取引先や採用候補の反社チェックに取り組むなかで、社内や監査、上場審査の場面で「どのガイドラインに準拠しているのか」「その根拠は何か」と問われ、答えに詰まった経験を持つコンプライアンス・法務の担当者は少なくありません。
反社チェックに関して企業が参照すべきガイドラインは、2007年(平成19年)に政府がまとめた指針を中心に、都道府県の暴力団排除条例、金融庁の監督指針、証券取引所の上場審査基準の4系統に整理できます。いずれも発出元と対象企業、求める内容が異なります。
本記事では、この4系統のガイドラインが企業に何を求めているのかを整理し、その要求を自社の規程・体制・契約書・定期チェックへどう落とし込むかを対応表で示します。契約書の条項の記載例や個人情報保護法との関係、準拠の自己点検ポイントまで、自社の反社チェック体制の根拠を説明できる状態にするための材料としてご活用ください。
目次
一括ダウンロードする
反社チェックのガイドラインとは(従うべき4系統の全体像)
反社チェックに関して「ガイドライン」と呼ばれるものは、ひとつの文書を指すわけではありません。企業が参照すべき公的な指針・条例・基準は、発出元ごとに次の4系統に整理できます。政府が全企業に向けて示した基本的な指針を土台に、取引や契約の場面では都道府県の条例が、業種・上場の場面では金融庁や証券取引所の基準が重なって効いてくる構造です。

まずは4系統の全体像を一覧で確認します。自社に効くガイドラインがどれで、それぞれ何を求めているのかを掴むための地図として読んでください。
| ガイドライン | 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(政府指針/企業暴排指針) | 暴力団排除条例 | 金融庁 監督指針 | 証券取引所の上場審査基準 |
|---|---|---|---|---|
| 発出元 | 政府(犯罪対策閣僚会議幹事会)/法務省が公表 | 各都道府県(東京都は警視庁が所管) | 金融庁 | 証券取引所(東京証券取引所など) |
| 主な対象 | 業種・規模を問わず全企業 | その都道府県で事業を行う全事業者 | 銀行・保険・証券などの金融機関 | 上場企業・上場準備企業 |
| 主な要求事項 | 反社会的勢力との一切の関係遮断。組織としての対応・外部専門機関との連携・取引を含めた関係遮断・有事の法的対応・裏取引や資金提供の禁止(基本5原則) | 契約の相手方が暴力団関係者でないことの確認と、契約書への暴力団排除条項(無催告解除権を含む)の導入(いずれも努力義務) | 反社会的勢力対応部署による一元的な管理態勢の構築と、情報を活用した適切な事前審査・暴排条項導入の徹底 | 反社会的勢力の経営活動への関与を防止する社内体制の整備・運用と、上場申請時の「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」の提出 |
※各ガイドラインの要求事項は要点の整理です。具体的な内容は後述の各節で原文・条文に沿って解説します。
4系統のうち、全企業に共通して土台となるのが政府指針です。暴力団排除条例は取引・契約の場面で全事業者に関わり、金融庁監督指針は金融機関、上場審査基準は上場・上場準備企業に、それぞれ上乗せで効いてきます。各ガイドラインの原文・条文は、次節以降で確認できます。
出典・参考資料(1件)
反社会的勢力とは(属性要件と行為要件)
各ガイドラインが前提にしている「反社会的勢力」の捉え方も、政府指針が示しています。指針は、暴力団などの組織に属するかどうかという属性の面と、どのような行為を行うかという行為の面の両方に着目することが重要だとしています。
暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(平成19年6月19日 犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)|法務省
組織名簿に載っているかどうかだけで判断するのではなく、取引の過程で不当な要求や不透明な実態が見られるかどうかも、反社会的勢力かどうかを見極める手がかりになります。反社チェックは、この属性・行為の両面から関係の有無を確認する作業だと整理できます。
各ガイドラインが企業に求めること(原文・出所つき)
ここからは、4系統のガイドラインが企業に具体的に何を求めているのかを、原文と条文に沿って確認します。
政府指針(企業暴排指針)が求めること
政府指針の正式名称は「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」で、2007年(平成19年)6月19日に犯罪対策閣僚会議幹事会の申合せとして公表されました。企業が反社会的勢力との関係を断つべき理由について、指針は次のように述べています。
