飲食店を開こうと考えたとき、まず気になるのが「開業にいくら必要で、足りない分をどうやって集めるのか」という点です。物件を借り、内装を整え、厨房機器をそろえ、さらに開業してしばらくの運転資金まで見込むと、必要な金額は手元の貯金だけではまかないきれないことがほとんどです。
資金の調達手段には、日本政策金融公庫の創業融資、自治体と信用保証協会による制度融資、補助金・助成金、自己資金や親族からの借入、クラウドファンディング、そしてノンバンクの事業者向けローンなど、いくつもの選択肢があります。それぞれ「いくらまで・どんな条件で・いつ使えるか」が異なるため、全体像を知らないまま一つの方法に絞ると、資金計画でつまずきやすくなります。
この記事では、まず開業資金の総額と内訳の相場を公的な調査データで確認し、そのうえで主な資金調達手段を金額・金利・スピード・開業前に使えるかで横並びに比較します。公庫の創業融資や補助金といった公的な手段を中心にすえつつ、公庫でまかないきれない分や開業後のつなぎに使えるノンバンクの事業者向けローンまで含めて、自分の業態・規模に合った資金計画を描けるように整理しました。
目次
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飲食店の開業資金はいくら?総額の相場(平均・中央値)
まずは、開業資金の総額の相場を公的な調査データから確認します。飲食店だけに絞った開業費用の公的な平均値は公表されていないため、全業種の開業データを基準にしたうえで、飲食店の実態で補正していく形で読み進めてください。
日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」によると、開業費用は全業種平均で975万円、中央値は600万円でした。平均と中央値に差があるのは一部の大型開業が平均を押し上げているためで、より実感に近いのは中央値の600万円前後です。
これは全業種をまとめた数値で、飲食店に限った公的な平均値は公表されていません。ただし飲食店は物件取得費や厨房設備の負担が大きい業種のため、この全業種の水準(中央値600万円前後〜平均1,000万円弱)を自分の店の規模・業態に当てはめて読むのが出発点になります。業態別のより細かい目安は後述します。
開業費用の平均値は975万円、中央値は600万円であり、長期的にみると少額化の傾向にある。
出典:2025年度新規開業実態調査(2025年12月5日公表)|日本政策金融公庫総合研究所
同じ調査では開業費用の分布も示されており、「250万円未満」が20.1%、「250万〜500万円未満」が21.7%と、あわせて4割以上が500万円未満で開業しています。小規模なカフェやバーを居抜き物件で始めるなど、工夫しだいで数百万円規模の開業も十分に現実的だといえます。一方で、大型店や設備投資の重い業態では1,000万円を大きく超えることもあり、必要額は店舗の規模と業態で大きく変わります。
また、同調査では、開業時の資金調達額は平均1,219万円で、その内訳は「金融機関等からの借り入れ」が平均827万円(調達額の67.9%)、「自己資金」が平均279万円(同22.9%)と、両者で全体の9割を占めています。開業資金の多くを融資でまかなうのが一般的で、その中心が次章以降で解説する公庫の創業融資です。
出典・参考資料(1件)
- 出典:2025年度新規開業実態調査(2025年12月5日公表)|日本政策金融公庫総合研究所(https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/kaigyo_251205_1.pdf)
飲食店の開業資金の内訳|何にいくらかかるか
総額の次は、その資金が何にかかるのかを費目別に分解します。日本政策金融公庫の「居酒屋の創業ポイント」では、飲食店の開業に必要な資金が設備資金と運転資金の2つに整理されています。
設備資金は、店舗取得費(敷金・保証金など)、内装工事・電気工事、厨房機器、什器・備品、看板工事といった、開店までに一度きりでかかる費用です。運転資金は、食材・酒類の仕入れ、家賃、人件費、水道光熱費、広告宣伝費、消耗品費など、開店後に毎月かかる費用を指します。
費目ごとの金額は立地・規模・業態で変わりますが、小〜中規模店の目安を整理すると次のようになります。公的な費目別統計は公表されていないため、以下は相場感をもとにした目安として、総額を組み立てる際の当たりをつけるのにお使いください。
