社内で不正アクセスや情報漏えいが疑われたとき、「どの通信経路から侵入され、何が外部へ送られたのか」を後から確かめるには、ネットワークを流れた通信の記録が必要になります。端末に残るログだけでは、拠点間の横移動(侵入後に社内のほかの機器へ広がる動き)や外部への送信といった通信レベルの動きまでは追い切れないためです。
この「通信を記録してさかのぼって調べる」仕組みがネットワークフォレンジックです。ただ、検索すると出てくる「サービス」は、自社に常設して通信を記録し続ける製品と、インシデントが起きてから調査を頼む代行サービスの2種類が混在していて、どちらを選べばよいか分かりにくいのが実情です。
本記事では、ネットワークフォレンジックの基本をおさえたうえで、この2つのアプローチの違い、通信を記録してさかのぼれる実在の製品、そして製品・委託先を選ぶときの確認ポイントを整理します。自社に合う手段を見極める材料としてご活用ください。
目次
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ネットワークフォレンジックとは
ネットワークフォレンジックとは、ネットワークを流れる通信(パケットや通信ログ)を記録・保存しておき、インシデントが起きた後にさかのぼって、原因・侵入経路・影響範囲を調べる手法です。平時から通信を記録しておくことで、「いつ・どの端末が・どの経路で・何を送受信したか」を事後にたどれる状態をつくります。
フォレンジックという言葉自体は、電子的な記録を証拠として保全し、調査・分析する一連の手法を指します。特定非営利活動法人デジタル・フォレンジック研究会は、デジタル・フォレンジックを次のように定義しています。
インシデントレスポンスや法的紛争・訴訟に際し、電磁的記録の証拠保全及び調査・分析を行うとともに、電磁的記録の改ざん・毀損等についての分析・情報収集等を行う一連の科学的調査手法・技術を言います。
出典:デジタル・フォレンジックとは|特定非営利活動法人デジタル・フォレンジック研究会
このデジタル・フォレンジックのうち、調べる対象をネットワーク上の通信に置いたものがネットワークフォレンジックです。米国国立標準技術研究所(NIST)も、ネットワーク上の通信データから、攻撃や不正な利用を再構成して分析できると説明しています。
端末(PC)内に残った痕跡を調べるコンピューターフォレンジックと対になる位置づけで、通信経路に現れる動きを扱う点が特徴です。
実際の場面としては、外部からの不正アクセスで情報が持ち出された疑いがあるとき、どの通信が外部のどこへ向かったかを保存済みの通信から確認する、といった使い方になります。内部不正でも、業務時間外に社内から外部ストレージへ大量の通信が発生していないかを事後にたどる、といった形で役立ちます。いずれも「通信が記録されていること」が前提になる点が、ネットワークフォレンジックの出発点です。
出典・参考資料(2件)
2つのアプローチ:自社で常時記録する製品か、インシデント時に委託する調査か
「ネットワークフォレンジック サービス」で見つかる選択肢は、大きく2つのアプローチに分かれます。自社のネットワークに機器を常設して通信を記録し続ける製品を導入する方法と、インシデントが起きてから専門の調査会社に調べてもらう委託調査です。
検索結果に製品ページと調査サービスの比較が入り混じって見えるのは、この2つが同じ「サービス」という言葉でくくられているためです。まず、どちらが自社の目的に合うかを切り分けておくと、以降の比較がぶれません。

自社で常時記録する製品は、ネットワークの通信を常にキャプチャ・保存しておく仕組みです。代表的なのが、通信を記録してさかのぼり調査できるNDR(ネットワーク検知・対応)やフルパケットキャプチャと呼ばれる製品で、ミラーリングなどで通信を取り込み、検知と事後調査の両方に使えます。
平時から記録が残るため、インシデントの発生に気づいた時点ですぐにさかのぼれる点が強みです。一方で、機器の導入・運用が前提になり、どこまでの期間・容量を保存できるかは構成次第になります。
インシデント時に委託する調査は、不正アクセスや情報漏えいが疑われた後に、フォレンジック調査を専門とする会社へスポットで依頼する方法です。自社に常設の仕組みがなくても利用でき、証拠保全から報告まで専門家が担います。
ただし、ネットワーク側は後から通信をさかのぼるために事前の記録が必要なため、常時記録を取っていない場合は、調べられる範囲が残っているログやファイアウォール等の記録に限られることがあります。費用は案件ごとの見積もりで、対象の台数・データ量・調査の深さによって幅があります。
両者は排他ではなく、平時は製品で通信を記録しておき、重大なインシデント時には委託調査を併用する、という組み合わせも一般的です。
