業務委託や秘密保持契約の書類を、毎回ひな形を探して手直ししている担当者にとって、「ChatGPTのようなAIにパッと作らせられないか」という発想は自然なものです。弁護士に都度依頼するほどではない契約を、自分たちで早く回したいという場面は少なくありません。
結論から言えば、生成AIで契約書の初稿を作ること自体は可能です。ただし、出てきた文面をそのまま契約に使えるかというと、話は別になります。実在しない条文が紛れ込んだり、自社に不利な条項が見落とされたりするためで、どこまでAIに任せ、何を人が確かめるかという線引きが欠かせません。
本記事では、AIで契約書をどこまで作れるのか、ChatGPTを使った具体的な作り方と出てくる文面の実際を解説します。そのまま使う場合の危うさや安全に使うための手順、日本法に対応した契約書専用ツールの選び方も整理します。読み終えたときに、自社でどこまでAIに任せてよいかを判断できる状態を目指します。
目次
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AIで契約書は作れるのか(作成・レビュー・管理で何ができるか)
AIで契約書を「作る」ことはできます。ただし作れるのは、たたき台となる初稿までと考えるのが実態に近いです。生成AIはひな形や指示文をもとに契約書らしい文面をすばやく出力しますが、その内容が自社の取引や最新の法令に合っているかどうかまでは保証しません。最終的に締結できる契約書に仕上げる工程は、人または契約書に特化したツールが担う前提になります。
契約書業務でAIが関わる場面は、大きく「作成(ドラフト)」「レビュー(リーガルチェック)」「管理」の3つに分かれます。それぞれでAIが担える範囲と、人が確かめる必要がある範囲は異なります。まずは業務ごとの線引きを一覧で整理します。
作成・レビュー・管理でAIができること・できないこと
| 契約書業務でのAIの役割 | 作成(ドラフト) | レビュー(リーガルチェック) | 管理 |
|---|---|---|---|
| AIが担えること | ひな形や指示文をもとに初稿のたたきを生成。条件を整理して条文の骨格を作る | 自社基準やひな形と照らした差分の指摘、リスク条項の検出、修正案の提示 | 契約書の全文検索、期限・更新のアラート、台帳への自動入力の補助 |
| 人・専門家/専用ツールが確かめること | 条文の正確性、必要条項の過不足、自社に不利な条項の有無、最新法令との整合 | 指摘の当否、取引の背景を踏まえた最終判断、交渉上の優先順位づけ | 保存・権限の運用ルール、締結済み契約の正本管理 |
作成の場面でAIが苦手とするのは、「書いていないことを埋める」作業です。たとえば業務委託であれば報酬の支払時期や成果物の権利帰属、秘密保持であれば秘密情報の範囲といった、取引ごとに決めるべき条項を、AIは一般的な表現で埋めてしまいます。自社の取引実態に合っているかの確認は人の役割として残ります。この「なぜ人の確認が要るのか」は、後述のそのまま使う危うさで具体的に見ていきます。
ChatGPTなどのAIで契約書を作る手順とプロンプト例
ここからは、ChatGPTやClaude、Geminiといった汎用の生成AIで契約書の初稿を作る手順を、実際の指示文(プロンプト)とともに見ていきます。出てくる文面がどの程度のものかまで具体的に確認します。
実際のプロンプト例(業務委託・NDA)
契約書を作らせるときは、契約の種類・当事者・取引条件・準拠法を具体的に指定するほど、出力が実態に近づきます。たとえば業務委託契約であれば、次のような指示文が出発点になります。
あなたは企業法務の担当者です。次の条件で業務委託契約書の案を作成してください。 ・委託者:当社(発注側)、受託者:個人のフリーランス ・業務内容:Webサイトの記事制作(月10本) ・報酬:1本あたり20,000円、月末締め翌月末払い ・契約期間:6か月、以後自動更新 ・成果物の著作権は委託者に移転 ・準拠法は日本法、管轄は東京地方裁判所 条文ごとに見出しを付け、報酬・成果物の権利帰属・秘密保持・解除・損害賠償の条項を含めてください。
秘密保持契約(NDA)であれば、次のように、開示の目的・秘密情報の範囲・有効期間・契約終了後の扱いを指定します。条件を箇条書きで渡すほど、AIは抜けの少ない骨格を返しやすくなります。
次の条件で秘密保持契約書(NDA)の案を作成してください。 ・当事者:当社と取引先企業(相互に情報を開示) ・開示の目的:新規サービスの共同検討 ・秘密情報の範囲:口頭・書面・電子データで開示した事業上・技術上の情報 ・目的外使用の禁止と、第三者への開示禁止 ・有効期間:契約終了後も3年間存続 ・契約終了時は秘密情報を返還または破棄 ・準拠法は日本法 条文ごとに見出しを付けて作成してください。
