンの検証)で扱います。
アプリ内ブラウザでの認証情報の覗き見・一部SNSでログインできない
ネイティブアプリでログインを完結させるとき、アプリ内に埋め込んだブラウザ(アプリ内ブラウザ)を使うと、入力した認証情報をアプリ側から覗き見られる余地が生まれます。一部のSNSは、この経路でのログインそのものを認めていません。
連携先が受け取った個人情報は撤回しても残る
一度ソーシャルログインを許可すると、同意した時点で連携先に渡った情報は、あとから連携を解除しても連携先の管理下に残ります。アクセスを止められても、すでに渡ってしまったデータそのものを取り消せるわけではありません。
利用者としては、連携を許可する前に渡る情報を確認することが、渡したあとの対応より確実な備えになります。
「SNSのパスワードは連携先サイトに渡るのか?」結論と仕組み
ここでは、利用者が最も気にする素朴な疑問に結論から答え、その理由をOAuth 2.0・OpenID Connectの仕組みから説明します。

結論:生パスワードは渡らない。ただし大元が乗っ取られれば連鎖する
結論から言えば、SNSの生のパスワードが連携先のサービスに渡ることはありません。渡るのはアクセストークン(権限の範囲と有効期限を持つ文字列)で、連携先はこのトークンを使って、許可された範囲の情報にだけアクセスします。この「資格情報を共有せず、アクセスだけを委ねる」考え方は、OAuth 2.0の仕様そのものに示されています。
Instead of using the resource owner’s credentials to access protected resources, the client obtains an access token — a string denoting a specific scope, lifetime, and other access attributes. For example, an end-user (resource owner) can grant a printing service (client) access to her protected photos stored at a photo-sharing service (resource server), without sharing her username and password with the printing service.
出典:The OAuth 2.0 Authorization Framework(RFC 6749)§1 Introduction|IETF
仕様の例でいえば、利用者(リソースオーナー)は印刷サービス(クライアント)に、写真共有サービス(リソースサーバー)に預けた写真へのアクセスを、自分のユーザー名とパスワードを渡すことなく許可できます。これがソーシャルログインの基本構造です。
ただし、「パスワードが渡らないから安全」で終わらせてはいけません。前述のとおり、大元のSNSアカウントそのものが乗っ取られれば、それを信頼する連携先すべてが被害を受けます。安全の前提は、生パスワードが渡らないことではなく、大元のアカウントをどれだけ守れているかにあります。
ソーシャルログインの仕組み(OAuth 2.0とOpenID Connect・認証と認可の違い)
ソーシャルログインは、2つの仕様を土台にしています。OAuth 2.0は「認可」、つまり他サービスのデータへのアクセスを本人に代わって許可するための枠組みです。クライアントが要求するアクセスの範囲は「スコープ」と呼ばれ、認可サーバーや本人の意思で絞り込めます。
一方のOpenID Connectは、OAuth 2.0の上に乗る「認証」の層です。これにより連携先は、認可サーバーが行った認証をもとに利用者が誰かを確認でき、本人確認の結果はIDトークン(JWT=JSON Web Token形式のセキュリティトークン)として返されます。「誰のデータにアクセスしてよいか(認可)」と「誰がログインしているか(認証)」を、この2つが役割分担しています。
出典・参考資料(2件)
各SNSの同意画面・スコープで実際に何が渡るか
渡る情報はSNS(IdP)ごとに異なり、同意画面に表示されます。Googleの場合、スコープは openid を起点に profile や email を加える形で指定し、email スコープがあればIDトークンにメールアドレスと確認済みフラグが含まれます。同意画面には、利用者が提供する情報と適用される条件が表示されると公式ドキュメントが説明しています。
LINE Loginでは、openid スコープは利用者の識別子を含むIDトークンを返し、profile スコープは表示名やプロフィール画像を扱います。メールアドレスの取得は事前の申請が必要で、機微な情報ほどIdP側に段階的な許可のゲートが設けられています。
Appleの「Sign in with Apple」には、本物のメールアドレスの代わりに転送用のランダムなアドレスを渡す「メールを非公開」の仕組みがあります。IdPによっては、メールアドレスをそのまま渡さない選択肢がある点は、メール統合を設計する事業者が知っておくべき実装差です。
