社内のアクセス管理やセキュリティ対策にいくらかかるのかは、来期予算の策定や稟議の場面で必ず問われる数字です。しかし「アクセス管理 コスト」で調べても、出てくるのはセキュリティ対策費用全般の話か、言葉の意味の解説ばかりで、「結局いくらなのか」にたどり着けないことが少なくありません。
アクセス管理には、ID・パスワードの管理やシングルサインオン、多要素認証といった「論理的なアクセス管理」と、入退室管理のような「物理的なアクセス管理」があり、それぞれ費用の考え方が異なります。自社の規模ならいくらが妥当なのか、何にどれだけかかるのか、限られた予算では何から始めるべきなのか——判断の土台になる相場観がないまま検討を進めるのは難しいものです。
セキュリティ対策は「必要だ」とわかっていても、相場がつかめず予算化が後回しになりがちです。特にアクセス管理は、ID管理の月額のように小さな支出から、入退室管理のようにまとまった初期費用がかかるものまで幅があり、全体像が見えないまま検討が止まってしまうこともあります。まずは数字の目安を押さえることが、予算化の第一歩になります。
目次
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【結論】従業員規模別の年間セキュリティ費用の目安
はじめに、セキュリティ対策全体にかかる年間費用の目安を規模別に示します。アクセス管理はこの中の一部ですが、まず全体像の相場を押さえると、自社の予算の当たりを付けやすくなります。
先に結論だけ述べると、この記事の主題であるアクセス管理そのものの費用は、論理的なアクセス管理(ID管理・多要素認証)なら1人あたり月額数百円からと、全体の中では小さな部分です。詳しい実額は次章で見ていきます。
金額は各種調査やセキュリティベンダーが公表する資料にもとづく目安で、セキュリティを目的とした追加支出(業務用ライセンスやPC本体の費用は含まない)を想定しています。企業の業種・リスク・既存環境によって上下するため、幅のある目安としてご覧ください。
とりわけ金融・医療・クレジットカード決済など、業法やガイドラインで高い安全管理を求められる業種は注意が必要です。
金融ではFISC(金融情報システムセンター)の「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」、医療では厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」、クレジットカード情報を扱うEC・決済ではPCI DSSへの準拠が求められます。こうした業種は監査対応や要件を満たすための追加投資が必要になり、同じ規模でも費用が目安より上振れしやすくなります。
規模別の年間費用レンジ(目安)
| 規模別の年間セキュリティ費用の目安 | 〜30人 | 31〜50人 | 51〜100人 | 101〜300人 |
|---|---|---|---|---|
| 年間費用の目安 | 60万〜200万円 | 150万〜400万円 | 300万〜800万円 | 800万〜2,500万円 |
| 1人あたり月額換算 | 約1,700〜5,500円 | 約2,500〜6,700円 | 約2,500〜6,700円 | 約2,200〜7,000円 |
| 主な内訳の例 | 多要素認証、端末保護(EDR)、バックアップ、外部相談 | 上記+端末管理の整備、従業員教育・訓練 | 上記+ログ監視、脆弱性診断、規程整備 | 上記+監視・運用の外部委託、専任担当 |
※金額は、後述「対策カテゴリ別の費用内訳」の各対策費用(各ベンダーの公表料金)を規模ごとに積み上げた試算に、IT予算に占めるセキュリティ予算比率の実態調査(下記「IT予算に占めるセキュリティ比率」節の出典)を照らした2026年時点の目安です。業種・リスク・既存環境により変動します。
目安の幅が広いのは、既存で契約しているクラウドサービスの標準機能をどこまで使い切れるか、監視・運用を自社で担うか外部に委託するかで、総額が数倍変わるためです。特に監視・運用の委託は費用に占める割合が高く、ここをどうするかが総額を左右します。
自社の規模に引き寄せて考えられるよう、後述の対策カテゴリ別の単価をもとに、まず導入したい必須の対策(多要素認証・端末保護・バックアップ・従業員教育)だけを積み上げた場合の年間費用を、50人規模と100人規模で試算します。多要素認証は既存ライセンスでまかなえる場合が多いため、単価の下限を0円としています。
