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退職金を給与天引きで積み立てられる?社内積立の可否と選択制の企業型DCを解説

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退職金・企業型DC(企業型確定拠出年金)比較表(2026年版)のプレビュー

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退職金・企業型DC(企業型確定拠出年金)比較表(2026年版)

従業員の退職金を、毎月の給与から天引きする形で積み立てられないか。採用や定着のために福利厚生を厚くしたい一方で、会社のキャッシュを大きく増やすのは避けたい。そう考えて「退職金 積立 天引き」と検索する経営者や管理部門の担当者は少なくありません。

ただ、同時に「勝手に給料から引いて積み立ててよいのか」「それは結局、従業員のお金を会社が預かるだけではないか」という不安もつきまといます。実際、給与天引きで退職金を積み立てる方法には、合法にできるものと、原則としてできないものがあります。

結論から言えば、会社が一方的に給与から天引きして社内に積み立てる形は、賃金の全額払い原則との関係で原則として行えません。一方で、従業員本人が「給与で受け取るか、積み立てるか」を選ぶ選択制の企業型確定拠出年金(企業型DC)であれば、給与の一部を掛金に振り替える形で合法的に積み立てられます。両者は仕組みも法的な扱いも異なります。

本記事では、給与天引きで退職金を積み立てる方法の可否と線引きを根拠とともに整理し、合法に積み立てられる選択制の仕組み・手取りや社会保険料への影響・注意点、中小企業退職金共済(中退共)など他の制度との違い、導入の始め方までを解説します。

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給与天引きで退職金は積み立てられる?結論と2つの系統の違い

「給与天引きで退職金を積み立てる」と一口に言っても、中身は大きく2つに分かれます。どちらを指しているかで、合法にできるか、何を整える必要があるかが変わります。

  • (ア)会社が給与から控除して社内に積み立てる形:会社が従業員の給与の一部を天引きし、退職金の原資として社内で管理する方法。賃金の全額払い原則や社内預金の規制が関わり、会社の都合で一方的に行うことは原則できません。
  • (イ)従業員本人が選ぶ選択制の企業型DC:給与のうち一定の範囲を「給与として受け取るか、掛金として積み立てるか」を従業員本人が選ぶ方法。本人の選択にもとづくため、給与天引きに近い形で合法的に積み立てられます。
給与天引きで退職金を積み立てる方法を2系統で対比した図解。会社が一方的に給与から控除して社内に積み立てる形は賃金の全額払い原則や社内預金の規制が関わり原則できないとし、従業員本人が給与で受け取るか掛金として積み立てるかを選ぶ選択制の企業型DCは合法に積み立てられるとしている。

この違いの根っこにあるのが、労働基準法が定める賃金の支払い方のルールです。賃金は本来、全額を従業員に支払わなければならず、そこから一部を差し引くには決められた手続きが要ります。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

出典:労働基準法 第24条|e-Gov法令検索

賃金から何かを差し引くには「法令に定めがある」か「労使協定がある」ことが前提です。会社が良かれと思って給与から退職金の積立分を天引きしても、この手続きを踏まなければ賃金の全額払い原則に抵触します。(ア)が原則としてできないと言われるのはこのためです。

一方(イ)は、給与の一部を掛金に振り替えることを従業員自身が選ぶ建て付けで、企業型DCという年金制度の枠組みのなかで行われます。次の2つの章で、それぞれの中身を順に見ていきます。

会社が給与から控除して社内に積み立てる場合の論点

ここでは(ア)の形、すなわち会社が給与から天引きして退職金の原資を社内に積み立てる場合に関わる法律上の論点を整理します。結論としては、従業員の意思によらず一方的に行うことはできず、行う場合も複数の要件を満たす必要があります。

まず、従業員の給与から天引きして会社が管理するお金は、労働基準法が定める「貯蓄金の管理」にあたり得ます。同法は、会社が従業員に貯蓄させたり貯蓄金を管理したりすること自体を原則として禁じています。

使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。

出典:労働基準法 第18条第1項|e-Gov法令検索

そのうえで、従業員の委託を受けて貯蓄金を管理する場合には、同条第2項以降が次の要件を定めています。これらは従業員の意思にもとづく任意の積み立てであることが前提で、会社が強制することはできません。