今日、多くの企業が、企業倫理として、暴力団を始めとする反社会的勢力と一切の関係をもたないことを掲げ、様々な取組みを進めているところである(中略)反社会的勢力との関係遮断は、企業防衛の観点からも必要不可欠な要請である。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針|法務省
そのうえで指針は、被害を防止するための基本的な心構え・対応を「基本原則」として次の5項目に整理しています。後述する社内体制の整備や契約書の暴排条項は、いずれもこの基本原則を具体化したものです。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針「1 反社会的勢力による被害を防止するための基本原則」|法務省
- 組織としての対応
- 外部専門機関との連携
- 取引を含めた一切の関係遮断
- 有事における民事と刑事の法的対応
- 裏取引や資金提供の禁止
基本原則のうち「組織としての対応」は、反社対応を担当者や担当部署だけに任せず、経営トップ以下、組織全体で取り組むことを意味します。指針は、倫理規程や社内規則に明文の根拠を設け、経営トップがその方針を社内外に宣言し、社内体制の整備や外部専門機関との連携まで行うことを求めています。
また、反社会的勢力に関する情報を一元的に管理・蓄積し、暴力追放運動推進センターや他企業の情報を活用してデータベースを逐次更新することにも触れています。これらが、次節で扱う「要求と対応の対応表」の土台です。
暴力団排除条例が求めること
暴力団排除条例は、各都道府県が制定している条例です。東京都は2011年(平成23年)10月1日に施行し、事業者に対して、契約時の相手方確認と契約書への特約(暴力団排除条項)の定めを努力義務として求めています。代表例として、東京都暴力団排除条例第18条は次のように定めています。
第18条 事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。
出典:東京都暴力団排除条例(平成23年東京都条例第54号)第18条|警視庁
2 事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
一 当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。
第18条が求めているのは、大きく2点です。1点目は、契約の相手方や代理・媒介をする者が暴力団関係者でないことを確認すること。2点目は、書面で契約する場合に、相手方が暴力団関係者と判明したら催告なしで契約を解除できる特約を定めることです。
この「催告することなく解除できる」という定めが、契約書の反社排除条項の中核になります。条例の文言や条番号は都道府県ごとに異なりますが、相手方の確認と暴排条項の導入を事業者の努力義務とする骨子は、各地の条例に共通しています。
自社の所在地の条例は、「(都道府県名)暴力団排除条例」で各都道府県警のウェブサイトから確認できます。
金融庁監督指針が求めること(金融機関向け)
銀行・保険・証券などの金融機関には、金融庁の監督指針が上乗せで効いてきます。たとえば「主要行等向けの総合的な監督指針」は、反社会的勢力による被害防止の着眼点として、対応を総括する部署の設置による一元的な管理態勢と、取引前の事前審査を求めています。監督指針は、主な着眼点として次の項目を挙げています(番号は原文のまま)。
(2)反社会的勢力対応部署による一元的な管理態勢の構築 反社会的勢力との関係を遮断するための対応を総括する部署(以下「反社会的勢力対応部署」という。)を整備し、反社会的勢力による被害を防止するための一元的な管理態勢が構築され、機能しているか。
出典:主要行等向けの総合的な監督指針 Ⅲ-3-1-4-2|金融庁
(3)適切な事前審査の実施 反社会的勢力との取引を未然に防止するため、反社会的勢力に関する情報等を活用した適切な事前審査を実施するとともに、契約書や取引約款への暴力団排除条項の導入を徹底するなど、反社会的勢力が取引先となることを防止しているか。
金融機関には、取引に入る前の事前審査と、情報を一元管理する態勢の構築が明確に求められています。保険会社や証券会社など業態ごとに別の監督指針が用意されており、自社に適用される監督指針を確認する必要があります。
証券取引所の上場審査基準が求めること(上場・上場準備企業向け)
上場企業・上場準備企業には、証券取引所の上場審査基準が効いてきます。東京証券取引所の新規上場ガイドブックは、反社会的勢力の経営活動への関与を防止する社内体制の整備と、その実態を審査することを基準として示しています。
