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MFA疲労攻撃とは?仕組み・事例と、効く対策の優先順位をわかりやすく解説

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多要素認証(MFA)システム比較表(2026年版)のプレビュー

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多要素認証(MFA)システム比較表(2026年版)

多要素認証(MFA)を導入したのに、その承認操作そのものを逆手に取る「MFA疲労攻撃」で突破される事例が相次いでいます。スマートフォンに届くプッシュ通知の「承認」をひたすら押させる手口で、2022年にはUberやCiscoが実際に被害を受けました。

本記事では、この攻撃が何で、どういう手順で成立し、なぜMFAを入れていても破られるのかを整理します。そのうえで、大量通知が届いたときの初動、防御策ごとの効きめの違い、今日から打てる対策の優先順位までを解説します。

読み終えるころには、自社のプッシュ承認型MFAが疲労攻撃に耐えられるのか、何をどの順で手当てすればよいかを判断できるようになります。対策の要否を見極める材料として活用してください。

いま実際に大量の承認通知が届いている方は、その通知を絶対に承認せず、拒否したうえでパスワードを変更し、情報システム部門へ報告してください。詳しい手順は「受けたときの兆候と初動」で解説します。

MFA疲労攻撃とは?

MFA疲労攻撃とは、すでにIDとパスワードを盗み取った攻撃者が、標的のスマートフォンに多要素認証の承認を求めるプッシュ通知を大量に送りつける攻撃です。うんざりした利用者や誤操作した利用者が「承認」を押してしまうと、侵入が成立します。パスワードという1つ目の要素が破られた後、2つ目の要素であるはずのMFAを、利用者自身の承認操作によってすり抜けるわけです。

米国のサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)は、この攻撃を次のように定義しています。公的機関が使う正式な別名は「push bombing(プッシュ・ボミング)」です。

MFA fatigue, also known as “push bombing,” occurs when a cyber threat actor bombards a user with mobile application push notifications until the user either approves the request by accident or out of annoyance with the nonstop notifications.

出典:Implementing Number Matching in MFA Applications(ファクトシート)|CISA(米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)

日本語圏やセキュリティ製品ベンダーの記事では「MFA Bombing」「prompt bombing」「多要素認証疲労攻撃」といった呼び方も使われますが、いずれも同じ攻撃を指します。英語圏の一般的な呼称は「MFA fatigue」です。

この攻撃は、思いつきの手口ではなく、攻撃手法のフレームワークであるMITRE ATT&CKに独立した技法として登録されています。技法ID「T1621」、名称は「Multi-Factor Authentication Request Generation(多要素認証リクエストの生成)」で、公的に追跡されている実在の攻撃手法として位置づけられています。

出典・参考資料(2件)

MFA疲労攻撃の仕組み(攻撃の4手順)

ここからは、MFA疲労攻撃がどのように成立するのかを4つの手順で見ていきます。CISAやMITRE ATT&CKの整理をふまえた、攻撃の典型的な流れです。

MFA疲労攻撃が成立する4つの手順を示す図。STEP1 認証情報の窃取(ID・パスワードを盗む)、STEP2 通知を大量送信(ログインを繰り返し承認要求のプッシュ通知を連打)、STEP3 攻撃の核心・根負けや誤操作で承認(反射的に承認を1回押してしまう)、STEP4 不正アクセス(正規利用者になりすまして侵入)へと矢印でつながる流れ。

手順(1):IDとパスワードを盗み取る

攻撃の起点は、標的アカウントのIDとパスワードの窃取です。フィッシング、過去の情報漏えいで流出した認証情報の使い回し、ダークウェブでの購入など、経路はさまざまです。MFA疲労攻撃は「パスワードはすでに漏れている」という前提から始まる点が特徴で、MITRE ATT&CKでもこの攻撃は認証情報を入手した後の段階として整理されています。

