事業の一部を切り出して売却したい、後継者のいる事業だけを分けて承継させたい、グループ内で事業を再配置したい——こうした場面で検討されるのが会社分割です。ただ、会社分割はスキームの設計から登記、税務、労働者の扱いまで論点が広く、社内の担当者だけで進めきるのは簡単ではありません。
そこで「どの事業をどう切り出すか」の設計から実行までを任せられる専門家を探すことになりますが、相談先はM&Aアドバイザーや会計・税務の事務所、司法書士など複数の種類に分かれており、それぞれ任せられる範囲も得意な局面も異なります。どこに何を頼めるのかが見えないまま、相談先を決めかねている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、会社分割の支援を依頼できる主なサービスを、支援範囲・費用・得意な局面・実績の観点で比較します。相談先のタイプごとの向き不向きや選び方の軸に加え、依頼前に押さえておきたい税務・債権者保護・労働者の承継といった実務論点も整理しました。自社に合う相談先を絞り込むための材料としてご活用ください。
また、自社の状況に合わせて相談しやすいサービスを最短で見つけられるよう、「30秒で終わる選定診断ツール」をご用意しています。ぜひこちらもご活用ください。
目次
一括ダウンロードする
会社分割支援とは(依頼でできること)
会社分割支援とは、会社分割を使って事業の一部を別の会社へ移す一連の手続きを、外部の専門家が設計から実行まで引き受けるサービスです。会社分割は、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、ほかの会社や新しく設立する会社に承継させる手法で、個々の資産・契約・債務を一つずつ移す事業譲渡と違い、まとめて(包括的に)承継できる点に特徴があります。
切り出す対象や設計の仕方によって税務や労働者の扱いが変わるため、どの事業をどの会社に、どのスキームで移すかの判断が成否を分けます。ここからは、会社分割で解決できる経営課題と、依頼先に任せられる支援の範囲を整理します。
会社分割を使って解決できる経営課題
会社分割は、事業の売却・承継・再編という複数の目的で使われます。中心にあるのは、会社まるごとではなく「特定の事業だけ」を動かしたいという課題です。
- 事業の切り出し・売却:複数の事業のうち一部だけを分離し、別会社として売却する(カーブアウト)。買い手が特定事業だけを取得したい場合に、受け皿となる会社へ事業を移してから株式を譲渡する形がとられます。
- 事業承継:後継者に引き継ぐ事業と、そうでない事業を分け、承継の対象を整理する。親族や従業員への承継、第三者への譲渡を見据えて事業の単位を組み替えます。
- グループ内の再編:持株会社体制への移行や、事業ごとの分社化によって、責任や損益の所在を明確にする。
いずれの場合も、会社分割そのものの仕組み(新設分割と吸収分割の違いなど)を理解したうえで、自社の目的に合うスキームを選ぶ必要があります。仕組みの基礎は本記事後半の実務論点でも触れますが、より詳しく知りたい場合は関連記事もあわせてご覧ください。
依頼先に任せられる支援範囲
会社分割支援で任せられる業務は、大きく3つの段階に分けて考えると整理しやすくなります。どこまでを依頼するかによって、適した相談先も費用も変わります。
- スキームの設計:どの事業をどの会社に、新設分割と吸収分割のどちらで移すか、対価をどうするかといった全体像を、法務・税務・会計の論点を踏まえて組み立てる段階です。税制適格の判定や課税関係の見通しもここに含まれます。
- 登記・手続きの実行:分割契約書・計画書の作成、株主総会決議、債権者保護手続(官報公告・催告)、分割登記の申請といった、法律上必要な手続きを進める段階です。
- 承継後の統合・労務対応:移す事業に従事する労働者の通知・承継手続き、分割後の組織や制度の統合(PMI)まで含めた対応です。
設計だけを相談したいのか、登記まで一括で任せたいのか、労務や統合まで含めて伴走してほしいのかによって、選ぶべき相談先は変わります。次章では、相談先のタイプごとの違いを見ていきます。
会社分割支援の依頼先のタイプと向き不向き
会社分割の相談先は、もともとの専門領域によっていくつかのタイプに分かれます。得意とする局面と任せられる範囲が異なるため、自社の目的に照らしてどのタイプが近いかをつかんでおくと、相談先を絞りやすくなります。