(4)新規上場申請者の企業グループが反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること。
出典:2026 新規上場ガイドブック(グロース市場編)Ⅳ 6.(4)|日本取引所グループ
上場審査では、確認書の提出だけでなく、反社排除の社内体制が整備・運用されている実態まで見られます。
上場申請時には「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」の提出が必要です。新規上場ガイドブックの提出書類一覧では、この確認書が有価証券上場規程施行規則第204条第1項第5号に基づくものとして示されています。
上場準備企業は、政府指針が示す体制整備を早い段階から進めておくことが、審査対応につながります。
出典・参考資料(1件)
では、上場審査に向けた体制整備は、実際にはどのような場面で求められるのでしょうか。反社チェックの実務で上場準備企業を支援してきた担当者は、相談を受けるきっかけについて次のように述べています。

特に上場準備企業では、主幹事証券会社からチェック体制の整備を求められ、短期間で既存取引先を含む大量の対象を確認する必要が生じたことをきっかけにご相談いただくケースがあります。
ガイドラインの要求と企業が取るべき対応
ここまで見た各ガイドラインの要求を、自社で実際に取るべき対応に紐づけて整理します。どのガイドラインのどの要求に対応する動きなのかが分かるよう、「ガイドラインが求めること」「企業が取るべき対応」「主な根拠」の対応表にまとめました。自社の体制を点検する際のチェックの軸としても使えます。
| ガイドラインが求めること | 組織全体での対応と経営トップの関与 | 社内体制の整備と情報の一元管理 | 契約書への暴力団排除条項の導入 | 取引前後の確認と有事の関係遮断 | 継続的な確認と記録の保管 | 上場審査に耐える体制の整備と確認書 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 企業が取るべき対応 | 倫理規程・行動規範・社内規則に反社排除の方針を明文化し、経営トップが社内外に宣言する。担当部署だけに任せず組織全体で取り組む | 反社対応を総括する部署・担当を定め、反社会的勢力に関する情報を一元的に管理・蓄積する。金融機関は一元的な管理態勢と事前審査を整える | 契約書・取引約款に、相手方が反社会的勢力であることを拒絶する条項と、判明時に催告なく解除できる条項を定める | 取引の相手方に通常必要な注意を払って確認し、反社会的勢力と判明・疑いが生じた時点で速やかに関係を解消する。必要に応じて警察・暴力追放運動推進センター・弁護士などの外部専門機関と連携する | 取引開始時だけでなく定期的に確認を行い、いつ・誰が・どの範囲を・どの手段で調べ、どう判断したかの証跡を保管する | 反社会的勢力の経営関与を防ぐ社内体制を整備・運用し、上場申請時に「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」を提出する |
| 主な根拠 | 政府指針「基本原則」「2 基本原則に基づく対応」 | 政府指針「2 基本原則に基づく対応」/金融庁 監督指針 Ⅲ-3-1-4-2 | 政府指針「2(3)」/東京都暴力団排除条例 第18条 | 政府指針「基本原則」「2 基本原則に基づく対応」 | 政府指針「2 基本原則に基づく対応」 | 東証 新規上場ガイドブックⅣ6.(4)/上場規程施行規則第204条第1項第5号 |
※「企業が取るべき対応」は各ガイドラインの要求を実務に整理したものです。自社の業種・規模・上場の有無に応じて、適用されるガイドラインと必要な対応は異なります。
この表のうち、金融庁監督指針の行は金融機関、上場審査の行は上場・上場準備企業に効くもので、それ以外の行は政府指針・暴力団排除条例に基づき業種を問わず共通して求められる対応です。
対応表の「行動基準の明文化」を社内規程に落とす際は、政府指針が求める対応に沿って、次のような項目を盛り込むのが基本です。
- 基本方針(反社会的勢力との一切の関係を遮断することを企業倫理として掲げる)
- 対応部署・責任者の役割(反社情報の一元管理と、警察・暴力追放運動推進センター・弁護士など外部専門機関との連携窓口)
- 取引前後の確認手順と、反社会的勢力かどうかの判断基準
- 反社会的勢力と判明・疑いが生じた際の有事対応(関係解消の手順と相談先)
- 調査結果の記録・保管のルール(保管期間と定期チェックの頻度)
