月謝や会費、家賃などの回収に口座振替を利用する事業者は少なくありません。しかし、顧客の口座残高が不足しているなどの理由で、予定通り引き落としができないことがあります。
こうした場合に備えて、事業者としては、利用規約において、所定の再振替手数料や事務手数料を請求する旨の規定を定めておくことが考えられます。
もっとも、規約に定めておけば、顧客に自由に請求できるわけではなく、消費者契約法等によって、請求額が制限されることがあります。
本記事では、口座振替ができなかった場合の費用の請求、滞納による契約解除、規約変更の実務上の注意点を解説します。

弁護士法人吉川綜合法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会所属)
伊藤 憲武
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目次
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再振替手数料や事務手数料にも「年14.6%」の上限が適用される?
消費者契約法に基づく遅延損害金の上限
消費者契約法9条1項2号は、消費者が金銭の支払を遅延した場合の損害賠償の予定や違約金について、未払金額に対して年14.6%を超える部分を無効としています。
例えば、月謝5,000円の英会話スクールで、口座残高不足により引き落としができず、顧客が30日後に支払ったとします。この場合の上限額は、次のとおりです。
5,000円 × 14.6% × 30日 ÷ 365日 = 60円
この場合、事業者が口座振替を再度行う場合に、「再振替手数料」や「事務手数料」の名目で、1件当たり900円の手数料を申し受けるとした場合は、上記の上限額の15倍もの金員を請求することになりますが、これは消費者契約法9条1項2号に抵触しないでしょうか。
結論としては、消費者契約法9条1項2号で年14.6%の上限が課せられる対象は、あくまで遅延損害金(遅延利息)であるため※1、①手数料が遅延損害金たる性質を有する場合は、年14.6%の上限がかかる、②手数料が遅延損害金とは別個のものである場合は、年14.6%の上限はかからないということになります。
※1
- ※1 消費者庁『逐条解説 消費者契約法』(令和5年9月)157頁
実際に、賃料を滞納した場合に、事業者(賃貸人)に生じる通信費、交通費、事務手数料等の経費を「催告手数料」として賃借人に請求することができるという契約条項は、遅延損害金について定めたものではないとして、消費者契約法9条1項2号の適用を否定した裁判例(大阪地判平成24年11月12日判タ1387号207頁)を踏まえると、事業者が再度の口座振替によって負うことになった銀行への手数料、人件費その他の実費相当額の請求は、遅延損害金(逸失利益・消極的損害※2)とは異なる積極的損害として、消費者契約法9条1項2号の制限がかからないと整理できます。
※2
- ※2 喜多村勝德 著『損害賠償の法務 第2版 [勁草法律実務シリーズ]』(勁草書房、2024年)238頁
近年の傾向
もっとも、近年、事業者が支払遅滞時の遅延損害金に加えて、「延滞事務手数料」を収受することや、遅延損害金の上限の14.6%相当額をはるかに超える金員を「保証事務手数料」として収受することを定める契約条項について、適格消費者団体から差止請求訴訟を提起されている事例があります(BNPLや家賃債務保証サービスの事例※3)。また、同様の延滞事務手数料を定めていた事例について、適格消費者団体からの照会を受けて、14.6%を超える部分について、返金対応を余儀なくされた事例もあります※4。
※3 ※4
- ※3 株式会社ネットプロテクションズの事例、全保連株式会社の事例
- ※4 メルペイの事例
したがって、消費者が支払を遅延している場合に、何らかの手数料を申し受けるとする契約条項は、適格消費者団体による差止請求や差止訴訟を受けるリスクが相応に高いといえます。
| 類型 | ① | ② | ③ |
|---|---|---|---|
| 手数料の性質 | 遅延損害金(消極的損害) | 実費相当額(積極的損害) | 実費相当額(積極的損害) |
| 支払遅延との関連性 | あり | あり | なし |
| 消費者契約法9条1項2号の適用関係 | 争いなく適用される | 消費者団体により適用を主張されるリスクが高い | 消費者団体により適用を主張されるリスクは低い |
消費者契約法10条・民法との関係
なお、再振替手数料として、実費相当額を請求する旨の条項(上記の表の②③)を定める場合、再振替の都度、実費を算出することは煩雑であるため、一定の金額をあらかじめ定めておくことが多いと思います。そのような規定は、画一的な事務処理のため、原則として有効であると考えられます。例えば、事業者が負担する振替費用を消費者に転嫁する規定について、消費者契約法に反しないとして有効と判断した裁判例(大阪高判平成25年1月25日判時2187号30頁)があります。
他方で、平均的な損害とはかけ離れた金額を設定してしまうと、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項)、民法90条(公序良俗)等の不当条項規制により無効と判断されるおそれが高くなります。また、裁判例では、同業他社が同様の規定を設けていることを踏まえて、手数料の支払を定める規定を有効と判断したものがあります(繰上返済手数料の事例について、東京地判平成31年3月20日金法2137号88頁)。
したがって、事業者としては、手数料を規約上定めるにあたり、業界における一般的な取扱いを参考にしつつ、なぜそのような金額を設定したのかという算出根拠を事前に用意しておくことが必要になります。
滞納が続いて契約を解除するとき、解約料はいくらまで取れる?