  1. 労働者の過半数を代表する労働組合または代表者との書面による協定を結び、行政官庁に届け出ること(第2項)
  2. 貯蓄金の管理に関する規程を定め、従業員に周知すること(第3項)
  3. 預金の受け入れにあたるときは、厚生労働省令で定める利率を下回らない利子をつけること(第4項)
  4. 従業員が返還を請求したときは、遅滞なく返還すること(第5項)

さらに、社内で預金の形で積み立てる場合は、会社の倒産などに備えた保全措置を講じる義務もあります。賃金の支払の確保等に関する法律(賃確法)第3条は、貯蓄金の管理が預金の受け入れであるときに、毎年3月31日時点の受入預金額について保全措置を講じるよう事業主に求めています。

加えて、これまで会社負担だった退職金を従業員の給与控除による積み立てに切り替えるような変更は、労働条件の不利益変更にあたる可能性があります。その場合は、原則として従業員や労働組合の合意が必要です。

このように、会社が給与から天引きして社内に積み立てる形は、労使協定・管理規程・利子・返還・保全措置・不利益変更への対応と、整えるべき事項が多く、事務負担も小さくありません。そのため実務では、次章の選択制の企業型DCのように、外部の年金制度の枠組みを使う方法が選ばれることが一般的です。

出典・参考資料(2件)

選択制の企業型DCなら合法に「天引き的」に積み立てられる

ここからは(イ)の形、従業員本人の選択にもとづいて給与の一部を掛金に振り替える方法を解説します。これは企業型確定拠出年金(企業型DC)を「選択制」で設計して導入する形で実現します。仕組み・手取りや社会保険料への影響・注意点を順に見ていきます。

選択制の企業型DCの仕組み(給与の一部を掛金に振り替える)

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が掛金を拠出し、従業員本人が運用方法を選んで老後の資産を準備する年金制度です。

確定拠出年金は、拠出された掛金が個人ごとに明確に区分され、掛金とその運用収益との合計額をもとに年金給付額が決定される年金制度で、掛金を企業が拠出する「企業型年金」と加入者自身が拠出する「個人型年金(iDeCo)」があります。

出典:確定拠出年金|厚生労働省 東北厚生局

この企業型DCを「選択制」で設計すると、給与天引きに近い形の積み立てが可能になります。具体的には、給与のうち一定の範囲(選択給などと呼ばれます)について、従業員が「これまでどおり給与で受け取る」か「掛金として積み立てる」かを自分で選びます。積み立てを選べば、その分が毎月の給与から差し引かれて掛金に回ります。

企業型DCには、会社が掛金を拠出する通常の形と、給与の一部を従業員の選択で掛金に振り替える選択制があります。給与天引きに近い積み立てにあたるのは後者です。選択制は「会社が退職金を用意してあげる制度」ではなく、従業員が自分の給与の一部を税・社会保険料の面で有利な形で積み立てられる仕組みを、会社が整えるものと捉えると分かりやすくなります。

会社の金銭的な負担は制度の運営費が中心で、掛金そのものは従業員の給与から振り替えられます。もちろん、会社が掛金を上乗せして拠出する設計を選ぶこともできます。

この建て付けの法的な土台は、企業型DCの規約で事業主が拠出する掛金の算定方法を定められる点にあります。確定拠出年金法は、事業主掛金を「定額又は給与に一定の率を乗ずる方法その他これに類する方法により算定した額」とすることを認めており、給与の一部を原資に掛金を決める選択制の設計はこの枠組みのなかで行われます。

会社が一方的に賃金から天引きする(ア)とは異なり、積み立てるかどうかを従業員本人が選ぶため、賃金の全額払い原則の問題を回避できます。

掛金には上限があります。他の企業年金がない場合、企業型DCの拠出限度額は月額55,000円です。この上限は2026年(令和8年)12月1日施行の改正で月額62,000円へ引き上げられる予定です。

出典・参考資料(2件)