| 費目 | 物件取得費 | 内外装工事費 | 厨房機器・設備 | 什器・備品・食器 | 広告宣伝費・開業前費用 | 当面の運転資金・生活費 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 目安 | 家賃の6〜10か月分 | スケルトンで坪20万〜50万円 | 100万〜300万円 | 50万〜100万円 | 数十万円〜 | 固定費+生活費の6か月分 |
| 補足 | 月額20万円の物件なら120万〜200万円程度。立地で変動 | 居抜き物件なら圧縮できる | 中古・リースの活用で圧縮できる | 席数・コンセプトで変動 | 販促・求人・各種届出など | 売上が安定するまでの備え |
※費目別の金額は立地・規模・業態・居抜きかスケルトンかで変わります。上記は相場感にもとづく目安です。
資金計画で見落としやすいのが、この運転資金と、経営者自身の生活費です。開業直後は売上が安定しないことが多いため、初期費用とは別に、毎月の固定費と生活費のそれぞれ半年分ほどを手元に残しておくと、開店後に資金がショートするリスクを大きく下げられます。「売上がゼロでも半年は店を回せる現金を残す」という考え方で見積もると安心です。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:居酒屋の創業ポイント|日本政策金融公庫(https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/sougyou-point/202405/index.html)
業態別の開業資金の目安(居酒屋・カフェ・レストラン・バー)
必要額は業態によっても変わります。業態別の開業資金を示した公的な統計はないため、以下はこれまでの相場感をもとにした目安です。実際の金額は立地・規模・居抜きかスケルトンかで上下するため、あくまで当たりをつけるための参考として捉えてください。
| 業態 | 居酒屋 | カフェ | レストラン | バー・スナック(小規模) |
|---|---|---|---|---|
| 開業資金の目安 | 700万〜2,500万円程度 | 500万〜1,200万円程度 | 800万〜2,500万円程度 | 300万〜1,500万円程度 |
| 資金面の特徴 | 厨房設備が重く席数も多め。酒類仕入れと人件費の運転資金が必要 | 内装・厨房の作り込みしだい。席数と滞在時間から運転資金を見込む | 内外装と厨房の投資が大きい。人件費と食材費の運転資金を厚めに | 席数が少なく小さな物件で始めやすい。酒類仕入れと固定費を見込む |
いずれの業態でも、居抜き物件を活用すれば内外装工事費を数百万円単位で抑えられるため、同じ業態でも必要額は大きく変わります。まずは自分の業態と規模で「設備資金+運転資金+生活費」を書き出し、総額をつかむところから始めましょう。
開業資金を抑えるための工夫
必要な資金を調達で埋めるだけでなく、そもそもの開業資金を抑えれば、借入額も返済負担も軽くなります。ここでは総額を圧縮する現実的な方法を紹介します。
居抜き物件・中古設備を活用する
最も効果が大きいのが、前の店舗の内装や厨房設備が残る居抜き物件の活用です。スケルトン物件をゼロから作り込む場合に比べ、内外装工事費を大きく圧縮できることがあります。厨房機器も、中古やアウトレット品を使えば初期費用を下げられます。ただし居抜きは設備の残り寿命しだいで後から交換費用がかさむこともあるため、「あと何年使えるか」を確認してから判断すると失敗が減ります。
内装のDIY・リース/レンタルで初期投資を分散する
内装の一部を自分で手がけたり、厨房機器をリース・レンタルにしたりすると、開業時にまとめて出ていく現金を減らせます。ただし電気・ガス・水道の工事は資格を持つ専門業者でなければ行えないため、DIYは対象を見極めて取り入れることが大切です。リースは総支払額が購入より高くなる場合もあるので、初期の現金負担と総コストのバランスで判断します。
小規模から始める・相見積もりで工事費を抑える
いきなり大型店を目指さず、小規模店やテイクアウト専門・キッチンカーから始めれば、初期費用も運転資金も抑えられます。また、内外装工事は業者によって見積もりが大きく異なるため、複数社から相見積もりを取るだけで工事費が下がることがあります。あわせて、想定外の追加工事に備えて予備費を別に見込んでおくと、慌てずに対応できます。
飲食店の資金調達方法を比較(金額・金利・スピード・開業前に使えるか)