出てきた契約書の出来ばえ――どこが足りないか
上記のような指示を与えると、生成AIは数十秒で契約書らしい体裁の文面を返します。見出しが整い、一見すると完成品に近く見えます。ただし、そのまま使える水準かというと、いくつかの弱点が残ります。
第一に、条文が一般的すぎて取引の実態を反映しきれない点です。報酬の支払時期や成果物の検収方法、再委託の可否といった、本来は当事者が決めるべき事項が、ありがちな表現で埋められていることがあります。第二に、条文同士の整合が取れていない場合があります。解除条項と損害賠償条項で前提がずれる、定義した用語を別の条文で使っていない、といったずれです。
具体的には、業務委託契約を生成させると、報酬条項が「報酬の額および支払方法は、別途協議のうえ定める」といった形で、肝心の金額や支払期日が空欄同然のまま返ってくることがあります。実際には、次のような文面で出力されることがあります。
第5条(報酬) 1. 本業務の報酬の額及び支払方法は、甲乙別途協議のうえ、これを定める。 2. 報酬の支払時期その他の条件については、別途甲乙間で書面により取り決めるものとする。
先のプロンプトでは「1本あたり20,000円、月末締め翌月末払い」と具体的に指示したにもかかわらず、その金額も支払期日も条項本体には反映されず、「別途協議」に委ねられています。
これをそのまま完成稿にすると、フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)第3条が義務づける報酬額・支払期日の明示を満たせません。指示した条件を条文に落とし込めているか、出力を一条ずつ突き合わせる必要があります。
法令の引用でも注意が要ります。たとえば売買の条項で、2020年施行の改正民法により「契約不適合責任」へと変わった規定を、改正前の用語である「瑕疵担保責任」として書いてしまうなど、古い用語や誤った条番号を根拠にすることがあります。もっともらしい文面で書かれるため、条文を原文で確かめないと気づけません。
これが生成AIの「ハルシネーション」と呼ばれる挙動で、政府のガイドラインでもリスクとして明示されています。生成された契約書に「民法第○条に基づき」といった記述があっても、その条番号が実在するか、引用が正しいかは別途確かめる必要があります。
加えて、法律の専門家でなくても気づける危険の目印があります。相手方だけが一方的に契約を解除できる条項、損害賠償の範囲や上限が自社に一方的に不利な条項、成果物の著作権が自社に移転していない条項、意図せず自動更新される条項などです。こうした条項が入っていないか、自社に不利になっていないかは、専門知識がなくても確認の手がかりにできます。
このように、生成AIが出す契約書は「ゼロから自分で書くより速いたたき台」として有用ですが、完成稿ではありません。次章では、このたたき台をそのまま使うと何が起きるのかを、危うさの種類ごとに整理します。
AIが作った契約書をそのまま使う危うさ
AIが作った契約書をそのまま締結に使うと、いくつかのリスクを抱え込みます。「最終確認は人が」とだけ言われても腑に落ちにくいため、ここでは危うさの中身を、内容の誤り・情報漏洩・法的有効性・弁護士法との関係・責任の所在に分けて具体的に見ていきます。
内容の誤り(ハルシネーション)
生成AIは、事実と異なる内容を事実であるかのように出力することがあります。契約書の文脈では、実在しない条文番号を引用する、すでに改正された古い法令を根拠にする、判例を取り違えるといった形で表れます。もっともらしい日本語で書かれるため、読んだだけでは誤りに気づきにくいのが厄介な点です。
このリスクは、提供事業者だけでなく政府のガイドラインでも正面から扱われています。
RAG(検索拡張生成)の活用等により、ハルシネーションの抑制や出力過程・根拠の透明性向上等が期待されている。
出典:AI事業者ガイドライン(第1.1版)|総務省・経済産業省
裏を返せば、何も対策せずに生成AIを使うと、誤った条文や根拠が紛れ込むことを前提に扱う必要があるということです。契約書に書かれた法令・条番号は、必ず原文で確かめるのが基本になります。
情報漏洩・セキュリティのリスク
契約書には、取引先名・金額・個人情報といった秘密情報が含まれます。汎用の生成AIに入力した内容は、プランや設定によっては、AIの学習データとして使われる場合があります。自社や取引先の機密を、意図せず外部のモデルに渡してしまうリスクがあるということです。
実際の契約情報を入力する場合は、入力内容を学習に使わない企業向けプランを利用するか、取引先名や金額を仮名に置き換えてから入力するのが安全です。具体的な対策は後述の安全に作るための線引きで整理します。