製品と委託では、次の3つの観点で向き・不向きが分かれます。自社がどちらを軸にするかを決める材料にしてください。
- 費用構造:製品は導入・運用の継続費用、委託は案件ごとのスポット費用
- 対応の速さ:製品は記録があればすぐ着手、委託は依頼から着手まで時間を要する
- 運用負荷:製品は自社で運用するかマネージドに任せるか、委託は都度依頼
本記事では、このうち「自社で常時記録する製品」を中心に、実在する選択肢を次章で見ていきます。
一方、インシデント発生後に調査を委託する方向で検討する場合は、調査会社の選び方や、費用・対応範囲・証拠能力の見方を押さえておくと委託先を見極めやすくなります。以下の記事で、デジタルフォレンジックの調査会社をこれらの観点から比較・整理しているので、委託を軸に考える方はあわせてご覧ください。
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通信を記録してさかのぼれる製品(NDR/フルパケットキャプチャ)
ここからは、自社のネットワークに常設して通信を記録し、インシデント後にさかのぼって調査できる実在の製品を紹介します。いずれも通信を取り込んで保存し、必要なときに検索・分析できるNDR(ネットワーク検知・対応)の系統に位置づけられる製品です。
記録のとり方には、全パケットを保存する方式(Network Blackbox)と、証跡ログに選択的なパケット保存を組み合わせる方式(Corelight)があります。以下ではこの2つを代表例として、自社のネットワーク規模やさかのぼりたい範囲に合わせて見比べられるように紹介します。
以下はご紹介する製品の比較表です。
| サービス名 | Network Blackbox | Corelight Open NDR Platform |
|---|---|---|
| 記録のとり方・範囲 | フルパケットキャプチャ(通信そのもののパケットを保存) ミラーリング方式で取り込み | Zeekによる通信メタデータ+Smart PCAPで必要なパケットを選択保存 |
| 保存(期間・容量) | 搭載ストレージの構成に依存 (保存期間・容量の公式値は非公開) | Smart PCAPで必要なパケットを長期間(数ヶ月単位)保管 |
| 証拠保全(パケット再構築・証跡) | パケット再構築(DCS)と高速パケット検索(PSA)に対応 ※ハッシュ等による証拠能力の保証は公式に記載なし | Smart PCAPでパケットの証跡を長期保管 ※ハッシュ等による証拠能力の保証は公式に記載なし |
| 提供形態 | 要問い合わせ | 物理アプライアンス/仮想/クラウド/ソフトウェアセンサー(エージェントレス) |
| 外部連携 | EDR・SIEM(Syslog/REST API) | SIEM・XDR(Splunk/Microsoft/CrowdStrike/Elastic 等) |
| 費用 | 要問い合わせ(公式非公開) | 要問い合わせ(公式非公開) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | サービス詳細を見る |
1. Network Blackbox(株式会社クワッドマイナージャパン)

Network Blackboxは、ネットワークを流れる通信をフルパケットキャプチャで取り込み、脅威の検知から事後調査までを担うNDRプラットフォームです。公式では、ネットワーク全区間のフルパケット原本を収集・保存することを基盤に、収集・検知・ハンティング・フォレンジック・対応の5つの機能を備えるとしています。
ネットワークフォレンジックの観点で中心になるのが、保存した通信をさかのぼって調べるフォレンジック機能です。
公式は、高速なパケット検索を実現する「パケット検索アクセラレーション(PSA:Packet Search Acceleration)」技術と、メール・ソーシャルメディア・ファイルアップロードといったユーザーの活動を分類・管理する「Deep Content Search(DCS)」技術を挙げています。
通信そのもの(パケット)を保存するため、イベントログだけでは追えない通信の宛先や時系列、やり取りされたファイルまで、記録から再構成して確認できる設計です。
導入はミラーリング方式で、監視対象の通信を複製して取り込むため、ネットワーク本体の通信に影響を与えにくい構成です。EDR(端末側で脅威を検知・対応する製品)やSIEM(各種ログを集約・分析する仕組み)とも、Syslog・REST API経由で連携できます。
保存できる容量・期間は搭載するストレージ構成に依存するため、どこまでさかのぼれるかは導入時の構成で決まります。料金は要お問い合わせで、デモの申し込み窓口が公式に用意されています。