売却・承継を伴う分割に強いM&Aアドバイザー・FA
事業を切り出して第三者へ売却する、あるいは会社分割を事業承継の一手段として使う局面で中心になるのが、M&Aアドバイザー(ファイナンシャルアドバイザー)です。買い手探しや企業価値の評価、条件交渉といったM&Aの実務とあわせて、売却の受け皿をつくるための会社分割を設計します。売却・承継というゴールが先にあり、その手段として分割を組み込むケースに向いています。
会社分割を第三者への売却の一部として進める場合、相談先の中には、売却を見据えた分割の設計や税務の整理を担える会計・税務系のコンサルや、M&A案件の実績を持つファームもあります。一方で、買い手探しや条件交渉そのものまで任せたいときは、M&Aアドバイザー・FAを別に立てるのが一般的です。各社の支援範囲や得意な案件規模を広く見比べたいときは、以下の比較記事も参考になります。
税務・会計の設計に強い会計事務所・税理士法人系コンサル
会計・税務の専門家を母体とするコンサルティング会社は、税制適格の判定や課税関係の見通しといった、分割の設計で最も判断が難しい部分を得意とします。グループ内の再編や、税負担を抑えながら事業を組み替えたい場面では、論点の整理から実行支援まで一貫して相談できる相手になります。法務・登記は提携する司法書士・弁護士と連携して進める体制をとることが多いタイプです。
登記・手続きの実行に強い司法書士系
分割の方針がすでに固まっていて、分割契約書の作成や債権者保護手続、分割登記といった法律上の手続きを確実に進めたい場合は、司法書士を中心とする事務所が適しています。登記申請を自ら代理できるため、手続きの実行段階を任せたいときの受け皿になります。スキームの税務設計そのものは税理士の領域になるため、設計から任せたい場合は税務の専門家との役割分担を確認しておくとよいでしょう。
これらのタイプは排他的なものではなく、1社で設計から登記・労務まで幅広くカバーする事務所もあれば、特定の段階に強みを持つ事務所もあります。次章では、タイプの違いも踏まえながら、具体的にどの観点で依頼先を見極めるかを整理します。
会社分割支援の選び方
ここからは、自社に合う依頼先を絞り込むための3つの軸を整理します。会社分割は、窓口となる取りまとめ役を一本化し、足りない専門分野は提携で補う形で進めると抜け漏れが少ないため、着手前にこれらの観点を自社の状況に当てはめて確認しておくと、途中で「この範囲は対応できない」と判明する事態を避けられます。
支援範囲で選ぶ
最初に確認したいのは、自社がどこまでを任せたいかと、依頼先が対応できる範囲が合っているかです。スキームの設計だけを求めているのか、登記の実行まで含めて一括で任せたいのか、さらに分割後の労務対応や組織統合まで伴走してほしいのかによって、適した相手は変わります。
とくに、税務の設計と登記の実行を別々の専門家が担う体制の場合、どちらが全体の取りまとめをするのか、連携先は確保されているのかを確認しておくと、手続きの抜け漏れを防げます。自社に法務・経理の担当者がいて一部を内製できるのか、それとも丸ごと委託したいのかによっても、求める支援範囲は変わってきます。
費用体系で選ぶ
会社分割支援の報酬は、相談先のタイプや案件の難しさによって幅があり、金額を公式に公表している会社はほとんどありません。実際には、着手金と成功報酬を組み合わせる形、工数に応じた見積り、登記などの手続きごとの報酬など、体系そのものが相手によって異なります。
そのため費用面で比べる手がかりは、金額そのものよりも、報酬の体系がどの型か(売却を伴うなら成功報酬型、設計中心なら工数型、登記中心なら手続きごとの報酬型)と、初回相談や診断に無料の入口があるかに置くのが現実的です。
実際の金額は、提示された見積りが支援範囲のどこまでを含むのか(設計のみか、登記・公告の実費まで含むのか)をそろえ、複数の相談先から取り、比べるのが確実です。費用の桁感と、登記にかかる法定の実費については、後述の「会社分割支援の費用・報酬の目安」で整理します。
支援実績・専門性で選ぶ
会社分割は、税制適格の判定や債権者保護手続、労働者の承継など、誤ると後からトラブルになりやすい論点を含みます。そのため、組織再編や会社分割そのものの支援実績がどれだけあるか、自社の業種や規模に近い案件を扱った経験があるかは、重要な判断材料になります。
公式サイトで公表されている相談件数・支援事例の種類(新設分割か吸収分割か、売却を伴うか)や、どの資格の専門家が在籍しているかを確認すると、自社の案件に対応できるかの見当がつきます。
