地図サービスの口コミ、転職口コミサイト、掲示板。自らが経営する会社などへの悪い投稿を見つけると、まず「消せないか」と考えるのが自然です。ネット上の誹謗中傷が社会問題となる一方、プラットフォーム事業者の削除申出への対応が遅く、長期間応じない例もあるなどと指摘されてきました。※1そこで、2025年4月、旧プロバイダ責任制限法が改正され、情報流通プラットフォーム対処法(以下「情プラ法」)が施行されました。同法は、大規模事業者に、削除申出の窓口整備や対応の迅速化、運用状況の公表を義務づけるものです※2。本稿では、このような動向も踏まえて、削除や特定が認められやすい投稿とそうでない投稿の違い、手続の使い分け、費用対効果等を整理します。
※1 ※2
- ※1 総務省公表資料(プラットフォームサービスに関する研究会関連)https://www.soumu.go.jp/main_content/000978031.pdf。
- ※2 総務省「情報流通プラットフォーム対処法」解説資料https://www.soumu.go.jp/main_content/001072038.pdf。

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 パートナー弁護士
高瀬 亜富
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目次
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1 削除請求が認められやすい投稿、認められにくい投稿
削除請求の根拠として主張されることが多いのが名誉毀損です。名誉毀損は、投稿によって人(法人を含みます)の社会的評価が低下した場合に問題となります。名誉毀損を理由とする削除請求が認められやすいかどうかの分かれ目は、投稿が「事実の摘示」か「意見・論評」かです。
(1) 事実の摘示と意見・論評の区別
事実の摘示か意見・論評かは、次のように区別されます。すなわち、証拠で存否を決められる具体的な事柄を述べていれば事実の摘示、そうでなければ意見・論評です。一般の閲覧者の普通の注意と読み方で判断され、意見の体裁でも具体的な事実を主張していると読まれれば、その部分は事実の摘示にあたります。1つの投稿に、事実の摘示と意見・論評が併存することもあります。たとえば「検査もせずに治療した。最低の医院だ。」なら、前半は事実の摘示、後半はそれを前提とした意見・論評です。この場合、前半は真実かどうかを、後半は前提事実との関係で論評としての域を逸脱していないかを、部分ごとに見ていきます。なお、「態度が悪かった」「高い」のような投稿は、感想・評価(意見・論評)です。
(2) 事実の摘示か意見・論評かで違法性阻却の要件が変わる
社会的評価を下げる投稿でも、次の要件を満たせば違法性は阻却され、名誉毀損の成立は否定されます。
- 事実の摘示:①公共の利害に関する事実であること、②専ら公益を図る目的であること、③摘示された事実の重要な部分が真実であること※3
- 意見・論評:①②に加え、③論評の前提となる事実の重要な部分が真実であること(真実と信じる相当の理由でも足ります)、④人身攻撃に及ぶなど、論評としての域を逸脱していないこと※4
※3 ※4
- ※3 最判昭和41年6月23日民集20巻5号1118頁。
- ※4 最判平成9年9月9日(平成6年(オ)第978号)民集51巻8号3804頁、最判平成16年7月15日民集58巻5号1615頁。
意見・論評は、事実の摘示より緩和された要件で免責されます。前提事実には真実性(または真実と信じる相当の理由)が求められる一方、意見・論評の内容の正当性や合理性は問われないからです。最高裁も、「人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉毀損の不法行為が成立しない」としています※5。
※5
- ※5 最一小判平成16年7月15日民集58巻5号1615頁。
(3) 裁判例で見る、事実の摘示と意見・論評の違い
ここまで説明してきた事実の摘示と意見・論評の違いを、近時の2つの裁判例で見てみましょう。
| 観点 | 意見・論評の例(東京高判令和6年3月13日)※6 | 事実の摘示の例(東京高判令和7年7月23日)※7 |
|---|---|---|
| 事案 | 野党議員が、ジャーナリストを「スラップ訴訟」を起こしたなどと述べ、「クソ野郎」と非難したSNS投稿 | 歯科医院の地図サービス口コミ。検査をせずに治療した、といった内容 |
| 判断の中心 | 前提事実(訴訟を起こしたこと)が真実か。表現が論評の域を逸脱していないか | 述べられた事実の重要な部分が真実か |
| 裁判所の認定 | 前提事実は真実。「クソ野郎」も、より穏当な表現が可能だったというだけでは論評としての域の逸脱とはいえない | 医院長の陳述書の通常の診療手順に虚偽をうかがわせる事情がなく、投稿の重要部分は真実と認められない |
| 結論 | 不法行為を否定(一審は一部で肯定) | 削除を命じた(一審は請求棄却と報じられている) |