2. Corelight Open NDR Platform(Corelight, Inc.)

オープンソースのネットワーク監視基盤Zeek(旧Bro)を開発したチームが立ち上げたのが、Corelight Open NDR Platformを提供するCorelight, Inc.です。証跡(エビデンス)を重視したNDRプラットフォームで、通信の記録を幅広く残して後から調べる用途に向きます。
公式は自社製品を「Evidence-first, open-core NDR」と表現し、通信の豊富なメタデータを生成するZeekによるネットワークセキュリティ監視と、侵入検知を担うSuricataを組み合わせています。
さかのぼり調査の面で特徴的なのが、Smart PCAPと呼ばれる機能です。全通信を無制限に保存するのではなく、調査に必要なパケットを選んでキャプチャし、長期間(数ヶ月単位)の履歴として残す設計で、証拠として深く調べるための記録を効率よく保管します。Zeekが生成する通信のメタデータ(通信記録のログ)と、Smart PCAPによるパケットの証跡を組み合わせて、事後の調査に使います。
センサーはTAP・SPAN・パケットブローカー経由で帯域外に接続するエージェントレス方式で、物理アプライアンス・仮想・クラウドの各形態が提供されています。SplunkやMicrosoft、CrowdStrike、Elasticといった外部のSIEM・XDRへデータを連携する前提で設計されている点も、既存のセキュリティ基盤に組み込みやすい特徴です。料金は公式非公開で、要お問い合わせとなります。
ここで取り上げた製品は、通信を記録・検知してさかのぼり調査できるNDR(ネットワーク検知・対応)に分類されます。NDRにはこのほかにも多くの製品があり、検知方式・国内サポート体制・費用には違いがあります。通信を記録してさかのぼれる製品をより幅広く見比べたい場合は、以下の比較記事もあわせてご覧ください。
製品・委託先を選ぶときの確認ポイントと注意点
通信を記録してさかのぼれる製品を選ぶとき、また委託調査を検討するときに、事前に確認しておきたい観点を整理します。カタログスペックの機能数より、「自社がさかのぼりたい範囲を、必要なときに確実にたどれるか」という視点で見比べると、導入後のミスマッチを避けやすくなります。
以降は、主に自社で常時記録する製品を選ぶ際のポイントを扱います。インシデント時の委託調査を選ぶ場合は、証拠として通用する形で保全・報告できるか(証拠能力)、相談から着手までの初動の速さ、自社と似た規模・業種での調査実績、費用体系の透明性といった観点が中心になります。委託先の具体的な比較は、さきほど紹介した調査会社の比較記事が参考になります。
記録の保存期間・容量はどれくらいか
ネットワークフォレンジックは「記録が残っている範囲しかさかのぼれない」ため、どれくらいの期間・容量の通信を保存できるかが要になります。インシデントは発覚までに時間がかかることも多く、その時点で該当期間の通信が残っていなければ調査できません。
全パケットを保存する方式は記録が濃い一方でストレージ容量を多く消費し、保存期間は搭載容量に左右されます。必要な保存期間と、それを満たすストレージ構成・費用を、導入前に見積もっておくことが大切です。
暗号化通信(SSL/TLS)の中身をどこまで確認できるか
現在の通信の多くはSSL/TLSで暗号化されており、通信を記録しても中身(ペイロード)はそのままでは読めません。暗号化された通信は、宛先・通信量・タイミングといったメタデータから不審な挙動を把握するのが基本で、中身まで確認するには復号のための別の仕組みが必要になります。
製品によって、メタデータでの分析を主とするもの、復号を前提とする構成を用意するものなど扱いが異なります。自社が「通信の中身まで見たいのか」「挙動の可視化で十分か」を整理し、各製品の対応範囲を公式情報で確認しておくとよいでしょう。
証拠として保全できるか(ハッシュ・タイムスタンプ)
調査結果を社内処分や訴訟の裏づけに使う可能性があるなら、記録したデータが改ざんされていないことを示せる形で保全できるかを確認しておきましょう。デジタル・フォレンジック研究会の証拠保全ガイドラインは、保全したデータの同一性を次のように検証するとしています。
対象物(複製元)および複製先のハッシュ値を計算し、これらを照合して同一性を検証する。ハッシュ値を用いずに、バイナリコンペア等により同一性を担保してもよい。