ただし、各社が公表する指標は相談件数・コンサル件数・事例紹介など数え方が異なり、件数を非公開とする会社もあります。次の比較表では数値をそのまま横並びにしていますが、件数の大小だけでなく、会社分割・組織再編に近い実績かという中身で読み取るのが実際的です。
ここまでの支援範囲・費用・実績の軸で見ても、自社がどのタイプの相談先に合うか迷う場合もあります。そうしたときは、目的や任せたい範囲、会社の規模を選ぶだけで候補を絞り込める「30秒で終わる選定診断ツール」を以下にご用意しています。ぜひこちらもご活用ください。
一括ダウンロードする
【比較表】会社分割を任せられる支援サービスの比較
ここからは、会社分割の支援を依頼できる主なサービスを、支援範囲・費用体系・得意な局面・支援実績の観点で比較します。自社がどこまでを任せたいか、どの局面に近いかを思い浮かべながらご覧ください。
| サービス名 | AGSコンサルティング | 山田コンサルティンググループ | NEX Consulting | オーナーズブレイン | オーバーエックス 組織再編支援 |
|---|---|---|---|---|---|
| 母体・専門領域 | 会計事務所系 (公認会計士121名・税理士124名) | 経営コンサルティングファーム (東証プライム上場・証券コード4792) | 公認会計士・税理士系 | 会計・財務コンサル系 | 司法書士法人 |
| 支援範囲 | 組織再編スキームの設計・税務が中心 会社法・労働承継・許認可の論点まで検討 | 設計〜実行をグループ連携でワンストップ 税務・法務・登記は各法人が分担 | 事業承継・M&Aの設計のなかで会社分割に対応 法人の税務申告は顧問税理士が継続 | 会計・税務のスキーム設計と実行支援 法務・人事労務は提携先と連携 | 法務手続き・登記申請の代行が中心 税務・財務は提携先と連携 |
| 得意な局面 | 税務設計を要する組織再編・事業承継 | 売却・グループ再編を含む総合的なM&A | 事業承継を軸にした会社分割・M&A | 繰越欠損金・税制適格を軸にした合併・会社分割 | 方針確定後の登記・法務手続きの実行 |
| 支援実績・専門性 | 組織再編コンサル年間約200件 (公式記載値) | 公認会計士・税理士・司法書士など有資格者が在籍 (会社分割単体の件数は非公開) | 2025年度の組織再編の相談61件 (決算書を伴う相談計303件のうち) | 件数等の公表なし (会計・税務の専門家が対応) | 事業再編の相談200件以上 提携先30社超 |
| 費用体系 | 要お問い合わせ (組織再編の報酬は非公開) | 要お問い合わせ (オーダーメイド契約) | 初回相談・事業承継診断は無料 支援は個別見積り | 要お問い合わせ (公式に記載なし) | 要お問い合わせ 電話・LINE相談は無料 |
| 詳細情報 | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト | 公式サイト |
会社分割を支援する主なサービス
比較表で取り上げたサービスについて、会社分割・組織再編に関する支援内容や得意な局面を個別に紹介します。
1. AGSコンサルティング(株式会社AGSコンサルティング)

会計・税務顧問を母体に、組織再編・事業承継・M&A・IPO・国際税務まで手がける会計事務所系のコンサルティング会社です。公認会計士121名・税理士124名を擁し、税務スキームの設計を軸に支援します。
組織再編コンサルティングでは、合併・会社分割・事業譲渡・株式交換など複数のスキームに対応し、会社法・会計・税務・労働承継・許認可の論点を実行前に網羅的に検討すると説明しています。組織再編コンサルティング単体で年間約200件の支援実績を公式サイトに掲載しています。
組織再編に関する報酬は公式サイトでは公開されておらず、相談内容に応じた個別見積りとなります。会社分割のスキーム設計から税務まで、専門家に一括で相談したい場合の候補になります。
2. 山田コンサルティンググループ(山田コンサルティンググループ株式会社)

東京証券取引所プライム市場に上場する経営コンサルティングファームです(証券コード4792)。事業承継・M&A・事業再生・会計税務・海外事業支援などを横断的に扱います。
