引越しや確定申告の時期になると、市区町村の窓口には同じ問い合わせの電話が鳴り続けます。「住民票はどこで取れるか」「必要な書類は何か」といった定型的な質問で職員の手が止まり、人も電話回線もすぐには増やせない。閉庁後や土日にかかってきた電話は取りこぼしたままです。
こうした電話の一次対応をAIに任せる自治体が、実際に増えています。倉敷市は市民課の電話応対を24時間365日AIに任せ、神戸市は税務部の問い合わせ対応にAIボイスエージェントを本格導入しました。AIが用件を聞き取って定型の質問に答え、判断が要る相談だけを職員へつなぐ、という使い分けです。
この記事では、どの自治体が・どの業務を・どのサービスでAIに任せているのかを、実例の一覧で示します。そのうえで、AI電話の種類とできること、自治体の電話業務に使える主要サービス、費用の相場と実額・使える交付金、導入の進め方を順に整理します。
さらに、どこまでAIに任せられるか、誤案内を防げるか、個人情報は安全かといった導入前の不安にも答えます。
読み終えるころには、自庁の規模・業務に近い事例をもとに、資料請求やデモ・実証の依頼という次の一歩を描けるようになります。
目次
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どの自治体が・どの業務を・どのサービスでAIに任せたか(導入事例一覧)
ここからは、2026年時点で電話対応にAIを導入・実証した自治体の事例を、対象業務・使ったサービス・稼働時期・公表されている効果とあわせて一覧で見ていきます。自庁の規模や業務に近い事例を探す手がかりにしてください。
まず押さえておきたいのは、どの自治体も「すべての電話をAIに任せた」わけではないことです。住民票や証明書の取得方法、ごみの分別といった答えが定型的な問い合わせをAIが受け持ち、個別の判断が要る相談は職員へ引き継ぐという切り分けが共通しています。
| 自治体 | 規模(区分) | 対象業務(どの課のどの電話か) | 使用サービス(提供元) | 稼働時期・24時間対応 | 公表されている効果(実測/試算の別) |
|---|---|---|---|---|---|
| 岡山県倉敷市 | 中核市 | 市民課の電話対応(戸籍・住民票・マイナンバーカード等の問い合わせ) | DHK CANVAS エージェントプラン(電話放送局/GROWTH VERSE) | 2026年7月1日本格稼働・24時間365日 | 政令指定市・中核市での市民課電話対応AIの本格導入は全国初(同社調べ)。職員の電話対応負担を2〜3割軽減できる見込み(報道で紹介された担当者の見通し) |
| 香川県高松市 | 中核市 | 市の電話対応業務(AIが回答し、必要に応じて職員へ要約を引き継ぐ) | DHK CANVAS エージェントプラン(電話放送局/GROWTH VERSE) | 2026年8月3日運用開始・24時間365日 | 本番採用の効果数値は公表なし。導入に先立つ2026年2〜3月のGraffer AIオペレーターによる実証では、同社によると受電の約65%をAIが完結(実証段階の数値) |
| 兵庫県神戸市 | 政令指定都市 | 税務部の電話問い合わせ(住民税の納税通知書・申告・証明書の取得方法など定型的な内容) | AI Worker VoiceAgent(AI Shift)+VOC分析(顧客の声の分析)・FAQ設計(NTTマーケティングアクトProCX) | 約3ヵ月の試験導入を経て本格導入 | 試験導入期間中に自動回答率65%以上を実現(実測)。本格導入では一部税目で70%以上の自動対応を目標(見込み)。税務部の電話問い合わせは2024年度時点で年間約40万件 |
| 奈良県奈良市 | 中核市 | コールセンター業務(市全体の電話問い合わせ)。市民向けの自動応答は準備中 | Zoom Phone・Zoom Contact Center・Zoom Virtual Agent(ZVC JAPAN・KDDI・エスプールグローカル) | 2026年3月に新コールセンター稼働(文字起こし・AI要約)。市民向けAI自動応答は2026年秋以降に稼働予定 | コールセンターの受信は年間約14万件、うち約7割を職員へ転送(いずれも令和6年度の実測)。全庁展開時のコストは年間約7億8,600万円と試算(奈良市による試算値) |
| 三重県四日市市 | 中核市 | 市民からの問い合わせ対応(納期限の問い合わせなどで税目を尋ね返す「聞き返し」に対応) | GeN(カラクリ) | 2025年11月採用 | 月間約12万件・総通話時間5,200時間という問い合わせ量の負荷軽減が導入の背景(効果の実測値ではなく課題の規模) |