手順(2):承認を求めるプッシュ通知を大量に送りつける

攻撃者は盗んだパスワードでログインを何度も試みます。プッシュ承認型のMFAでは、そのたびに正規利用者のスマートフォンへ「ログインを承認しますか?」という通知が届きます。攻撃者はこれを短時間に何十回、何百回と繰り返し、通知を鳴り止まない状態にします。深夜など、利用者の注意力が落ちる時間帯を狙うこともあります。

手順(3):根負けや誤操作で「承認」を押させる

攻撃の核心はこの段階です。鳴り続ける通知にうんざりした利用者が「止めたい一心で」承認を押す、あるいは通知の内容を確認せず反射的に押してしまう——この1回の承認で突破が成立します。攻撃者が「情報システム部門を名乗って承認を促す」といった電話やメッセージ(ソーシャルエンジニアリング)を併用すると、承認の心理的ハードルはさらに下がります。

手順(4):正規利用者になりすまして不正アクセスする

承認が1回通れば、攻撃者は正規利用者としてシステムへログインします。以降は社内システムへの侵入、情報の持ち出し、さらなる権限の奪取へと被害が広がります。1回の承認が突破口になるため、「1度でも押させれば成功」という攻撃者側に有利な非対称性が、この手口の厄介さです。

なぜMFAを導入していても突破されるのか

「多要素認証を入れているのに、なぜ破られるのか」——これがMFA疲労攻撃の最大の不安点です。原因は、プッシュ承認という方式そのものに含まれる弱点にあります。

プッシュ承認型のMFAは、利用者に「承認」か「拒否」かの2択を求めるだけの仕組みです。ボタンを1つ押せば完了するため判断の負荷が低く、通知が本当に自分のログインによるものかを確認しないまま押しやすい設計になっています。攻撃者はこの考えずに押せてしまう性質を突いて、大量の通知で正常な判断を麻痺させます。利便性を優先した2択の手軽さが、そのまま攻撃の入り口になっているわけです。

さらに、前掲の手順(3)で触れたように、攻撃者が正規の担当者を装って承認を促すソーシャルエンジニアリングを重ねると、利用者は「情報システム部門の指示だから」と信じて押してしまいます。技術的な仕組みの弱点と、人間の心理を突く手口が組み合わさる点が、MFAを導入していても突破される理由です。

MFA疲労攻撃の実際の被害事例

MFA疲労攻撃は理論上の脅威ではなく、大企業が現実に突破された事例があります。代表的なのが2022年のUberとCiscoです。

Uber(2022年9月)

配車サービスのUberは、2022年9月のインシデントについて、攻撃者が業務委託先のアカウントに繰り返しログインを試み、届いた2要素認証の承認要求を最終的に1回承認させて侵入した経緯を公式に説明しています。攻撃主体としてハッキンググループ「Lapsus$」への関与にも言及しています。

The attacker then repeatedly tried to log in to the contractor’s Uber account. Each time, the contractor received a two-factor login approval request, which initially blocked access. Eventually, however, the contractor accepted one, and the attacker successfully logged in.

出典:Security Update|Uber(公式ニュースルーム)

Cisco(2022年5月に認識)

ネットワーク機器大手のCiscoも、同社の脅威インテリジェンス部門Talosが2022年5月24日に把握したインシデントで、攻撃者が信頼できる組織を装う音声フィッシングと、大量のMFAプッシュ通知を組み合わせて承認を迫った手口を報告しています。

Talosは攻撃主体について、Lapsus$やUNC2447、Yanluowangランサムウェアとの関連に言及しています。承認を求める通知の連打だけでなく、電話による揺さぶりが併用された点が特徴です。

出典・参考資料(2件)

MFA疲労攻撃を受けたときの兆候と初動

ここからは、自社が今まさに狙われているかもしれないときの兆候と、受けたときの初動を整理します。これは公的機関が1本の手順書として定めたものではなく、CISAやMicrosoftの推奨事項をもとにしたベストプラクティスの整理です。

