取引先や同業がランサムウェアの被害に遭ったという話を聞き、自社は大丈夫だろうかと不安を感じていませんか。あるいは今まさに、社内の端末でファイルが開けなくなり、見慣れない脅迫文が表示されて対応を迫られているかもしれません。ランサムウェアはいまや、企業にとって最も身近なサイバー攻撃の一つになっています。
被害を防ぎ、万一感染したときに正しく動くには、まず「どこから感染するのか(自社のどこが穴になりやすいか)」を知り、そのうえで「感染したら最初に何をすべきか」を手順として押さえておくことが重要です。初動を誤ると、被害の範囲が広がったり、後の復旧や原因究明に必要な記録を失ったりすることがあります。
本記事では、ランサムウェアの主な感染経路を公的な統計とあわせて整理し、感染の確認方法、感染時の初動対応の手順、やってはいけないこと、届出先と個人データ漏えい時の法的対応、復旧の進め方、そして感染を防ぎ被害を最小化するための備えまでを順に解説します。自社の弱点を点検し、いざというときに落ち着いて対応するための手引きとしてご活用ください。
すでに感染が疑われる状況の方は、まず「ランサムウェアに感染したときの初動対応」をご確認ください。
目次
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ランサムウェアとは?感染するとどうなるのか
ランサムウェアとは、感染した端末やサーバー内のファイルを暗号化して使えなくし、その復旧と引き換えに金銭(身代金、ランサム)を要求するマルウェアです。業務で使うデータが人質に取られるため、復旧できなければ業務が止まり、事業の継続そのものに影響します。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向けの脅威の第1位に「ランサム攻撃による被害」が挙げられています。
出典・参考資料(1件)
データの暗号化と二重恐喝(データを盗んで暴露すると脅す手口)
かつてのランサムウェアは、ファイルを暗号化して「元に戻してほしければ金銭を払え」と要求するものが中心でした。近年は、暗号化する前にデータを盗み出し、「支払わなければ盗んだデータを公開する」と脅す手口が被害の多くを占めています。警察庁はこれを二重恐喝(ダブルエクストーション)と呼び、支払いを拒んだ企業のデータが実際に公開用のサイト(リークサイト)に掲載される事例が多数確認されているとしています。
この手口では、バックアップから復旧できたとしても、盗まれたデータの公開という別のリスクが残ります。暗号化による業務停止だけでなく、顧客情報や取引先情報の流出による信用の失墜まで想定して備える必要があります。
感染から身代金要求までの流れ
企業を狙うランサムウェア攻撃は、1台の端末が感染して即座に暗号化される、という単純なものばかりではありません。攻撃者はまずネットワークに侵入し、内部で時間をかけて行動してから、最終的に暗号化と身代金要求に至ります。警察庁の資料にもとづくと、おおむね次の流れで進みます。
- 初期侵入:VPN機器などインターネットに接続された機器の弱点を突いて社内ネットワークに入り込む
- 内部活動:侵入後、権限を奪いながら社内の別の端末やサーバーへ横移動し、重要なデータの所在を探る
- データの持ち出し:暗号化の前に、公開用の脅し材料として重要なデータを外部へ窃取する
- 暗号化:対象を暗号化して業務を停止させる
- 身代金要求:脅迫文(ランサムノート)を残し、復号とデータ非公開の対価を要求する

侵入から暗号化までに時間差があるため、内部活動の段階で不審な動きに気づければ、暗号化される前に対処できる可能性があります。後述する検知の仕組みが重要になるのはこのためです。
出典・参考資料(1件)
ランサムウェアの主な感染経路(最も多いのはVPN機器)
ここからは、ランサムウェアがどこから侵入するのかを整理します。自社の環境に当てはめて、どの経路に穴がありそうかを点検しながら読み進めてください。
警察庁の最新の集計では、感染経路のうち最も多いのはVPN機器です。被害に遭った組織へのアンケートで、侵入経路はVPN機器が約5割を占めています。また、インターネットに露出した機器から攻撃者が遠隔操作で侵入する手口が多くを占め、かつて主流だった標的型攻撃メールの添付ファイルによる感染は少なくなっている、とされています。