天引きすると手取り・社会保険料・税はどう変わるか

選択制で給与の一部を掛金に振り替えると、その分は「賃金」ではなく企業型DCの掛金として扱われます。賃金ではなくなることで、社会保険料・所得税・住民税の計算から外れる点が、選択制の大きな利点です。

選択制の企業型DCで給与の一部を掛金に振り替えたときのお金の流れを示した図解。給与の一部を本人の選択で掛金に振り替えると、賃金ではなく掛金として扱われ、本人のDC口座に積み立てられるとともに社会保険料・所得税・住民税の計算から外れて負担が軽くなり、一時金で受け取る際は退職所得として退職所得控除が適用されることを順に示している。

社会保険料は、給与をもとに決まる「標準報酬月額」を基礎に計算されます。給与の一部を掛金に振り替えるとその分は賃金から外れて標準報酬月額が下がり、厚生年金保険料や健康保険料が軽くなります。これらは会社と従業員で折半するため会社の負担も減り、所得税・住民税も掛金に回した分が課税所得から外れて抑えられます。

イメージをつかむために、月額20,000円を掛金に振り替えた場合を考えます。振り替えた20,000円は消えるのではなく、従業員本人のDC口座に積み立てられます。そのうえで、社会保険料・所得税・住民税の負担が軽くなるという関係です。

厚生年金保険料率は18.3%(会社と従業員で折半し本人負担は9.15%)、健康保険料率を協会けんぽの例でおよそ10%(本人負担5%程度)とすると、社会保険料の本人負担は掛金20,000円に対しておよそ月2,800円軽くなります。これに所得税・住民税の軽減(税率は所得によって変わります)が加わります。

年額で見ると、月20,000円の振り替えは年間240,000円の積み立てにあたります。社会保険料の本人負担は年およそ3.4万円(月2,800円×12か月)軽くなり、折半のため会社側も同程度の負担減になります。

さらに、振り替えた年240,000円は課税所得から外れるため、所得税・住民税の合計税率が20%の人であれば年およそ4.8万円の税負担が軽くなる計算です。社会保険料と税を合わせると、本人の負担軽減は年8万円前後が一つの目安になります(適用税率や標準報酬月額の等級によって変わります)。

実際の金額は給与水準・加入する健康保険・扶養の状況によって変わるため、導入時には自社の条件で試算することが欠かせません。積み立てそのものの規模は、月20,000円を20年間続けた場合で掛金の元本だけで約480万円になり、ここに運用による損益が加わります(受け取る額は選んだ運用商品の成績によって変動します)。

積み立てたお金を将来受け取るときにも、税制上の配慮があります。企業型DCで積み立てた資産を一時金で受け取る場合は退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。

退職所得の金額は、原則として、次のように計算します。
(収入金額(源泉徴収される前の金額)- 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
退職所得控除額(勤続年数20年以下):40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)
退職所得控除額(勤続年数20年超):800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

出典:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

積み立てる段階で社会保険料・所得税・住民税の負担を抑えつつ、受け取る段階でも退職所得控除が効くため、給与を増やす場合と比べて手取りベースで有利になりやすいのが、選択制の企業型DCの特徴です。

こうした税や社会保険料の負担の軽減は、企業が選択制の企業型DCを検討するきっかけとしても語られています。企業型DCの導入相談を受けるSBIインシュアランスラボの長谷川氏は、寄せられる相談の傾向を次のように説明します。

長谷川氏
SBIインシュアランスラボ株式会社
長谷川氏
独自インタビューより

圧倒的に多いのは、税金と社会保険料の負担軽減に目を付けていただくパターンです。社長様ご自身がNISAなどで資産運用しているなかでDC制度を知り「これは会社の福利厚生としてとてもいいんじゃないか」と思っていただき、お問い合わせいただくケースが多いです。特に社会保険料の部分は、会社と従業員で労使折半で支払っていますので、企業側でも負担を軽減できるところにもメリットを感じていただけます。

出典・参考資料(4件)

デメリット・注意点(将来の給付の目減りと引き出しの制約)