ここからは、飲食店の資金調達に使える主な手段を横並びで比較します。それぞれ「いくらまで・金利はどのくらい・どのくらいの早さで・開業前に使えるか」が異なります。まず全体像を一覧でつかみ、そのうえで自分の状況に合う手段を選びましょう。
資金調達手段の横断比較表
| 調達手段 | 日本政策金融公庫の創業融資 | 制度融資(信用保証協会の保証付き) | 民間銀行・ネット銀行の融資 | 補助金・助成金 | ノンバンクの事業者向けローン | 自己資金・親族からの借入 | クラウドファンディング |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 金額の目安 | 限度額7,200万円(新規開業・スタートアップ支援資金) | 自治体により異なる | 審査しだい | 制度により数十万〜数百万円 | 数十万〜1,000万円程度 | 用意できる範囲 | 企画しだい |
| 金利の傾向 | 長期・低金利 創業期は利率0.65%引下げ | 低め(自治体が利子・保証料を一部補助する場合あり) | 公庫より高めになりやすい | 返済不要(ただし原則後払い) | 公庫・銀行より高め | 利息なし(親族は条件しだい) | 購入型は返済不要/融資型は利息あり |
| スピード | 申込〜決定まで平均3週間程度 | やや時間がかかる(自治体・金融機関・協会の三者手続き) | 銀行により幅がある | 公募期間・審査・報告を経るため時間がかかる | 最短即日〜数日と速い | すぐ使える | 募集期間が必要(数週間〜数ヶ月) |
| 担保・保証 | 創業期は原則不要 | 連帯保証人・担保なしでも利用可 | 求められる場合がある | 不要 | 無担保・保証人不要が中心 | 不要 | 不要 |
| 開業前に使えるか | 使える(開業資金の中心) | 使える(創業向けメニューあり) | 実績が無い創業時はハードルが高い | 対象経費と時期が合えば使える | 業歴・確定申告を求める商品が多く開業前は使いにくい | 使える | 使える(開業前の話題づくりにも) |
| 向くケース | 開業資金の本命。まず相談したい | 公庫と並ぶ公的融資の選択肢。地元で相談したい | 開業後、取引実績ができてから (詳しくは後述) | 返済不要の資金を上乗せしたい。立替資金を用意できる | 公庫で足りない・間に合わない分、開業後のつなぎ | 融資の自己資金としても評価される土台 | ファンや話題づくりとあわせて集めたい |
※上記は各手段の一般的な傾向をまとめた目安です。金額・金利・条件は制度改定や各社の取扱いにより変わるため、最新の内容は各制度・各社の公式情報でご確認ください。
状況別の調達手段の選び方
どの手段から動くべきかは、自己資金・開業規模・業態・急ぎ度で変わります。基本の組み立ては、返済不要の自己資金・補助金を土台にしつつ、開業資金の中心を公庫の創業融資でまかない、それでも足りない分や急ぎの資金をノンバンクで補うという形です。
- 自己資金が少なめ:まず公庫の創業融資と制度融資を軸に。補助金で返済不要の資金を上乗せできないかも検討する
- 開業時期が迫っている・つなぎが要る:公庫は決定まで数週間かかるため、物件契約や工事の支払いに間に合わない分は、スピードの速いノンバンクの事業者向けローンで一時的に補う
- 小規模・低予算で始める:居抜き・中古設備で総額を抑え、自己資金+公庫の組み合わせで無理なく
- 話題性を活かせる業態:クラウドファンディングで開業前からファンと資金を集める方法も合わせて検討する
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日本政策金融公庫の創業融資(新規開業・スタートアップ支援資金)
飲食店の開業資金の中心になるのが、日本政策金融公庫(以下、公庫)の創業向け融資です。公庫は政府系の金融機関で、民間の金融機関から融資を受けにくい創業時の事業者を支える役割を担っています。
新たに事業を始める人や事業開始後おおむね7年以内の人が使えるのが「新規開業・スタートアップ支援資金」で、融資限度額は7,200万円です。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内(いずれも据置期間5年以内)と長く、ゆとりを持って返済できる設計になっています。
さらに、創業期の人(新たに事業を始める人、または事業開始後に税務申告を2期終えていない人)には、次の優遇が用意されています。
【POINT1】無担保・無保証人融資 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人で各種融資制度をご利用いただけます。