ここからは、対応のうち実務で迷いやすい「契約書の反社排除条項」と「個人情報の取り扱い」を掘り下げます。
契約書の反社排除条項(暴排条項)の記載例
対応表で挙げた「契約書への暴力団排除条項の導入」は、ガイドラインが具体的な文面まで示しているわけではありません。ただし、条項に盛り込むべき要素は政府指針と暴力団排除条例から読み取れます。政府指針は、契約書や取引約款に次の2つを盛り込むことが有効だとしています。
契約書や契約約款の中に、①暴力団を始めとする反社会的勢力が、当該取引の相手方となることを拒絶する旨や、②当該取引が開始された後に、相手方が暴力団を始めとする反社会的勢力であると判明した場合や相手方が不当要求を行った場合に、契約を解除してその相手方を取引から排除できる旨を盛り込んでおくことが有効である。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針|法務省
この①入口での拒絶と②判明・不当要求時の排除という2本柱に、東京都暴力団排除条例第18条が定める「催告することなく解除できる」という無催告解除を組み合わせると、反社排除条項の骨格ができます。これらを踏まえると、契約書には次のような要素を定めることになります。
- 表明・確約:自社も相手方も、現在および将来にわたって暴力団員等の反社会的勢力に該当せず、関係を持たないことを表明し確約する
- 無催告解除:相手方が反社会的勢力に該当すると判明した場合や、不当な要求を行った場合に、催告なしで契約を解除できる
- 損害賠償・免責:解除によって相手方に損害が生じても賠償せず、自社に損害が生じたときは相手方に賠償を請求できる
これらを文章にすると、たとえば「甲および乙は、自己または自己の役員が暴力団員等の反社会的勢力に該当しないことを表明し確約する。相手方が本条に違反した場合、催告することなく本契約を解除することができ、これにより相手方に生じた損害を賠償する責任を負わない」といった記載になります。
実際の条項は、自社の契約類型や取引実態に合わせて、顧問弁護士や各業界団体・全国暴力追放運動推進センターが公開するモデル条項を参照しながら整えるのが安全です。
もっとも、契約書にこうした条項を定めることと、相手方が反社会的勢力でないかを実際に確認することは別の取り組みです。この点について、弁護士の阿部由羅氏は次のように指摘しています。

企業が反社会的勢力との関係を遮断するためには、契約書に暴排条項を定めるだけでは不十分です。契約締結前に実質的支配者まで遡って相手方の素性をチェックすることや、取引期間中も継続的にモニタリングを行うことが求められます。
反社チェックと個人情報保護法(収集してよい情報の線引き)
反社チェックは個人の情報を調べる作業を伴うため、個人情報保護法との関係にも注意が必要です。特に、どこまでの情報を本人の同意なく集めてよいかは、実務で判断に迷いやすい点です。

個人情報保護法は、取り扱いに特に配慮を要する情報を「要配慮個人情報」と定め、その取得には原則として本人の同意を必要としています。
この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。
出典:個人情報の保護に関する法律 第2条第3項|e-Gov法令検索
犯罪の経歴(前科)はこの要配慮個人情報にあたり、個人情報保護委員会も、有罪判決が確定した受刑の経歴が要配慮個人情報に該当すると示しています。要配慮個人情報は、同法第20条第2項により、法令に基づく場合などの例外を除いて、あらかじめ本人の同意を得ずに取得することができません。反社チェックで前科・逮捕歴にあたる情報を扱う場合は、この原則を踏まえる必要があります。
出典・参考資料(2件)
一方で、新聞記事やインターネット上の公表情報を使った反社チェックは、同法第20条第1項が禁じる「偽りその他不正の手段」による取得にあたらない限り、適法かつ公正な手段で行うことが前提になります。公表情報を本人の同意なく確認すること自体が直ちに違法になるわけではありませんが、取得の手段が適正であることと、収集目的の範囲内にとどめることが求められます。
採用・労働者募集の場面では、取引先チェックより踏み込んだ制約があります。厚生労働省の職業安定法に基づく指針は、求職者等の個人情報について収集してはならない情報を定めています。業務の目的の達成に必要な範囲を超えて、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地などの社会的差別の原因となるおそれのある事項や、思想・信条を収集してはならない、というものです。
採用候補者の反社チェックでは、これらの情報まで集めないよう、調べる範囲を業務上必要な事項に絞る必要があります。