AIが作った契約書は法的に有効か
「AIが作った契約書は法的に有効なのか」という疑問はよく聞かれますが、結論としては、AIが作成したこと自体が有効性を否定する理由にはなりません。契約は、当事者の意思表示が合致すれば成立するのが原則だからです。
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
出典:民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百二十二条|e-Gov法令検索
契約の成立は当事者の合意によるもので、誰が(あるいは何が)文面を作成したかは直接問われません。問題になるのは、作成の主体ではなく契約の中身です。法令に違反する条項が入っている、必要な条項が欠けている、誤った条文を引用しているといった内容面の不備は、無効や紛争の原因になります。
また、公序良俗に反する内容(民法第90条)や強行法規に反する定めは、合意があっても効力を持ちません。AIが作ったかどうかではなく、中身が適正かどうかを人が確かめる必要がある、というのが正確な理解です。
弁護士法72条・非弁行為との関係
AIで契約書を扱うと「弁護士法に触れるのではないか」と心配する声があります。関係するのは、弁護士でない者が報酬を得て他人の法律事務を扱うことを禁じた、弁護士法第72条です。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
出典:弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条|e-Gov法令検索
ここで押さえておきたいのは、この条文が規律するのは「報酬を得る目的で」「業として」他人の法律事務を扱う行為だという点です。自社の契約書を自分で作るためにAIを使う行為そのものは、他人の法律事務の受託ではないため、原則としてこの条文が直接問題にする対象ではありません。論点になるのは、契約書作成・レビューを支援するサービスを第三者に提供する事業者側の立場です。
この点について法務省は、AI等を用いた法務業務支援サービスと弁護士法第72条の関係を整理したガイドラインを2026年8月21日に公表しています。
……サービス利用者による不適切な利用を回避するための適切な体制を整備している場合には、一般的には、サービス提供者において、「事件性」のある案件に関して「鑑定…その他の法律事務」を(業として)取り扱ったとは評価し難く、弁護士法第72条に抵触するおそれはないものと考えられる
出典:ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について(令和8年8月21日)|法務省大臣官房司法法制部
要点は、特定の事件に踏み込んだ法律判断を示すのではなく、価値中立的なサービスとして提供し、紛争性のある案件は弁護士に案内するなどの適切な体制を整えている点にあります。こうした体制があれば、一般的には第72条に抵触しないと整理されています。日本法に対応した契約書専用ツールが、この枠組みを踏まえて設計されているのは、こうした背景があるためです。
ただし、個別のケースが抵触するかどうかは事情により異なるため、懸念がある場合は弁護士への確認が確実です。
責任の所在と、AIで対応できる契約の限界
AIが生成した契約書に不備があり、それが原因でトラブルが起きても、責任を負うのは契約の当事者であって、AIではありません。「AIが書いたから」は免責の理由になりません。だからこそ、締結前に人が内容を確認し、どこを確かめたかを残しておくことが、実務上のリスク管理になります。
また、AIが得意に扱えるのは、ひな形が多く出回っている定型的な契約です。M&Aや複雑なスキームを伴う契約、業界特有の慣行が絡む契約、交渉の経緯を踏まえた個別調整が必要な契約は、AIだけでは対応しきれません。こうした契約は、たたき台の作成までにとどめ、仕上げは専門家や専用ツールに委ねるのが現実的です。
AIで契約書を安全に作るための線引きとプロンプト設計
危うさを踏まえたうえで、AIを実務で安全に使うには、入力・生成・確認のそれぞれに工夫が要ります。ここでは、機密を守る入力、精度を上げる連携、段階的な生成、人による最終確認の4点を、自分で再現できる手順として整理します。全体の流れは次のとおりです。

機密を守る入力(仮名化・学習オフ設定)
まず、実際の取引先名・個人名・金額は、そのまま入力しないのが基本です。相手方や会社名を「甲」「乙」などの仮名に置き換え、金額も仮の数字にしてから生成させ、固有の情報は後から自分で差し込みます。こうすれば、仮にAI側に入力が残っても、秘密情報そのものは渡りません。