出典:創業融資のご案内|日本政策金融公庫
【POINT2】利率を一律0.65%引下げ 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方は、原則として0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)引下げとなります。
このように創業期は、担保や保証人を用意できなくても原則として融資を申し込め、金利も一律で引き下げられます。民間融資のハードルが高い開業前後の時期に、公庫がまず検討したい選択肢になる理由がここにあります。
融資の申し込みから決定までは、公庫のQ&Aによると平均で3週間程度とされています。物件契約や工事の発注より前に、余裕をもって事前相談を済ませておくと安心です。
実際に適用される利率は、資金の使いみち・返済期間・担保の有無によって決まります。創業期の方は上記のとおり一律で0.65%引き下げられますが、基準となる利率は定期的に見直されるため、具体的な適用利率は公庫の窓口や公式サイトの利率一覧で最新のものを確認してください。
出典・参考資料(3件)
- 参考資料:新規開業・スタートアップ支援資金|日本政策金融公庫(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html)
- 出典:創業融資のご案内|日本政策金融公庫(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/sogyoyushi.html)
- 参考資料:Q&A(創業支援)|日本政策金融公庫(https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/faq/)
制度融資・信用保証協会の保証付き融資
公庫と並ぶ公的な選択肢が、自治体の「制度融資」です。これは、都道府県や市区町村といった自治体、地元の金融機関、そして信用保証協会の三者が連携して提供する融資の仕組みです。
信用保証協会は、信用保証協会法に基づいて中小企業・小規模事業者の資金調達を支えるために設けられた公的機関で、全国の47都道府県と4市(横浜市・川崎市・名古屋市・岐阜市)に置かれています。創業時のように実績が乏しく、そのままでは銀行融資を受けにくい事業者でも、信用保証協会が保証人の役割を果たすことで、金融機関から融資を受けやすくなります。
仕組みを押さえるうえで大切なのが「代位弁済」です。万一返済できなくなった場合、信用保証協会がいったん金融機関へ立て替えて返済しますが、その後は事業者が信用保証協会へ返済していくことになります。保証があっても返済義務がなくなるわけではない点は理解しておきましょう。利用時には金利に加えて信用保証料がかかりますが、自治体によっては利子や保証料の一部を補助する制度もあります。
制度融資の条件は自治体ごとに異なるため、開業予定地の自治体や商工会議所の窓口で、創業者向けのメニューがあるかを確認するとよいでしょう。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:信用保証協会と信用保証制度|全国信用保証協会連合会(https://www.zenshinhoren.or.jp/guarantee-system/)
飲食店が使える補助金・助成金
融資とあわせて検討したいのが、返済不要の補助金・助成金です。飲食店の開業・運営で使える代表的なものを紹介します。ただし、補助金・助成金には共通する注意点があるため、先にそちらを押さえておきましょう。
補助金は「後払い」が原則
多くの補助金は「後払い(精算払い)」の仕組みです。たとえば小規模事業者持続化補助金では、交付決定を受けてから発注・支払いを行い、実績報告を経て補助金額が確定したうえで、精算払いを請求して入金される流れになっています。交付決定の前に発注・契約・支払いをしたものは補助の対象外です。
採択されても一度は自分で経費を立て替える必要があり、入金は事業完了・報告の後になります。補助金を当てにするときは、入金までのあいだをつなぐ資金まで含めて計画を立てておかないと、採択されても手元資金が回らない事態になりかねません。立替・つなぎの資金として、公庫やスピードの速いノンバンクの短期資金を備えておくと安心です。
代表的な補助金・助成金
飲食店で活用を検討しやすい代表的な制度は次のとおりです。いずれも補助率・上限額・対象経費は年度や公募回で変わるため、申請前に必ず公式の最新の公募要領を確認してください。