| 必須の対策のみの年間費用(積み上げ試算・50人/100人規模) | 多要素認証・ID管理 | 端末保護(EDR) | バックアップ | 従業員教育・訓練 | 合計(必須の対策のみ) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1人・1台あたりの単価 | 1人 月額0〜500円 | 1台 年額3,000〜12,000円 | 1人 月額500〜1,500円 | 1人 年額1,000〜3,000円 | — |
| 50人規模の年間小計 | 0〜30万円 | 15万〜60万円 | 30万〜90万円 | 5万〜15万円 | 約50万〜195万円 |
| 100人規模の年間小計 | 0〜60万円 | 30万〜120万円 | 60万〜180万円 | 10万〜30万円 | 約100万〜390万円 |
※後述「対策カテゴリ別の費用内訳」の単価を人数分積み上げた試算です。必須の対策のみを対象とし、UTM・サイバー保険・監視委託などは含みません。多要素認証は必須機能に絞った下位レンジで試算しています。これらを加えた総額は上の規模別レンジが目安です。
IT予算に占めるセキュリティ比率から自社の目安を出す
規模別の相場に加えて、自社のIT予算に対する比率から目安を出す方法もあります。NRIセキュアテクノロジーズが2024年に日本・米国・オーストラリアの企業を対象に実施した調査では、IT関連予算に占めるセキュリティ関連予算の比率が10%以上と回答した日本企業は29.8%でした。これは前回調査の22.3%から7.5ポイントの増加で、セキュリティへの投資を広げる動きが進んでいることがうかがえます。
中小規模の企業ほど、この比率が高い傾向があります。JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査2021」では、売上高100億円未満の企業で情報セキュリティ関連費用がIT予算の15%以上を占めると回答した割合が43.8%(2020年度)と、前年度の34.1%から上昇しています。固定費の少ない中小企業では、1件の対策がIT予算に占める比重が大きくなりやすいためです。
ただし、これらはいずれも各社が実際に計上している割合(実態値)であって、公的に定められた推奨比率ではありません。目安としては、自社のIT予算の1割前後を一つの出発点に、扱う情報の重要度やリスクに応じて増減を検討すると、規模別の相場と照らし合わせながら現実的な予算を組み立てられます。
出典・参考資料(3件)
アクセス管理そのものにいくらかかる?ID管理・SSO・多要素認証・入退室の実額
ここからは、セキュリティ対策全体ではなく「アクセス管理そのもの」にいくらかかるのかを見ていきます。アクセス管理の費用を正面から示す情報は意外と少ないため、論理的なアクセス管理(ID管理・多要素認証)と物理的なアクセス管理(入退室管理)に分けて、実際の料金とその考え方を整理します。
そもそもアクセス管理とは(ID管理と入退室管理の整理)
アクセス管理とは、誰が・どの情報やシステムに・どこまでアクセスしてよいかを管理し、本人確認(認証)と権限の付与(認可)、利用状況の記録(監査)を行う仕組みの総称です。費用を考えるうえでは、大きく2種類に分けると整理しやすくなります。
一つは、業務システムやクラウドサービスへのログインを管理する論理的なアクセス管理です。ID管理、シングルサインオン(一度の認証で複数のサービスを使えるようにする仕組み)、多要素認証(パスワードに加えて別の要素で本人確認する方式)が含まれます。
もう一つは、オフィスやサーバールームへの入室を管理する物理的なアクセス管理、すなわち入退室管理です。東京都のサイバーセキュリティ対策ガイドブックでも、費用の項目としてアクセス管理は人的対策に、入退室管理は物理的対策に位置づけられています。
出典・参考資料(1件)

論理的なアクセス管理(ID管理・SSO・多要素認証)の実額
ID管理やシングルサインオン、多要素認証を提供するクラウド型のサービス(IDaaSと呼ばれます)は、利用する1人あたりの月額で課金されるのが一般的です。シングルサインオン・多要素認証・アクセス制限を統合したプランでも、1人あたり月額数百円〜1,500円程度が一つの目安で、セキュリティ対策全体の中では比較的小さな支出です。
初期費用の有無や、新規契約で求められる最低ID数(100ID程度を下限とする製品もあります)、オプションの付け方はサービスごとに異なります。製品ごとの具体的な料金は、記事後半の比較表とサービス紹介にまとめています。