| 福島県福島市 | 中核市 | 市民課所管の一部手続き(転入・転出・転居の事前案内、各種証明書交付、マイナンバーカード関連) | 電話AIサービス(大日本印刷=DNP) | 2026年1月28日〜2月25日に実証(土日祝含む24時間)。本サービスは2026年6月から提供予定 | 実証では問い合わせ完結率と市民満足度を検証(実証時点で結果は未公表) |
| 愛知県稲沢市 | 一般市 | 環境施設課=ごみに関する問い合わせ | Graffer AIオペレーター(グラファー) | 実証実験として実施 | グラファーによると、ごみの問い合わせの約9割をAIが完結(同社掲示・実証) |
| 福岡県福岡市 | 政令指定都市 | 保健所の代表電話の取り次ぎ | Graffer AIオペレーター(グラファー) | 稼働時期は公表なし | グラファーによると、保健所の取り次ぎの約9割を自動化(同社掲示) |
| 福岡県北九州市 | 政令指定都市 | 区役所市民課のマイナンバーカードに関する電話 | Graffer AIオペレーター(グラファー) | 稼働時期は公表なし | グラファーによると、マイナンバーカード電話の約半分をAIが完結(同社掲示) |
出典・参考資料(9件)
- 出典:DHK CANVAS エージェントプラン、倉敷市の市民課電話対応AIに採用|株式会社GROWTH VERSE(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000216.000091540.html)
- 出典:DHK CANVAS エージェントプラン、高松市の電話対応AIに採用|株式会社GROWTH VERSE(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000219.000091540.html)
- 出典:高松市 AI電話自動応答システム実証(Graffer)タイアップ記事|自治体通信Online(https://www.jt-tsushin.jp/articles/service/jt74_graffer)
- 出典:税の電話問い合わせ対応における生成AIを活用したボイスボットの導入業務 公募型プロポーザル選定結果|神戸市行財政局(https://www.city.kobe.lg.jp/a53704/997092035654.html)
- 出典:神戸市税務部においてAIボイスエージェントを本格導入|株式会社NTTマーケティングアクトProCX(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000059.000041216.html)
- 出典:全国自治体初!次世代クラウド電話「Zoom Phone」をAI活用(市長会見資料)|奈良市総務部総務課(https://www.city.nara.lg.jp/site/press-release/257932.html)
- 出典:四日市市、カラクリの顧客対応AIエージェント「GeN」を採用|株式会社カラクリ(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000136.000025663.html)
- 出典:福島市 市民課の電話問い合わせAI応答実証 記者発表資料|福島市(https://www.city.fukushima.fukushima.jp/material/files/group/1/2026012202.pdf)
- 出典:Graffer AIオペレーター|自治体・官公庁向けソリューション(実証実験の成果と現場の声)|株式会社グラファー(https://graffer.jp/governments/solution-ai-operator)
効果の数字は、公表の有無や性質がさまざまです。神戸市の「自動回答率65%以上」は試験導入での実測値ですが、「70%以上」は本格導入での目標値です。奈良市の「年間約14万件」は受信件数の実測、「約7億8,600万円」は全庁展開した場合の試算です。導入を検討する際は、実測値と目標値・試算値を分けて読むと、自庁で見込める効果を過大評価せずに済みます。
導入で自治体・住民・職員に何が変わったか
これらの事例から見えてくる効果を、自治体・住民・職員のそれぞれの視点で整理します。
住民にとっては、閉庁後や土日でも電話で回答を得られるようになります。倉敷市や高松市のように24時間365日対応にすれば、日中に電話をかけられない住民も、夜間や休日に用件を済ませられます。奈良市のように年間約14万件の受信があり、その多くを職員が転送対応している自治体では、定型の問い合わせがAIで完結する分だけ、電話がつながりやすくなります。
職員にとっては、同じ問い合わせの繰り返し対応から解放され、判断が要る相談に時間を割けます。倉敷市では、市民課の電話対応にかかる職員の負担を2〜3割軽減できるとの見通しが報道で紹介されました。繁忙期に集中する定型問い合わせをAIが受け持つことで、人員を増やさずに繁閑の波を吸収しやすくなります。