令和8年上半期におけるランサムウェアの被害報告件数は 123 件であり、半期の件数としては、統計を取り始めた令和2年下半期以降、最多となっている。(中略)被害組織へのアンケート結果によると、侵入経路は VPN機器が約5割を占める状況である。
出典:令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について|警察庁
この統計を踏まえ、企業で意識しておきたい主な感染経路は、次の6つです。公的な統計で割合が示されているのは最も多いVPN機器(約5割)で、ほかの経路ごとの内訳は公表されていないため、ここでは割合ではなく、どのような経路かを説明します。
おおまかな傾向としては、VPN機器やリモートデスクトップといった遠隔操作に使う機器からの侵入が多く、かつて主流だったメールの添付ファイルからの感染は減少しています。残りの経路は件数の内訳こそ分かりませんが、いずれも実際に侵入の入口となりうるため、あわせて点検しておくと安心です。
- VPN機器:テレワークで社外から社内につなぐためのVPN機器に既知の脆弱性が残っていたり、古いパスワードが使い回されていたりすると、そこを突かれて侵入されます。感染経路として最も多い入口です。
- リモートデスクトップ:社外から社内のPCを遠隔操作する仕組みが、インターネットに直接公開されていたり、推測されやすい認証情報で守られていたりすると、侵入の足がかりになります。
- メールの添付ファイル・リンク:業務連絡を装ったメールの添付ファイルや本文中のリンクから感染します。かつての主流で、現在は割合が減少傾向にあるものの、依然として経路の一つです。
- Webサイト・ソフトウェアのダウンロード:改ざんされたWebサイトの閲覧や、正規を装った不正なソフトウェアのダウンロードを通じて感染することがあります。
- USBメモリなどの外部記録メディア:感染した外部メディアを社内の端末に接続することで持ち込まれる経路です。
- 取引先・関連会社経由:自社のセキュリティが堅牢でも、つながっている取引先や関連会社のネットワークが侵害されると、そこを経由して被害が及ぶことがあります。
最も多いVPN機器をはじめ、インターネットに接続された機器の弱点が主要な入口になっています。自社の機器やソフトウェアが最新の状態に保たれているか、公開範囲が必要最小限になっているかを、この機会に確認しておくことをおすすめします。
各経路が被害全体に占める割合や順位、そして経路ごとに具体的にどう手を打てばよいかを、さらに詳しく確認したい方は、感染経路にしぼって解説した次の記事もご覧ください。
ランサムウェアに感染したか確認する方法(兆候・症状)
「感染したかもしれない」と思ったときに、自分で確認できる主な観点を整理します。ここからは、感染の兆候と、感染したランサムウェアの種類を調べる方法について解説します。
最も分かりやすい兆候は、脅迫文(ランサムノート)の出現です。デスクトップやフォルダ内に、金銭の支払いを要求する文書ファイルや画面が表示されます。あわせて、これまで開けていたファイルが突然開けなくなる、ファイルの拡張子が見慣れないものに変わっている、端末の動作が急に重くなる、といった変化が現れることがあります。こうした兆候が複数見られる場合は、感染を疑って後述の初動対応に移ってください。
感染したランサムウェアの種類を特定したい場合は、欧州刑事警察機構(Europol)とオランダ警察が運営する「No More Ransom(ノーモアランサム)」が参考になります。
暗号化されたファイルや脅迫文をもとに種類を判別する「Crypto Sheriff」という仕組みがあり、種類が判明すれば、対応する無料の復号ツールが提供されている場合には入手できます。ただし、すべての種類に復号ツールが用意されているわけではないため、復旧できる場合があるという位置づけで利用してください。
ランサムウェアに感染したときの初動対応【手順】
感染が疑われるときに、慌てず踏むべき初動の手順を解説します。初動を誤ると被害が広がったり、復旧や原因究明に必要な記録が失われたりするため、順序と理由を押さえておくことが大切です。

①電源は切らず、ネットワークのみ遮断する
最初に行うべきは、感染が疑われる端末をネットワークから切り離すことです。LANケーブルを抜く、Wi-Fiを無効にするなどして、社内の他の端末やサーバーへ被害が広がるのを止めます。IPAやJPCERT/CC(JPCERTコーディネーションセンター)も、初動として感染箇所をネットワークから隔離・切り離すことを必須の対応としています。