出典・参考資料(1件)
採用候補者の反社チェックは、取引先のチェックよりも「本人に断りなくどこまで調べてよいのか」の線引きが難しく、判断に迷いやすい場面です。対象者別の可否や個人情報保護法との境界、同意文言の例、反社と判明したときの内定取消まで、採用の場面に絞って詳しく知りたい方は、次の記事で解説しています。
反社チェックは法的義務か(善管注意義務と企業が負うリスク)
ここまで見てきたガイドラインの多くは、罰則を伴う義務ではなく努力義務や指針という形をとっています。では、反社チェックを行わなくても問題ないのかというと、そうではありません。反社会的勢力と関わること自体が直ちに法律違反になるわけではありませんが、対応を怠った場合、経営陣が善管注意義務違反を問われるリスクがあります。
株式会社と取締役などの役員の関係は委任に関する規定に従い(会社法第330条)、受任者である役員は善良な管理者の注意をもって職務を処理する義務を負います(民法第644条)。政府指針も、反社会的勢力への対応を、内部統制システムに位置づけるべき事項として明確に結びつけています。
ある程度以上の規模の株式会社の取締役は、善管注意義務として、事業の規模、特性等に応じた内部統制システムを構築し、運用する義務があると解されている。(中略)反社会的勢力による被害の防止は、業務の適正を確保するために必要な法令等遵守・リスク管理事項として、内部統制システムに明確に位置付けることが必要である。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針「3 内部統制システムと反社会的勢力による被害防止との関係」|法務省
取締役がこの任務を怠った場合、会社に生じた損害を賠償する責任(会社法第423条第1項)を負う可能性があります。また、職務について悪意・重大な過失があったときは、第三者に生じた損害を賠償する責任(会社法第429条第1項)も生じ得ます。反社チェックは、こうした責任を果たすための体制の一部として位置づけられます。
出典・参考資料(2件)
金融機関の場合はさらに重く、銀行法に基づく監督上の処分の対象になり得ます。銀行法第26条は業務の健全・適切な運営を確保するための改善計画の提出や業務停止などの措置を、第27条は法令違反などがあった場合の業務停止・役員の解任・免許の取消しを定めています。反社対応の不備が、こうした行政処分のリスクに直結する業種もあるということです。
出典・参考資料(1件)
反社チェックそのものを罰則で強制する法律はなくても、取引先に反社会的勢力が混じっていた場合、信用の失墜や取引停止、経営陣の責任追及といった形で企業が負うリスクは小さくありません。「義務ではないからやらなくてよい」ではなく、「負うリスクを踏まえて合理的な範囲で確認する」という考え方が、ガイドラインの趣旨に沿います。
ガイドライン準拠を自己点検するポイント
最後に、自社の反社チェック体制がガイドラインの要求に沿っているかを点検するための観点を整理します。いずれもここまで見てきた各ガイドラインの要求に対応しており、監査や上場審査で「根拠は何か」と問われたときに説明できる状態かどうかの目安になります。
- 反社排除の方針を倫理規程・行動規範・社内規則に明文化し、経営トップが社内外に宣言しているか
- 反社対応を担当する部署・担当者を定め、反社会的勢力に関する情報を一元的に管理しているか
- 契約書・取引約款に、相手方の反社該当を拒絶する条項と無催告解除の条項を定めているか
- 取引開始時だけでなく定期的に(年1回程度を目安に、代表者の交代や不祥事などの重要イベント時にも)確認を行い、いつ・誰が・どの範囲を・どの手段で調べ、どう判断したかの証跡を残しているか
- 反社会的勢力と判明・疑いが生じた際に、速やかに関係を解消し、警察・暴力追放運動推進センター・弁護士などへ相談する手順を定めているか
- (金融機関)反社対応部署による一元管理態勢と、取引前の事前審査を整えているか
- (上場・上場準備企業)反社排除の社内体制を整備・運用し、その実態を説明できる記録を残しているか
これらの点検観点を満たしているかを定期的に確認しておくと、監査や審査の場面で準拠の根拠を示しやすくなります。
ここで挙げた点検観点のうち、反社会的勢力への該当が疑われたときにどう判断するかは、現場で特に迷いやすい部分です。阿部氏は、疑いが晴れないときの対応について次のように述べています。

反社会的勢力に該当する疑いが晴れないときは、契約締結前であれば締結を断念し、取引期間中であれば暴排条項に基づいて契約を解除すべきです。取引停止にはコストがかかるとしても、反社会的勢力との関係を断ち切って企業としての信頼を維持することを優先しましょう。