フィッシング対策として用いられる物理的なセキュリティキー(ハードウェアトークン)を使う方式では、キー本体の費用が加わります。買い切りではなくサブスクリプションで導入し、キーの配布や故障時の交換、導入支援まで含めて運用するサービスもあり、こちらは利用規模や選ぶキーの種類に応じた個別見積もりが基本です。
パソコンへのログインをスマートフォン連携で自動化する継続認証型の製品では、1ライセンスあたり月額500円・年間6,000円程度を目安とする例もあります。
一方で、特権的な権限を持つアカウントの管理(特権ID管理)やログ監査を厳密に行う場合は、対象や機能に応じて費用が上がります。ID管理の基本的な機能は小さな支出で導入でき、守る範囲を広げるほど費用が積み上がる、という構造です。
ID管理やシングルサインオンの料金は、初期費用の有無やオプションの付け方でサービスごとに実額が変わります。主要なサービスの月額・初期費用を公式料金ページ準拠で一覧にして見比べたい場合は、次の記事が参考になります。
物理的な入退室管理(認証方式別)の費用相場
オフィスやサーバールームの入退室管理は、認証方式によって費用が変わります。次の表は、小規模に1システム(1扉)を導入する場合の合計費用(機器・設置工事・システム設定を含む)の一般的な目安です。扉を増やす場合の追加は1扉あたり約10万円からが目安で、まとめて導入すれば1扉あたりの単価は下がります。クラウド型では、これに加えて1IDあたり月額数千円程度の利用料がかかることがあります。
| 入退室管理システムの認証方式別の費用相場(小規模な1システム導入時の合計の目安) | テンキー(暗証番号) | ICカード | 指紋認証 | 静脈・虹彩認証 | 顔認証 |
|---|---|---|---|---|---|
| 導入費用の相場 | 約100万〜120万円 | 約110万〜150万円 | 約150万〜180万円 | 約200万〜230万円 | 約200万〜250万円 |
| 特徴 | 低コストだが番号の共有・漏えいに注意 | 社員証と兼用しやすく普及している | カード不要で紛失・貸与のリスクが低い | 偽造が難しく高いセキュリティ | 非接触で通行がスムーズ |
※入退室管理ベンダーの公表資料にもとづく2026年時点の目安です。扉数・既存設備の活用可否により変動します。
なお、クラウド型を選ぶと費用の内訳が変わります。初期費用として機器費用(カードリーダー・制御機器など)と設置工事費がかかり、これに管理画面の利用料・保守を含む運用費が1扉あたり月額数千円程度で加わります。初期費用を抑えられる一方、長く使うほど月額の累計は増えるため、既存の電気錠や自動ドアを流用できれば設置工事費を抑えられます。
費用を抑えるには、すべての扉に高価な方式を入れるのではなく、サーバールームなど重要区画に絞って高度な認証を採用し、一般的な入口はICカードにするなど、区画ごとに方式を使い分けるのが現実的です。既存の設備を流用できるかどうかでも総額は変わります。
既存のクラウド契約で追加費用なしにできる範囲
アクセス管理の強化は、必ずしも新しいサービスの契約を必要としません。すでにMicrosoft 365やGoogle Workspaceを利用している場合、アクセス管理の一部は追加費用なしで実施できます。
Microsoftの公式ドキュメントによれば、多要素認証はセキュリティの既定値(Security defaults)としてすべての利用者が無料で使えます。
アクセスする場所やデバイスの状態に応じてログインを制御する「条件付きアクセス」はMicrosoft Entra ID P1ライセンスが必要ですが、これはMicrosoft 365 Business Premiumに含まれています。サインインのリスクに応じて制御するより高度な方式はP2が必要です。
まずは契約済みのプランで使える機能を棚卸しし、不足する部分だけを追加する順序にすると、費用を抑えられます。
出典・参考資料(1件)
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「何に・いくら」かかる?対策カテゴリ別の費用内訳
アクセス管理は、セキュリティ対策全体の一部です。予算を組むときは、他の対策とあわせて「何にいくらかかるのか」を把握しておくと、全体のバランスを取りやすくなります。主な対策カテゴリごとの費用の目安は次のとおりです。