出典・参考資料(3件)
ソーシャルログインを使っていいのか・やめるべきか(場面別の判断)
危険性は一律ではなく、サービスの性質によって得失のバランスが変わります。ここでは、自社のケースに当てはめて判断できるよう、代表的な3つの場面で整理します。

一時利用のサイト・ライトな会員登録
資料の一時ダウンロードやキャンペーン応募のように、扱う情報が限られ、利用が一時的なサイトでは、入力の手間を減らせる利得が大きく、残るリスクは相対的に小さくなります。離脱を防ぎたい登録導線では、ソーシャルログインを用意する価値が見込めます。
重要な会員基盤・決済や個人情報を扱うサービス
決済情報や詳細な個人情報を扱う会員基盤では、大元アカウントの乗っ取りが連鎖したときの影響が大きくなります。ソーシャルログインを否定する必要はありませんが、多要素認証を前提にし、SNSが使えなくなったときの代替ログインを必ず用意するなど、慎重な設計を伴って導入すべき場面です。
業務システム・社内利用
社員が使う業務システムでは、組織としてアカウントを管理する必要があり、私用のSNSアカウントでのログインは向きません。退職時の無効化や権限の一括管理を考えると、顧客向けのソーシャルログインではなく、企業が管理するシングルサインオン(SSO)の領域になります。
【利用者編】利用者が自分でやる対策
ここからは、利用者がソーシャルログインを使う際に自分でできる対策を整理します。事業者が設計で担う対策とは役割が分かれる点に注意してください。
大元アカウントの多要素認証・パスキーを設定する
最も効くのは、連鎖の起点になる大元のSNSアカウントを固く守ることです。多要素認証(MFA)やパスキー(FIDO2/WebAuthnによるパスワードレス認証)を設定しておけば、パスワードが漏れても単独ではログインされにくくなります。これは、乗っ取りによる連鎖被害に直接効く対策です。
万一、大元のSNSが乗っ取られると、それでログインできる連携先すべてに不正アクセスが及びます。気づいたときの初動は、大元SNSのパスワード変更と、各サービスに結び付けたSNS連携の解除です。入口である大元アカウントの復旧を最優先にすると、連鎖を早く止められます。
連携アプリを定期的に見直し、不要な連携を解除する
各SNSの設定画面には、これまで連携したアプリやサービスの一覧があります。使わなくなったサービスへの連携を解除しておくと、渡す情報とアクセスの範囲を絞れます。これから渡る情報を止められる対策であり、すでに渡った情報は取り消せない点は前述のとおりです。
過剰な権限要求には同意しない(同意画面を確認する)
ログイン時の同意画面には、そのサービスに渡る情報が表示されます。ログインに不要と思える広い権限を求められたら、立ち止まって内容を確かめ、必要がなければ許可しないことが、過剰な情報取得への備えになります。
重要なサイトには別のログイン手段も登録しておく
よく使うサービスでは、SNS連携だけに頼らず、メールアドレスやパスワードなど別のログイン手段も登録しておきます。SNSのアカウントが凍結・停止されても、別の手段でそのまま入れるため、締め出しを避けられます。
【事業者編】事業者が設計で防ぐ対策
ここからは、自社サービスにソーシャルログインを組み込む事業者が、設計と実装で防げる対策を整理します。利用者側の対策とは切り分けて、自社の責任範囲として押さえてください。
スコープを最小化する(必要な権限だけ要求する)
OAuth 2.0では、クライアントが要求するアクセスの範囲をスコープとして指定します。ログインと会員管理に本当に必要な情報だけを要求すれば、過剰な情報取得と、利用者が同意をためらって離脱する事態の両方を避けられます。
トークン・state・nonceを検証する(なりすまし・リプレイ対策)
なりすましを防ぐ要は、認証の応答を正しく検証することです。まず、クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF、別サイト経由で不正なリクエストを送り込む攻撃)への対策として、OAuth 2.0は state パラメータの利用を求めています。
The client MUST implement CSRF protection for its redirection URI. This is typically accomplished by requiring any request sent to the redirection URI endpoint to include a value that binds the request to the user-agent’s authenticated state (e.g., a hash of the session cookie used to authenticate the user-agent). The client SHOULD utilize the “state” request parameter to deliver this value to the authorization server when making an authorization request.