狙われているときの兆候

最も分かりやすい兆候は、自分でログインしていないのに、承認を求めるプッシュ通知が短時間に何度も届くことです。特に深夜や休日など、自分が操作していない時間帯に通知が連続する場合は、パスワードがすでに漏れていて攻撃を受けている可能性が高いと考えられます。

受けたときにまず取るべき行動

身に覚えのない承認要求は、絶対に承認しないことが第一です。「止めたいから1回だけ」という承認が突破口になるため、通知が続いても拒否のまま放置します。そのうえで、次の対応が有効です。

  • 攻撃の前提はパスワード漏えいのため、速やかにパスワードを変更する
  • 情報システム部門・管理者へ報告する(Microsoft Entra IDには、利用者が不審な通知を報告できる「不審なアクティビティを報告」機能があり、管理者側で検知に活用できる)
  • 管理者は該当アカウントのセッションを失効させ、条件付きアクセスの見直しなど再発防止に着手する

大量の通知は「攻撃が進行中」というサインでもあります。慌てて承認せず、拒否と報告を徹底することが、被害を未然に防ぐうえで重要です。

MFA疲労攻撃への防御策と効きめの違い

MFA疲労攻撃の対策は「従業員教育を徹底しましょう」で終わらせては不十分です。防御策には、攻撃を受けにくくする緩和策と、承認操作そのものを排除して攻撃を成り立たなくする根本対策があり、効きめが大きく異なります。まず、主要な認証方式が疲労攻撃・フィッシングにどれだけ耐えられるかを一覧で整理します。

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認証方式プッシュ承認(承認/拒否の2択)ワンタイムパスワード(OTP・TOTP)数値マッチング(Number Matching)条件付き(リスクベース)アクセスパスキー・FIDO2
疲労攻撃への耐性低い(攻撃の標的そのもの)中(プッシュ連打は受けない)高い(無思考の承認を止める)中〜高(不審な文脈を遮断)高い(承認操作を排除)
フィッシングへの耐性低い低い(偽サイトで入力させれば盗める)低い(ほぼなし)中高い(公開鍵暗号でサイトに紐づく)
位置づけ従来方式。疲労攻撃に弱く、対策の見直し対象プッシュ通知を使わない代替。疲労攻撃は避けられるがフィッシングには弱い緩和策。プッシュ承認を残したまま導入できる(Entra IDは既定で有効)併用の補強。IP・デバイス・リスクで追加検証や遮断を行う根本対策。プッシュ承認そのものをなくす

※上記は各方式の一般的な耐性の傾向です。実際の挙動や設定可否は利用する製品・プランにより異なるため、各社情報をご確認ください。

CISAは、プッシュ通知型MFAを使う組織がフィッシング耐性のあるMFAをすぐに導入できない場合の緩和策として数値マッチングを推奨する一方、それはフィッシング耐性のあるMFAほど強くない「暫定的な緩和策」だと明言しています。緩和策と根本対策では効きめが大きく違うことを、公的機関がはっきり示している点が重要です。

Although number matching is not as strong as phishing-resistant MFA, it is one of best interim mitigation for organizations who may not immediately be able to implement phishing-resistant MFA.

出典:CISA Releases Guidance on Phishing-Resistant and Numbers Matching Multifactor Authentication|CISA

数値マッチング(Number Matching)を有効にする

数値マッチングは、プッシュ通知を「承認/拒否の2択」から「画面に表示された数字を認証アプリに入力する」方式に変える緩和策です。利用者は自分がログイン画面に出ている数字を入力しないと承認できないため、通知を反射的に押すだけでは突破されません。無思考の承認を止める、費用をかけずに効く対策です。

Microsoft Entra ID(旧Azure AD)とMicrosoft Authenticatorの組み合わせでは、この数値マッチングが2023年5月以降、全利用者を対象に既定で有効化されており、利用者側でオフにすることはできません。

自社がMicrosoft 365やEntra IDを使っている場合、この対策はすでに効いている可能性が高いといえます。ただし念のため、自社の設定状況を管理センターで確認しておくと安心です。