M&Aコンサルティングでは、事業の売却・買収に加えてグループ再編など資本政策に関わる課題に対応し、会社概要の事業内容に組織再編のストラクチャー構築・実行支援を含むとしています。会社分割など組織再編の税務スキームは、税務を専門とする税理士法人山田&パートナーズなどグループ各法人と連携して進める形です。
公認会計士31名・税理士40名・司法書士17名など多様な有資格者が在籍します。報酬体系は案件ごとのオーダーメイド契約で、料率は公開されていません。
3. NEX Consulting(株式会社NEX Consulting)

公認会計士・税理士を中心とする専門家チームが、事業承継とM&Aのコンサルティングを手がける会社です。大阪本社に名古屋・東京の事務所を構え、契約担当者が相談から完了まで統括するとしています。
事業承継・M&Aの設計のなかで組織再編や会社分割を扱い、会社分割・事業譲渡・不動産の切り離しを伴う案件や、50名超の株主がいる案件の支援実績を公式サイトに掲載しています。2025年度に決算書を伴って受けた相談は計303件で、うち組織再編が61件(成約件数ではなく相談件数)と公表しています。
初回相談と30分の事業承継診断は無料で、株価試算や相続税試算、承継課題の整理から相談できます。公式サイトではM&A仲介会社ではないと明記しています。
4. オーナーズブレイン 組織再編コンサルティング(株式会社オーナーズブレイン)

IPOやM&A、J-SOXなどの会計・財務コンサルティングを手がける会社が提供する、合併・会社分割に絞った組織再編コンサルティングです。代表を公認会計士・税理士が務めます。
検討段階では、繰越欠損金の活用や税制適格・非適格の検討といった法務・税務・会計の論点整理からスキーム構築、シミュレーションまでを行い、実行段階では株価算定・事業価値算定や管理業務の統合に対応すると記載しています。
法務・人事労務は提携するアライアンスメンバーと連携して対応する体制で、自社は会計・税務面を担います。料金は公式サイトに記載がなく、問い合わせが必要です。
5. オーバーエックス 組織再編支援(オーバーエックス司法書士法人)

司法書士法人として、合併や会社分割などの組織再編の法務手続きを担うサービスです。東京(池袋)と名古屋(錦)に拠点を置き、従業員14名のうち有資格者5名の体制です(2026年10月時点)。
会社分割・合併のほか株式交換・株式移転・株式交付に対応し、財務・税務・法務の観点で手法ごとのメリット・デメリットを分析してスキームを提案します。手続きはスケジュール策定、契約書・計画書の作成、官報公告と債権者保護手続きのサポート、登記書類の作成と登記申請の代行までを一貫して行うとしています。
再編後の名義変更や銀行との調整、許認可の引き継ぎといったアフターフォローも掲載しています。事業再編の相談件数は200件以上と公式サイトに記載があり、税務・財務面は提携先との連携が前提と読み取れます。
会社分割支援の費用・報酬の目安
会社分割の依頼にかかる費用は、支援会社に支払う報酬と、手続きそのものにかかる法定の費用(税金など)に分かれます。報酬は相手や案件によって幅が大きい一方、法定の費用は法律で税率が定められているため、桁感を事前に見積もれます。
支援会社に支払う報酬
支援会社への報酬は、着手金と成功報酬を組み合わせる形、工数に応じた見積り、手続きごとの報酬など、相手のタイプや案件の難易度によって体系も金額も異なります。売却を伴う会社分割では、M&Aの成約額に応じた成功報酬が設定されることもあります。金額は個別見積りとなるのが一般的なため、支援範囲(設計のみか、登記・公告の実費まで含むか)をそろえたうえで、複数の相談先から見積りを取って比べるのが確実です。
登記・手続きにかかる法定の費用
会社分割では、登記にかかる登録免許税が必ず発生します。新設分割による会社設立の登記、吸収分割による資本金増加の登記は、いずれも資本金(増加した資本金)の額の0.7%で、計算した税額が3万円に満たないときは1件あたり3万円とされています。
出典:登録免許税法 別表第一 第24号(一)ト・チ|e-Gov法令検索
- ト 新設分割による株式会社又は合同会社の設立の登記 資本金の額 千分の七(これによつて計算した税額が三万円に満たないときは、申請件数一件につき三万円)
- チ 吸収分割による株式会社又は合同会社の資本金の増加の登記 増加した資本金の額 千分の七(これによつて計算した税額が三万円に満たないときは、申請件数一件につき三万円)