もっとも、これらの確認と記録を取引のたびに手作業で続けるのは、取引先や採用が一定量ある企業では大きな負担になります。公表情報の検索や調査結果の保管、定期的な再チェックを仕組みとして回したい場合には、反社チェックツールの活用が選択肢になります。
一括ダウンロードする
反社チェックのガイドライン対応を効率化するサービス
ここからは、ガイドラインが求める確認と記録を効率化できる反社チェックツールを紹介します。いずれも公表情報の検索や調査結果の証跡保存を備え、サービスによっては継続的なモニタリングにも対応して、政府指針が求める情報の一元管理や定期チェックを仕組みとして支えるものです。自社の確認作業の量や、求められる体制の水準に照らして検討してください。
以下はご紹介する反社チェックツールの比較表です。
| サービス名 | RiskAnalyze(リスクアナライズ) | RISK EYES(リスクアイズ) | RoboRoboコンプライアンスチェック |
|---|---|---|---|
| 調査対象・照合範囲 | 反社つながり・逮捕歴・行政処分・訴訟歴・風評 国内約1,000媒体+官報情報、海外240以上の国・地域(重要な公的地位を有する者〈PEPs〉・制裁リスト) | WEBニュース・新聞記事(35年以上遡及)・ブログ/掲示板・独自反社DB(2015年以降) 制裁リスト(米日+ダウ・ジョーンズ)・行政処分・商業登記 | インターネット記事(Google検索と同等)・新聞記事DB・海外情報DB(約190か国・約540万件) SP RISK SEARCH®(反社情報約60万件)・官報破産者情報DB |
| 一括検索・システム連携 | CSV一括検索(1,000件を約1分) API連携(無料)・Salesforce/kintone/freee連携 | Excel取り込みによる一括検索・差分検索 API連携(追加費用なし) | Excelのドラッグ&ドロップで一括登録・1クリック検索 API/RPA連携(オプション2万〜7万円) |
| 継続モニタリング | 取引先管理機能でリスク監視を自動化 | リスクアラートで登録先を日次監視し通知(オプション300円/社) | 公式に継続監視機能の記載なし(都度・一括で再チェック) |
| 証跡・記録の保存 | 調査の証跡をクラウドに7年間自動保存 | 検索結果・確認履歴を証跡保存 承認ワークフローで承認・否認・証跡保存まで完結 | 取引判断を承認・否認・保留で記録(コメント付与可) 証跡をPDF/CSV/Excelでまとめてダウンロード |
| 料金体系 | 初期費用無料 月額27,500円〜(ライト/年間600検索)、プロフェッショナルは別途見積もり | 初期費用無料 最低月額15,000円(税別)+300円/検索(1媒体ごと) | 初期費用無料 従量プラン月額0円・1件250円〜(インターネット検索)、ミニマム/定額プランもあり |
| 無料トライアル | あり(期間・件数は要相談) | あり | あり(10件まで) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る |
RiskAnalyze(KYCコンサルティング株式会社)

RiskAnalyzeは、個人名や企業名を入力すると、反社会的勢力とのつながり・逮捕歴・行政処分・訴訟歴・風評などを調べ、判定済みの調査レポートを表示するWEBサービス型のツールです。KYC(本人確認)・AML(マネーロンダリング対策)のコンサルティングを手がけるKYCコンサルティング株式会社が運営しています。
1件あたり最短0.4秒で結果を表示し、CSVによる一括検索では1,000件を約1分で処理できます。調査の証跡はクラウド上に7年間自動保存されるため、ガイドラインが求める記録の保管を仕組みとして担えます。
CRMや基幹システムと連携するAPI、企業プロダクトへの組み込み用のOEM提供にも対応し、累計導入企業数は2,000社に達するとしています(KYCコンサルティング公式発表、2026年9月時点の記載)。
RISK EYES(ソーシャルワイヤー株式会社)

ソーシャルワイヤー株式会社が提供するRISK EYESは、WEBニュース記事や新聞記事などの公表情報を使って取引先・従業員をスクリーニングする反社チェック専用ツールです。「法人名」「人名」と、逮捕などのネガティブワードの複合条件で検索し、反社会的勢力との関係の疑い・犯罪関与・不祥事の有無を確認します。運営元は東京証券取引所グロース市場の上場企業です。
2015年以降の反社関連報道を独自に収集したデータベースと、記事の懸念度の自動判定により、確認に不要な記事を除外する仕組みを備えます。