Microsoft以外の認証基盤でも、Okta の「Number Challenge」や Cisco Duo の「Verified Duo Push」のように、画面に表示された数字を突き合わせる数値マッチング相当の機能が用意されています。

Entra ID以外の基盤を使っている場合は、数値マッチング(番号照合)を有効にできるか、承認をタップするだけで通る設定のままになっていないかを管理画面で確認してください。

なお Google プロンプトの数値照合は、管理者が常時オンにする設定ではなく、不審なサインインを検知した際に自動で適用される仕組みです。

出典・参考資料(2件)

パスキー/FIDO2へ移行する(根本対策)

疲労攻撃を根本からなくす対策が、パスキー(FIDO2)への移行です。パスキーは公開鍵暗号を使い、端末側で生体認証やPINを確認したうえで、その端末の秘密鍵でログインを完結させます。「承認を押す」という操作そのものが存在しないため、通知を連打しても押させる余地がありません。

パスキー/FIDO2は、疲労攻撃だけでなくフィッシングにも強いことが特長です。FIDO Allianceは、FIDOの規格が公開鍵暗号によってフィッシング耐性のある認証を実現すると説明しています。認証情報が正規のサイトに暗号的に紐づくため、偽サイトに誘導されても認証が成立しません。CISAも、すべての組織にフィッシング耐性のあるMFAの導入を強く推奨しています。

FIDO standards use standard public key cryptography techniques to provide phishing-resistant authentication.

出典:Passkeys|FIDO Alliance
出典・参考資料(2件)

条件付き(リスクベース)アクセスで攻撃の文脈を遮断する

条件付きアクセス(リスクベース認証)は、ログインのIPアドレス・デバイス・場所・時間帯やリスクの度合いに応じて、追加の検証を求めたりアクセス自体を遮断したりする仕組みです。管理下にない端末や、普段と違う海外からのログインなど、攻撃に典型的な文脈をブロックすることで、疲労攻撃が成立する前段を断てます。数値マッチングやパスキーと組み合わせる補強策として有効です。

リスクベース認証が普段の多要素認証と何が違い、どんな手段で導入できるのかは、次の記事で仕組みから整理しています。条件付きアクセスの導入を具体的に検討する際の参考にしてください。

ログインの試行回数を制限する

短時間に大量のログイン試行やMFA通知が発生した場合に、回数を制限してそれ以上の通知を止める設定も有効です。通知を鳴り止まない状態にする攻撃の前提を崩し、利用者が判断を麻痺させられる状況そのものを起こりにくくします。

利用者への周知と報告フローを整える

技術的対策と併せて、利用者への周知も欠かせません。ただし「気をつけましょう」で終わらせず、前掲の初動と接続させます。具体的には、身に覚えのない承認要求は絶対に押さないこと、大量の通知が来たら承認せずに情報システム部門へ報告することを、明確なルールとして共有します。教育を単独の対策として過信せず、数値マッチングやパスキーといった技術的な守りの上乗せとして位置づけるのが現実的です。

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今日から打てる対策の優先順位(ロードマップ)

防御策は複数ありますが、効きめと導入のしやすさから優先順位をつけると、着手の道筋が見えてきます。特に情報システム担当者が兼任で対応するような環境では、次の順で進めるのが現実的です。

MFA疲労攻撃対策の優先順位を上から示す図。STEP1 数値マッチングを有効化(費用をかけずに無思考の承認を止める緩和策、Entra IDは既定で有効)、STEP2 重要アカウントをパスキー/FIDO2へ(承認操作そのものを排除する根本対策で最も強く、管理者・経営層から優先)、STEP3 条件付きアクセスで文脈を遮断(不審なIP・デバイス・場所からのログインをブロックする補強)、STEP4 利用者への周知と初動フロー(身に覚えのない承認は押さない・報告するを徹底する上乗せ)の順。
  1. 数値マッチング(Number Matching)を有効にする:費用をかけずに無思考の承認を止められる緩和策。Entra IDでは既定で有効なので、まず自社の適用状況を確認する
  2. 重要アカウントからパスキー/FIDO2へ移行する:管理者や経営層など被害が大きいアカウントを優先し、承認操作を排除する根本対策へ切り替える
  3. 条件付きアクセスで攻撃の文脈を遮断する:不審なIP・デバイス・場所からのログインをブロックし、緩和策と根本対策を補強する
  4. 利用者への周知と初動フローを整える:身に覚えのない承認は押さない・報告する、を技術的対策の上乗せとして徹底する