自治体全体としては、電話がつながらないことへの住民の不満を減らし、対応品質を標準化できます。AIは登録された情報に沿って回答するため、担当者によって案内が違うといったばらつきが起きにくく、通話内容が文字起こし・要約として残るので、後から対応状況を確認しやすくなります。
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AI電話とは?IVR・ボイスボット・AIオペレーター・生成AI連携の違いとできること
ここからは、ひとくちに「AI電話」といっても仕組みに幅があることを、種類ごとに整理します。自庁の用途に合うのはどれかを見極める土台になります。
AI電話は、大きく次の段階で理解すると違いが掴みやすくなります。いずれも「かかってきた電話にAIが音声で応対する」点は共通し、どこまで柔軟に対話できるかが異なります。

- 音声IVR(自動音声応答):「〇〇の方は1番を押してください」のように、プッシュ操作や決まった発話で用件を振り分ける方式です。従来から使われており、定型的な振り分けに向きますが、想定された選択肢の外には答えられません。
- ボイスボット:音声認識で住民の話した言葉を聞き取り、登録された内容にもとづいてAIが音声で回答・受付をする方式です。プッシュ操作に頼らず、話し言葉で用件を伝えられます。
- AIオペレーター:ボイスボットをさらに進め、用件を聞き取って「AIが回答するか・職員へつなぐか」を自動で判断し、取り次ぎまで一貫して行う方式です。有人対応が必要な電話は、聞き取った要件を添えて職員へ引き継ぎます。
- 生成AI連携型:大規模言語モデル(LLM)を組み合わせ、言い回しが人によって異なる複雑な問い合わせにも対話しながら対応する方式です。自治体の公式サイトやFAQを知識源として参照し、文脈に沿って回答します。
自治体の住民対応では、話し言葉で用件を聞き取り、回答と取り次ぎを自動で判断できるボイスボット・AIオペレーター型が中心になっています。これらに生成AIを組み合わせることで、定型の案内から、やや複雑な問い合わせまで一次対応の幅が広がります。
機能面では、多くのサービスが次のようなことに対応します。用件の聞き取りと自動振り分け、FAQにもとづく音声回答、証明書の取得方法などの定型案内、通話内容の文字起こし・AI要約、有人オペレーターへの転送、SMSでの情報送信、多言語対応などです。どこまで備えるかはサービスによって異なるため、次章の比較で確認してください。
Webサイト上で文字で応対するAIチャットボットとは、入力方法が音声か文字かが異なります。電話をかけてくる住民、とりわけ入力操作が苦手な高齢者には音声のAI電話が向き、両者を併用する自治体もあります。違いの詳細は記事末尾のよくある質問でも触れます。
自治体の電話業務に使える主要AI電話サービス【比較】
ここからは、自治体の電話業務に使える主要なAI電話サービスを、対応形態や機能、料金体系、自治体での導入実績の観点で並べて比較します。本記事では、自治体での実績があるサービスを中心に要点を整理します。
比較表の見方:自治体がそろえて見たい比較軸
自治体がサービスを見比べるときは、次の軸をそろえて確認すると、自庁の要件に合うかを判断しやすくなります。
- 対応形態:ボイスボット・AIオペレーター・生成AI連携のどれにあたるか。話し言葉での柔軟な対応が必要かで選び分けます。
- ノーコードで構築・変更できるか:職員が管理画面から応答内容を更新できると、制度変更のたびに外注せずに済みます。
- 有人への切り替え:AIで対応できない用件を、聞き取った要件を添えて職員へ転送できるか。
- 料金体系:月額・件課金・個別見積もりのいずれか。受電数で費用がどう変わるか。
- 自治体での導入実績:住民対応という近い用途での稼働実績があるか。
- セキュリティ認証:ISMAP・ISO27001・プライバシーマークなど、庁内の情報セキュリティ要件を満たすか。
これらの軸でサービスを並べたのが次の比較表です。事業者を実際に選ぶときの見積比較やプロポーザル・仕様書の観点は、記事後半の事業者の選び方で詳しく扱います。
| サービス名 | DHK CANVAS | AIコンシェルジュ | AI Worker VoiceAgent (旧AI Messenger Voicebot) | Graffer AIオペレーター | AI電話対応さくらさん |
|---|---|---|---|---|---|
| 対応形態 | ボイスボット・生成AI (有人転送まで一貫) | ボイスボット | ボイスボット・生成AI | AIオペレーター (生成AI搭載) | AIオペレーター (取り次ぎ型) |
| ノーコードで構築・変更 | ●ノードで構築(ノーコード) | △個別構築(提供元が設計) | △公開情報なし(要問い合わせ) | ●管理画面でQ&A編集可 | △シナリオは提供元が作成 |