| セキュリティ対策カテゴリ別の費用の目安 | ID・認証(アクセス管理) | 端末保護(EDR・ウイルス対策) | ネットワーク(UTM・ファイアウォール) | バックアップ | 従業員教育・訓練 | 監視・運用(外部委託) | サイバー保険 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 費用の目安 | 1人あたり月額0〜1,500円程度 | 1台あたり年額3,000〜12,000円程度 | 導入30万〜100万円+月額2万〜5万円程度 | 1人あたり月額数百〜数千円程度 | 1人あたり年額1,000〜3,000円+訓練都度 | 月額10万〜50万円程度 | 年額10万〜80万円程度(補償上限による) |
| 位置づけ | 人的・技術的対策。既存ライセンスで0円の範囲もある | 技術的対策。マルウェア・不正プログラム対策 | 技術的対策。通信の出入口を守る | 技術的対策。ランサムウェアからの復旧の要 | 人的対策。標的型メール訓練など | 組織的対策。総額を左右しやすい | 万一の損害に備える |
※各対策カテゴリの一般的な製品・サービスの公表料金にもとづく2026年時点の目安です。対象範囲・契約条件により変動します。
この内訳を見ると、アクセス管理(ID・認証)そのものの単価は、端末保護やネットワーク対策と比べて小さいことがわかります。にもかかわらず効果が見込めるのは、多くの攻撃がID・パスワードの窃取を入口にするためで、ここを固める費用対効果は高いといえます。前述の東京都ガイドブックでは、アクセス管理は人的対策に、本人認証・アクセス制御は技術的対策に分類されており、両者にまたがる基盤的な位置づけといえます。
限られた予算で何から?費用対効果で見る優先順位
すべての対策を一度に導入できる企業は多くありません。限られた予算では、費用対効果の高いものから段階的に進めるのが基本です。目安となる優先順位を、必須・推奨・余裕があればの3段階で整理します。

まず固めるべき必須の対策
最優先は、被害の起点になりやすく、かつ比較的安価に導入できる対策です。具体的には、多要素認証による本人確認の強化、端末保護(EDR・ウイルス対策)、そしてランサムウェアからの復旧に不可欠なバックアップです。多要素認証は既存のクラウド契約で無料でまかなえる場合も多く、アクセス管理の第一歩として費用対効果が高い対策です。従業員へのセキュリティ教育も、低コストで被害の多くを防げるため必須に含めます。
50人規模なら、必須の対策までで前掲の積み上げ試算の年50万〜195万円程度が目安で、多要素認証を既存ライセンスでまかなえれば下限はさらに下がります。
第一歩として挙げた多要素認証について、二段階認証との違いや、具体的にどの要素を組み合わせるのかを押さえておきたい方は、仕組みから解説した次の記事もあわせてご覧ください。
MFA(多要素認証)とは?仕組み・3要素と二段階認証との違いをわかりやすく解説
クラウドサービスの利用が当たり前になり、取引先やセキュリティガイドライン、サイバー保険の加入条件などで「MFA(多要素認証)を有効にしてほしい」と求められる場面が増えています。とはいえ、いざMFAという言葉に向き合うと、「二段階認証と何が違…
次に検討する推奨の対策
必須の対策が整ったら、通信の出入口を守るUTM・ファイアウォール、脆弱性診断、標的型メール訓練、そして万一に備えるサイバー保険を検討します。これらは被害を広げないための対策で、事業の規模や公開しているシステムの状況に応じて優先度を判断します。必須に加えてこれらまで広げると、50人規模で年150万〜400万円程度(前掲の規模別レンジの31〜50人に相当)が一つの目安です。
余裕があれば取り組む対策
ログを集約して分析する仕組み(SIEM)や、社内ネットワークの監視、ゼロトラストを前提とした認証基盤の構築は、運用体制が整ってから段階的に検討する領域です。
この段階で監視・運用を外部に委託すると、月額10万〜50万円(年120万〜600万円)が加わり、委託の範囲しだいで総額が変わります。費用も高くなるため、自社のリスクと人員を見極めて判断します。アクセス管理の観点では、特権的な権限を持つアカウントの管理(特権ID管理)をこの段階で強化する企業も少なくありません。
なぜこの順序になるのかは、被害の実態と結びつけると腑に落ちます。多くの被害はパスワードの窃取や使い回し、退職者アカウントの放置といった、認証とアクセス管理の穴を突かれて起きます。だからこそ、入口を固める多要素認証とアクセス管理を先に、被害を広げない対策を次に、という順序が費用対効果にかなっています。
その投資は妥当か?被害額と「対策しないコスト」で説明する
セキュリティ投資は、効果が見えにくく経営層の理解を得にくい支出です。投資の妥当性を説明するには、「対策しなかった場合にいくら失うか」を具体的な金額で示すのが最も説得力を持ちます。