一方で、端末の電源は切らないでください。IPAは、従業員の初動対応として次の3点を挙げています。
PCをネットワークから切断する/メールやファイルを削除しない/PCの電源を切らない
出典:プラクティス7-2 従業員の初動対応の規定|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
電源を切らないのは、後の原因究明や被害範囲の調査に必要な記録を残すため、つまり証拠保全のためです。電源を落とすと、調査の手がかりが失われてしまうことがあります。感染を広げないための「ネットワーク遮断」と、調査のための「電源維持」を取り違えないことが、初動で最も重要なポイントです。
②社内外へ報告・相談する
端末を隔離したら、速やかに社内の情報システム部門や責任者へ報告し、組織としての対応に切り替えます。現場の担当者が単独で対応を続けると、判断の抜け漏れや対応の遅れにつながります。自社に専門の体制がない場合は、外部の専門家や後述の相談窓口に早い段階で連絡し、調査と復旧の方針について助言を得ることが有効です。
個人データの漏えいが疑われる場合は、法令上の報告・通知が必要になることがあります。詳しくは後述の「届出・相談先と、個人データ漏えい時の法的対応」で解説します。
③感染範囲を特定する
どの端末・サーバーが影響を受けたのか、どこまで被害が及んでいるのかを切り分けます。前述のとおり、攻撃者は侵入後にネットワーク内を横移動していることが多いため、最初に気づいた1台だけで被害が収まっているとは限りません。通信の記録やログをもとに、影響範囲と侵入経路を把握します。なお、感染したランサムウェアの種類の特定方法は前述の「ランサムウェアに感染したか確認する方法」を参照してください。
この調査には専門的な知識が必要になるため、自社だけで判断が難しい場合は、通信を記録して後から被害の広がりを追える仕組みの活用や、専門家への調査依頼を検討します。
身代金は払うべきか
身代金の支払いは、原則として推奨されません。JPCERT/CCは、次の理由から身代金の支払いを選択するべきではないとしています。
(a) 暗号化されたファイルが復元される保証がない/(b) 被害原因や侵害による他の被害は未解消のまま/(c) 支払い後に別の攻撃の被害や支払い要求を受ける恐れがある
出典:侵入型ランサムウェア攻撃を受けたら読むFAQ|JPCERTコーディネーションセンター
支払っても復旧できる保証はなく、侵入の原因が残ったままでは再び攻撃を受ける可能性もあります。支払いよりも、バックアップからの復旧と侵入経路の封じ込めを軸に対応を進めることが基本です。復旧の進め方は後述します。
感染時に絶対にやってはいけないこと
初動の裏返しとして、被害を広げたり復旧を難しくしたりする「やってはいけないこと」を整理します。慌てて誤った対応をとらないよう、事前に確認しておきましょう。
- 端末の電源を切る・再起動する:調査に必要な記録が失われ、原因究明や復旧が難しくなります。電源は入れたまま、ネットワークのみ遮断するのが原則です(前述の初動対応①を参照)。
- 身代金をすぐに支払う:復元の保証がなく再攻撃のリスクも残るため、支払いは原則推奨されません(理由は前述の初動対応「身代金は払うべきか」を参照)。まず社内外への相談と復旧の検討を優先します。
- よく分からないまま復号ツールを使う:出所の不明なツールを安易に実行すると、かえって被害が広がることがあります。種類の特定は前述のNo More Ransomなど信頼できる仕組みを使い、判断に迷う場合は専門家に相談します。
- ファイルやメールを削除する:脅迫文や不審なメールなど、原因調査の手がかりになるものを消さないようにします(IPAも「メールやファイルを削除しない」としています)。
- 感染した端末をそのままネットワークに残す:隔離せずに放置すると、社内の他の端末やサーバーへ被害が拡大します。
出典・参考資料(2件)
届出・相談先と、個人データ漏えい時の法的対応
ランサムウェアの被害に遭ったとき、どこに相談・届出をすればよいか、そして個人データが漏えいした場合にどのような法的対応が必要になるかを解説します。特に個人データの漏えいでは、個人情報保護法にもとづく報告と本人への通知が義務づけられる場合があり、見落とすと行政対応や二次的なトラブルにつながります。
届出・相談先の一覧