出典:The OAuth 2.0 Authorization Framework(RFC 6749)§10.12 Cross-Site Request Forgery|IETF
一方、リプレイ攻撃(一度の認証応答を再利用する攻撃)への対策は、OpenID Connectの nonce パラメータが担います。nonce はクライアントのセッションとIDトークンを結び付ける値で、クライアントはIDトークンに含まれる nonce が自分の送った値と一致することを検証します。
state はCSRF、nonce はリプレイと、担う役割が異なるため、両方を正しく検証することが重要です。
加えて、IETFの最新の実装指針(RFC 9700)は、リダイレクトURIを事前登録した値と「厳密な文字列一致」で照合することを求めており、認可コードの横取りを防ぐ具体策になります。
When comparing client redirection URIs against pre-registered URIs, authorization servers MUST utilize exact string matching except for port numbers in localhost redirection URIs of native apps
出典:Best Current Practice for OAuth 2.0 Security(RFC 9700)§2.1|IETF
同指針は、state によるCSRF対策に加えて、PKCE(認可コード横取りを防ぐ拡張)の利用も現在の実務標準として挙げています。これらは、実装の不備によるなりすましを防ぐための土台になります。
こうした検証を含め、ソーシャルログインを自社でゼロから開発する場合と、専用のサービスを使う場合とでは、実装や保守にかかる開発・運用の工数が変わります。具体的な導入手順や両者の違い、導入に使えるサービスの比較は、以下の記事で解説しています。
ソーシャルログインとは?サービス13選を対応SNS・料金で比較|自社開発との違いと導入手順も解説
会員登録フォームを開いたところで離脱されてしまう、再訪してくれた人がパスワードを思い出せずにそのまま戻ってこない——こうした取りこぼしに心当たりはないでしょうか。減らす手段として検討されるのが、LINEやGoogleのアカウントでそのままロ…
確認済みメールを条件にアカウント統合する(メール誤統合対策)
SNSから受け取ったメールアドレスを既存アカウントの照合キーに使うなら、そのメールが本当に本人のものかを確かめてから統合します。IdPがメールの確認済みを示すフラグを返す場合はその値を条件にし、未確認のメールでの自動統合は避けます。
既存アカウントとの突合でも、メールの一致だけで同一人物と見なさず、本人しか通れない確認(既存の手段での再ログインや所有確認メール)を挟みます。これにより、同じメールアドレスを持つ別人のアカウントへ誤って乗り入れる事態を防げます。
代替ログインとアカウント復旧の導線を用意する
SNSの凍結や障害でログインできなくなる事態に備え、ソーシャルログインだけに頼らない構成にします。ID・パスワードやメールのワンタイムコードなど別の手段を併せて提供し、どのSNSが使えなくなっても利用者が締め出されないようにしておくことが、凍結リスクへの直接の備えです。
保持する個人情報と保持期間を最小化する
ソーシャルログインで受け取る情報は、サービス運営に必要な範囲と期間に絞ります。渡った情報は撤回しても残るという前提に立てば、そもそも取得・保持する量を抑えることが、万一の漏えい時の影響を小さくする設計になります。
標準ブラウザでの起動を案内する(アプリ内ブラウザ対策)
ネイティブアプリでは、アプリ内に埋め込んだブラウザではなく、端末標準のブラウザでログインさせるのが安全です。前述のアプリ内ブラウザによる認証情報の覗き見やログイン不能を避けられ、OAuthの実装指針でも標準ブラウザの利用が推奨されています。
多要素認証・パスキーを事業者側でも提供する
利用者任せにせず、自社サービス側でも多要素認証やパスキーを用意しておくと、重要な操作の前に追加の本人確認を挟めます。乗っ取りの連鎖やなりすましに対し、事業者が能動的に防御層を足せる強化策です。
自社サービスへのパスキー(パスワードレス認証)の組み込みを具体的に検討する場合は、生体認証やパスキーに対応したSDK・APIの選び方を、以下の記事で解説しています。