被害額の実態(情報漏えい・ランサムウェア)
日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)の調査によると、ランサムウェア感染被害を受けた組織の被害金額は、ほとんどが1,000万円超と回答しており、平均値は4,959万円、中央値は3,260万円でした。直近2年(2022年7月〜2024年6月)に限ると平均値は6,019万円に上り、被害額は増加傾向にあります。
情報漏えいの場合は、クレジットカード情報を含むケースで平均3,608万円、個人情報のみの場合で平均2,407万円という結果です。
被害額の内訳も具体的です。JNSAのレポートでは、事故原因・被害範囲の調査費用に300万〜400万円、問い合わせ対応のコールセンター費用に3か月で700万〜1,000万円、個人情報保護法上の罰金は最大1億円といった費目が示されています。これらを積み上げると、中小企業でも数千万円単位、場合によっては数億円規模の損失になり得るとされています。
出典・参考資料(2件)
アクセス管理を「しない」コスト
被害は外部からの攻撃だけではありません。退職者のアカウントが放置されて不正に使われる、権限の広すぎるアカウントが悪用される、といった内部に起因する事故もアクセス管理の不備から生じます。
こうした内部に起因する事故も、損失の規模は外部攻撃と変わりません。前掲のJNSAの国内調査が示すとおり、情報漏えいの被害額は個人情報のみでも平均2,407万円に上り、不正アクセスやアカウントの悪用はその主要な原因の一つです。
海外の参考値としては、米Ponemon Instituteの調査(IBM後援、2020年公表)が、認証情報の盗難1件あたりの対処コストを平均871,686米ドルと報告しています。当時の為替(1ドル=約103円)で換算すると約9,000万円に相当します。
これは2019年の海外データのため金額をそのまま自社に当てはめることはできませんが、ID・パスワードの管理やアクセス権限の統制を怠ることが、どれだけの損失につながり得るかの桁感を補う数字です。多要素認証や退職者アカウントの確実な停止といったアクセス管理は、この「しないコスト」を避けるための投資として説明できます。
セキュリティ・アクセス管理のコストを抑える現実的な方法
最後に、支払う額そのものを下げるための現実的な方法を整理します。いずれも、必要な対策の水準を落とさずに負担を軽くする工夫です。
契約済みのクラウドサービスを使い切る
Microsoft 365やGoogle Workspaceには、多要素認証や条件付きアクセスに加え、端末管理やマルウェア対策の機能が上位プランに含まれていることがあります。新しいサービスを契約する前に、すでに支払っているプランで使える機能を確認し、使い切ることが第一歩です。追加費用なしでアクセス管理を強化できる範囲は意外と広く、ここを見落とすと二重の支出になりかねません。
具体的には、次の項目が自社のプランに含まれ、有効化されているかを確認しましょう。
- Microsoft 365 Business Premium:多要素認証(Microsoft Entra ID の多要素認証)、条件付きアクセス(Entra ID P1)、Microsoft Intune(端末管理)、Microsoft Defender for Business(端末保護・EDR相当)が有効化されているか
- Google Workspace:2段階認証プロセスの必須化、管理コンソールの端末管理やセキュリティ設定(アクセス制御)を使えているか
- 上位プランに含まれる機能を未使用のまま、同じ役割の別サービスを重ねて契約していないか
出典・参考資料(1件)
中小企業向けパッケージ(サイバーセキュリティお助け隊)を活用する
情報処理推進機構(IPA)の「サイバーセキュリティお助け隊サービス」は、相談窓口・異常監視・事案発生時の初動対応・簡易なサイバー保険を、民間事業者がワンパッケージで中小企業向けに提供する制度です。個別に製品を揃えるより導入のハードルが低く、専任のセキュリティ担当を置きにくい企業が最初の一歩を踏み出すのに向いています。
出典・参考資料(1件)
補助金・公的支援で実質負担を下げる
国の補助金を使えば、実質的な負担を下げられます。従来のIT導入補助金は、2026年の制度では「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わりました。