出典:証拠保全ガイドライン 第10版(6章 同一性検証)|特定非営利活動法人デジタル・フォレンジック研究会
あわせて重要になるのが、記録の時刻です。通信ログを証拠としてたどるには、記録されたタイムスタンプと実際の時刻がずれていないかを把握しておく必要があります。同ガイドラインのネットワークログに関する章でも、次のように示されています。
ネットワークログに自動的に記録されているタイムスタンプの状態を把握するため、調査で用いる基準時と、データ抽出作業時点での抽出対象システムの時間との誤差を確認する必要がある。
出典:証拠保全ガイドライン 第10版(7-6 ネットワークログからの証拠データ抽出)|特定非営利活動法人デジタル・フォレンジック研究会
製品側でハッシュ値による検証やパケットの再構築に対応しているか、委託調査なら証拠能力を意識した手順で保全・報告してもらえるかを、事前に確認しておくと安心です。
費用体系と運用形態(初期・運用費用/自社運用かマネージドか)
製品を導入すると決めた場合は、費用の内訳と運用の負担を確認します。費用は機器・ライセンスの導入費用に加え、保存容量を確保するストレージや運用の継続費用がかかり、ネットワークの規模や保存する期間・容量が大きいほど増える傾向があります。
製品の多くは料金を個別見積もりとしているため、桁感をつかむには、自社のネットワーク規模・保存期間の要件を伝えたうえで見積もりを取って比較するとよいでしょう。
あわせて、同じ製品でも「自社の担当者が運用・調査まで行う」のか、「監視・運用を外部のマネージドサービスに任せる」のかで、必要な人員と運用負荷が変わります。専任のセキュリティ担当が置きづらい組織では、運用を委託できる体制があるかも選定の分かれ目になります。
最後に、調査結果を法的な場面で使うことを見据える場合の注意点です。適正な手順で保全・調査したデータであっても、それが裁判で必ず証拠として採用されるとは限りません。証拠保全ガイドライン自身も、次のように明記しています。
記述されている手続き等により収集・取得・保全等された電磁的記録が裁判等において証拠として必ず採用されることを保証するものではないことに留意していただく必要がある。
出典:証拠保全ガイドライン 第10版(1-5 留意事項)|特定非営利活動法人デジタル・フォレンジック研究会
手順を踏むことは、証拠として認められやすい状態を保つための前提であり、最終的な判断は個別の事案に委ねられます。通信データには個人情報や通信の秘密に関わる内容が含まれ得るため、記録・調査の運用は社内規程や関係法令に沿って行う点にも留意してください。
出典・参考資料(1件)
ネットワークフォレンジックの仕組みと手法
ここからは、ネットワークフォレンジックが実際に何を記録し、どう調べるのかを手法別に整理します。大きくは、通信そのものを保存するパケットキャプチャ、通信の記録を集約して分析する通信ログ・フロー分析、通信の傾向から異常を見つけるトラフィック分析の3つがあり、製品はこれらを組み合わせて成り立っています。

パケットキャプチャ(フルパケットキャプチャ)
パケットキャプチャは、ネットワークを流れるパケット(通信の最小単位)をそのまま取り込んで保存する手法です。宛先や通信量といった情報だけでなく、やり取りされた内容まで記録できるため、事後にファイルの送受信や通信の中身を再構成して調べられます。
パケットの保存の仕方には、流れる通信をすべて保存するフルパケットキャプチャと、必要なパケットだけを選んで保存する方式があります。前者は後からの調査で見られる情報が多く、後者は長期間の保管に向くといった違いがあり、先に紹介したNetwork Blackbox・Corelightはそれぞれの代表例です。
通信ログ・フロー分析
通信ログ・フロー分析は、ファイアウォールやルーター、プロキシなどが残す通信の記録(いつ・どこへ・どれだけ通信したか)を集約して分析する手法です。パケットそのものより軽量で長期間ためやすく、「どの端末が外部のどこへ通信していたか」といった通信の流れを俯瞰するのに向いています。中身までは分からないものの、不審な宛先への通信や普段と異なる通信量の変化を見つける手がかりになります。
トラフィック分析
トラフィック分析は、記録した通信の傾向やパターンから、通常と異なる挙動を見つける手法です。普段は発生しない時間帯・経路の通信、外部への大量のデータ送信、既知の攻撃パターンに合致する通信などを検知の手がかりにします。近年のNDR製品は、既知の攻撃パターン(シグネチャ)の照合に加え、通信の振る舞いの分析を組み合わせて、侵入後に内部で広がる動き(横移動)などをとらえようとします。