- 小規模事業者持続化補助金(一般型 通常枠):販路開拓などの取り組みを補助する制度。補助率2/3、補助上限50万円が基本で、インボイス特例や賃金引上げ特例に該当すると上限が上乗せされます(第18回公募・2025年9月時点)
- デジタル化・AI導入補助金(旧 IT導入補助金):POSレジ・予約管理・会計ソフトなどのITツール導入を補助する制度。2026年度から名称が変わりました。補助率1/2〜2/3、補助額は導入内容に応じて数万円〜450万円程度
- キャリアアップ助成金(正社員化コース):有期雇用のパート・アルバイトを正社員に転換した場合などに支給される厚生労働省の助成金。中小企業では1人あたり40万円(重点支援対象者は80万円。令和7年度)が目安
補助金は開業前の大きな初期費用を直接まかなうより、開業後の販路開拓・IT化・雇用といった取り組みを後押しする性格のものが中心です。開業資金そのものは融資で確保し、補助金は返済不要の上乗せとして活用する、と位置づけると計画が立てやすくなります。
出典・参考資料(3件)
- 参考資料:小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>(https://www.jizokukanb.com/)
- 参考資料:中小企業デジタル化・AI導入支援事業(デジタル化・AI導入補助金2026)通常枠(https://it-shien.smrj.go.jp/applicant/subsidy/normal/)
- 参考資料:キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度)|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001512366.pdf)
自己資金・親族・クラウドファンディングでの調達
融資や補助金以外の手段として、自己資金・親族からの借入・クラウドファンディングもあります。いずれも融資の土台や補完として重要です。
自己資金の目安(開業資金ゼロで開業できるか)
公庫のQ&Aによると、自己資金の目安は創業資金総額に占める割合が平均で2割程度とされています。ただし公庫は「自己資金は重要な要素のひとつですが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要になります」とも示しており、自己資金の額だけで融資の可否が決まるわけではありません。
では自己資金ゼロで開業できるかというと、制度上は融資などを組み合わせれば不可能ではないものの、現実にはハードルが上がります。自己資金は「制度上の必須条件」ではなく「審査で計画性と本気度を示す材料」として実質的に重要だと理解し、できる範囲で準備しておくのが望ましいでしょう。
また、開業直前に他人から借りて口座に入れた「見せ金」は審査で見抜かれやすく、コツコツ積み立ててきた通帳の履歴のほうが計画性を示す材料として評価されやすい点も押さえておきましょう。
親族・知人からの借入
親族や知人からの支援は、金利や返済の条件を柔軟にしやすいのが利点です。公庫の創業計画書でも、資金の調達方法として「親、兄弟、知人、友人等からの借入」の欄が用意されています。ただし、返済義務のある借入なのか、返済不要の贈与・出資なのかで、融資審査での自己資金としての扱いが変わります。金額・返済条件を書面で明確にしておくと、後々のトラブルを防げるうえ、審査でも説明しやすくなります。
クラウドファンディング
クラウドファンディングは、インターネットを通じて多くの人から少額ずつ資金を募る方法です。開業後のメニューや優待を返礼にする「購入型」なら返済は不要で、開業前から店のファンや話題をつくれる点も魅力です。
一方で、目標額に届くとは限らず、募集期間も数週間〜数ヶ月かかるため、確実性やスピードを求める資金には向きません。本命の調達手段というより、話題づくりとあわせて上乗せを狙う位置づけで検討するとよいでしょう。
融資審査に通すための準備と進め方
最後に、資金計画づくりから融資の実行までの段取りを確認します。順序を押さえておくと、物件契約や開業のタイミングと資金調達がかみ合いやすくなります。
創業計画書の作り方
融資審査で最も重視されるのが創業計画書です。公庫の創業計画書の様式は、創業の動機、経営者の略歴、取扱商品・サービス(セールスポイント・販売ターゲット・競合など)、取引先、必要な資金と調達方法、事業の見通しといった項目で構成されています。