分割にともなって不動産を移す場合は、その所有権移転登記に不動産の価額の2.0%の登録免許税がかかります。相続や法人の合併による移転であれば0.4%に軽減されますが、会社分割はこの軽減の対象ではなく「その他の原因による移転」として本則の税率が適用される点に注意が必要です。
出典・参考資料(1件)
また、不動産を取得した際にかかる不動産取得税については、地方税法が「法人の合併又は政令で定める分割による不動産の取得」を非課税と定めています。会社分割でも、政令で定める要件を満たせば非課税となりますが、要件を満たさない分割では課税対象になります。
道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。
出典:地方税法 第73条の7第2号|e-Gov法令検索
二 法人の合併又は政令で定める分割による不動産の取得
このほか、債権者保護手続で必要になる官報公告の掲載費用などの実費もかかります。さらに、分割が税制上の非適格となる場合は、移転資産の譲渡損益への法人税など、登記費用より大きな税負担が生じることもあります(判定の考え方は後述の「税制適格・非適格と課税関係」で整理します)。軽減措置の適用可否や、自社の分割が非課税要件を満たすかは個別の判断になるため、見積りの段階で依頼先に確認しておくと安心です。
一括ダウンロードする
依頼前に押さえる会社分割の実務論点
依頼先を選ぶ判断には、会社分割そのものの実務論点を大まかに把握しておくことが役立ちます。どのスキームを選ぶか、税負担がどうなるか、労働者をどう承継するかは、依頼先の専門性が問われる部分でもあります。ここでは、相談前に知っておきたい論点を整理します。
会社分割と事業譲渡・合併の違い(どのスキームを選ぶか)
事業の一部を動かす手法には、会社分割のほかに事業譲渡があります。会社分割は、事業に関する権利義務をまとめて(包括的に)承継させる手法で、個々の契約や債務を一つずつ移す必要がありません。一方の事業譲渡は、資産・契約・債務を個別に移転するため、取引先や債権者の同意、対抗要件の具備が個別に必要になります。
包括承継である会社分割は手続きの一体性で優れますが、承継する事業に紐づく債務(簿外債務を含む)もまとめて引き継ぐため、分割前の調査が重要になります。事業譲渡は引き継ぐ範囲を個別に選べる反面、契約ごとの移転に手間がかかります。
どちらが適するかは、移す事業の性質や相手方との関係によって変わるため、設計段階での見極めが必要です。合併は会社そのものを一つにする手法であり、事業の一部だけを動かしたい場合の選択肢にはなりません。
新設分割と吸収分割の違い
会社分割は、事業を引き継ぐ先が新しく設立する会社か、既存の会社かによって、新設分割と吸収分割に分かれます。会社法はこの2つを次のように定義しています。
出典:会社法 第2条第29号・第30号|e-Gov法令検索
- 二十九 吸収分割 株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。
- 三十 新設分割 一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう。
新しく器となる会社をつくって事業を移すのが新設分割、すでにある会社へ移すのが吸収分割です。売却の受け皿をつくる場合は新設分割、グループ内の既存会社へ事業を寄せる場合は吸収分割、というように目的によって使い分けます。
税制適格・非適格と課税関係
会社分割で税負担が生じるかどうかは、その分割が税制上の「適格分割」に当たるかで大きく変わります。適格分割に該当すれば、移す資産・負債を帳簿価額のまま引き継げるため、含み益に対する課税が繰り延べられます。
内国法人が適格分割型分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、前条第一項の規定にかかわらず、当該分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該適格分割型分割の直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。
出典:法人税法 第62条の2第2項|e-Gov法令検索
一方、適格要件を満たさない非適格分割では、移転した資産・負債を「分割の時の価額による譲渡」をしたものとして扱うため、含み益があれば譲渡損益への課税が生じます(法人税法第62条第1項)。さらに、非適格の分割型分割(人的分割)では、株主の側にみなし配当課税が生じうる点にも注意が必要です(同法第24条第1項第2号)。