①はすぐに効き、②は最も強い守りになります。緩和策で当面のリスクを下げつつ、重要アカウントから根本対策へ移していくのが、投資対効果の高い進め方です。

MFA疲労攻撃を防ぐ認証サービスの活用

ここからは、プッシュ承認をやめてフィッシング耐性のある方式へ切り替えるための具体的なサービスを紹介します。承認操作そのものを排除するパスキー/FIDO2への移行や、条件付きアクセスの設定を、どのサービスで実現できるかという観点で見ていきます。

多くの企業がすでに使っているMicrosoft Entra IDなどの既存基盤でも、数値マッチングやパスキーへの移行は設定できます。まず自社の基盤で何ができるかを確認し、足りない部分を専用サービスで補う、という視点で読み進めてください。

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サービス名CloudGate UNOYubiKey as a ServiceMicrosoft Entra ID
提供会社株式会社インターナショナルシステムリサーチ株式会社インターナショナルシステムリサーチ日本マイクロソフト株式会社
提供形態・主な認証手段IDaaS(SSO+MFA)
パスキー・生体認証・OTP
物理セキュリティキー
(サブスク・運用代行込み)
ID基盤(IAM)
Authenticator・パスキー・Windows Hello ほか
承認操作を排除(パスキー/FIDO2)◎(全プラン・全ユーザーで無制限)◎(物理キーで認証が完結)●(パスキー・Windows Hello対応)
フィッシング耐性◎(パスキーの公開鍵暗号で対応)◎(物理キーの公開鍵暗号で対応)●(パスキー利用時。プッシュ承認のみだと低い)
条件付き(リスクベース)アクセス●(IP・デバイス・時間帯で制御)△(CloudGate UNO併用で対応)●(P1以上。リスクベースはP2)
月額費用400〜600円/ユーザー(税抜)要問い合わせ(200ライセンス〜)無料〜。P1 1,049円/P2 1,499円(年払い時・ユーザー/月)
詳細情報公式資料を見る公式資料を見るサービス詳細を見る

※料金・対応状況は2026年9月時点の各社公式情報にもとづきます。最新の内容は各社の公式サイトでご確認ください。

承認操作を排除する認証は、ここで取り上げた以外の多要素認証システムでも対応が進んでいます。認証方式や料金、タイプ別の選び方まで含めて全体を見比べたうえで自社に合う一本を選びたい場合は、以下の記事で主要な多要素認証システムを比較しています。

1. CloudGate UNO(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

CloudGate UNOのウェブサイト

CloudGate UNOは、株式会社インターナショナルシステムリサーチが提供する、ゼロトラストの考え方にもとづくシングルサインオン型のIDaaS(クラウド型のID管理基盤)です。一度の認証で複数のクラウドサービスへアクセスできる利便性と、パスキー(FIDO2)によるパスワードレス認証を組み合わせている点が、MFA疲労攻撃対策として要になります。

同社はFIDOアライアンスに2014年から参画し、2019年にFIDO2対応のパスワードレス認証を提供開始した実績を持ちます。パスキーによるパスワードレス認証は承認操作そのものを不要にするため、プッシュ通知を連打する疲労攻撃の入り口をふさげます。

デバイス側で生体認証やPINを検証し、その結果だけをサーバーへ送る方式のため、フィッシングにも強い耐性を持ちます。このパスキー認証を、上位プラン限定にせず全プラン・全ユーザーで無制限に使える点を公式が明示しています。