あわせて、入力内容を学習に使わない設定になっているかの確認も欠かせません。ChatGPT・Claude・Geminiは、いずれも企業向けプランや管理者設定で、入力データを学習に使わない運用が選べます。実際の契約情報を扱うなら、無料プランや個人向けの標準設定ではなく、学習に使われない契約・設定で利用するのが前提になります。各サービスの設定方法は公式のヘルプで確認できます。
社内のひな形・テンプレートと連携させる
自社で使い慣れたひな形がある場合は、それをAIに読み込ませたうえで修正・加筆させると、ゼロから生成させるより精度が上がり、自社の基準も反映しやすくなります。自社の文書を根拠として参照させるこの手法は、検索拡張生成(RAG)と呼ばれ、前掲のAI事業者ガイドラインでもハルシネーションの抑制策として挙げられています。
ひな形という「正解に近い土台」から出発することで、AIが突飛な条文を作り込む余地を減らせます。
段階的に生成させ、チェックリストで確かめる
一度にすべてを作らせるのではなく、取引条件の整理、条文の骨子、各条文の文面、という順に段階を分けて指示すると、途中で前提のずれを見つけやすくなります。まず条件を箇条書きで確定させ、次に目次にあたる条文構成を出させ、最後に条文ごとに肉づけする流れです。
生成後は、必要な条項がそろっているか、引用された法令・条番号が実在するか、自社に不利な条項がないかを、チェックリストで順に確かめることが重要です。特に、報酬・納期・権利帰属・解除・損害賠償・管轄といった取引の根幹に関わる条項は、一つずつ実態と照らし合わせる必要があります。
人・専門家の最終確認の線引き
ここまでの工夫をしても、AIが作るのはあくまでたたき台です。締結前の最終確認は、人、契約書専用ツール、または弁護士が担う前提を崩さないことが、安全に使うための最後の線引きになります。重要な取引や、ひな形のない契約ほど、この確認の比重を高めるのが適切です。自社に法務担当がいない場合は、この確認工程を外部の専門家や、日本法に対応した専用ツールで補う方法があります。
契約類型別でAIで作るときの注意点
AIで作るときに特に注意すべき点は、契約の類型によって変わります。身近な4つの類型について、AIが外しやすい必須条項と、確認の勘どころを整理します。いずれも個別の事情によって必要な条項は変わるため、最終的には専門家の確認を前提としてください。
業務委託契約
業務委託では、業務の範囲、報酬の額と支払時期、成果物の権利帰属、再委託の可否が要になります。個人(フリーランス)へ委託する場合は、2024年11月に施行されたフリーランス保護法により、取引条件を明示する義務があります。
同法第3条は、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示しなければならないと定めています。AIが作ったひな形でこれらの明示が漏れていないかは、特に確認が必要です。また、発注側・受注側の資本金区分などによっては、2026年1月に下請法から名称が変わった中小受託取引適正化法(取適法)の適用も関わるため、自社の取引がどの規制に該当するかを押さえておくことが望まれます。
出典・参考資料(2件)
下請法から取適法への改正で具体的に何が変わったのかは、以下の記事で変更点を条文とともに整理しています。自社の取引が規制の対象になるか確かめたい場合の参考になります。
秘密保持契約(NDA)
NDAでは、秘密情報の定義と範囲、開示の目的、目的外使用の禁止、有効期間、契約終了後の返還・破棄が中心になります。AIは一般的なNDAの骨格は作れますが、「何を秘密情報に含めるか」は取引ごとに決めるべき事項です。範囲を広げすぎると守れない義務を負い、狭すぎると守りたい情報が抜けるため、自社の目的に合わせて調整する必要があります。
口頭で開示した情報を含めるか、情報の受領者の範囲をどこまでにするかも、定型のひな形では詰め切れない論点です。
雇用契約
雇用契約書は、労働基準法により明示すべき労働条件が法律で定められている点で、AI任せのリスクが高い類型です。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
出典:労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十五条|e-Gov法令検索
賃金・労働時間のほか、厚生労働省令(労働基準法施行規則)で定められた明示事項があり、これらが欠けると法令違反になります。AIが作った雇用契約書は、法定の明示事項をすべて満たしているかという観点で確認が欠かせません。
売買・取引基本契約