パスワードレス認証とは?自社サービスに組み込む生体認証・パスキー対応SDK/APIを機能・料金で比較【選び方も解説】
自社アプリやWebサービスのログインを、パスワードに頼らない方式へ切り替えたいと考える開発・プロダクト部門が増えています。パスワードの使い回しやフィッシングによる不正ログインが後を絶たず、パスキーやFIDO2といったパスワードレス認証が、そ…
危険性と対策の対応一覧(利用者編・事業者編の総括)
利用者編と事業者編で挙げた対策が、危険性のどれに効くのかを一覧にまとめます。利用者がやること(中列)と事業者が設計で防ぐこと(右列)は役割が異なり、両方がそろって初めて個々の危険に対処できます。
| 危険性 | 大元アカウントの乗っ取りによる連鎖被害 | 過剰な権限(スコープ)で必要以上の情報が渡る | SNSアカウントの凍結・停止でログインできない | メールアドレスでの誤った統合 | 実装の不備によるなりすまし | アプリ内ブラウザでの認証情報の覗き見 | 連携先が受け取った個人情報の保持 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 利用者側の対策 | 大元アカウントに多要素認証・パスキーを設定する | 同意画面で要求される権限を確認し、不要なら許可しない | 重要なサイトには別のログイン手段も登録しておく | 主に事業者側の設計で対処する領域 | 主に事業者側の設計で対処する領域 | アプリでは標準ブラウザでのログインを選ぶ | 連携アプリを定期的に見直し、不要な連携を解除する |
| 事業者側の対策 | 多要素認証・不審IPの遮断・リスクベース認証を用意する | 要求するスコープを必要最小限にする | 代替ログインとアカウント復旧の導線を用意する | 確認済みメールを条件にアカウント統合を設計する | stateでCSRF、nonceでリプレイを検証し、リダイレクトURIを厳密一致にする | 端末標準のブラウザでの起動を案内する | 取得・保持する情報と保持期間を最小化する |
自社利用者から「Googleで登録して大丈夫か」と聞かれたら
自社サービスにソーシャルログインを導入すると、利用者から「Googleで登録して大丈夫ですか」と問われる場面が出てきます。ここでは、そのまま使える説明の型と、言ってはいけないNG例を示します。
基本の説明例:「GoogleやLINEのパスワードを当社がお預かりすることはありません。お客様ご自身でログインいただき、当社はお名前やメールアドレスなど、同意画面に表示された範囲の情報だけをお預かりします」。パスワードを持たないという事実が、最も大きな誤解を解きます。
不安への備えを添える例:「より安全にお使いいただくため、GoogleやLINE側のアカウントにも二段階認証のご設定をおすすめしています」。自社の備えだけでなく、利用者ご自身の備えも促すと、案内に過不足がなくなります。
NG例は「絶対に安全です」と言い切ることです。生パスワードが渡らないことと、大元アカウントが乗っ取られたときの連鎖は別の話で、安全を保証する言い方は後で信頼を損ねます。「SNS側のアカウント管理は大切です」と正直に線引きするのが誠実な案内です。
対策を自前で持つか、外部の基盤に任せるか——次節では、ソーシャルログインの危険への対策を標準機能として備えた認証基盤(CIAM)という具体的な選択肢を見ていきます。
一括ダウンロードする
サービス活用:対策を自前で維持しない認証基盤(CIAM)という選択肢
ここまで見てきた対策——多要素認証、不審なログインの検知、トークンやstateの検証、代替ログインや復旧導線の用意——は、いずれも自社で実装する必要があります。しかも、公開後も仕様変更や脆弱性に追従しながら維持し続けなければなりません。この負担を外部の基盤に肩代わりさせる選択肢が、CIAM(顧客ID・アクセス管理)と呼ばれるサービス群です。
もっとも、これらの対策を自前で設計・運用し続けられるなら、外部のCIAMは必須ではありません。自社に専任の体制がなく、仕様変更や脆弱性への追従まで任せたい場合に、有力な選択肢になります。
本記事では危険への対策という観点から主要なCIAMを紹介しますが、CIAM全体の選び方や各サービスの機能・料金の比較は、以下の記事で詳しく解説しています。自社の会員基盤に合うサービスを全体から比較検討したい方は、あわせてご覧ください。
以下では、ソーシャルログインを扱いつつ、本記事が挙げた危険への対策を標準機能として備えるサービスを紹介します。