そのセキュリティ対策推進枠では、補助額5万円以上150万円以下、補助率は中小企業が2分の1以内、小規模事業者が3分の2以内で、前述のお助け隊サービスリストに掲載されたサービスの利用料が最大2年分まで対象になります。より規模の大きい投資には、通常枠(上限450万円、原則2分の1以内)もあります。
申請は、事務局に登録されたIT導入支援事業者と組んで行う必要があり、対象も支援事業者が登録したサービスに限られます。セキュリティ対策推進枠は通常枠に比べて件数が小さく、2024年の各締切では申請・採択がそれぞれ十数〜数十者規模で推移しました。導入したいサービスが決まったら、そのサービスを扱う支援事業者を早めに見つけておくと申請がスムーズです。
出典・参考資料(1件)
補助金は年度ごとに金額や要件が変わるため、申請時は最新の公募要領を必ず確認してください。
出典・参考資料(1件)
買い切り型かサブスク型かを総額で比べる
入退室管理の機器やセキュリティキーなどは、買い切りで調達する方法と、月額・年額のサブスクリプションで導入する方法があります。初期費用を抑えたい場合はサブスクが有利ですが、長期間使うなら買い切りの方が総額で安くなることもあります。導入時の費用だけでなく、保守・交換・サポートまで含めた数年単位の総額で比べて判断するのが失敗を避けるコツです。
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自社の課題に合うアクセス管理サービス
ここでは、アクセス管理そのものに取り組める代表的なサービスを取り上げ、費用と特徴を比較します。クラウドでのID管理、物理セキュリティキーによる認証、パソコンの継続認証と、アプローチの異なる3つを紹介します。
| アクセス管理サービスの費用・特徴比較 | CloudGate UNO | YubiKey as a Service | DZ Pass |
|---|---|---|---|
| 提供形態 | クラウド型(IDaaS) SSO・多要素認証・アクセス制限・ID管理を統合 | 物理セキュリティキー サブスク型で運用代行付き | PCインストール型(オンプレミス) スマホアプリ併用(スタンダードモード) |
| 主な認証方式 | パスキー(FIDO2)・生体認証 OTP・物理セキュリティキー | FIDO2/WebAuthn・FIDO U2F PIV・OpenPGP・OTP(物理キー) | 顔認証+スマートフォン認証 (バックグラウンド認証®)ほか3モード |
| 初期費用 | 要問い合わせ (Smart Packはオプション初期費用が無償) | 要問い合わせ (サブスクで初期費用を抑制) | 要問い合わせ |
| 月額・料金の目安 | 月額400円〜/人(税込440円〜) 上位プランは税込550〜660円 | 要問い合わせ (ティア・規模に応じた個別見積もり) | 月額500円/人・年6,000円が目安※ |
| 最低契約数 | 新規100IDから (追加は1IDから) | 200ライセンスから | 要問い合わせ |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 |
※料金は2026年10月時点。CloudGate UNOの月額は税込表記です。DZ Passの「月額500円/人・年6,000円」は独自インタビューでのCEO発言にもとづく目安で、公式サイトでは料金を公開していません。
ここで取り上げたのはアクセス管理に絞ったサービスですが、端末保護やネットワーク対策まで含めて社内のセキュリティ全体をどう固めるかを検討している場合は、守る対象別にサービスのタイプと選び方を整理した次の記事が全体像の把握に役立ちます。
社内セキュリティソリューション比較|守る対象別のタイプ・代表サービスと選び方
社内のセキュリティを強化したいものの、端末の保護から不正アクセス対策、情報漏えいの防止まで課題が広く、何から手をつければよいか判断がつかないという声は少なくありません。テレワークやクラウド利用が定着し、社外に持ち出される端末やIDが増えたこ…
1. CloudGate UNO(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

CloudGate UNOは、ゼロトラストの考え方にもとづくシングルサインオンに、多要素認証・アクセス制限・ID管理を統合したクラウド型のサービスです。株式会社インターナショナルシステムリサーチが100%自社開発しており、一度の認証でGoogle WorkspaceやMicrosoft 365など複数のクラウドサービスを利用できます。