消費者契約法に基づく解約料の上限
月謝や会費の未払いが続いた場合、契約を解除し、別途「解約違約金」などを請求したいと考えることもあります。この場合に問題となるのは、消費者契約法9条1項1号です。
同号は、契約の解除に伴う損害賠償の予定や違約金について、同種の契約において事業者に生ずべき「平均的な損害の額」を超える部分を無効としています。
実務上は、解約時期や契約類型ごとに、教材の準備費用、講師の手配に伴う費用、解約によって不要になった費用、代替受講者を確保できる可能性などを検討し、算定資料を残しておくことが望まれます※5。
※5
- ※5 消費者庁『逐条解説 消費者契約法』(令和5年9月)155頁
なお、語学教室や学習塾などが特定商取引法の特定継続的役務提供に該当する場合には、消費者からの中途解約について、同法49条により請求額の上限が定められています。
例えば、契約期間が2か月を超え、契約金額が5万円を超える語学教室や学習塾などが対象となり得ます。役務提供開始後の中途解約で請求できる損害賠償等の上限は、語学教室では5万円又は契約残額の20%のいずれか低い額、学習塾では2万円又は1か月分の授業料相当額のいずれか低い額です。
解約料の計算根拠は、説明できる状態にしておく
消費者契約法9条2項は、消費者から求められた場合、事業者が解約料の算定根拠の概要を説明するよう努めることを定めています。なお、2026年9月10日に公表された消費者契約法検討会の中間取りまとめでは、解約料について事業者側に立証責任を移す案も検討されましたが、今回はその方向での改正は見送り、算定根拠に関する説明を充実させる方向が示されています※6。
※6
- ※6 現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会『中間とりまとめ』(令和8年9月10日)29頁
そのため、規約に金額を記載するだけでなく、経費明細や過去の解約実績など、金額を設定した根拠を社内資料として保存しておくことが、今後はより一層、重要になると言えるでしょう。
手数料の新設・値上げや解約条件の変更で、契約中の顧客にすべきこと
定型約款の変更における実体的要件
口座振替サービスの導入後、事務負担の増加を理由に、再請求手数料を新設したり、解約条件を変更したりするケースも考えられます。
多数の顧客に共通して用いる利用規約が民法上の「定型約款」に当たる場合、民法548条の4に基づいて、一定の要件の下で規約を変更できることがあります。
もっとも、顧客に不利益となる変更については、変更内容が契約の目的に反しないことのほか、変更の必要性(経済情勢の変化、法令の改正、社会環境の変化など)、内容の相当性(他に取りうる方法がないか、バランスを欠いていないか等)、変更条項の有無(あらかじめ約款内で変更の可能性が明記されていたか)などを踏まえた合理性が必要です。
顧客に与える不利益の低減措置
規約の変更について、顧客に与える不利益の内容や程度に応じて、適切な不利益低減措置を取ることは、定型約款の変更を合理的なものと認める方向で斟酌されることになります。
例えば、規約変更の効力が生じるまでに、顧客に対して、契約を中途で解除する取扱いを認めることが考えられます。中途解約の違約金(キャンセル料)の規定がある場合には、特別にこれを免除すれば、より一層、顧客の不利益が低減され、規約変更の合理性、ひいては規約変更自体の効力が認められやすい方向に働きます。
また、以下に述べる規約変更の周知期間や周知方法は、顧客に対して規約変更の内容を十分に吟味する機会を与えているか(取引を継続せず、他社に乗り換える意思決定をあらかじめ行うのに十分な状況が整えられているか)という意味で、不利益低減措置の有無・内容の判断にも斟酌されるという考え方が実務上有力です※7。
※7
- ※7 村松秀樹ほか『定型約款の実務Q&A(補訂版)』(令和5年8月31日)140頁
定型約款の変更における手続的要件
定型約款としての利用規約を変更する場合、顧客に有利な変更でない限り、効力発生時期を定めた上で、変更の旨、変更後の規約の内容及び効力発生時期を顧客に周知しなければ、変更の効力が認められません(民法548条の4第3項)。
では、どのような事情があれば、「周知」したと評価されるのでしょうか。
第1に、適切な周知期間を前置することが重要視されます。実務上は、軽微な修正であれば数日、そうでない場合は数週間が一つの目安になります。変更内容に顧客にとって不利益な内容を含むのであれば、程度に応じて、数か月の期間を前置することも十分考えられます。
第2に、サービスの公式サイトだけではなく、顧客に個別に通知していることは、「周知」したとの判断に大きく働きます。これは、消費者契約法検討会の中間取りまとめにおいて、消費者に支払わせる対価を増額する場合や、解約条件を厳しくする場合など、重要事項を不利益に変更するときには、既存顧客への個別通知を義務付ける方向が示されていることとも整合します。
まとめ
口座振替ができなかった場合の費用請求では、次の3点が重要です。
- 手数料の法的性質を確認すること
- 手数料の算出根拠をあらかじめ保存すること
- 規約変更の手続(周知期間・周知方法)を適切に履践すること
事業者にとって、口座振替は便利な料金回収手段ですが、引き落とし不能時の規約を安易に設定すると、回収できるはずの手数料が無効となったり、消費者との紛争につながったりする可能性があります。
規約を作成・改定する際には、実際に生じる費用と請求の目的を整理した上で、金額の合理性と顧客への説明方法を検討することが重要です。

