まず、主なサービスの比較表で全体像を確認してください。
| サービス比較 | Login3.0 with AI Agent | Auth0(Okta) | Amazon Cognito | Firebase Authentication | Microsoft Entra External ID | Keycloak | PingOne for Customers | Uni-ID Libra |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 対応ソーシャルログイン | Google・LINE (メール・ワンタイムコードも) | 約74種類の ソーシャル連携 | ソーシャル連携 (SAML/OIDCにも対応) | Google・Apple・Facebook GitHub・Microsoft・Yahoo | Google・Facebook・Apple (SAML/OIDC連携も) | ソーシャルログイン対応 (外部IdPブローカリング) | 外部ID連携に対応 (DaVinciでフロー構築) | ソーシャルログイン・ SNS連携に対応 |
| 多要素認証(MFA) | ● | ●有料プランで提供 | ● | △無償版は非対応・Identity Platform必須 | ● | ● | ●アダプティブMFA(Plus) | ● |
| 不正ログイン・乗っ取り対策 | 総当たり攻撃対策 不審IPの遮断 秘密鍵の分散管理 | ボット検知・不審IP制限 総当たり防御・漏えいパスワード検知 | 侵害済み認証情報の検知 リスクベース認証 (いずれもPlusプラン) | メール列挙保護・パスワードポリシー SMS不正利用対策 | サインアップ詐欺防止 DDoS・WAF対策 (パートナー統合) | 標準機能で対策を構成 脆弱性対応・運用は自社 | PingOne Protectで乗っ取り・ クレデンシャルスタッフィング・ボットを検知 | 利用デバイス検知 異常ログイン時の追加認証 信頼済み端末登録 |
| 提供形態 | クラウド(SaaS) OIDC互換SDKで接続 | クラウド(SaaS) Enterpriseは専用環境も | クラウド(SaaS) AWSマネージド | クラウド(SaaS) 無償版と有償版の2階層 | クラウド(SaaS) 外部テナント | OSS セルフホスト(自社運用) | クラウド(SaaS) オンプレ製品と連携も | オンプレミス/クラウド 国産・導入支援あり |
| 料金・規模感 | MAU段階制の従量課金 例: 20,000MAUで月額12万円 | 25,000MAUまで無料 有料は月$35〜(MAU課金) | 月1万MAUまで無料 Essentials $0.015/MAU | 月5万MAUまで無料 MFA等は有償版が前提 | 5万MAUまで無料 超過分は要問い合わせ | ライセンス費用なし(Apache 2.0) インフラ・運用費は自社負担 | 年額$35,000〜(Essential) $50,000〜(Plus) | 要お問い合わせ (大企業の会員基盤中心) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
※料金は各社公式の公開情報(2026年9〜10月時点)です。米ドル建ての料金は、1ドル=約150円で換算するとおよその規模感がつかめます(例:月$35は約5,250円、年額$35,000は約525万円)。為替で変動するため、あくまで目安としてご覧ください。
1. Login3.0 with AI Agent(株式会社UPBOND)

株式会社UPBONDのLogin3.0は、企業が自社の顧客に向けて提供する、DID(分散型識別子)とOpenID Connectを組み合わせたログイン基盤です。Google・LINEのソーシャルログインに対応し、OIDC互換のSDKで既存システムへ接続します。
総当たり攻撃・漏えいパスワードへの対策、不審なIPアドレスの遮断、多要素認証、アカウント統合を備えます。ID・パスワードでのログインも併用でき、SNS側の障害時にも利用者が締め出されない代替ログインを構成できます。
個人情報はブロックチェーンに記録せず、利用者が管理するウォレットに保存し、GDPR(EUの一般データ保護規則)・個人情報保護法に対応した同意管理を提供するとしています。料金はMAU(月間アクティブユーザー)に応じた段階制で、20,000MAUの場合は月額120,000円が公式の計算例です(2026年10月時点)。