選択制の企業型DCには、手取りや税の面でのメリットがある一方で、見落とせない注意点があります。導入時には従業員にこれらを丁寧に説明することが欠かせません。

第一に、社会保険料が下がることの裏返しとして、標準報酬月額を基礎に計算される将来の給付が目減りする可能性があります。標準報酬月額は、保険料だけでなく給付額の計算にも使われるためです。

厚生年金保険では、被保険者が受け取る給与(基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定した標準報酬月額を、保険料や年金額の計算に用います。

出典:標準報酬月額・標準賞与額とは?|日本年金機構

標準報酬月額を基礎に計算される主な給付は、将来受け取る老齢厚生年金の額、病気やけがで働けないときの傷病手当金、出産前後に受け取る出産手当金です。傷病手当金は、健康保険法第99条により、支給開始日以前の直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1の3分の2として計算されます。掛金への振り替えで標準報酬月額が下がれば、これらの給付も下がる方向に働きます。

影響の大きさは給付によって異なります。老齢厚生年金は現役期間全体の報酬の平均で決まるため、一時的に標準報酬月額が下がっても最終的な年金額への影響は相対的に薄まります。

一方、傷病手当金や出産手当金は直近12か月の標準報酬月額で計算されるため、休業や出産を控えた時期に積み立てを増やすと、受け取る手当が目に見えて減ることがあります。手取りが軽くなるメリットと、こうした給付の目減りを天秤にかけて判断する必要があります。

これに対し、雇用保険の基本手当(失業給付)や育児休業給付・介護休業給付は、標準報酬月額ではなく賃金(賃金日額)をもとに計算されます。これらも掛金への振り替えで賃金そのものが下がると影響を受けますが、理由は標準報酬月額の低下ではなく賃金の減少による点が異なります。どの給付がどの基準で決まるのかを区別して従業員に伝えることが、後々のトラブルを避けるうえで重要です。

第二に、積み立てた資産は原則として60歳になるまで引き出せません。確定拠出年金法は、老齢給付金の受給に60歳以上であることと一定の加入期間を求めており、途中で自由に換金できる貯蓄とは性質が異なります。急な出費に備える資金は別に確保したうえで、余裕のある範囲で積み立てることが前提になります。

この性質は、退職金として考える際にも注意が必要です。60歳より前に退職した従業員も、その時点で積立資産を現金として受け取れるわけではなく、転職先の企業型DCや個人型のiDeCoへ資産を移して、60歳以降の受け取りまで運用を続ける形になります。退職時にそのまま一時金として受け取れる中退共などとは、受け取りのタイミングが異なります。

これらの注意点は、選択制の企業型DCが「給与を減らして積み立てる」仕組みである以上、避けて通れません。従業員が納得して選べるよう、メリットと合わせて説明する場を設けることが、制度を定着させる鍵になります。

出典・参考資料(3件)

他の退職金積立制度との比較(中退共・特退共・DB・小規模企業共済)

給与天引きに近い形で積み立てられる選択制の企業型DC以外にも、退職金を積み立てる制度は複数あります。掛金を誰が負担するか、天引き的に積み立てられるか、税制上の扱い、受け取り方が制度ごとに異なります。自社の目的に合う方法を選べるよう、選択制の企業型DCを基準に、主な制度を横並びで整理します。

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選択制の企業型DC中小企業退職金共済(中退共)特定退職金共済(特退共)確定給付企業年金(DB)小規模企業共済
掛金の負担者従業員(給与の一部を振替)/会社負担型も可事業主が全額(従業員負担は不可)事業主のみ原則事業主(本人同意で加入者負担も可)経営者・役員・個人事業主本人
給与天引き的に積み立てできる(本人の選択による)できないできない原則できない対象外(従業員でなく事業主本人の退職金)
税制上の扱い掛金は社会保険料・所得税・住民税の対象外、受取時は退職所得控除等掛金は法人は損金、個人事業は必要経費として全額非課税事業主負担分は損金等の扱い(実施団体の案内で要確認)事業主掛金は損金算入掛金は全額が本人の所得控除
受け取り・引き出し原則60歳以降(一時金または年金)退職時に中退共から従業員へ直接(一時金または分割)退職時に共済団体から従業員へ規約で定める原則60〜65歳以上(年金または一時金)退職・廃業時(一括・分割・併用)