適格分割に当たるかどうかは、分割の当事会社の支配関係に応じて判定されます。たとえば支配関係がある会社間の分割では、次の要件のすべてを満たすことが求められます。
出典:法人税法 第2条第12号の11ロ|e-Gov法令検索
- (1)当該分割により分割事業…に係る主要な資産及び負債が当該分割承継法人に移転していること。
- (2)当該分割の直前の分割事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね百分の八十以上に相当する数の者が当該分割後に当該分割承継法人の業務…に従事することが見込まれていること。
- (3)当該分割に係る分割事業が当該分割後に当該分割承継法人…において引き続き行われることが見込まれていること。
このほか、対価として承継会社等の株式以外の資産が交付されないこと(金銭等不交付)が大前提になります。要件の細目は政令に委ねられており、個別の分割が適格に当たるかの判定や税額の計算は専門的な検討を要するため、税務の専門家に相談しながら進めるのが安全です。
債権者保護手続・簿外債務・株主総会決議の注意点
会社分割では、分割によって不利益を受けるおそれのある債権者を保護するための手続きが法律で定められています。会社は、分割に関する事項を官報に公告し、わかっている債権者には個別に催告したうえで、異議を述べる期間を設けなければなりません。
前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
出典:会社法 第789条第2項(新設分割は第810条第2項)|e-Gov法令検索
異議を述べる期間は最低1か月を確保する必要があり、債権者が期間内に異議を述べたときは、会社はその債権者に弁済するか、担保を提供するなどの対応を求められます。こうした手続きには相応の期間がかかるため、スケジュールに織り込んでおくことが欠かせません。
また、会社分割は包括承継であるため、承継する事業に紐づく簿外債務もまとめて引き継ぐことになります。分割前に対象事業の債務を調査しておくことが、後のトラブルを避けるうえで重要です。加えて、会社分割の承認には、原則として株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要とされています(会社法第309条第2項第12号。簡易分割・略式分割に当たる場合は例外があります)。
労働者の承継(労働契約承継法)の実務
会社分割では、移す事業で働く労働者の扱いについて、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)が特別なルールを定めています。会社分割は包括承継のため、承継される事業に主として従事する労働者の労働契約は、分割契約等に承継の定めがあれば、分割の効力発生日に自動的に承継会社へ引き継がれます(労働者個々の同意は不要です)。この点が、個別の同意が必要な事業譲渡との大きな違いです。
一方で、労働者を保護するための手続きも定められています。会社は対象となる労働者などに対し、分割に関する事項を期限までに書面で通知しなければなりません。
会社…は、会社法第五編第三章及び第五章の規定による分割(吸収分割又は新設分割をいう。以下同じ。)をするときは、次に掲げる労働者に対し、通知期限日までに、…当該分割に関し、…分割契約等における定めの有無、第四条第三項に規定する異議申出期限日その他厚生労働省令で定める事項を書面により通知しなければならない。
出典:会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律 第2条第1項|e-Gov法令検索
さらに、承継される事業に主として従事しているのに承継の定めがない労働者は、「承継されないこと」に書面で異議を申し出ることができます。逆に、主として従事していないのに承継対象とされた労働者は、「承継されること」に異議を申し出られます。異議を申し出る期間は、通知日との間に少なくとも13日間を置くこととされています(同法第4条・第5条)。
加えて、会社には労働者の理解と協力を得るよう努める義務があり(同法第7条)、その具体的な進め方は厚生労働大臣の定める指針に委ねられています。最高裁判所も、承継される事業に従事する労働者との個別の協議が全く行われなかった場合や、協議の内容が著しく不十分で法の趣旨に反することが明らかな場合には、労働者が承継の効力を争えると判断しています。