プッシュ承認やワンタイムパスワードといった従来の多要素認証を突破する手口が広がるなかで、パスキーをどう位置づけているのか。同社はMCB FinTechカタログの取材に次のように述べています。

平澤氏
株式会社インターナショナルシステムリサーチ 営業本部マーケティング部
平澤氏
独自インタビューより

当社が採用しているパスキーのパスワードレス認証は、フィッシング攻撃に対して非常に強い耐性を持ちます。SMS認証やワンタイムパスワードなどの一般的な多要素認証を突破する攻撃手法が顕在化する中、より安全な認証環境を提供します。

2. YubiKey as a Service(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

YubiKey as a Serviceのウェブサイト

物理的なセキュリティキーで承認操作を置き換えるなら、YubiKey as a Serviceが選択肢になります。Yubico社の物理セキュリティキー「YubiKey」を、サブスクリプション型で導入から運用サポートまで一体で提供するサービスで、株式会社インターナショナルシステムリサーチが手がけています。

YubiKeyはFIDO2/WebAuthnに準拠したハードウェアトークン型のMFAで、キー本体に秘密鍵を保持してフィッシング耐性のある認証を実現します。ログインは物理キーを挿す(またはかざす)操作で完結し、プッシュ通知の承認を必要としないため、疲労攻撃が成立しません。

全社的なスマートフォン支給が難しい環境や、より確実な物理的な守りを求める組織に適しています。買い切りではなくサブスクリプション型のため、予備キーの提供や継続サポートを含めて運用できる点も特徴です。

物理キーの一括導入が難しい小規模の環境では、後述のMicrosoft Entra IDなど、既存基盤でのパスキー移行から始める方法もあります。

承認操作をなくす物理キーへ切り替えた現場では、運用の実感がどう変わるのか。同社はMCB FinTechカタログの取材で、導入企業の声を次のように説明しています。

内田氏
株式会社インターナショナルシステムリサーチ 営業本部 セールスアライアンス部 部長
内田氏
独自インタビューより

ログイン時の操作も簡略化され、利便性と安全性の向上が現場レベルで実感されているという声を多くいただいております。拠点ごとに予備のキーを置いておくといった運用の工夫は必要ですが、慣れれば本当に速い、という現場の声が効果として出ているところです。

3. Microsoft Entra ID(日本マイクロソフト株式会社)

Microsoft Entra IDのウェブサイト

すでにMicrosoft 365を利用している組織にとっては、Microsoft Entra ID(旧Azure AD)が疲労攻撃対策の実施基盤になります。本記事で解説した数値マッチング・条件付きアクセス・パスキーへの移行は、いずれもEntra IDとMicrosoft Authenticatorの組み合わせで設定できます。

数値マッチングは2023年5月以降、全利用者を対象に既定で有効化されています。IPやデバイス・リスクに応じてアクセスを制御する条件付きアクセスは上位プラン(P1以上)で、サインインリスクに応じた自動制御はP2で利用できます。

パスキー(FIDO2)にも対応しており、現環境を大きく入れ替えずに、緩和策から根本対策まで段階的に進められるのが利点です。Entra管理センターの「認証方法」ポリシーで数値マッチングやパスキーの有効化状況を、「条件付きアクセス」メニューでポリシーの作成・適用を確認できます。まずは自社の設定状況を確かめたうえで、重要アカウントのパスキー移行まで進めるとよいでしょう。

まとめ

MFA疲労攻撃は、盗んだパスワードを前提に、プッシュ通知の承認を連打させてMFAをすり抜ける攻撃です。承認/拒否の2択という手軽さが弱点となり、UberやCiscoのような大企業も突破されました。

対策は、まず費用をかけずに効く数値マッチングを有効にし、重要アカウントから承認操作を排除するパスキー/FIDO2へ移行するのが基本の流れです。数値マッチングは緩和策、パスキー/FIDO2はフィッシングにも強い根本対策という効きめの差を踏まえ、条件付きアクセスや利用者への周知を上乗せしていきます。