被害時に連絡する主な窓口と、それぞれの役割は次のとおりです。役割が異なるため、状況に応じて複数の窓口に連絡することになります。
- 警察(サイバー犯罪相談窓口):サイバー犯罪の相談・通報の窓口です。各都道府県警察にサイバー犯罪相談窓口が設けられているほか、警察相談専用電話「#9110」があります。
- JPCERT/CC:政府・企業から独立した中立の立場で、インシデントの報告を受け付け、対応支援や手口の分析、関係機関との調整を行う技術的な相談先です。
- IPA(情報セキュリティ安心相談窓口・届出):情報セキュリティに関する技術的な相談窓口であり、コンピュータウイルス・不正アクセスの届出も受け付けています。
- 個人情報保護委員会:個人データの漏えい等が発生した場合の、法令にもとづく報告先です(詳細は次項)。
出典・参考資料(3件)
個人データが漏えいした場合の報告(速報・確報)と本人への通知
ランサムウェアによって個人データが漏えいした、または漏えいのおそれがある場合、個人情報取扱事業者には、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務づけられます。根拠は個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)第26条です。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失、毀損その他の個人データの安全の確保に係る事態であって個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして個人情報保護委員会規則で定めるものが生じたときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該事態が生じた旨を個人情報保護委員会に報告しなければならない。
出典:個人情報の保護に関する法律 第26条第1項|e-Gov法令検索
同条第2項では、この場合に本人に対しても当該事態が生じた旨を通知しなければならないと定めています(本人への通知が困難で、本人の権利利益を保護するために必要な代替措置をとるときを除きます)。
ランサムウェアによる被害は、施行規則第7条が定める報告対象のうち「不正の目的をもって行われたおそれがある行為」による漏えい等(第3号)に該当するのが基本です。個人情報保護委員会も、ランサムウェア等により個人データが暗号化され復元できなくなった場合を、この第3号の例として示しています。
報告には、まず把握している範囲で行う速報と、その後に行う確報の2段階があります。施行規則第8条は、報告対象の事態を知った後「速やかに」速報を行い、事態を知った日から確報を行うまでの期限を原則30日以内、ランサムウェア等の不正行為による場合(第3号)は60日以内と定めています。
(前略)当該事態を知った日から三十日以内(当該事態が前条第三号に定めるものである場合にあっては、六十日以内)に、当該事態に関する前項各号に定める事項を報告しなければならない。
出典:個人情報の保護に関する法律施行規則 第8条第2項|e-Gov法令検索
本人への通知は、施行規則第10条により「当該事態の状況に応じて速やかに」行うこととされています。通知する事項は、概要・漏えい等が発生した個人データの項目・原因・二次被害またはそのおそれの内容・その他参考となる事項です。
被害時には、委員会への報告と本人への通知の両方を忘れずに検討してください。
委員会への報告は、個人情報保護委員会の漏えい等報告フォームから行います。報告対象の具体例や報告の様式、速報の目安なども同委員会のページで案内されています。期限や要件は個別の事案によって判断が必要になるため、実際の対応では公式の案内を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。
出典・参考資料(3件)
個人データが漏えいしたときの初動から、報告義務・本人への通知、再発防止までの一連の流れは、原因がランサムウェアかどうかにかかわらず共通します。漏えい発覚後に何を・どの順で進めればよいか、対応フローの全体像を確認しておきたい方は次の記事で詳しく解説しています。
ランサムウェアからの復旧(データ復元と再感染防止)
被害範囲の特定と届出の検討を進めたら、データの復旧に移ります。復旧で重要なのは、単にデータを戻すだけでなく、戻したあとに再び感染しない状態をつくることです。ここからは、復旧の進め方と注意点を解説します。