| 有人オペレーター転送 | ● | ● | ● | ● | ● |
| 料金体系 | 月額15万円〜 (件課金・1,000件込み) | 個別見積もり (初期+月額・公表なし) | 個別見積もり (公表なし) | 個別見積もり (受電数・範囲による) | 個別見積もり (初期+月額・公表なし) |
| 自治体での導入実績 | 倉敷市・高松市ほか (市民課等で本番稼働) | 鎌倉市ほか(実証) 国税庁(官公庁・期間限定) | 神戸市税務部 (本格導入・ProCX経由) | 稲沢市・福岡市・北九州市 ほか(実証含む) | 潮来市・一宮市・ 長浜市・会津若松市ほか |
| セキュリティ認証 | ISMS(ISO27001) Pマーク | ISMS(ISO27001) ISO27017・Pマーク | △公開情報なし(要問い合わせ) | ISMS(ISO27001) ISO27017・Pマーク | ISMS(ISO27001) ISO27017ほか |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | 公式サイト | 公式サイト |
この比較表は、自治体での導入実績を持つサービスを中心にまとめています。対応形態や料金体系、IVRとの違いまで含めてボイスボット・AIオペレーターをより幅広く見比べたい場合や、先ほどの事例で触れたGeN(四日市市)・Zoom系(奈良市)・DNP(福島市)も含めて比較したい場合は、次の記事で主要サービスをタイプ別に比較しています。
ボイスボット比較28選|IVRとの違い・料金の実額と選び方をタイプ別に解説
受電が集中する時間帯に電話がつながらず、問い合わせを取りこぼしていないでしょうか。営業時間外にかかってきた電話は翌営業日の折り返しになり、その間に顧客が離れてしまうこともあります。こうした電話の一次対応を自動化する手段として、発信者の話した…
ここからは、自治体での導入実績を持つサービスの一例として、DHK CANVASを取り上げ、何ができるのかをもう少し具体的に見ていきます。神戸市のAI Worker VoiceAgentやグラファーのAIオペレーターも上の比較表で並べているので、あわせて見比べてください。
DHK CANVAS(電話放送局)の特徴

DHK CANVAS は、IVR(自動音声応答)システムを主力事業とする株式会社電話放送局が提供するAI電話サービスです。公式サイトでは「ボイスボット・IVR・生成AIをひとつにしたAI電話サービス」と位置づけられ、かかってきた電話にAIが応対して用件を聞き取り、必要な電話だけを担当者へつなぐ仕組みを備えます。
管理画面上でノード(部品)をドラッグ&ドロップでつないで応答の流れを組み立てるノーコード設計が特徴で、定型業務向けの「シナリオプラン」と、非定型の問い合わせにも対話で対応する生成AI活用型の「エージェントプラン」があります。自治体で導入されているのは、倉敷市・高松市の事例と同じエージェントプランです。既存の0120・0800・0570番号からの転送着信で利用でき、新規番号の発行も相談できます。
用件の聞き取りと応対の自動判断、有人オペレーターへの転送、通話の文字起こし・AI自動要約、予約・注文の受付、SMSやメールの自動送信、外部API連携まで対応します。
料金は月額15万円〜(1,000件分のコールを含み、1件あたり150円の計算。業務内容・件数により変動)で、通話時間ではなく1件ごとの件課金である点が、長い対話でも費用が膨らみにくい特徴です。初期費用は資料請求で確認する形になっています(料金はいずれも2026年10月時点の公式サービスページの記載)。
倉敷市では市民課の電話対応に2026年7月から本格稼働し、24時間365日・300人同時対応で、戸籍・住民票・マイナンバーカードなどの問い合わせに対応しています。高松市でも2026年8月から同じエージェントプランが運用を開始しました。情報セキュリティ面では、提供元の電話放送局がISMS(ISO27001)認証を全社で取得し、通話中の個人情報を自動でマスキングする機能を備えます。
一方で、DHK CANVAS 自体はクレジットカード会員情報やマイナンバーなどの要配慮個人情報を取得できない仕様である点は、用途を検討する際に確認が必要です。
AI電話導入の費用相場・実額と使える交付金・補助金
ここからは、庁内の予算要求に使えるよう、導入費用の相場と実際の契約額、そして国の交付金が使えるのかを整理します。
AI電話の費用は、受電数や対応範囲、生成AIを使うかどうかで幅があり、公式サイトで金額を公開していないサービスも多いのが実情です。そのなかで、一次情報で金額が確認できる例を挙げると、次のとおりです。