この順で手を打てば、自社の認証を疲労攻撃から守れます。自社のMFAがプッシュ承認だけに頼っていないか、この機会に見直してみてください。

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よくある質問(FAQ)

Q. MFA疲労攻撃とは何ですか?

A. MFA疲労攻撃とは、盗んだIDとパスワードでログインを繰り返し、多要素認証の承認を求めるプッシュ通知を標的のスマートフォンに大量に送りつける攻撃です。うんざりした利用者や誤操作した利用者に「承認」を押させて侵入します。

米国のサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)は「push bombing(プッシュ・ボミング)」とも呼び、攻撃手法フレームワークのMITRE ATT&CKにも技法ID「T1621」として登録されています。2022年にはUberやCiscoが実際に被害を受けました。

Q. MFA疲労攻撃は数値マッチング(Number Matching)を有効にすれば完全に防げますか?

A. MFA疲労攻撃に対して、数値マッチングは無思考の承認を止める強力な緩和策ですが、フィッシング耐性はなく、根本対策であるパスキー/FIDO2ほど強くはありません。CISAも数値マッチングを、フィッシング耐性のあるMFAをすぐに導入できない組織向けの「暫定的な緩和策」と位置づけています。

まず数値マッチングで当面のリスクを下げつつ、被害の大きい重要アカウントは承認操作そのものを排除するパスキー/FIDO2へ移していくのが確実です。

Q. MFA疲労攻撃対策として、数値マッチングとパスキー(FIDO2)は何が違いますか?

A. 両者の違いは、数値マッチングが「承認操作を残したまま無思考の承認を止める緩和策」であるのに対し、パスキー/FIDO2は「承認操作そのものを排除する根本対策」である点です。数値マッチングは画面に表示された数字を認証アプリに入力させて反射的な承認を防ぎますが、プッシュ承認の仕組み自体は残ります。

パスキー/FIDO2は公開鍵暗号を使い、端末側の生体認証やPINだけでログインが完結して「承認を押す」操作がないため、疲労攻撃とフィッシングの双方に強い耐性を持ちます。

Q. Microsoft Entra ID(Microsoft 365)を使っていればMFA疲労攻撃はすでに対策済みですか?

A. Microsoft Entra IDでは、数値マッチングが2023年5月以降すべての利用者を対象に既定で有効化されているため、無思考の承認に対する緩和策はすでに効いている可能性が高いです。ただしこれは緩和策にとどまり、条件付きアクセスやパスキー(FIDO2)への移行は別途の設定が必要です。

まず自社のEntra IDで数値マッチングが適用されているか、条件付きアクセスをどう設定できるかを管理センターで確認したうえで、重要アカウントの根本対策まで進めるとよいでしょう。

Q. MFA疲労攻撃はワンタイムパスワード(OTP・TOTP)方式なら防げますか?

A. ワンタイムパスワード方式は、プッシュ通知を使わないため疲労攻撃そのものは避けられますが、フィッシングには弱く、偽サイトで入力させられれば盗まれます。疲労攻撃の連打は受けずに済んでも、認証情報を狙う攻撃全体には対応しきれません。疲労攻撃とフィッシングの双方に強い守りを求めるなら、公開鍵暗号でサイトに紐づくパスキー/FIDO2への移行が確実です。

Q. MFA疲労攻撃を受けたとき、利用者が個人でできる対策はありますか?

A. 利用者が個人でできる最も重要な対策は、身に覚えのない承認要求は絶対に承認せず、拒否したうえで速やかにパスワードを変更し、情報システム部門へ報告することです。大量の通知は「パスワードがすでに漏れて攻撃が進行中」というサインで、「止めたいから1回だけ」の承認が突破口になります。

Microsoft Entra IDには不審な通知を報告できる「不審なアクティビティを報告」機能があり、報告は管理者側の検知にも役立ちます。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
記事内でご紹介している製品・サービスは監修者が選定したものではなく、編集部が独自に選定したものです。
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

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