特に「必要な資金と調達方法」は、設備資金・運転資金の内訳と、自己資金・親族からの借入・公庫からの借入・他の金融機関からの借入をどう組み合わせるかを対応させて書く欄です。開業の総額と内訳、売上・利益の見通し、返済の計画を、根拠となる数字とともに具体的に示せるかが通過のカギになります。
飲食店では、売上予測を「客単価×座席数×回転数」で見積もると根拠を示しやすくなります。公庫には飲食店向けの記入例(洋風居酒屋)も用意されているため、作成の参考にするとよいでしょう。商工会議所などの無料の創業相談で、計画を第三者の目でチェックしてもらうのも有効です。
申し込みの順序
進め方の基本は、まず総額と内訳を書き出して自己資金と借入額の配分を決め、創業計画書を固めたうえで、公庫への事前相談から動き出すことです。公庫は申し込みから決定まで平均3週間程度かかるため、物件契約や工事の発注より前に余裕をもって相談を始めるのが安全です。
公庫で希望額に届かない・審査に時間がかかって間に合わない場合に備え、制度融資やスピードの速いノンバンクの事業者向けローンといった補完手段を候補として押さえておくと、資金計画に厚みが出ます。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:各種書式ダウンロード(創業計画書)|日本政策金融公庫(https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html)
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開業後の資金繰りと運転資金の調達
資金調達は開業時だけの話ではありません。開業後も、売上が安定するまでの運転資金や、急な出費への備えが必要になります。開業後の調達手段には、取引実績を積んでから検討しやすい民間銀行・ネット銀行の融資と、急ぎのつなぎに使えるノンバンクの事業者向けローン(次章)という段階の違う選択肢があります。ここではまず資金繰りの考え方と、民間銀行・ネット銀行の融資を整理します。
開業後の資金繰り管理
飲食店の資金繰りでつまずきやすいのが、入金と支払いのタイミングのずれです。仕入れや家賃・人件費は先に出ていく一方、売上の入金は後になることがあり、利益が出ていても手元の現金が不足する「黒字倒産」につながることもあります。
食材費(Food)・人件費(Labor)・家賃(Rent)を合わせたFLRコストは、飲食店の費用の大きな部分を占めます。ここが膨らむと資金繰りが一気に苦しくなるため、毎月の入出金を把握し、数ヶ月先まで資金の動きを見通しておくことが、安定経営の前提になります。
民間銀行・ネット銀行の融資
開業後、取引実績や決算を重ねていくと、民間の銀行やネット銀行からの融資も選択肢に入ってきます。一般に金利は公庫より高めになりやすく、開業前で実績のない段階では審査のハードルが高いものの、事業が軌道に乗ってからの設備更新や事業拡大の資金として検討できます。まずは開業時に取引を始めた金融機関と関係を築いておくと、その後の追加融資の相談がしやすくなります。
つなぎ・運転資金に使える事業者向けローン
公庫の創業融資は本命ですが、「希望額に満たなかった」「審査に時間がかかり物件契約に間に合わない」「開業後に急な資金が必要になった」といった場面もあります。こうしたときに公庫を補う選択肢になるのが、ノンバンクの事業者向けローンです。
金利は公庫より高めですが、最短即日〜数日で資金化できるスピードと、比較的申し込みやすい点が強みです。足りない分の補填・補助金入金までのつなぎ・急ぎの運転資金といった用途に向きます。ただし、これらは業歴や確定申告を求める商品が多く、開業前にすぐ使えるとは限りません。開業資金そのものは公庫などで確保し、「いざという時」の備えとして押さえておくのが現実的です。
選び方のポイント
事業者向けローンを選ぶときは、実質年率(金利)・融資限度額・融資スピードに加え、自分が申し込める対象かを必ず確認しましょう。個人事業主専用の商品もあれば、法人・個人事業主の両方に対応する商品もあります。また「業歴1年以上」「確定申告を1回以上終えている」といった条件が付くものが多く、これから開業する段階では申し込めない場合があります。
金利・限度額・スピードは各社で異なるため、下の比較表と各サービスの特徴をあわせて確認してください(掲載条件は2026年時点の各社公式情報にもとづく目安で、最新の条件は各社公式サイトでご確認ください)。
| サービス名 | AGビジネスサポート 事業者向けビジネスローン | アコム ビジネスサポートカードローン | プロミス 自営者カードローン |