特徴は、端末・場所・時間の3つの軸で細かくアクセスを制限できる点と、フィッシングに強いパスキー(FIDO2)によるパスワードレス認証を全プランで無制限に使える点です。料金は1ユーザーあたり月額400円(税込440円)からで、新規は100IDから導入できます。
パスワードレス認証に切り替えることで、パスワードの再発行や問い合わせ対応といったIT部門の運用負荷を削減できる点も、コスト面での利点です。
このパスワードレス化による運用負荷の削減について、同社はインタビューで次のように述べています。

導入と同時にパスワードレス認証に切り替えた企業では、IT部門の業務の約20%を占めていたパスワード関連のヘルプデスク業務が「0%」になったという事例があります。
2. YubiKey as a Service(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

YubiKey as a Serviceは、物理セキュリティキー「YubiKey」をサブスクリプション型で導入できるサービスです。キー本体を買い切るのではなく、導入支援から故障・紛失時の交換、キーの初期設定の代行まで含めて運用できるのが、買い切りとの大きな違いです。
秘密鍵がキー内部に留まりネットワーク上に流れないため、パスワードやSMS認証より不正ログインに強く、スマートフォンを業務で使えない現場(医療・製造・コールセンターなど)でも使えます。契約期間中は毎年、契約数の25%分の予備キーが無償提供されるため、増員や紛失にも対応しやすい設計です。
料金は選ぶキーの種類や規模に応じた個別見積もりが基本で、200ライセンスからの提供となります。介護施設での導入事例では、ログインにかかる時間が30〜40秒から10秒未満に短縮されたと報告されています。
導入現場でのコスト・運用上の判断について、同社はインタビューで次のように述べています。

全社的なスマートフォン支給が困難であるというコスト面の課題に加え、セキュリティ上の優位性が決め手となります。セキュリティキーはPINコードがなければ悪用が困難なため、紛失時のリスクが極めて低いのが特徴です。こうした高い安全性と、充実したサポート体制、そして25%の予備キー提供による運用コストの低減が評価されています。
3. DZ Pass(株式会社AnchorZ)

DZ Passは、株式会社AnchorZが提供するWindows PC向けのパスワードレス認証・情報漏えい対策ソフトウェアです。スマートフォンのセンサーで本人確認を続ける「バックグラウンド認証」により、使い始めに一度だけ確認するのではなく、使っている間ずっと本人性を確認し続ける「継続認証」が特徴です。
顔認証とスマートフォン認証を組み合わせるスタンダードモードのほか、スマートフォン不要の顔認証のみのモード、既存のログイン方法を変えずに監視機能だけを追加するモードの3つから選べます。離席の検知による自動ロックや、第三者・覗き見の検知にも対応し、在宅勤務時の情報漏えい対策として使われています。
金融機関での導入事例では、従来のシンクライアント環境からの乗り換えにより、コストを従来の約10分の1以下に抑えられたとされています。料金は公式サイトで公開されていませんが、独自インタビューで同社の代表取締役CEOが目安を述べています。
その目安について、同社の代表取締役CEOは次のように説明しています。
基本的には年間で1ライセンスいくら、という形で販売しています。DZ Passもオープンプライスですが、目安として1ライセンスあたり月額500円、年間で6,000円が目安です。ボリュームディスカウントがありますので、全体の利用量が増えるほど単価は安くなっていきます。
まとめ
アクセス管理のコストは、論理的なアクセス管理(ID管理・多要素認証)なら1人あたり月額数百円からと、セキュリティ対策全体の中では比較的小さな支出です。物理的な入退室管理は認証方式によって扉あたり100万円台から変わります。まずは自社規模の年間費用の目安をつかみ、契約済みのクラウドサービスで使える機能を確認したうえで、不足する部分を優先順位に沿って補っていくのが、無理のない進め方です。
投資の妥当性は、被害額や「対策しないコスト」との比較で説明でき、補助金や公的支援を使えば実質的な負担も下げられます。自社の課題に合うサービスの資料を取り寄せ、具体的な料金と機能を比べることから始めてみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. アクセス管理とは何ですか?