一般ツールと記録専用の製品(NDR/フルパケットキャプチャ)の役割の違い
ネットワークフォレンジックの文脈では、Wiresharkやtcpdumpといったパケットキャプチャのツール、Zeek・Suricataといったオープンソースの監視・検知エンジンがよく登場します。これらは通信を取得・分析するための優れたツールですが、単体では「どの範囲の通信を・どれだけの期間・安定して記録し続けるか」までは担いません。
手元で特定の通信を調べる用途には向く一方、組織全体の通信を常時・網羅的に保存し、必要なときに高速に検索してさかのぼる、という運用には、記録と検索に特化した製品(NDR/フルパケットキャプチャ)が使われます。
一般ツールは「調べる道具」、記録専用の製品は「組織の通信を記録し続け、後からさかのぼれる基盤」という役割分担だと整理できます。自社で常時記録する仕組みをつくるなら、前章で紹介したような製品が選択肢になります。
端末フォレンジック(コンピューターフォレンジック)との違い
フォレンジックには、ネットワークを調べるもののほかに、パソコンやサーバーといった端末内のデータを調べるコンピューターフォレンジック(端末フォレンジック)があります。両者は調べる対象が異なり、得意なことも違うため、インシデントの性質に応じて使い分け、あるいは併用します。
最も大きな違いは、記録のタイミングです。端末側は、インシデントの発覚後でも、電源が入っているうちにメモリ上のデータ(揮発性情報)を取得したり、ディスクを複製したりして、その時点の状態から多くの痕跡を集められます。NISTのガイドでも、揮発性データは電源を切ると失われるため、多くの場合、不揮発性のデータより優先して取得すべきとされています。
一方、ネットワーク上を流れた通信は、記録しておかなければその場で消えていきます。インシデントが起きてから「あの通信を見たい」と思っても、事前に記録する仕組みがなければさかのぼれません。この「事前に記録を仕掛けておく必要がある」という制約が、ネットワークフォレンジックの特徴です。下表に、両者の違いを整理します。
| 観点 | 調べる対象 | 記録のタイミング | 主にわかること | 限界 |
|---|---|---|---|---|
| ネットワークフォレンジック | ネットワークを流れる通信(パケット・通信ログ) | 事前に記録を仕掛けておく必要がある(記録がないとさかのぼれない) | 侵入経路・外部との通信・拠点間の横移動・データの外部送信 | 記録していない期間・経路は追えない/暗号化通信は中身が見えにくい |
| 端末フォレンジック(コンピューター) | PC・サーバー内のファイル・操作ログ・メモリ | 発覚後でも、端末を保全して多くの痕跡を取得できる | 端末内の操作履歴・ファイルの持ち出し・マルウェアの痕跡 | 通信経路上の動きや、その端末を経由しない通信は追えない |
このほかにも、稼働中の端末のメモリを調べるメモリフォレンジック、スマートフォンを対象とするモバイルフォレンジック、クラウド上のデータを扱うクラウドフォレンジックなど、調べる対象ごとに種類があります。実際のインシデント対応では、端末と通信の双方を組み合わせて全体像を明らかにするのが一般的です。
まとめ
ネットワークフォレンジックは、ネットワークを流れる通信を記録・保存しておき、インシデント後にさかのぼって原因・経路・影響範囲を調べる手法です。それを実現する「サービス」には、自社に常設して通信を記録し続ける製品(NDR/フルパケットキャプチャ)と、インシデント時に調べてもらう委託調査の2つがあり、費用構造・対応の速さ・運用負荷で向き・不向きが分かれます。
自社で常時記録する方向であれば、記録の保存期間・容量、暗号化通信の扱い、ハッシュやタイムスタンプによる証拠保全、費用体系と運用形態を確認しながら、Network BlackboxやCorelightのような通信を記録してさかのぼれる製品を比較するとよいでしょう。
端末側のフォレンジックとは記録のタイミングや対象が異なるため、必要に応じて組み合わせることで、インシデントの全体像をたどれる体制に近づきます。
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よくある質問(FAQ)