- 神戸市(税務部):公募型プロポーザルの選定結果によると、契約予定金額は12,760,000円(税込、契約期間は契約締結日〜2027年3月31日)。年間約40万件の電話問い合わせがある税務部の住民税対応を対象としたものです。
- 大日本印刷(DNP)の電話AIサービス:初期導入費用が500万円〜(税別)、月額運用費用が50万円〜(税別)。福島市の実証を経て2026年6月から提供予定とされています。
- DHK CANVAS:月額15万円〜(1,000件分のコールを含む件課金)。初期費用は資料請求で確認する形です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:税の電話問い合わせ対応における生成AIを活用したボイスボットの導入業務 公募型プロポーザル選定結果|神戸市行財政局(https://www.city.kobe.lg.jp/a53704/997092035654.html)
- 出典:DNP 自治体向け電話AIサービス実証|クラウドWatch(https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/2079863.html)
これらから、自治体のAI電話の費用は、小規模な一業務なら月額数十万円規模から、全庁的・大規模な導入では初期・年間で1,000万円を超える規模まで幅があります。受電数と対応範囲によって変わると考えておくとよいでしょう。費用はサービスごとに個別見積もりになることが多いため、受電件数と対応させたい業務範囲を整理したうえで、複数社に見積もりを依頼するのが実務的です。
使える交付金・補助金
自治体のAI電話導入では、国の交付金が活用できる場合があります。代表的なものが地域未来交付金です。内閣府が所管し、令和7年度補正予算で1,000億円が計上された交付金で、旧「デジタル田園都市国家構想交付金」の系列を再編した枠組みです。
このうちデジタル実装型は、デジタルを活用した地域の課題解決の取り組みを支援するもので、対象に「AIを高度に活用するサービス」が明記されています。自治体のAI電話は、この対象になりうる取り組みにあたります。
ただし、制度の概要資料には業務効率化が主な目的とみられる事業は対象外とする注記があり、「AIを高度に活用するサービス」は複数の自治体で共同利用する類型(先進的デジタル公共財活用型)の中で示されています。自庁の取り組みがどの類型に当てはまるかで、対象かどうかが変わります。
ただし、交付のタイプごとに要件が異なり、すべての導入が確実に対象になるわけではありません。実際、グラファーも自社の案内で「地域未来交付金など国の支援対象となる場合もある」と条件付きで説明しています。活用を検討する際は、内閣府・地方創生推進室が公表する地域未来交付金の最新の公募要領と、都道府県・内閣府の相談窓口で、自庁の取り組みが交付対象の要件を満たすか、どの類型で申請できるかを確認してください。
名称の似た「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)は、補助対象者が中小企業・小規模事業者等であり、自治体は申請者になれません。自治体向けの支援策として混同しないよう注意が必要です。
出典・参考資料(1件)
- 出典:地域未来交付金 デジタル実装型 制度概要|内閣府地方創生推進室(https://www.chisou.go.jp/sousei/about/chiikimiraikoufukin/pdf/chiikimiraikouhukin_2025types_gaiyou.pdf)
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導入の進め方(ヒアリング→シナリオ作成→実証/PoC→本番稼働)と既存番号の扱い
ここからは、庁内で導入を進める際の段取りを、実際の自治体の流れにそって解説します。
多くの自治体は、いきなり本番導入するのではなく、実証(PoC)を経て本格導入へ進んでいます。高松市は2026年2〜3月にグラファーのAIオペレーターで実証を行い、その後にDHK CANVASを本番採用して8月から運用を開始しました。実証から本番までおおむね半年前後という流れです。福島市も2026年1〜2月に約1か月の実証を行い、本サービスの提供は同年6月からとされています。
標準的な進め方は、次の順序になります。
- 対象業務の選定とヒアリング:まず、同じ質問が大量に来て、答えを文章で用意できる業務を選びます。市民課・戸籍住民課・税務部門が着手先になりやすく、1週間ほど課ごとの着信を数えると対象を決めやすくなります。
- 応答シナリオ・FAQの作成:想定される問い合わせと回答を整理し、AIが参照する知識(FAQ・公式サイトの情報)を登録します。
- 実証(PoC):限られた期間・業務でAIを稼働させ、自動完結率や回答精度、職員への取り次ぎの流れを検証します。