最も確実な復旧手段は、感染前のバックアップからの復元です。ただし、侵入経路をふさがないまま復元すると、同じ経路から再び侵入され、復元したデータが再度暗号化される恐れがあります。JPCERT/CCも、初動の方針として、侵入経路をふさいだうえでバックアップから復旧することを挙げています。復元の前に、原因となった脆弱性の修正や認証情報の変更など、侵入経路の封じ込めを済ませておくことが欠かせません。
バックアップがない、または使えない場合は、前述のNo More Ransomで感染した種類を特定し、対応する無料の復号ツールが提供されていれば利用できることがあります。ただし、すべての種類に復号ツールがあるわけではないため、復旧できないケースもあります。
復旧には相応の時間と費用がかかることも知っておく必要があります。警察庁の集計では、復旧に総額1,000万円以上を要した組織の割合が全体の6割を占め、復旧に1か月未満で済んだ組織は5割弱にとどまっています。被害を受けてからの復旧は負担が大きいため、日ごろからの備えが重要になります。
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感染を防ぎ、被害を最小化するための備え
ここからは、感染を防ぎ、万一侵入されても被害を最小化するための備えを、どの経路・どの段階に効くかという観点で解説します。自社の備えに抜けがないかを点検する手がかりとしてください。
バックアップ(3-2-1と隔離した保管)
被害を受けても業務を取り戻すための最後の砦がバックアップです。データを3つ持ち、2種類の媒体に保存し、1つは別の場所に保管するという「3-2-1」の考え方が基本です。
加えて、ネットワークから切り離して保管したり、後から書き換えられない形(イミュータブル)で保管したりすると、攻撃者にバックアップごと暗号化・削除されるのを防げます。前述のとおり、復元時には侵入経路をふさいでから戻すことが再感染防止の条件です。
侵入を前提にした検知・対応(EDR・XDR・NDR)
攻撃者は侵入後、暗号化までの間に社内を横移動します。この内部活動の段階で不審な動きを検知できれば、被害を最小化できます。
端末上の不審な挙動を検知・対応するEDR(Endpoint Detection and Response)や、その監視範囲を端末以外にも広げたXDR(Extended Detection and Response)、ネットワークを流れる通信を記録して横移動や外部へのデータ持ち出しを検知・追跡するNDR(Network Detection and Response)が、この段階に効きます。
特に、通信を記録しておく仕組みは、感染範囲の特定や事後の調査でも力を発揮します。
EDRとXDRはどこが違い、どこまでの範囲を監視できるのか——自社にどの検知の仕組みが向くかを製品ごとに比較して選びたい場合は、次の記事が判断の手がかりになります。
弱点を先につぶす(侵害診断・脆弱性診断・機器の更新)
最も多い感染経路であるVPN機器をはじめ、インターネットに接続された機器やソフトウェアを最新の状態に保ち、公開範囲を必要最小限にすることが、入口をふさぐ基本です。自社のシステムにどのような弱点が残っているかを事前に洗い出す脆弱性診断や、すでに侵害されていないかを調べる端末の侵害診断を組み合わせると、攻撃を受ける前・受けた後の両面で弱点を把握できます。
こうした診断をどの程度の頻度で行うべきかについて、提供企業への取材では、攻撃側の変化を踏まえた次のような見方が示されています。

これまでは年に1回、あるいはサービスをリリースした直後にだけ脆弱性診断を行うという企業が多かったのですが、AIの発達によって攻撃側のスピードが上がっている以上、定期的に診断をしないと危険だという状況になってきました。
新たな脆弱性は日々生まれるため、一度の診断で終わらせず、定期的に弱点を点検する運用にしておくことが、VPN機器などの侵入口をふさぎ続けるうえで現実的です。
人への対策(従業員教育)
メールの添付ファイルやリンクからの感染を防ぐには、従業員一人ひとりが不審なメールを見分け、感染が疑われるときに正しい初動(電源を切らずネットワークを遮断し、速やかに報告する)をとれるようにしておくことが欠かせません。初動の手順を社内であらかじめ定め、周知しておくことが被害の最小化につながります。
ランサムウェア対策に役立つサービス