継続的な取引の土台になる取引基本契約では、代金の支払条件、所有権の移転時期、契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)、危険負担、解除の要件が要点になります。これらは当事者の力関係や取引慣行によって定め方が分かれる条項で、AIが出す一般的な文面が自社にとって有利とは限りません。特に契約不適合責任の範囲や期間は、買主か売主かによって望ましい定めが異なるため、自社の立場から見直す必要があります。
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汎用AIと契約書専用ツール(リーガルAI)の違いと使い分け
ここまで見てきた危うさへの対策を、自分で工夫して行うのが汎用AIの使い方だとすれば、その多くを仕組みとして備えているのが契約書に特化した専用ツール(リーガルAI)です。両者は何が違い、どう使い分ければよいのかを整理します。
汎用AIと専用ツールは何が違うか
汎用AIは幅広い用途に使える反面、日本法に特化した学習やセキュリティの作り込みは利用者側に委ねられます。専用ツールは、弁護士監修のひな形やチェック基準を備え、入力を学習に使わない運用や認証取得を明示している製品が多いのが特徴です。主な違いを機能軸で整理します。
| 汎用AIと契約書専用ツールの違い | 汎用AI(ChatGPT・Claude・Gemini) | 契約書専用ツール(リーガルAI) |
|---|---|---|
| 日本法・日本語契約への最適化 | 汎用的で、日本法に特化した学習・チェックではない | 弁護士監修のひな形・チェック基準を搭載 |
| 入力の学習不使用 | プラン・設定による。企業向けの設定が必要 | 学習不使用を明示し、認証を取得する製品が多い |
| 修正提案と根拠の提示 | 指示すれば提案するが、根拠の確からしさは要確認 | 条文単位で根拠や修正案を示す製品が多い |
| 対応する契約類型 | 制限なく生成できるが、精度は類型により差がある | 製品ごとに対応範囲が定められている |
| 費用の目安 | 無料〜月額20ドル(約3,000円)程度(2026年10月時点) | 無料〜月額数万円以上(製品による) |
「自分で作る」か「専用ツールを使う」かの判断基準
どちらを選ぶかは、契約の量・機密性・自社の体制で決まります。契約の件数が月に数件程度で、定型的な内容が中心なら、汎用AIでたたき台を作り、人が確認する運用でも回ります。一方、契約の件数が多い、機密性の高い情報を扱う、法務の専任者がいないといった場合は、専用ツールのほうが安全で効率的です。
特に、「機密を外部のAIに入れたくない」「自分たちのチェックだけでは不安」という懸念があるなら、日本法に対応し、入力を学習に使わないことを明示した専用ツールが選択肢になります。費用も、個人事業主向けの低価格帯から、法務部門向けの本格的な製品まで幅があります。次に、トピックに適したツールを比較し、個別に紹介します。
日本法・セキュリティ対応のツール比較
以下は、AIで契約書を作る・確かめる手段として使える、日本法対応のツールの比較表です。AIでの作成支援の有無、対応業務、セキュリティ、料金を一覧で確認できます。
| 日本法対応ツールの比較 | CLOUD LEGAL(クラウドリーガル) | LAWGUE(ローグ) | 法務オートメーション「OLGA」 | Hubble | LegalOn Cloud | LeCHECK(リチェック) | LegalBase(リーガルベース) | LawFlow(ローフロー) | GVA NDAチェック |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| AIでの契約書作成支援 | ●AI法務相談から契約書ドラフトを作成。弁護士監修ひな形 | ●作成・編集をAI支援(テンプレート・不足条項提案・体裁補正) | △契約書テンプレート(数百種超)で作成を支援。主軸はレビュー・管理 | ●対話AIで作成支援・ひな形500点超・英文ひな形あり・自動修正 | ●ドラフティングエージェント(ひな形選定〜初稿生成)・ひな形2,000点超 | △条文生成・ひな型1,300種超で作成を支援。主軸はレビュー | △弁護士監修ひな形1,100種超をDL(作成はひな形中心) | △契約書作成ツールとしても利用可。主軸はAIチェック | ×作成支援なし(NDAの確認に特化) |
| AIレビュー(リーガルチェック) | ●Word上で完結(CloudLegal AIエディター) | ●ナレッジAIレビュー(自社の過去文書を反映) | ●AI契約レビュー(リスク検出・修正案、自社基準対応) | ●自社基準AIレビュー・プレイブック(Word上) | ●弁護士監修AIレビュー(自社プレイブック対応) | ●弁護士監修AIレビュー(和文・英文、Wordアドイン) | ●AI契約書レビュー「LEGIEW」(抜け漏れ・リスク検出・修正案) | ●AI契約書チェック(43類型、弁護士開発・元裁判官監修) | ●NDA特化のAIレビュー(条文リスク可視化・修正例・有利/不利判定) |