前回ヒットしなかった新規記事だけを調べる差分検索や、登録対象を日次で継続監視して報道があればメール・チャットで通知するモニタリング機能があり、定期チェックの効率化に向きます。検索結果の承認・否認や証跡保存までをツール内で完結できるワークフロー機能も持ち、IPO準備中の企業での利用実績も公表されています。
RoboRoboコンプライアンスチェック(オープン株式会社)

取引先や採用候補者が法令を遵守しているか、企業倫理・社会規範に反する活動がないかを自動で確認するクラウド型のサービスが、RoboRoboコンプライアンスチェックです。インターネット記事検索・新聞記事データベース検索・海外情報データベース検索を組み合わせ、Excelデータをドラッグ&ドロップで一括登録して1クリックでまとめて検索できます。
上場企業に求められるコンプライアンスチェックの要件の観点で、SBI証券が監修しています。検索結果を高・中・低の3段階で自動分類し、生成AIが記事を要約・解析することで確認作業を軽減します。約190か国・約540万件の海外データベースや、反社情報を収録した外部データベース、官報破産者情報との連携も備え、導入社数は10,000社を超えるとしています(オープン株式会社公式発表)。
上場審査の局面で反社チェックに求められる水準について、同社の担当者は次のように指摘しています。

ここで取り上げたのは3サービスですが、反社チェックツールはほかにも数多くあります。料金やデータソースの幅、判定精度、証跡管理といった観点から各ツールを比較して自社に合う一本を選びたい方は、次の記事もあわせてご確認ください。
反社チェックツールおすすめ16選を比較|料金・データソース・精度で失敗しない選び方
取引先や株主、採用候補の反社チェックを、担当者が新聞記事やインターネットを手作業で検索して進めていませんか。1件ずつ調べる方法は時間がかかるうえ、調べ漏れ(見落とし)と、同姓同名による誤判定(過検知)の両方が起きやすく、調査の質が担当者の経…
まとめ
反社チェックで従うべきガイドラインは、全企業に共通する政府指針を土台に、取引・契約の場面では暴力団排除条例が、金融機関には金融庁監督指針が、上場・上場準備企業には証券取引所の上場審査基準が重なる4系統で整理できます。いずれも罰則を伴う義務という形ではありませんが、対応を怠れば経営陣の善管注意義務違反や、信用の失墜、業種によっては行政処分のリスクにつながります。
各ガイドラインの要求は、行動基準の明文化、社内体制の整備と情報の一元管理、契約書への反社排除条項の導入、取引前後の確認と定期チェック・記録の保管という対応に落とし込めます。これらを自社の規程・契約書・運用に反映し、記録を残しておくことが、監査や上場審査で準拠の根拠を説明できる状態につながります。確認と記録の負担が大きい場合は、反社チェックツールの活用も検討してみてください。
一括ダウンロードする
よくある質問(FAQ)
Q. 反社チェックのガイドラインとは何ですか?
A. 反社チェックのガイドラインとは、企業が反社会的勢力との関係を遮断するために参照すべき公的な指針・条例・基準の総称で、政府指針・暴力団排除条例・金融庁監督指針・証券取引所の上場審査基準の4系統を指します。
全企業に共通して土台となるのが2007年(平成19年)の政府指針(企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針)で、取引・契約の場面では暴力団排除条例が、金融機関には金融庁監督指針が、上場・上場準備企業には上場審査基準が、それぞれ上乗せで効いてきます。
Q. 反社チェックは法的義務ですか?
A. 反社チェックは、それ自体を罰則付きで義務づける法律はなく、関連するガイドラインの多くも努力義務や指針という形をとっています。ただし、対応を怠った場合、取締役が善管注意義務違反を問われたり、信用の失墜や取引停止を招いたりするリスクがあり、金融機関では行政処分の対象にもなり得ます。
「義務ではないからやらなくてよい」ではなく、負うリスクを踏まえて合理的な範囲で確認するという考え方が、ガイドラインの趣旨に沿います。
Q. 反社チェックはどこまで調べれば十分ですか?
A. 反社チェックの対象範囲は、最低限として取引先の法人・代表者・役員を確認し、重要な取引では主要株主や実質的支配者まで広げるのが一般的です。ガイドラインが一律の範囲を定めているわけではなく、企業規模・業種や取引のリスクの大きさによって必要な深さは変わります。
低リスクの取引は公表情報の検索で、重要な取引は精度の高い手段で、とリスクに応じて確認の深さを調整し、どの範囲をどの手段で調べたかを記録しておくことが、合理的な調査として説明する助けになります。