- 本番稼働と改善:実証の結果をもとに対象業務を広げ、回答データを更新しながら精度を高めます。
既存の電話番号については、多くのサービスがそのまま使えるよう設計されています。DHK CANVAS は0120・0800・0570番号からの転送着信に対応し、クラウド型のため大掛かりな工事や電話機器の入れ替えは不要です。グラファーも、既存の電話機器を変えずに利用でき、導入まで2〜3週間、音声確認を含め公開まで2か月程度が一般的だと案内しています。
番号を変えずに導入できるかは、住民への周知の負担にも関わるため、早い段階で確認しておくとよいでしょう。
導入前の不安への答え:AIと職員の役割分担・誤回答対策・セキュリティ
ここからは、導入を検討する段階でよく挙がる3つの不安——どこまでAIに任せるのか、誤った案内をしないか、個人情報は安全か——に答えます。情報システム部門の承認を得るうえでの確認材料にもなります。
AIと職員の役割分担(ハイブリッド運用)
導入済みの自治体はいずれも、すべての電話をAIで完結させているわけではありません。答えが定型的な問い合わせはAIが受け持ち、個別の判断や相談が必要な用件は職員へ引き継ぐハイブリッド運用が基本です。

- AIが担う:証明書の取得方法、窓口の場所・受付時間、必要書類、ごみの分別といった、答えが決まっている定型の問い合わせ。24時間365日、同時に多数の電話を受けられます。
- 職員が担う:個別事情のある相談、感情的な対応が必要なケース、制度の解釈が分かれる問い合わせ。AIが対応困難と判断した場合や住民が「人と話したい」と希望した場合に、聞き取った要件を添えて職員へ転送します。
高松市や倉敷市のように、AIで対応が難しい場合は質疑の要約を職員に引き継ぐ仕組みにしておくと、住民が同じ説明を繰り返す手間がなくなります。どの業務をAIに任せ、どこから職員へつなぐかの線引きを、導入前に業務ごとに決めておくことが運用の要になります。
誤った案内(ハルシネーション)を防ぐ仕組み
生成AIを使う場合、事実と異なる案内(ハルシネーション)を住民にしてしまわないかが懸念になります。自治体向けのAI電話サービスの多くは、AIが自由に回答するのではなく、登録されたFAQや自治体の公式サイトなど、限られた情報の範囲内で回答する設計にすることで、この懸念を抑えています。
倉敷市や高松市の事例では、AIが市の公式情報を参照して回答し、対応が難しい場合は職員へ引き継ぐ形をとっています。回答できる範囲をあらかじめ決めて運用することが、誤案内のリスクを下げる基本的な考え方です。制度変更があったときに回答データをどう更新するか(多くは管理画面から職員が更新できます)も、あわせて確認しておくと安心です。
個人情報・セキュリティと認証
住民の個人情報を扱う以上、情報セキュリティは導入可否を左右します。確認したい主な観点は次のとおりです。
- セキュリティ認証:ISO27001(ISMS)、クラウドサービス向けのISO27017、プライバシーマークなどを取得しているか。グラファーはISMS・ISO27017・プライバシーマークを、DHK CANVAS の提供元である電話放送局はISMSを取得しています。政府情報システム向けには、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)への登録状況も確認材料になります。
- 個人情報の取り扱い:通話で取得した個人情報をAIの学習に使わないか、専用環境で管理されるか。氏名・住所などを自動でマスキングする機能があるサービスもあります。
- 取得できる情報の範囲:サービスによっては、クレジットカード情報やマイナンバーなどの要配慮個人情報を取得できない仕様のものもあります。自庁で扱いたい情報を受け付けられるかを事前に確認します。
これらの認証や仕様は各社の公式情報で確認できます。庁内の情報セキュリティポリシーやLGWAN(総合行政ネットワーク)との関係も含め、情報システム部門と早めにすり合わせておくと、導入後の手戻りを防げます。
事業者の選び方:見積比較・プロポーザル・仕様書に落とす観点
最後に、資料請求やプロポーザルの前に押さえておきたい、事業者選定の実務的な観点を整理します。自治体はプロポーザルや入札で事業者を選ぶことが多いため、仕様書に落とせる形で基準を持っておくと選定がぶれません。
複数社を見比べるときは、次の観点をそろえて確認します。
- 自治体での導入実績:住民対応という近い用途で稼働した実績があるか。実証段階か本番稼働かも区別して確認します。
- 対象業務への適合:自庁が任せたい業務(市民課・税務・保健所など)の問い合わせに対応できるか。聞き返しや有人転送が自庁の運用に合うか。
- 費用と課金方式:初期費用・月額・件課金の別。想定受電数で試算したときの年間費用。職員が転送対応した分の費用の扱い。