|---|---|---|---|
| 実質年率 | 3.1%〜18.0% | 12.0%〜17.9% | 6.3%〜17.8% |
| 融資限度額 | 50万円〜1,000万円 | 1万円〜300万円 | 1万円〜300万円 |
| 融資スピード | 最短即日 | 最短即日 | 最短1時間 |
| 担保 | 不要 | 不要 | 不要 |
| 対象 | 法人・個人事業主 | 個人事業主専用 (業歴1年以上) | 個人事業主専用 |
| 詳細情報 | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
※上記は2026年時点の各社公式情報にもとづく目安です。金利・限度額・条件は変わる場合があるため、最新の内容は各社公式サイトでご確認ください。
1. AGビジネスサポート 事業者向けビジネスローン(AGビジネスサポート株式会社)

アイフルグループで事業者向け融資を専門に扱うAGビジネスサポートのビジネスローンです。実質年率3.1%〜18.0%、融資限度額は50万円〜1,000万円と、今回紹介する中では枠が大きく、最短即日融資に対応する点が強みです。無担保で利用でき、対象は法人(75歳まで)と個人事業主(69歳まで)。まとまった開業資金の一部を素早く補いたい場面で力を発揮します。
必要書類は、法人なら決算書、個人事業主なら確定申告書と事業内容確認書が基本です。返済は元利均等返済で最長5年、元金一括返済なら最長1年と、資金の使い方に合わせて選べます。公庫の審査を待つ間のつなぎや、希望額に届かなかった分の上乗せに向いています。
2. アコム ビジネスサポートカードローン(アコム株式会社)

三菱UFJフィナンシャル・グループのアコムが提供する、個人事業主専用のカードローン型ビジネスローンです。通常のカードローンとは別商品で、事業資金に利用できます。実質年率は12.0%〜17.9%、利用限度額は1万円〜300万円で、最短即日での利用に対応しています。
事業性融資のため総量規制の対象外となり、年収の3分の1を超える借入も可能です。コンビニ・銀行ATMで借入・返済ができる手軽さも特徴で、限度額の範囲内なら繰り返し利用できます。対象は業歴1年以上の個人事業主のため、開業後に急な資金が必要になった場面で検討しやすい一社です。
3. プロミス 自営者カードローン(SMBCコンシューマーファイナンス株式会社)

大手消費者金融プロミスのブランドで、SMBCコンシューマーファイナンス(三井住友フィナンシャルグループ)が手がける個人事業主向けの商品です。実質年率は6.3%〜17.8%、利用限度額は1万円〜300万円。事業資金だけでなく生計費にも使え、総量規制の例外として年収の3分の1を超える借入ができる点も特徴です。
ローンカード型で、限度額の範囲内なら何度でも借入・返済ができます。Web完結の申し込みに対応し、運転資金・つなぎ資金・納税資金など事業の資金需要に幅広く使えます。ただし申し込みには事業開始後に一度は確定申告を終えている必要があるため、開業資金そのものよりも、開業後の運転資金の調達に向いた商品です。
ここで紹介したのは飲食店のつなぎ・運転資金に使いやすい3社ですが、事業者向けローンは金利・融資スピード・審査の柔軟性が各社で大きく異なります。法人・個人事業主別の選び方まで含めて、より多くの商品を見比べて検討したい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
飲食店の開業資金は、公庫調査の全業種平均で975万円・中央値600万円が一つの相場です。物件取得費・内外装工事費・厨房設備費といった設備資金に加え、開業後の運転資金と生活資金を半年分ほど見込むと、必要額を漏れなく見積もれます。
調達は、返済不要の自己資金・補助金を土台にしつつ、開業資金の中心を公庫の創業融資でまかない、足りない分や補助金入金までのつなぎをノンバンクの事業者向けローンで補う、という組み立てが現実的です。
公的な手段は決定まで時間がかかるため、まずは総額と内訳を書き出して自己資金と借入額の配分を決め、創業計画書を固めたうえで、公庫への事前相談から早めに動き出すのがおすすめです。早めに全体像を描いておけば、想定外の出費や審査結果にも落ち着いて対応できます。まずは自分の店の必要額を書き出すところから始めてみてください。
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飲食店の資金調達に関するよくある質問(FAQ)