| 対応契約類型・日本法/英文 | 日本法対応・英文対応 契約書全般+弁護士相談 | 日本法の各種文書に対応 英文ドキュメントのチェックも対応 | 日本法に対応(数百種超テンプレート) 英文契約のレビューにも対応 | 日本法の各種契約に対応 英文ひな形・多言語和訳に対応 | 日本法に対応(ひな形2,000点超) 英語・中国語など多言語レビュー対応 | 100類型以上に対応 和文・英文の両対応 | 日本法の契約書・社内規程に対応 英文対応は公式に明示なし | 43類型に対応(日本法) 英文対応は公式に明示なし | NDA(秘密保持契約書)単一類型のみ 確認特化・日本法対応 |
| セキュリティ(学習不使用・認証) | 学習不使用を明示 ISMS(ISO27001) | ISMS(ISO27001)・Pマーク | ISMS認証基準に準拠した認証を取得 | ISMS(ISO27001) | ISMS(ISO27001)・ISO27017(クラウド)・SOC 2 Type2 | ISMS(ISO27001)・ISO27017 | 認証は公式に明示なし(2026年10月時点) | 認証は公式に明示なし(2026年10月時点) | 通信暗号化・EV SSL・WAF 認証・学習利用の明示なし |
| 料金(税別・2026年10月時点) | 10,000円〜/月(税別・ブロンズ) 初期費用0円 | 要問い合わせ 個別見積もり | 要問い合わせ 中小企業向けプランは月額1万円〜(税別) | 要問い合わせ 月額基本料金+オプション | 要問い合わせ モジュール選択型 | 要問い合わせ 個別見積もり | 5,000円〜/月(税別・個人事業主) 従業員10名未満は10,000円 | 無料 スターター/エンタープライズとも無料 | 無料 完全無料(登録のみ) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 | オンライン相談を予約 | オンライン相談を予約 | サービス詳細を見る | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト |
費用をかけずにまず試したい場合は、比較表で料金が「無料」または低価格帯のツールが入口になります。無料・低価格のツールで使用感と出力の質を確かめ、契約の件数が増えたり、より高いセキュリティ(入力の学習不使用・認証)が必要になった段階で、本格的なツールへ移行する進め方も現実的です。
ここで取り上げたツールの多くは、契約書の作成だけでなく、AIによるレビュー(リーガルチェック)にも対応しています。作ったたたき台をどう確認するかというレビュー機能を軸に各サービスを比較したい場合は、以下の記事で選び方と機能を詳しく解説しています。
1. CLOUD LEGAL(クラウドリーガル)(MOLTON株式会社)

CLOUD LEGALは、AIによる契約書の作成とレビューに、弁護士への相談を組み合わせた法務支援サービスです。AI法務相談を起点に契約書のドラフトを作成でき、Word上で完結するAIレビューで不利な条項や欠落条項の検出と修正案の提示を受けられます。
公式サイトでは、生成AIが顧客情報を学習に使用しないことを明記し、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の認証を取得しています。月額10,000円(税別、税込11,000円)から(2026年10月時点)利用できます。法務の専任者を置きにくい中小企業や個人事業主が、機密を守りながらAIで契約書を作り、弁護士の確認まで一括で得られる点に強みがあります。
AIが作ったたたき台を人や専門家が確かめる工程は欠かせない一方で、その確認に時間がかかることが実務上の課題になります。この確認のスピードについて、同社は次のように説明しています。

特に分かりやすいのが対応スピードです。従来の顧問弁護士だと回答に1〜2週間かかることがありましたが、クラウドリーガルの弁護士相談や契約書レビュー・リーガチェックは1日、2日でお返しできています。また、クラウドリーガルで搭載しているリーガルAIも活用してさらに対応スピードを上げています。
2. LAWGUE(ローグ)(FRAIM株式会社)

文書の作成・編集に軸足を置いたクラウドの作業環境が、LAWGUEの特徴です。契約書の起草から編集、レビューまでを一つの画面で行え、自社のナレッジを踏まえたAIレビュー、不足条項の提案、版ごとの差分管理といった機能を備えています。