ここまで解説した備えを、具体的なサービスで実現する選択肢を紹介します。感染の有無を調べる診断、通信を記録して被害の広がりを追う仕組み、端末の防御、復旧のためのバックアップなど、対策の各層に対応するサービスがあります。
以下はご紹介するサービスの比較表です。自社の課題に合わせて検討する際の参考にしてください。
| サービス名 | Network Blackbox | CoWorker 脆弱性診断サービス | CoWorker 端末侵害診断サービス | Eye"247" Safety Zone | KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージ | Acronis Cyber Protect Cloud |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 対策タイプ | NDR(ネットワーク検知・対応) | 脆弱性診断 | 端末侵害診断(フォレンジック) | EPP+EDR(端末防御) | 予防・復旧・補償の統合パッケージ | バックアップ+EDR/XDR |
| ランサムウェア対策での役割 | 通信を記録し、侵入後の横移動やデータ持ち出しを検知・追跡。感染範囲の特定や事後調査にも活用 | 攻撃を受ける前に自社の弱点を洗い出す(AI解析+専門家の確認) | すでに感染・情報漏えいが起きていないかを、端末のログから事後に調査 | 端末でマルウェアを検知・隔離し、不審な挙動を検知・対応。ファイルの自動バックアップも搭載 | 月次の脆弱性診断・隔離したバックアップ・サイバー保険を一体で提供 | 端末の検知・対応と、被害時に戻すバックアップを1製品で両立 |
| 効く段階 | 侵入後の検知・事後調査 | 侵入前(弱点の予防) | 侵入後の確認(事後調査) | 侵入時の防御・検知 | 予防〜復旧(補償も) | 検知・対応+被害後の復旧 |
| 料金の目安 | 要お問い合わせ | ソースコードAI診断 15万円〜 Web・API診断を含むプラン 50万円〜 | 1台 50万円〜(税別) 別途 初期費用 20万円 台数に応じて割引 | 要お問い合わせ (導入台数・契約期間に応じて見積もり) | 1台 月額1,250円〜 初期費用は要お問い合わせ | 要お問い合わせ (従量制・MSP/代理店経由) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 | サービス詳細を見る |
※料金は2026年11月時点の各社提供情報にもとづく目安です。最新の提供内容・料金は各社にご確認ください。
1. Network Blackbox(株式会社クワッドマイナージャパン)

Network Blackbox は、ネットワークを流れる全パケットを収集・保存して脅威を検知・分析するNDR(Network Detection and Response)製品です。
ミラーリング方式で導入するため、ネットワークへの影響を抑えつつ、保存した通信をさかのぼってパケット単位で調べられる点が特徴です。侵入後の横移動やデータの持ち出しといった、ランサムウェア攻撃の内部活動の段階を捉えるのに向いています。
検知方式は、既知の攻撃を見つけるシグネチャによる検知に加え、ユーザーの行為の記録にもとづく検知と、送受信データを復元して内容を調べるコンテンツ分析を併用します。通信を記録しておくため、感染範囲の特定や事後のフォレンジック調査でも活用できます。EDRや、ログを集めて相関分析するSIEM(セキュリティ情報イベント管理)とは連携して使う設計です。
2. CoWorker 脆弱性診断サービス(CoWorker株式会社)

攻撃を受ける前に自社の弱点を洗い出したい企業に向くのが、CoWorker株式会社の脆弱性診断サービスです。自社開発AIによる自動解析と、社内のセキュリティ専門家による最終確認を組み合わせる二段構えで診断します。
診断メニューは、ソースコードをAIが解析する「ソースコードAI診断」、稼働中のWebアプリ・APIを攻撃者視点で調べる「動的脆弱性診断」、実際の攻撃を模した「実践攻撃シミュレーション診断(ペネトレーションテスト)」の3つです。
料金は、ソースコードAI診断が150,000円、ソースコードと動的診断を組み合わせたプランが500,000円からで、診断範囲に応じて複数のプランが用意されています(提供会社の情報にもとづく。2026年11月時点、税別の明記なし)。ソースコード診断単体から段階的に選べるため、必要な範囲から始めやすいのも特徴です。