※上記は各制度の一般的な取り扱いの傾向です。個別の要件や最新の制度内容は各制度の公式情報をご確認ください。

比較表だけでは見えない各制度の中身も押さえておくと選びやすくなります。たとえば中退共は、掛金月額を5,000円から30,000円までの16種類(短時間労働者向けの特例掛金は2,000〜4,000円)から選びます。新しく加入する事業主には、国が掛金の一部を一定期間助成する仕組みもあります。

中退共・特退共はいずれも掛金を事業主が負担し、従業員の給与から天引きする形には使えません。特退共は実施団体ごとに運用や予定利率が異なり、加入期間が短いと受取額が払込額を下回ることもあるため、条件は実施団体の案内で確認が必要です。

このほか、従業員数300人以下で企業年金のない会社には、従業員本人のiDeCoに会社が掛金を上乗せするiDeCo+(中小事業主掛金納付制度)という選択肢もあります(給与天引きではなく、会社の上乗せによる支援です)。

中退共・特退共・確定給付企業年金は、いずれも掛金を原則として事業主が負担する制度で、「給与から天引きして積み立てる」という発想とは異なります。給与の一部を従業員本人の選択で積み立てたいのであれば、選択制の企業型DCが最も近い選択肢です。一方、経営者・役員自身の退職金を準備したい場合は、本人の所得控除になる小規模企業共済が候補になります。

自社の目的(従業員の福利厚生か、経営者自身の備えか)、掛金を誰が負担するか、どれだけの税制メリットを重視するかによって、適した制度は変わります。複数の制度の資料を取り寄せて、条件を見比べたうえで判断するとよいでしょう。

出典・参考資料(5件)

給与天引きで退職金を積み立てる始め方(就業規則・規程・労使協定)

選択制の企業型DCで給与天引きに近い積み立てを始めるには、制度の設計と社内規程の整備が必要です。手順の大枠を押さえておくと、導入支援を受ける際の判断もしやすくなります。

  • 制度設計を決める:給与のうちどの範囲を選択の対象にするか、掛金の上限や拠出のルールをどうするかを設計します。運営管理機関や導入支援のパートナーと相談しながら進めるのが一般的です。
  • 規約・規程を整える:企業型DCの規約を定めて承認を受けるほか、就業規則や退職金規程・給与規程に、選択制で掛金に振り替えられる旨を反映します。給与の一部を掛金に回す以上、賃金の扱いに関わる規程の整備は欠かせません。
  • 従業員へ説明し、同意を得る:選択制は従業員本人の選択が前提です。手取りや社会保険料・将来の給付への影響を説明する場を設け、各自が納得して選べるようにします。労働条件に関わる変更を伴う場合は、労使での合意手続きも確認します。

これらの手続きは専門的で、社会保険労務士や運営管理機関のサポートを受けながら進めるのが現実的です。自社だけで整えるのが難しい場合は、制度設計から規程整備・従業員説明まで一貫して支援するサービスを利用する方法があります。

選択制の企業型DCの導入を支援するサービス

給与天引きに近い形の積み立てを合法的に実現する選択制の企業型DCは、専門の運営管理機関や導入支援サービスを通じて導入するのが一般的です。ここでは、少人数の中小企業から導入できる代表的なサービスを紹介します。導入支援サービスは複数あり、対応できる規模・掛金の設計・サポート体制で選び分けるとよいため、各社を見比べたい場合はこの章の最後に挙げる比較記事もあわせてご覧ください。

SBIの企業型DC(SBIインシュアランスラボ株式会社)

SBIの企業型DCの公式サイト。1名からの企業型確定拠出年金であることや、中小企業向けの退職金・資産形成支援制度であることが示されている。

「SBIの企業型DC」は、加入者1名から導入できる企業型確定拠出年金です。公式サイトは「一般の金融機関ではお引き受けが難しい30名以下の中小企業でも導入できます。役員のみの加入も可能です」と案内しており、少人数の企業でも始めやすい点が特徴です。