2. Auth0(Okta, Inc.)

Okta, Inc.が提供するAuth0(Okta Customer Identity Cloud)は、Web・モバイル・APIアプリにログイン機能を組み込むための開発者向け認証基盤です。統合ログイン画面から約74種類のソーシャル連携に対応し、OIDC・OAuth 2.0・SAMLの標準規格を扱います。
ボット検知・不審IPの制限・総当たり防御・漏えいパスワード検知といった攻撃対策、多要素認証、複数プロバイダのアカウントリンクを備えます。料金はMAU課金で、無料プランは月間25,000ユーザーまで利用できます(2026年9月時点、米ドル建て)。
3. Amazon Cognito(Amazon Web Services)

Amazon Web Servicesのマネージド型CIAMがAmazon Cognitoです。会員登録・サインインを担うUser Poolsと、AWSリソースへのアクセス権を発行するIdentity Poolsで構成され、OAuth 2.0/OpenID Connectの発行者としても機能します。
ソーシャル連携・多要素認証に加え、上位のPlusプランでは侵害済み認証情報の検知とリスクベースの適応型認証に対応します。料金はMAU従量課金で、Lite・Essentialsは月10,000MAUまで無料です(2026年9月時点、米ドル建て)。AWSサービスと組み合わせて使いたい事業者に向きます。
4. Firebase Authentication(Google LLC)

Google LLCのアプリ開発基盤Firebaseが提供する、エンドユーザー向けの認証バックエンドがFirebase Authenticationです。Google・Apple・Facebook・GitHub・Microsoft・Yahooなどのソーシャルログインと、ドロップインで組み込めるUIライブラリを提供します。
メール列挙保護・パスワードポリシー・サインアップのレート制限・SMSの不正利用対策を備えます。ただし多要素認証やSAML/OIDC連携、ブロッキング関数は無償版では利用できず、有償の「Firebase Authentication with Identity Platform」へのアップグレードが前提です(2026年10月時点)。第2要素を求める設計では有償版を見込む必要があります。
5. Microsoft Entra External ID(Microsoft Corporation)

日本マイクロソフト株式会社が国内窓口を担うMicrosoft Entra External IDは、Azure AD B2Cの後継にあたる、顧客・外部ユーザー向けのCIAMです。Google・Facebook・Appleのソーシャル連携、多要素認証、条件付きアクセスに対応します。
サインアップ詐欺防止(Arkose Labs・HUMAN Security)やDDoS・WAF対策(Cloudflare・Akamai)、パスキーを外部テナント向けに統合提供します。料金はMAU課金で、最初の50,000MAUまで無料です(2026年9月時点、超過分の単価は要お問い合わせ)。
6. Keycloak(Keycloakプロジェクト)

Keycloakは、Apache License 2.0で公開されているオープンソース(OSS)のID・アクセス管理ソフトウェアです。OpenID Connect・OAuth 2.0・SAML 2.0を標準搭載し、ソーシャルログイン・多要素認証・パスキー・アカウント統合を、追加のライセンス費用なしで利用できます。
一方で、自社のサーバーやコンテナ環境に自前で構築して運用するセルフホスト型であり、可用性の設計・脆弱性パッチの適用・インフラ運用は利用企業が負います。ライセンス費用を抑えたい事業者向けですが、運用体制を前提に検討する製品です。
7. PingOne for Customers(Ping Identity)

Ping Identityが提供するPingOne for Customersは、大企業や複雑な認証要件を持つ組織に向けたクラウド型CIAMです。ノーコードで認証フローを組み立てるオーケストレーション、アダプティブな多要素認証、パスワードレス認証を備えます。