…上記協議が行われたものの,その際の当該会社からの説明や協議の内容が著しく不十分であるため法が上記協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合…当該労働者は当該承継の効力を争うことができる。
出典:最高裁判所第二小法廷 平成22年7月12日判決(日本IBM事件)|裁判所ウェブサイト
こうした労務面の対応は手順を誤ると承継の効力に影響しかねないため、労働者の通知・協議まで含めて実務に通じた依頼先を選ぶことが、安心して分割を進めるうえでの一つの基準になります。
依頼から実行までの進め方
会社分割は、相談から効力発生までいくつかの段階を踏んで進みます。まず、依頼先と目的や対象事業を共有し、新設分割か吸収分割か、税制適格を満たす設計にするかといったスキームを固めます。次に、移す資産・負債・契約を洗い出し、分割契約書または分割計画書を作成します。
続いて、株主総会の承認(原則として特別決議)を得るとともに、債権者保護手続として官報公告・催告を行い、1か月以上の異議申述期間を確保します。あわせて、対象となる労働者への通知と協議も進めます。これらを経て分割登記を申請し、効力が発生します。分割後も、組織や制度の統合、税務申告などの対応が残るため、どの段階までを依頼先に任せるかを着手前に確認しておくとスムーズです。

まとめ
会社分割の支援を依頼する相手は、売却・承継を伴う分割に強いM&Aアドバイザー、税務・会計の設計に強い会計事務所系コンサル、登記・手続きの実行に強い司法書士系などに分かれ、それぞれ任せられる範囲と得意な局面が異なります。自社がどこまでを任せたいか(設計のみか、登記まで一括か、労務・統合まで含めるか)を起点に、支援範囲・費用体系・支援実績の3つの軸で相談先を見極めるのが基本です。
会社分割には、税制適格の判定、債権者保護手続、労働者の承継といった、誤ると後からトラブルになりやすい論点が伴います。これらを正確に押さえた依頼先を選ぶことが、安心して事業を切り出し・承継するための近道です。まずは複数の相談先から支援範囲と費用の見積りを取り、自社の案件に合う相手を比べてみてください。
一括ダウンロードする
よくある質問(FAQ)
Q. 会社分割支援とは何ですか?
A. 会社分割支援とは、会社分割で事業の一部を別の会社へ移す一連の手続きを、スキームの設計から登記・実行まで外部の専門家が引き受けるサービスです。相談先はM&Aアドバイザー・会計/税務系コンサル・司法書士などに分かれ、スキームの設計だけを頼むのか、登記の実行や分割後の労務対応まで任せるのかによって、適した相手も費用も変わります。
Q. 会社分割の支援はどこに相談すればよいですか?
A. 会社分割の相談先は、売却・承継を伴う分割に強いM&Aアドバイザー、税務・会計の設計に強い会計事務所系コンサル、登記・手続きの実行に強い司法書士に大きく分かれます。それぞれ得意な局面と任せられる範囲が異なるため、まず自社が設計だけを求めているのか、登記の実行や分割後の労務対応まで任せたいのかを整理すると、どのタイプに近いかを絞り込めます。
Q. 会社分割は司法書士と税理士のどちらに依頼すべきですか?
A. 会社分割を司法書士と税理士のどちらに頼むべきかは、任せたい範囲で決まり、分割契約書の作成や分割登記といった手続きの実行は司法書士、税制適格の判定など税務設計は税理士が担います。分割の方針が固まっていて登記を確実に進めたい場合は司法書士が、課税関係の見通しから相談したい場合は税理士が起点になります。
設計から登記まで一括で任せたい場合は、両者が連携できる体制かを着手前に確認しておくと、手続きの抜け漏れを防げます。
Q. 会社分割の支援を依頼する費用はどのくらいかかりますか?
A. 会社分割支援の費用は、支援会社に支払う報酬(多くは個別見積り)と、登記にかかる登録免許税などの法定費用に分かれます。登録免許税は、新設分割による設立登記も吸収分割による資本金増加の登記も、資本金(増加した資本金)の額の0.7%で、計算した税額が3万円に満たないときは1件あたり3万円です。
報酬は相手のタイプや案件の難易度で幅があるため、支援範囲(設計のみか、登記・公告の実費まで含むか)をそろえて複数の見積りを比べるのが確実です。
出典・参考資料(1件)