A. アクセス管理とは、誰が・どの情報やシステムに・どこまでアクセスしてよいかを管理し、本人確認(認証)・権限の付与(認可)・利用状況の記録(監査)を行う仕組みの総称です。
費用を考えるうえでは、業務システムやクラウドへのログインを管理する「論理的なアクセス管理」(ID管理・シングルサインオン・多要素認証)と、オフィスやサーバールームへの入室を管理する「物理的なアクセス管理」(入退室管理)の2種類に分けると整理しやすくなります。
Q. アクセス管理のコストは1人あたりいくらが目安ですか?
A. アクセス管理のうち論理的なアクセス管理(ID管理・SSO・多要素認証)は、クラウド型サービスで1人あたり月額数百円〜1,500円程度に収まることが多く、セキュリティ対策全体の中では比較的小さな支出です。一方、物理的な入退室管理は認証方式によって扉1か所あたり約100万〜250万円と幅があります。
特権的な権限を持つアカウントの管理(特権ID管理)やログ監査を厳密に行う場合は、対象や機能に応じて費用が上がります。
Q. セキュリティ予算がほとんどなくても、アクセス管理は始められますか?
A. 始められます。多要素認証はMicrosoft 365やGoogle Workspaceの標準機能として追加費用0円から導入でき、アクセス管理の第一歩として費用対効果の高い対策です。多くの被害は、パスワードの窃取や使い回し、退職者アカウントの放置といった認証の穴を突かれて起きます。
まず多要素認証で入口を固め、次に端末保護(EDR)やバックアップ、従業員教育を低コストで重ねていくのが、限られた予算での現実的な進め方です。
Q. 無料でできるアクセス管理・セキュリティ対策はありますか?
A. あります。代表的なのが多要素認証で、Microsoftの公式ドキュメントによれば「セキュリティの既定値」としてすべての利用者が無料で利用できます。このほか、OS・ソフトウェアの最新化、パスワードの使い回しをなくす運用、従業員への注意喚起なども追加費用なしで実施できます。まずは契約済みのクラウドプランで使える機能を棚卸しし、不足する部分だけを追加する順序にすると、二重の支出を避けられます。
Q. アクセス管理の費用対効果を経営層にどう説明すればよいですか?
A. 「対策しなかった場合に失う金額」と投資額を並べて示すのが、最も説得力のある説明方法です。JNSA(日本ネットワークセキュリティ協会)の調査ではランサムウェア感染被害の平均額は4,959万円、別に米Ponemon Instituteの調査では認証情報の盗難1件あたりの対処コストが平均871,686米ドル(当時の為替で約9,000万円)とされています。
これに対し、論理的なアクセス管理は1人あたり月額数百円からで、多要素認証なら0円から始められます。この「対策しないコスト」との対比が、投資の妥当性を示す根拠になります。
Q. セキュリティ・アクセス管理にかけた費用は税務上どう処理できますか?
A. 一般的に、月額・年額のサブスクリプション型で利用するクラウドサービスの費用は損金に算入できるとされています。ただし、買い切りの機器や高額なシステムは資産計上・減価償却の対象になる場合があり、処理方法は契約形態や金額によって異なります。具体的な取り扱いは、顧問税理士に確認することをおすすめします。
Q. アクセス管理の導入に補助金は使えますか?
A. 使えます。従来のIT導入補助金にあたる「デジタル化・AI導入補助金」のセキュリティ対策推進枠では、補助額5万円以上150万円以下、補助率は中小企業が2分の1以内・小規模事業者が3分の2以内で、IPAのお助け隊サービスリストに掲載されたサービスの利用料が最大2年分まで対象になります。
より規模の大きい投資には、上限450万円(原則2分の1以内)の通常枠もあります。補助金は年度ごとに金額や要件が変わるため、申請時は最新の公募要領を必ず確認してください。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。


