3. CoWorker 端末侵害診断サービス(CoWorker株式会社)

「すでに感染・情報漏えいが起きていないか」を調べたいときに役立つのが、同じCoWorker株式会社の端末侵害診断サービスです。対象端末から専用ツールでログを収集し、自社開発AIとセキュリティ専門家が事後に解析して、マルウェア感染や認証情報の漏えい、データの持ち出しなどの痕跡を調べます。
常時監視して侵入をその場で遮断するEDRとは異なり、退職時やインシデントの疑いがあるとき、年1〜2回の定期的な棚卸しといったタイミングを区切って実施する診断です。
Windows・Macに対応し、最大100台までの一括診断が可能です。退職者トラブルや内部不正の疑いに備え、訴訟対応を見据えた電子証拠保全の形でのレポート作成にも対応しています。料金は1台あたり500,000円(税別)が定価で、別途ヒアリング・導入稼働費として初期費用200,000円が案内されています(提供会社の情報にもとづく。2026年11月時点)。
4. Eye"247" Safety Zone(株式会社フーバーブレイン)

端末そのものを守る対策としては、株式会社フーバーブレインが提供するEye"247" Safety Zone があります。マルウェアを検知・隔離するEPP(Endpoint Protection Platform)と、不審な挙動を検知してログの収集・調査・駆除まで支援するEDR(Endpoint Detection and Response)を、単一の製品として搭載しています。
検知エンジンにはBitdefenderと共同開発したものを採用し、アプリケーションの動作を常時監視する振る舞い検知を備えます。
ランサムウェア対策としては、動作を監視してファイルを自動でバックアップし、クライアント側で直近のバックアップからリストアできる機能を標準で持ちます。料金は導入台数や契約期間に応じた個別見積もりです。
5. KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージ(株式会社SYNCHRO)

株式会社SYNCHROのKATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージは、対策を「予防・復旧・補償」の3本柱で提供します。予防から復旧、そして補償までを1つにまとめて備えたい企業に向いています。
予防では、ネットワーク内部から毎月(年12回)脆弱性を診断し、改善策を提示します。復旧では、隔離した通信経路を通じてデータを自動バックアップし、有事の際の復旧に備えます。補償では、サイバー保険を自動付帯したパッケージを用意しています。
公式サイトでは「最短2週間で利用開始」「設置10分」を掲げており、専任のセキュリティ担当者を置きにくい中小企業でも導入を検討しやすい設計です。料金は1台あたり月額1,250円からとされています(公式サイト記載。初期費用は要お問い合わせ)。
6. Acronis Cyber Protect Cloud(Acronis International GmbH)

復旧の要となるバックアップと、端末の検知・対応を1つにまとめたいなら、Acronis Cyber Protect Cloud が選択肢になります。
バックアップやディザスタリカバリ(災害・障害時の復旧)といったデータ保護と、アンチマルウェア・EDR・XDRといったサイバーセキュリティを、単一のコンソールで統合して提供します。ランサムウェア対策を、被害を防ぐ「検知・対応」と、被害を受けても戻す「バックアップ」の両面で1製品にまとめられる点が特徴です。
バックアップファイルの改ざんを防ぐ機能も備えます。ITサービス事業者(MSP)向けのプラットフォームとして提供されており、エンドユーザー企業は販売代理店やITサービス事業者を経由して利用することが多いサービスです。料金は保護対象や機能モジュールに応じた体系で、公式には個別見積もりとなっています。
ここで取り上げたのは、ランサムウェア対策に役立つサービスの一部です。端末・ネットワーク・データなど「守る対象」ごとに社内セキュリティの選択肢を整理し、代表的なサービスや選び方を広く見比べたい場合は、次のまとめ記事もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ランサムウェアとは何ですか?