給与天引きに近い積み立てを実現するのが、SBIの企業型DCのダイレクトプランで採用されている選択制です。給与の一部を掛金として積み立てるか、これまでどおり受け取るかを従業員が選べる設計で、掛金のコースは従業員向けに月額5,000円・10,000円・20,000円の3種類、役員は最大55,000円まで用意されています。

会社が負担する運営費は損金に算入でき、掛金に回した分の社会保険料負担も会社・従業員の双方で軽くなります。

SBIグループが年金の記録管理システムを自社で開発していることから、加入者が少人数でも対応できる体制を備えている点も、小規模な企業にとっては選びやすい理由になります。導入にあたっては、制度設計や従業員向けの説明会などの支援も受けられます。資料請求やミーティングで、自社の人数・掛金設定での具体的な進め方を確認できます。

こうした従業員向けの説明会について、SBIインシュアランスラボの長谷川氏は次のように話します。

長谷川氏
SBIインシュアランスラボ株式会社
長谷川氏
独自インタビューより

弊社ではオプションで従業員様向けの説明会を実施しております。この説明会を実施すると、大半の従業員様が「自分も拠出したい」と申し出てくださるケースが多く、参加率の面でも一定の効果は必ず得られると感じています。説明会自体はオプションになりますが、独自に進められる企業様より、説明会を実施いただいた企業様の方が圧倒的に加入率は高まります。

企業型DCの導入を支援するサービスは、ここで取り上げた以外にも複数あり、対応できる企業規模や掛金の設計、サポート範囲はそれぞれ異なります。選び方や各社の特徴を見比べて導入を検討したい場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。

まとめ

給与天引きで退職金を積み立てる方法には、会社が一方的に給与から控除して社内に積み立てる形と、従業員本人が選ぶ選択制の企業型DCの2つがあります。前者は賃金の全額払い原則や社内預金の規制が関わり、労使協定や管理規程など多くの要件を満たさなければ原則として行えません。

一方、選択制の企業型DCは、給与の一部を掛金に振り替えることを従業員が選ぶ形で、合法的に給与天引きに近い積み立てができます。社会保険料・所得税・住民税の負担を抑えつつ、受け取り時には退職所得控除も活用できます。ただし、標準報酬月額が下がることで将来の年金や傷病手当金などが目減りする可能性や、原則60歳まで引き出せない制約があるため、従業員への説明を丁寧に行うことが欠かせません。

中退共や確定給付企業年金など他の制度も含めて、自社の目的や規模に合う方法を見極めることが大切です。複数の制度・サービスの資料を取り寄せ、掛金の負担や税制メリット、導入の手間を見比べて検討を進めてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 選択制の企業型DCとは何ですか?

選択制の企業型DCとは、給与の一部を「これまでどおり給与で受け取るか、退職金の掛金として積み立てるか」を従業員本人が選べるように設計した企業型確定拠出年金です。会社が一方的に給与から天引きするのではなく、積み立てるかどうかを本人が選ぶ建て付けのため、賃金の全額払い原則に触れずに給与天引きに近い形で積み立てられます。

積み立てを選んだ分は賃金として扱われないため、社会保険料・所得税・住民税の計算対象から外れる点も特徴です。

Q. 会社が給与から天引きして退職金を社内に積み立てるのは違法ですか?

会社が従業員の同意を得ずに一方的に給与から天引きして社内に積み立てる形は、賃金の全額払い原則(労働基準法24条)に抵触するため原則として行えません。賃金から何かを控除するには、法令の定めか労使協定が前提になります。

さらに、従業員の委託を受けて積み立てを管理する場合も、労働基準法18条が労使協定の届出・管理規程の整備・一定利率の利子・返還請求への応諾といった要件を定めており、従業員の任意であることが前提です。これらを満たさずに強制的に天引きすることはできません。一方、本人の選択にもとづく選択制の企業型DCであれば、給与天引きに近い形で合法的に積み立てられます。(労働基準法24条・18条|e-Gov法令検索)