Q. 飲食店の資金調達にはどんな方法がありますか?
A. 飲食店の資金調達には、日本政策金融公庫の創業融資、自治体の制度融資、補助金・助成金、自己資金や親族からの借入、クラウドファンディング、ノンバンクの事業者向けローンといった方法があります。開業資金の中心になるのは長期・低金利で借りられる公庫の創業融資で、返済不要の自己資金・補助金を土台にしつつ、足りない分や急ぎの資金を他の手段で補うのが基本の組み立てです。
Q. 飲食店の開業資金はいくらが相場ですか?
A. 開業費用は、日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査で全業種平均975万円、中央値600万円でした(飲食店に限定した統計ではありません)。平均と中央値に差があるのは一部の大型開業が平均を押し上げているためで、より実感に近いのは中央値の600万円前後です。飲食店では設備投資の重い業態ほど金額が上がり、1,000万円を超えることもあります。
Q. 飲食店は最低いくらから開業できますか?
A. 飲食店は、居抜き物件や中古設備を活用すれば数百万円規模から開業することも可能です。前述の公庫調査では開業費用が500万円未満だった人が4割以上を占めており、小規模なカフェやバーなら数百万円での開業も現実的です。ただし初期費用とは別に、毎月の固定費と生活費の半年分ほどの運転資金を手元に残しておくと、開店後の資金ショートを防げます。
Q. 飲食店は自己資金ゼロでも開業できますか?
A. 飲食店の開業は、融資などを組み合わせれば自己資金ゼロでも制度上は不可能ではありませんが、現実にはハードルが高くなります。公庫は自己資金の額だけで融資の可否を決めるわけではないものの、自己資金は審査で計画性や本気度を示す材料として実質的に重要です。また、開業直前に借りて口座に入れた「見せ金」は見抜かれやすく、コツコツ積み立ててきた通帳の履歴のほうが評価されやすい点も押さえておきましょう。
Q. 飲食店の開業に自己資金はどのくらい必要ですか?
A. 公庫のQ&A(創業支援)によると、創業資金総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度とされています。ただし公庫は「自己資金は重要な要素のひとつですが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要になります」とも示しており、割合はあくまで目安です。できる範囲で計画的に準備しておくと、審査でも計画性を示しやすくなります。
Q. 飲食店の開業資金は日本政策金融公庫でいくらまで借りられますか?
A. 新たに事業を始める人向けの「新規開業・スタートアップ支援資金」なら、融資限度額は7,200万円です。創業期(新たに事業を始める人、または事業開始後に税務申告を2期終えていない人)は原則として無担保・無保証人で利用でき、利率も一律0.65%引き下げられます。返済期間も設備資金20年以内・運転資金10年以内と長期で、創業時にまず検討したい中心的な選択肢です。
Q. 日本政策金融公庫の融資は申し込みから実行までどのくらいかかりますか?
A. 公庫のQ&A(創業支援)によると、融資の申し込みから決定までは平均で3週間程度とされています。物件契約や工事の発注に間に合わせるには、早めに事前相談を済ませておくことが大切です。希望額に届かない・審査に時間がかかる場合に備え、スピードの速い補完手段も候補に入れておくと安心です。
Q. 飲食店が補助金を利用するときの注意点は何ですか?
A. 多くの補助金は「後払い(精算払い)」で、採択されても経費をいったん自分で立て替える必要がある点です。たとえば小規模事業者持続化補助金では、交付決定の前に発注・支払いをしたものは補助の対象外で、入金は事業完了・実績報告のあとになります。補助金を当てにするときは、入金までのあいだをつなぐ資金まで含めて計画を立てておかないと、採択されても手元資金が回らなくなりかねません。
Q. 飲食店で公庫の融資が希望額に届かない・審査に通らなかったときはどうすればいいですか?
A. 公庫で足りない・間に合わないときは、自治体の制度融資や、ノンバンクの事業者向けローンで不足分やつなぎ資金を補う方法があります。ノンバンクの事業者向けローンは金利が公庫より高めになる一方、最短即日〜数日と資金化が速いのが強みです。ただし業歴や確定申告を求める商品が多く、これから開業する段階では申し込めない場合があるため、開業後のつなぎや急ぎの運転資金の備えとして押さえておくのが現実的です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。