Q. 会社分割と事業譲渡はどちらを選べばよいですか?
A. 会社分割と事業譲渡のどちらが適するかは、権利義務をまとめて移したいなら会社分割、引き継ぐ範囲を個別に選びたいなら事業譲渡が向きます。会社分割は事業に関する権利義務を包括的に承継するため契約を一つずつ移す手間が省ける一方、承継する事業に紐づく簿外債務もまとめて引き継ぎます。事業譲渡は資産・契約を個別に選べますが、取引先の同意や対抗要件の具備が個別に必要です。
どちらが合うかは移す事業の性質や相手方との関係で変わるため、設計段階で依頼先と相談しながら見極めるのが安全です。
Q. 会社分割をすると税金はかかりますか?
A. 会社分割で税負担が生じるかは、その分割が税制上の「適格分割」に当たるかで変わり、適格なら資産・負債を帳簿価額のまま引き継いで含み益への課税が繰り延べられます。適格要件を満たさない非適格分割では、移転した資産・負債を分割時の価額で譲渡したものとして扱うため、含み益があれば譲渡損益への課税が生じ、非適格の分割型分割では株主にみなし配当課税が生じることもあります。
適格に当たるかの判定や税額の計算は専門的な検討を要するため、税務の専門家に相談しながら進めるのが安全です。
出典・参考資料(1件)
Q. 会社分割では従業員本人の同意は必要ですか?
A. 会社分割では、承継される事業に主として従事する労働者の労働契約は、分割契約等に定めがあれば分割の効力発生日に自動的に承継され、労働者個々の同意は必要ありません。これが、個別の同意が必要な事業譲渡との大きな違いです。
ただし、対象となる労働者への書面通知や、一定の労働者が承継の有無について異議を申し出られる手続きが労働契約承継法で定められています。手順を誤ると承継の効力に影響しかねないため、労働者の通知・協議まで実務に通じた依頼先を選ぶと安心です。
出典・参考資料(1件)
Q. 会社分割に債権者保護の手続きは必要ですか?
A. 会社分割では、分割によって不利益を受けるおそれのある債権者を保護するため、官報公告・個別催告と、最低1か月の異議申述期間を設ける手続きが必要です。債権者が期間内に異議を述べたときは、会社はその債権者への弁済や担保の提供などの対応を求められます。こうした手続きには相応の期間がかかるため、分割のスケジュールに織り込んでおくことが欠かせません。
出典・参考資料(1件)
Q. 会社分割の手続きにはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 会社分割に要する期間は案件によりますが、債権者保護手続として最低1か月の異議申述期間を確保する必要があるため、少なくとも1か月以上はかかります。実際には、スキームの確定、分割契約書・計画書の作成、株主総会の特別決議、債権者保護手続(1か月以上)、対象労働者への通知・協議、分割登記という段階を順に踏みます。全体ではこれらを合わせてさらに時間を要します。
労働者への通知は異議申出期限日との間に少なくとも13日間を置く必要があり、これらを見込んでスケジュールを組むことが欠かせません。
Q. 会社分割を相談する前に準備しておくものは何ですか?
A. 会社分割の相談前には、分割の目的と切り出す対象事業を整理し、その事業に紐づく資産・負債・契約の一覧をまとめておくとスムーズです。会社分割は包括承継のため簿外債務もまとめて引き継ぐことになり、対象事業の債務を把握しておくことが後のトラブルを避けるうえで重要です。あわせて、債権者や従業員の状況、直近の決算書などの資料があると、依頼先がスキームや税務の見通しを立てやすくなります。
会社分割・M&Aアドバイザリーの資料を一括チェック
MCB FinTechカタログでは、M&A・事業承継を支援するサービスの資料を無料で一括請求できます。会社分割を含む事業再編の相談先を、支援範囲や進め方で見比べる材料としてご活用ください。
一括ダウンロードする
MCB FinTechカタログに掲載しませんか?
MCB FinTechカタログでは、掲載企業様を募集しています。マネックスグループの金融実務ノウハウを活かした独自の評価軸と検索設計により、導入検討者が最適なサービスを効率的に発見できる法人向け比較プラットフォームです。掲載後は管理画面から料金表や導入事例を随時更新でき、常に最新の情報を訴求可能。まずは下記フォームより、お気軽にお問い合わせください。

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