Q. 契約書に反社排除条項(暴排条項)は必ず入れる必要がありますか?
A. 契約書への反社排除条項の導入は、暴力団排除条例上は努力義務であり法律上強制されるものではありませんが、政府指針も有効としており、実務上はほぼ必須の対応と考えるべきです。
東京都暴力団排除条例第18条は、書面で契約する場合に、相手方が暴力団関係者と判明したら催告なしで解除できる特約を定めるよう努めることを求めています。条項には、反社会的勢力に該当しないことの表明・確約、無催告解除、損害賠償・免責を盛り込むのが基本です。
出典・参考資料(1件)
Q. 反社チェックで前科や逮捕歴を本人の同意なく調べてもよいですか?
A. 犯罪の経歴(前科)は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたり、法令に基づく場合などの例外を除いて、原則として本人の同意なく取得することはできません。
一方で、新聞記事やインターネット上の公表情報を確認すること自体は、「偽りその他不正の手段」による取得にあたらない限り適法に行えます。特に採用候補者のチェックでは、思想・信条や、社会的差別の原因となるおそれのある事項(人種・社会的身分・本籍など)まで集めないよう、調べる範囲を業務上必要な事項に絞る必要があります。
Q. 反社チェックはどのくらいの頻度で行えばよいですか?
A. 反社チェックは、取引開始時の一度きりで終わらせず、年1回などの頻度で定期的に再確認することが推奨されます。取引先の代表者の交代や不祥事は契約後に発生することがあり、初回のチェック時には問題がなくても、後から反社会的勢力との関係が判明する場合があるためです。
あわせて、資本提携や多額の取引の開始といった重要なイベントが生じたタイミングでも確認すると、リスクを取りこぼしにくくなります。定期チェックを手作業で続ける負担が大きい場合は、継続的なモニタリング機能を持つ反社チェックツールの活用が選択肢になります。
Q. 取引開始後に取引先が反社会的勢力と判明したらどうすればよいですか?
A. 取引先が反社会的勢力と判明した場合、契約書に無催告解除を含む反社排除条項を定めてあれば、催告なしで契約を解除して取引から排除できます。自社だけで判断せず、警察・暴力追放運動推進センター・弁護士などの外部専門機関に相談することが重要です。その際、判断の経緯の詳細を相手方に伝えないこと、調査と対応の記録を残しておくことが、トラブルの拡大を防ぎ、後から対応の妥当性を説明するうえで有効です。
Q. 反社チェックの費用相場はどのくらいですか?
A. 反社チェックの費用は、手段によって幅があり、自社でのWEB検索は無料、新聞・記事データベースや外部の調査会社への依頼は数万円から数十万円程度が目安です。反社チェックツールは月額料金制のものが多く、検索件数や機能に応じて費用が変わります。取引ごとのリスクの大きさと確認にかけられるコストのバランスを考え、低リスクの取引は無料の検索で、重要な取引は精度の高い手段で、と使い分けるのが現実的です。
Q. 中小企業やIPO準備中の企業でも反社チェックは必要ですか?
A. 反社チェックは、企業規模を問わず必要で、特に上場準備企業では反社排除の社内体制の整備が上場審査の対象になります。中小企業であっても、一度反社会的勢力との取引が生じれば、信用の失墜や取引停止など経営に直結するダメージになり得ます。
上場を目指す企業は、上場申請時に「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」の提出(有価証券上場規程施行規則第204条第1項第5号)が必要となるため、早い段階から体制を整えておくことが審査対応につながります。
出典・参考資料(1件)
反社チェックツールの料金・資料を一括チェック
MCB FinTechカタログでは、反社チェック・コンプライアンスチェックツールの最新資料を無料で一括請求できます。調査対象の範囲や料金体系、モニタリング機能などを比べながら、自社のガイドライン対応に合うサービスを検討できます。
一括ダウンロードする
MCB FinTechカタログに掲載しませんか?
MCB FinTechカタログでは、掲載企業様を募集しています。マネックスグループの金融実務ノウハウを活かした独自の評価軸と検索設計により、導入検討者が最適なサービスを効率的に発見できる法人向け比較プラットフォームです。掲載後は管理画面から料金表や導入事例を随時更新でき、常に最新の情報を訴求可能。まずは下記フォームより、お気軽にお問い合わせください。

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。


