- 既存番号・既存環境との接続:いまの電話番号をそのまま使えるか。工事が必要か。
- セキュリティ認証と個人情報の扱い:ISMAP・ISO27001・プライバシーマークなど、庁内要件を満たすか。
- 運用・更新のしやすさ:制度変更時に職員が管理画面から回答データを更新できるか。導入後の改善支援があるか。
- 交付金への対応:地域未来交付金などの活用を前提にする場合、事業者が申請を見据えた提案に対応できるか。
これらを仕様書の評価項目に落とし込み、同じ条件で各社から見積もりを取ると、価格だけでなく自庁の要件への適合度で公平に比較できます。まずは候補となるサービスの資料を取り寄せ、自庁の受電件数と対象業務を伝えて概算見積もりとデモを依頼するところから始めるとよいでしょう。
まとめ
自治体の電話業務へのAI導入は、倉敷市・高松市・神戸市・奈良市をはじめ、実証から本番へと広がっています。定型の問い合わせをAIが24時間受け持ち、判断が要る相談は職員へつなぐハイブリッド運用が共通の形です。
自庁での導入を検討する際は、規模・業務の近い事例を手がかりに、AI電話の種類(ボイスボット・AIオペレーター・生成AI連携)、費用の相場と実額、地域未来交付金などの活用可否、実証から本番までの進め方、そして役割分担・誤回答対策・セキュリティの前提を押さえておくと、庁内での検討がスムーズになります。
まずは候補サービスの資料をまとめて取り寄せ、自庁の受電件数と対象業務に沿った見積もり・デモを依頼するところから始めてみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 自治体のAI電話とは何ですか?
A. 自治体のAI電話とは、市区町村の窓口にかかってくる電話の一次対応を、AIが音声で代行する仕組みです。住民票や証明書の取得方法、ごみの分別といった答えが定型的な問い合わせをAIが聞き取って回答し、個別の判断が要る相談は職員へ引き継ぎます。
方式には音声IVR(自動音声応答)・ボイスボット・AIオペレーター・生成AI連携型があり、自治体の住民対応では、話し言葉で用件を聞き取って回答と取り次ぎを自動で判断できるボイスボット・AIオペレーター型が中心です。
Q. 自治体のAI電話の導入費用はどのくらいかかりますか?
A. 自治体のAI電話の費用は、小規模な一業務なら月額数十万円規模から、全庁的・大規模な導入では初期・年間で1,000万円を超える規模まで、受電数と対応範囲によって大きく変わります。
一次情報で金額が確認できる例では、神戸市税務部の契約予定金額が12,760,000円(税込)、大日本印刷(DNP)の電話AIサービスが初期導入費用500万円〜・月額運用費用50万円〜(いずれも税別)、DHK CANVAS が月額15万円〜(1,000件分のコールを含む件課金)です。
金額を個別見積もりとするサービスが多いため、受電件数と対象業務を整理したうえで複数社に見積もりを依頼するのが実務的です。
Q. 自治体のAI電話導入に使える交付金・補助金はありますか?
A. 自治体のAI電話には、国の「地域未来交付金」のデジタル実装型が活用できる場合があります。同交付金のデジタル実装型は、支援対象に「AIを高度に活用するサービス」を明記しており、自治体のAI電話はこれにあたりうる取り組みです。ただし交付のタイプごとに要件が異なり、すべての導入が確実に対象になるわけではないため、最新の公募要領で自庁の取り組みが要件を満たすかを確認してください。
名称の似た「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)は、補助対象者が中小企業・小規模事業者等であり、自治体は申請者になれない点に注意が必要です。
Q. 自治体のAI電話は導入までどのくらいの期間がかかりますか?
A. 自治体のAI電話は、多くが実証(PoC)を経て本番稼働へ進み、実証から本番までおおむね半年前後が一つの目安です。高松市は2026年2〜3月に実証を行い、その後に本番採用して8月から運用を開始しました。サービス単体の導入期間でみると、グラファーは導入まで2〜3週間、音声確認を含め公開まで2か月程度が一般的だと案内しています。
進め方は、対象業務の選定とヒアリング、応答シナリオ・FAQの作成、実証、本番稼働という順序が標準的です。
Q. 自治体のAI電話は既存の電話番号をそのまま使えますか?工事は必要ですか?
A. 自治体のAI電話の多くは、既存の電話番号をそのまま使え、大掛かりな工事や電話機器の入れ替えも不要です。DHK CANVAS は0120・0800・0570番号からの転送着信に対応するクラウド型で、グラファーも既存の電話機器を変えずに利用できると案内しています。番号を変えずに導入できるかは住民への周知の負担にも関わるため、早い段階で確認しておくとよいでしょう。