A. ランサムウェアとは、感染した端末やサーバー内のファイルを暗号化して使えなくし、その復旧と引き換えに金銭(身代金)を要求するマルウェアです。近年は、暗号化する前にデータを盗み出し「支払わなければ公開する」と脅す二重恐喝(ダブルエクストーション)が被害の多くを占めており、バックアップから復旧できても情報流出のリスクが残る点に注意が必要です。
Q. ランサムウェアの感染経路で最も多いのは何ですか?
A. ランサムウェアの感染経路で最も多いのはVPN機器で、警察庁の集計では侵入経路の約5割を占めます。既知の脆弱性が残ったVPN機器やパスワードの使い回しが狙われるため、インターネットに接続された機器を最新の状態に保ち、公開範囲を必要最小限にすることが入口対策の基本です。リモートデスクトップやメールの添付ファイル・リンクも引き続き注意すべき経路です。
Q. ランサムウェアに感染したら、最初に何をすべきですか?
A. ランサムウェアに感染したら、まず感染した端末をネットワークから切り離し、速やかに社内外へ報告してから感染範囲を特定します。LANケーブルを抜く・Wi-Fiを無効にするなどで他の端末やサーバーへの被害拡大を止めたうえで、情報システム部門や外部の専門家・相談窓口に連絡し、組織としての対応に切り替えることが大切です。
Q. ランサムウェアに感染した端末の電源は切ってよいですか?
A. ランサムウェアに感染した端末の電源は切らず、ネットワークのみを遮断するのが原則です。電源を落とすと、原因究明や被害範囲の調査に必要な記録(証拠)が失われることがあるためで、IPAも従業員の初動対応として「PCの電源を切らない」「メールやファイルを削除しない」ことを挙げています。感染拡大を防ぐ「ネットワーク遮断」と、調査のための「電源維持」を取り違えないようにしてください。
出典・参考資料(1件)
Q. ランサムウェアの身代金は払うべきですか?
A. ランサムウェアの身代金は、原則として支払うべきではありません。JPCERT/CCは、支払ってもファイルが復元される保証がないこと、被害原因や他の被害が未解消のまま残ること、支払い後に再び攻撃や要求を受ける恐れがあることなどから、支払いを選択すべきではないとしています。身代金よりも、バックアップからの復旧と侵入経路の封じ込めを軸に対応を進めることが基本です。
Q. ランサムウェアで個人データが漏えいしたら、個人情報保護委員会への報告は必要ですか?
A. ランサムウェアで個人データが漏えいした、またはそのおそれがある場合、個人情報取扱事業者には個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務づけられます。
根拠は個人情報保護法第26条で、ランサムウェアによる被害は「不正の目的をもって行われたおそれがある行為」による漏えい等に該当するのが基本です。報告には速報と確報の2段階があり、確報の期限は事態を知った日から60日以内とされています。本人への通知も忘れずに検討してください。
Q. ランサムウェアの復旧にはどのくらいの費用と時間がかかりますか?
A. ランサムウェアからの復旧には相応の負担がかかり、警察庁の集計では復旧に総額1,000万円以上を要した組織が全体の6割を占めます。復旧に1か月未満で済んだ組織は5割弱にとどまり、時間の面でも事業への影響は小さくありません。被害を受けてからの復旧は負担が大きいため、隔離して保管するバックアップや、侵入を早期に検知する仕組みなど、日ごろからの備えが費用と時間の抑制につながります。
出典・参考資料(1件)
まとめ
ランサムウェアへの備えは、感染経路を知って自社の穴をふさぐこと、そして万一感染したときの初動を正しく踏めるようにしておくことの両輪で考えると整理しやすくなります。感染経路として最も多いのはVPN機器であり、インターネットに接続された機器やソフトウェアを最新に保つことが入口の対策の基本です。
感染が疑われたら、端末の電源は切らずにネットワークのみを遮断し、速やかに報告・相談して感染範囲を特定します。
個人データの漏えいがあれば、個人情報保護委員会への報告と本人への通知を忘れずに検討してください。復旧は、侵入経路をふさいだうえでバックアップから戻すのが基本です。被害を受けてからの復旧は時間も費用も大きいため、バックアップ・検知の仕組み・脆弱性診断・従業員教育といった備えを、自社の状況に合わせて点検しておくことをおすすめします。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