PingOne Protectにより、アカウント乗っ取り・クレデンシャルスタッフィング・ボット攻撃をリスクスコアから検知します。料金は年額35,000ドル〜(Essential)/50,000ドル〜(Plus)が公式の基本料金で(2026年9月時点)、一定規模の予算を前提とした価格帯です。
8. Uni-ID Libra(NRIセキュアテクノロジーズ株式会社)

NRIセキュアテクノロジーズ株式会社が自社開発する国産CIAMがUni-ID Libraです。BtoCサービス向けの顧客ID統合・認証ソリューションで、ソーシャルログイン・FIDO(パスキー)認証・ワンタイムパスワードに対応します。
利用デバイスの検知、異常ログイン時の追加認証、信頼済み端末の登録といった不正アクセス対策と、目的別同意や未成年者の保護者同意を含む同意管理を備えます。要件定義の段階から国内拠点の専門人材が支援する体制が特徴で、料金は個別見積もりです。トヨタ自動車やカシオ計算機などの会員基盤での採用が公式事例に掲載されています。
まとめ
ソーシャルログインの危険性は、ログインを外部のSNSに委ねる構造から生じます。大元アカウントの乗っ取りによる連鎖、過剰なスコープ、SNS凍結によるログイン不能、メールの誤統合、実装不備のなりすまし、アプリ内ブラウザでの覗き見、受領情報の保持が、その代表です。
一方で、SNSの生パスワードが連携先に渡ることはなく、多くの危険は利用者側の対策と事業者側の設計で抑えられます。利用者は大元アカウントの多要素認証と連携の見直しを、事業者はスコープの最小化・トークンやstateの検証・代替ログインの用意・保持データの最小化を担う、という役割分担が要点です。
これらの対策を自前で維持し続ける負担が重いと感じる場合は、CIAM・認証基盤に肩代わりさせる選択肢があります。MCB FinTechカタログでは、各サービスの資料を無料でまとめて請求できますので、比較検討の材料にご活用ください。
一括ダウンロードする
よくある質問(FAQ)
Q. ソーシャルログインとは何ですか?
A. ソーシャルログインとは、GoogleやLINEなどのSNSアカウントを使って、別のWebサービスに登録・ログインできる仕組みです。背後ではOAuth 2.0とOpenID Connectが使われ、連携先はSNS(IdP、ID提供者)が行った認証の結果を信頼してログインを通します。
利用者は新しいID・パスワードを作らずに済み、事業者は登録時の離脱を減らせますが、ログインを外部のSNSに委ねる構造ならではの危険性もあります。
Q. ソーシャルログインでSNSのパスワードは連携先サイトに渡りますか?
A. ソーシャルログインでは、SNSの生のパスワードが連携先のサイトに渡ることはありません。渡るのはアクセストークン(許可された権限の範囲と有効期限を持つ文字列)で、サイトはこのトークンで同意された範囲の情報にだけアクセスします。これはOAuth 2.0の設計そのものです。
ただし「渡らないから安全」ではなく、大元のSNSアカウントが乗っ取られれば、信頼する連携先すべてに被害が連鎖する点には注意が必要です。
Q. ソーシャルログインとパスワードでのログインは、どちらが安全ですか?
A. ソーシャルログインとパスワード認証は、抱えるリスクの種類が異なるため、単純にどちらが安全とは言い切れません。パスワードの使い回しや漏えいのリスクは、自前でパスワードを持たないソーシャルログインのほうが小さくなります。
一方で大元のSNSアカウントに依存するため、その乗っ取りや凍結がそのまま連携先に影響する固有のリスクもあります。大元アカウントの多要素認証と、SNS以外の代替ログインを併せて用意すれば、両方式の弱点を補えます。
Q. ソーシャルログインだけにすると、SNSアカウントの凍結・退会でログインできなくなりますか?
A. ソーシャルログインだけに依存した構成では、大元のSNSアカウントが凍結・退会されたり障害が起きたりすると、連携先サービスにもログインできなくなります。利用者にとっては、自社サービス側に原因がないのに締め出される状態です。事業者側は、ID・パスワードやメールのワンタイムコードなど別の手段も併せて提供し、どのSNSが使えなくなっても締め出されない構成にしておくと安心です。