Q. 給与天引きで積み立てると、手取りや税・社会保険料はどのくらい変わりますか?

選択制の企業型DCで給与の一部を掛金に振り替えると、その分は賃金から外れるため、社会保険料・所得税・住民税の負担が軽くなります。たとえば月額20,000円を掛金に回すと、社会保険料の本人負担は厚生年金保険料率18.3%・健康保険料率を協会けんぽの例でおよそ10%とした場合でおよそ月2,800円軽くなる計算で、これに所得税・住民税の軽減が加わります。

実際の金額は給与水準・加入する健康保険・扶養の状況で変わるため、自社の条件での試算が欠かせません。受け取るときも退職所得として退職所得控除が適用されるため、給与を増やす場合と比べて手取りで有利になりやすいのが特徴です。(退職所得控除の計算|国税庁 No.1420)

Q. 給与天引きで積み立てると、将来もらえる年金や手当は減りますか?

減る可能性があります。給与の一部を掛金に振り替えると標準報酬月額が下がり、それを基礎に計算される将来の老齢厚生年金・傷病手当金・出産手当金が目減りする方向に働きます。標準報酬月額は保険料だけでなく給付額の計算にも使われるためです。

また、雇用保険の基本手当(失業給付)や育児・介護休業給付は標準報酬月額ではなく賃金をもとに計算されるため、掛金への振り替えで賃金そのものが下がることで同様に影響を受けます。社会保険料が軽くなるメリットの裏返しであり、導入時に従業員へ丁寧に説明しておくべき重要な点です。(標準報酬月額|日本年金機構・傷病手当金=健康保険法99条|e-Gov法令検索)

Q. 積み立てたお金は、途中で引き出せますか?

選択制の企業型DCで積み立てた資産は、原則として60歳になるまで引き出せません。確定拠出年金法は、老齢給付金の受給に60歳以上であることと一定の加入期間を求めており、いつでも自由に換金できる貯蓄とは性質が異なります。そのため、急な出費に備える資金は別に確保したうえで、余裕のある範囲で積み立てることが前提になります。(確定拠出年金法33条|e-Gov法令検索)

Q. 選択制の企業型DCと中退共は、どちらを選べばよいですか?

給与の一部を従業員本人の選択で積み立てたいなら選択制の企業型DC、会社の負担で退職金を用意したいなら中小企業退職金共済(中退共)が向いています。中退共は掛金を全額事業主が負担する制度で、掛金の一部でも従業員に負担させることはできず、給与天引きの形にはできません。

一方、選択制の企業型DCは従業員が給与の一部を掛金に振り替える形のため、会社の掛金負担を抑えつつ天引きに近い積み立てができます。福利厚生として会社が用意するのか、従業員本人の資産形成を後押しするのか、掛金を誰が負担するのかで選び分けるとよいでしょう。(掛金を納付する|中退共)

Q. 選択制の企業型DCを始めるには、何から着手すればよいですか?

まず制度設計(給与のどの範囲を選択の対象にするか・掛金のルール)を決め、企業型DCの規約や就業規則・退職金規程・給与規程を整えたうえで、従業員への説明と同意の手続きを行います。給与の一部を掛金に回す以上、賃金の扱いに関わる規程の整備と、手取りや将来給付への影響の説明が欠かせません。

手続きは専門的なため、社会保険労務士や運営管理機関、導入支援サービスのサポートを受けながら進めるのが現実的です。加入者1名から導入できるサービスもあり、自社の人数や掛金設定での具体的な進め方は、資料請求やミーティングで確認できます。

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監修者

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト

松嶋真倫

都市銀行にて金融実務を経験後、暗号資産関連スタートアップの創業期に参画し、市場分析・業界調査に従事。2018年にマネックスグループ入社。以降、ビットコインをはじめとするデジタルアセットからマクロ経済環境まで、金融市場を横断した調査・分析および情報発信を担う。FinTech・次世代金融領域のリサーチ統括、各種レポートや書籍の執筆、日本経済新聞など国内主要メディアへのコメント・寄稿、イベント登壇などを行う。2021年3月より現職。
記事内でご紹介している製品・サービスは監修者が選定したものではなく、編集部が独自に選定したものです。
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