作成・編集の工程に重心があるため、契約書をAIで作る用途と直接かみ合います。ISMSとプライバシーマーク(Pマーク)を取得しており、自社でひな形を育てながらAIで効率化したい法務担当者に向いています。料金は要お問い合わせです(2026年10月時点)。
3. 法務オートメーション「OLGA」(GVA TECH株式会社)

OLGAは、AIによる契約レビューを主要な機能に据えた、日本法向けの法務プラットフォームです。数百種類を超える契約書テンプレートを備え、レビューだけでなく作成も支援します。
契約書の作成から審査までを一つの基盤で扱えるため、AIで契約書を作る入口から、締結前の確認までを連続して進められます。法務業務全体の自動化を掲げており、契約業務の標準化を進めたい企業に適しています。料金は要お問い合わせです(2026年10月時点)。
4. Hubble(株式会社Hubble)

普段使っているWordを起点に、契約書の作成・修正・版管理を一元化するのがHubbleの考え方です。対話型のAIによる契約書の作成支援に加え、AIエージェントがWord形式の契約書を直接修正して新しい版を生成する機能や、自社基準に沿ったAIレビューを備えています。
ひな形も多数用意され、英文のひな形提供も2026年9月に始まりました。ISMSを取得しており、Wordでの作成に慣れた現場に無理なく組み込みたい企業に向いています。料金は要お問い合わせです(2026年10月時点)。
この自社基準に沿ったAIレビューの仕組みについて、同社は蓄積された契約データの観点から次のように説明しています。

各社様ごとに、契約に対する取り組み方や「ここまでは許容できる」といった線引きがありますが、その情報は日々の契約業務のやり取りや、すでに締結が完了した契約書に蓄積されていきます。当社の場合は、そうした蓄積された情報をもとに、各社様の運用や判断基準に合わせた最適な形でAIがアウトプットしてくる仕組みになっています。
5. LegalOn Cloud(株式会社LegalOn Technologies)

LegalOn Cloudは、契約書の作成・レビュー・管理を同じ基盤でまかなう法務プラットフォームです。AIがひな形の選定から初稿の生成までを担うドラフティング機能、本文を直接修正する機能、弁護士監修のチェックリストによるAIレビューを備えています。
弁護士監修のひな形は2,000点を超え、ISMSやSOC 2 Type2といった認証も取得しています。契約業務の作成から確認、管理までを一つのツールに集約したい、契約件数の多い企業に適した選択肢です。料金は要お問い合わせです(2026年10月時点)。
まとめ
AIで契約書の初稿を作ることはできますが、作れるのは「たたき台」までです。実在しない条文が紛れ込むハルシネーション、入力した機密が学習に使われる情報漏洩、必要条項の欠落といったリスクがあり、締結前の確認は人・専門家・専用ツールが担う前提を崩せません。AIが作ったこと自体は契約の有効性を左右しませんが、問われるのは中身の適正さです。
安全に使うには、機密を仮名化し、学習に使わない設定を選び、社内ひな形と連携させ、段階的に生成してチェックリストで確かめるのが基本です。契約の量が多い、機密性が高い、法務の専任者がいないといった場合や、自社のチェックだけでは不安が残る場合もあります。そうしたときは、日本法に対応し、入力を学習に使わないことを明示した契約書専用ツールの活用が、現実的な解決策になります。
自社の契約業務に合うツールを、まずは資料で比較してみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 契約書作成AIとは何ですか?
A. 契約書作成AIとは、生成AIの技術を使って契約書の文案(初稿)を自動で作成したり、内容をチェックしたりするツールの総称です。ChatGPTなどの汎用の生成AIと、日本法に対応した契約書専用ツール(リーガルAI)に大きく分かれます。
汎用AIは手軽にたたき台を作れる反面、日本法への最適化やセキュリティ対策は利用者側の工夫に委ねられ、専用ツールは弁護士監修のひな形やチェック基準を備えている点が違います。
Q. AIで作った契約書は法的に有効ですか?
A. AIが作成したこと自体は、契約書の有効性を否定する理由にはなりません。契約は当事者の意思表示が合致すれば成立するのが原則で(民法第522条)、誰が文面を作ったかは直接問われないためです。ただし、法令に違反する条項がある、必要な条項が欠けている、誤った条文を引用しているといった内容面の不備は、無効や紛争の原因になります。
問われるのは作成の主体ではなく中身の適正さなので、締結前に人が内容を確認することが欠かせません。
出典・参考資料(1件)