Q. ソーシャルログインを導入するとき、メールアドレスやパスワードでのログインも併用すべきですか?
A. 決済や個人情報を扱う重要な会員基盤では、ソーシャルログインに加えて、メールアドレスやパスワードなどSNSに依存しない代替ログインを併用することが推奨されます。SNSの凍結・障害時にも利用者が入れるようにするためで、アカウント復旧の導線もあわせて用意します。
扱う情報が限られる一時利用のサイトでは入力の手間を減らす利得が大きく、ソーシャルログインに寄せる設計も選択肢です。自社が扱う情報の重要度で判断しましょう。
Q. ソーシャルログインのstateとnonceは、それぞれ何を防ぐ仕組みですか?
A. ソーシャルログインでは、stateがクロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF)を、nonceがリプレイ攻撃を防ぎます。stateはOAuth 2.0が利用を求めるパラメータで、認証のリクエストと応答が同じ利用者のものかを結び付け、別サイト経由の不正なリクエストをはじきます。
nonceはOpenID Connectのパラメータで、セッションとIDトークンを結び付け、認証応答を使い回す攻撃を防ぎます。役割が異なるため、両方の検証が必要です。
Q. ソーシャルログインを使わないほうがよいケースはありますか?
A. 社員が使う業務システムや社内SaaSでは、私用のSNSアカウントによるソーシャルログインは向きません。退職時のアカウント無効化や権限の一括管理を組織として行う必要があるためで、この領域は企業が管理するシングルサインオン(SSO)が適します。一方、顧客向けのBtoCサービスの会員登録では、多要素認証や代替ログインを前提にすれば、ソーシャルログインは有効な選択肢になります。
Q. ソーシャルログインの対策は、多要素認証(MFA)だけで十分ですか?
A. 多要素認証は乗っ取り対策の要ですが、それだけで万全とは言えません。MFAは大元アカウントの乗っ取りによる連鎖には直接効きますが、過剰なスコープによる情報取得、実装不備のなりすまし、SNS凍結によるログイン不能といった危険までは防げません。スコープの最小化、トークン・stateの検証、代替ログインの用意、リスクベース認証などを組み合わせた多層の防御が必要です。
Q. ソーシャルログインよりパスキーのほうが安全ですか?
A. パスキーとソーシャルログインは解決する課題が異なるため、優劣ではなく併用で考えるのが現実的です。パスキー(FIDO2/WebAuthnによるパスワードレス認証)はフィッシングに強く、パスワード漏えいの問題そのものをなくします。
ソーシャルログインは登録・ログインの手間を減らす仕組みです。大元アカウントや自社サービスにパスキーを設定しておくと、ソーシャルログインの弱点である乗っ取りの連鎖を抑えられます。
Q. ソーシャルログインの危険性への対策を自前で維持できない場合はどうすればよいですか?
A. 多要素認証・不正ログイン検知・トークン検証・代替ログインなどを自前で持ち続ける負担が重い場合は、CIAM(顧客ID・アクセス管理)と呼ばれる認証基盤に肩代わりさせる選択肢があります。
本記事で紹介したCIAM・認証基盤は、ソーシャルログインを扱いつつ乗っ取りやなりすましへの対策を標準機能として備えます。仕様変更や脆弱性への追従も基盤側が担います。
認証基盤・CIAMの料金・資料を一括チェック
MCB FinTechカタログでは、ソーシャルログインの対策を自前で維持せずに担えるCIAM・認証基盤の最新資料を無料で一括請求できます。対応するソーシャルログイン、多要素認証や不正ログイン対策、料金体系をまとめて比較できます。
一括ダウンロードする
MCB FinTechカタログに掲載しませんか?
MCB FinTechカタログでは、掲載企業様を募集しています。マネックスグループの金融実務ノウハウを活かした独自の評価軸と検索設計により、導入検討者が最適なサービスを効率的に発見できる法人向け比較プラットフォームです。掲載後は管理画面から料金表や導入事例を随時更新でき、常に最新の情報を訴求可能。まずは下記フォームより、お気軽にお問い合わせください。

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。