Q. ネットワークフォレンジックとは何ですか?
A. ネットワークフォレンジックとは、ネットワークを流れる通信(パケットや通信ログ)を記録・保存しておき、インシデント発生後にさかのぼって原因・侵入経路・影響範囲を調べる手法です。
端末内に残った痕跡を調べるコンピューターフォレンジックと対になる位置づけで、外部への送信や拠点間の横移動といった通信経路に現れる動きを扱う点が特徴です。平時から通信を記録しておくことが前提になります。
Q. ネットワークフォレンジックと端末(コンピューター)フォレンジックの違いは何ですか?
A. ネットワークフォレンジックと端末フォレンジックの違いは、調べる対象と記録のタイミングにあります。ネットワーク側は通信を事前に記録しておかないと後からさかのぼれないのに対し、端末側はインシデント発覚後でも端末を保全して多くの痕跡を取得できます。
ネットワーク側は侵入経路・外部との通信・横移動を、端末側は端末内の操作履歴やマルウェアの痕跡を調べるのに向いています。実際のインシデント対応では、双方を組み合わせて全体像を明らかにするのが一般的です。
Q. ネットワークフォレンジックは製品を自社に導入するのと、調査を外部に委託するのとどちらがよいですか?
A. ネットワークフォレンジックを実現する手段は、自社に機器を常設して通信を記録し続ける製品と、インシデント発生後に専門会社へ調査を委託するサービスの2つに分かれ、費用構造・対応の速さ・運用負荷で向き・不向きが決まります。
平時から記録を残しておきたい・発生時にすぐ着手したい場合は製品、自社に常設の仕組みがなくスポットで専門家に任せたい場合は委託が向きます。ただし委託でも、事前に通信を記録していなければ調べられる範囲は残っているログやファイアウォール等の記録に限られます。平時は製品で記録しておき、重大なインシデント時に委託を併用する組み合わせも一般的です。
Q. ネットワークフォレンジックでは通信の記録をどれくらいさかのぼれますか?
A. ネットワークフォレンジックでさかのぼれる範囲は、記録が残っている期間に限られ、保存できる期間・容量は製品のストレージ構成次第で決まります。
インシデントは発覚までに時間がかかることも多く、その時点で該当期間の通信が残っていなければ調査できません。全パケットを保存する方式は記録が濃い一方でストレージ容量を多く消費するため、必要な保存期間と、それを満たすストレージ構成・費用を導入前に見積もっておくことが大切です。
Q. ネットワークフォレンジックで暗号化通信(SSL/TLS)の中身は調べられますか?
A. 暗号化された通信は、記録しても中身(ペイロード)はそのままでは読めず、中身まで確認するには復号のための別の仕組みが必要です。
暗号化された通信は、宛先・通信量・タイミングといったメタデータから不審な挙動を把握するのが基本になります。製品によって、メタデータでの分析を主とするもの、復号を前提とする構成を用意するものなど扱いが異なるため、自社が「通信の中身まで見たいのか」「挙動の可視化で十分か」を整理し、各製品の対応範囲を公式情報で確認しておくとよいでしょう。
Q. ネットワークフォレンジックの記録は裁判の証拠として使えますか?
A. 適正な手順で保全・調査した記録であっても、裁判で必ず証拠として採用されるとは限りません。手順を踏むことは証拠として認められやすい状態を保つための前提であり、最終的な判断は個別の事案に委ねられます。
記録したデータの同一性をハッシュ値で検証できるか、記録のタイムスタンプと実際の時刻のずれを把握できるかなど、証拠能力を意識した保全ができるかを事前に確認しておくと安心です。通信データには個人情報や通信の秘密に関わる内容が含まれ得るため、記録・調査の運用は社内規程や関係法令に沿って行う点にも留意してください。
出典・参考資料(1件)
Q. ネットワークフォレンジックの導入にはどんな準備が必要ですか?
A. 自社で常時記録する製品を導入する場合は、監視対象の通信を機器へ取り込む構成(ミラーリングやTAP/SPAN接続)と、記録を保存するストレージの確保が必要です。
ミラーリング方式は通信を複製して取り込むため、ネットワーク本体の通信に影響を与えにくい構成です。あわせて、必要な保存期間を満たすストレージ容量、自社で運用・調査するか監視を外部のマネージドサービスに任せるかの体制、EDRやSIEMなど既存のセキュリティ製品との連携を事前に整理しておくと、導入後のミスマッチを避けやすくなります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。
