Q. 自社の契約書をAIで作ると弁護士法72条(非弁行為)に触れますか?
A. 自社の契約書を自分で作るためにAIを使う行為そのものは、原則として弁護士法第72条が直接問題にする対象ではありません。同条が禁じているのは、弁護士でない者が「報酬を得る目的で」「業として」他人の法律事務を取り扱うことで、自社の契約を自己作成することは他人の法律事務の受託にはあたらないためです。論点になるのは、契約書の作成・レビューを第三者に提供する事業者側の立場です。
この点について法務省は、AI等を用いた法務業務支援サービスと弁護士法第72条の関係を整理したガイドラインを2026年8月21日に公表しています。価値中立的なサービスとして提供し、紛争性のある案件は弁護士に案内するなどの適切な体制を整えていれば、一般的には同条に抵触しないと整理されています。
出典・参考資料(2件)
Q. ChatGPTで契約書を作ると情報漏えいのリスクはありますか?対策はありますか?
A. 汎用AIの無料プランや標準設定では、入力した内容がAIの学習データに使われる場合があり、情報漏えいのリスクがあります。契約書には取引先名・金額・個人情報といった秘密情報が含まれるため、そのまま入力すると機密が意図せず外部のモデルに渡るおそれがあります。
対策としては、取引先名や金額を「甲」「乙」などの仮名に置き換えてから入力する、入力内容を学習に使わない企業向けプランや管理者設定を利用する、といった方法が有効です。実際の契約情報を扱うなら、学習に使われない契約・設定で利用するのが前提になります。
Q. 無料で使える契約書作成AIはありますか?
A. ChatGPT・Claude・Geminiなどの汎用AIには無料プランがあり、基本的な契約書のたたき台は無料でも作成できます。ただし無料版は1日あたりの生成回数や扱える文章量に制限があり、入力が学習に使われる設定の場合もあります。
月に数件程度で定型的な契約なら無料版でも対応できますが、機密情報を扱う場合や、より高い精度・セキュリティを求める場合は、有料プランや日本法に対応した専用ツールの利用が現実的です。
Q. 契約書を作るなら汎用AIと専用ツール(リーガルAI)のどちらがよいですか?
A. 契約の量・機密性・自社の体制で選ぶのが基本で、月数件の定型契約なら汎用AI、契約件数が多い・機密性が高い・法務の専任者がいない場合は専用ツールが向いています。汎用AIは手軽でコスト効率が高い反面、日本法への最適化やセキュリティ対策は利用者側の工夫に委ねられます。
専用ツールは弁護士監修のひな形や入力の学習不使用の明示、条文単位の根拠提示などを備える製品が多く、安全性と効率の面で優位です。「機密を外部AIに入れたくない」「自分たちのチェックだけでは不安」と感じる段階が、専用ツールへの切り替えどきの目安になります。
Q. 契約書専用ツール(リーガルAI)は中小企業でも使えますか?
A. 中小企業や個人事業主でも使えます。かつては法務部門を持つ中〜大規模企業向けの高額な製品が中心でしたが、近年は月額1万円台から利用できる製品も登場しています。契約の件数や予算に応じて選べるため、法務の専任者を置きにくい規模でも、機密を守りながらAIで契約書を作る・確かめる手段として現実的な選択肢になります。
Q. フリーランス保護法に対応した契約書はAIで作れますか?
A. 汎用AIでも、プロンプトに「フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の要件を満たすこと」と明示すれば、対応した契約書の案を作れます。ただし同法は2024年11月施行と比較的新しいため、AIの学習データへの反映が十分でない可能性があります。給付の内容・報酬の額・支払期日などの明示事項(同法第3条)が漏れていないかは、特に人の確認が必要です。
Q. 英文契約書を作るのにAIは使えますか?
A. 英文契約書の作成にも生成AIは使えますが、日本語の契約書以上に、準拠法や現地の法制度に合っているかの確認が重要になります。AIは英文のたたき台を自然な表現で作れる一方、適用される国の法律や判例に沿っているか、現地特有の慣行を踏まえているかまでは保証しません。重要な英文契約は、英文のひな形提供に対応した専用ツールや、国際取引に詳しい専門家の確認を前提にするのが安全です。
Q. AIで作成した契約書の著作権は誰のものになりますか?
A. 契約書の文面は、実務上、著作権が問題になる場面は限られます。契約書のように表現の選択の幅が小さい実用的な文書は、そもそも著作物として保護される範囲が狭いと考えられているためです。加えて、現行の著作権法では、人の創作的な関与がないままAIが自律的に生成したものは著作物として扱われにくいと整理されています。
自社で使う契約書の文面としての利用で著作権が障害になることは一般に少ないですが、他社が作成したひな形をそのまま流用する場合は、元の文書の著作権に注意が必要です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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