Q. 自治体のAI電話は、すべての電話をAIだけで対応するのですか?職員につながらなくなりませんか?
A. 自治体のAI電話は、すべての電話をAIで完結させるものではなく、定型の問い合わせをAIが受け持ち、個別の判断や相談が必要な用件は職員へ引き継ぐハイブリッド運用が基本です。導入済みの自治体はいずれもこの形をとっており、AIが対応困難と判断した場合や、住民が「人と話したい」と希望した場合には、聞き取った要件を添えて職員へ転送します。
高松市や倉敷市では質疑の要約を職員に引き継ぐため、住民が同じ説明を繰り返す必要もありません。
Q. 自治体のAI電話は高齢者でも使えますか?
A. 自治体のAI電話は、プッシュ操作に頼らず話し言葉で用件を伝えられるため、入力操作が苦手な高齢者にも向いています。Webサイト上で文字で応対するAIチャットボットと違い、電話で音声のやり取りができる点が、電話をかけてくる高齢の住民に適しています。AIで対応が難しい場合や希望があれば職員へ直接つなぐ選択肢をあわせて用意しておくと、さらに安心して利用してもらえます。
Q. 自治体のAI電話が誤った案内(ハルシネーション)をする心配はありませんか?
A. 自治体向けのAI電話サービスの多くは、AIが自由に回答するのではなく、登録されたFAQや自治体の公式サイトなど限られた情報の範囲内で回答する設計にすることで、誤案内のリスクを抑えています。倉敷市や高松市の事例でも、AIが市の公式情報を参照して回答し、対応が難しい場合は職員へ引き継ぐ形をとっています。
回答できる範囲をあらかじめ決めて運用することが基本的な考え方で、制度変更時に回答データをどう更新するか(多くは管理画面から職員が更新できます)もあわせて確認しておくと安心です。
Q. 自治体のAI電話に住民が個人情報を話しても安全ですか?
A. 自治体のAI電話では、通話で取得した個人情報をAIの学習に使わない設計や、氏名・住所などの自動マスキング、専用環境での管理といった対策がセキュリティの確認ポイントになります。ISO27001(ISMS)・ISO27017・プライバシーマークの取得状況や、政府情報システム向けのISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)への登録状況も確認材料です。
サービスによっては、クレジットカード情報やマイナンバーなどの要配慮個人情報を取得できない仕様のものもあるため、自庁で扱いたい情報を受け付けられるかを事前に確認し、庁内の情報セキュリティポリシーやLGWAN(総合行政ネットワーク)との関係も情報システム部門とすり合わせておくとよいでしょう。
Q. 自治体のAI電話とAIチャットボットは何が違いますか?
A. 自治体のAI電話とAIチャットボットの違いは、住民との応対が音声か文字かという入力方法の違いです。AI電話は電話をかけてきた住民に音声で応対するため、入力操作が苦手な高齢者に向き、既存の電話回線をそのまま活用できます。一方のAIチャットボットは、Webサイト上で文字によって応対します。
電話をかけてくる層にはAI電話、Webで文字入力をする層にはチャットボットが向くため、両者を併用する自治体もあります。
Q. 小規模な自治体でもAI電話を導入する効果はありますか?
A. 小規模な自治体でも、定型の問い合わせをAIが24時間365日受け持つことで、少ない職員でも繁忙期の電話集中や時間外対応をしのぎやすくなる効果が期待できます。職員数が限られるほど、同じ質問の繰り返し対応から解放される価値は大きくなります。
費用は受電数に応じた個別見積もりになることが多いため、まず1週間ほど課ごとの着信を数え、対象業務を絞って見積もりを依頼すると、自庁の規模に合った導入像を描きやすくなります。
Q. 自治体のAI電話は制度変更のときに回答内容を更新できますか?運用の手間はどのくらいですか?
A. 自治体のAI電話の多くは、管理画面から職員が応答内容・回答データを更新でき、制度変更のたびに外注しなくて済む設計になっています。DHK CANVAS のように、管理画面上で部品をドラッグ&ドロップでつないで応答の流れを組み立てるノーコード設計のサービスなら、非エンジニアの職員でも更新しやすくなります。
本番稼働後も回答データを更新しながら精度を高めていく運用が基本になるため、更新のしやすさと導入後の改善支援の有無を選定時に確認しておきたいところです。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。
