※6 ※7
- ※6 東京高判令和6年3月13日判タ1533号77頁。
- ※7 東京高判令和7年7月23日令和7年(ネ)第542号。
この2つの裁判例を比較すると、事実の摘示よりも意見・論評のほうが名誉毀損が否定されやすいことがご理解頂けると思います。
(4) 企業が用意しておく記録
「事実と異なる」ことを示せるかどうかが結論を左右します。一般に真実性の立証は投稿者側が負いますが、匿名・仮名の投稿者は、実際に利用した証拠などを出せないことが多く、他方で企業側は、自社の記録と食い違う点を具体的に示せるため、その有無が結論を大きく左右するからです。予約ログや顧客台帳、マニュアルなどの通常手順、雇用契約書やタイムカードなどの勤務記録、同種の苦情がないことを示す履歴を、普段から整えておきましょう。繰り返しの投稿が疑われるときは、投稿時期の集中や文体の一致を時系列で整理することが有益です。
2 削除の申出・仮処分・発信者情報開示の使い分け
手続は、費用と時間の小さいものから順に使うのが基本です。以下に示す順序で手続を進めるのが良いでしょう。
- プラットフォームの通報・任意の削除依頼:費用がほとんどかからず、名誉毀損が通らなくても規約違反で削除される余地があります。
- 情プラ法の削除申出:大規模事業者は、自ら定めた基準で判断し、7日以内に結果を通知しなければなりません※8。ただし、判断は各社の基準次第で、法的な違法性の判断と一致するとは限りません。
- 削除の仮処分:任意の対応で削除されない場合の手段です。数週間から数か月かかることが多く、担保を求められることがあります。
- 発信者情報開示命令:投稿者の特定に進む場合に使います。権利侵害の明白性が必要です。通信ログの保存期間は数か月程度のことが多いため、特定まで考えるなら早期に着手します。
※8
- ※8 情報流通プラットフォーム対処法25条。総務省「情報流通プラットフォーム対処法」解説資料https://www.soumu.go.jp/main_content/001072038.pdf
なお、総務省は2026年7月24日、情プラ法28条の運用状況の公表が不十分だとして、Google、X、Meta、湘南西武ホーム(爆サイ.com)、ドワンゴの5社に勧告しました※9。公表義務に関するもので、削除基準そのものを変えるものではありませんが、各社の報告で削除の傾向が明らかになれば、プラットフォームごとの対応方針を考える判断材料になるでしょう。
※9
- ※9 総務省による勧告(2026年7月24日)。
3 投稿者を特定したあと、費用に見合うものを取り戻せるか
削除請求について法的措置を講じる場合に注意が必要なのは、費用対効果が見合わないことが少なくないということです。法務省民事局の調査報告書(2026年4月)では、被害者が法人・団体で、主にネット上の権利侵害が問題になった16件の慰謝料は、平均39.1万円、中央値30万円、最大100万円でした※10。なお、逸失利益などの財産的損害の賠償請求は、投稿によって売上が減ったこと(因果関係)とその額を立証することが困難であるため、認められにくいのが実情です。
※10
- ※10 法務省民事局の調査報告書(2026年4月)。
開示にかかった弁護士費用の扱いも一様ではありません。同報告書の発信者情報開示費用を整理した解説によれば、35件のうち、実際に支払った額が全部認められたのは10件(28.6%)、一部認容が21件(60.0%)、弁護士費用の認定額において考慮されたものが1件(2.9%)、棄却が3件(8.6%)でした。慰謝料が30万円未満の事案で全部認容されたのは11.8%にとどまり、50万円以上では75.0%でした。開示費用を全額回収できる前提の採算計算は危険です。
ここまでは投稿者の属性を問わず説明してきましたが、投稿者が競合や元従業員である場合は、別の請求も考えられます。投稿者が競合である場合は、不正競争防止法2条1項21号(競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知・流布)が使えます。
もっとも、21号の場合も、認められる賠償額は多額にはなりにくいのが実情です。匿名の口コミ投稿に21号を適用した大阪地判令和5年3月16日令和3年(ワ)第11152号は、請求約154万円に対し計60万円の認容でした。東京地判令和6年7月18日令和5年(ワ)第70513号も、請求380万円に対し28万円の認容でした。営業上の損害を具体的に立証できなければ、金額は伸びにくいといえます。元従業員の場合は、在職中に知った情報の公表であれば、雇用契約上の守秘義務違反や、営業秘密の不正開示の問題になりえます。他方、労働条件など真実の指摘は、削除も賠償も認められにくいでしょう。
投稿者が特定できたとしても、投稿者が任意に賠償金を支払わない、転居していて現住所が分からないなどといった場合には賠償金の回収は困難です。このような事態が想定される場合には、情プラ法に基づく削除請求までにとどめ、削除の仮処分や発信者情報開示請求には進まないという方針で対応を進めることも一案です。
















