取引先の社名と代表者名をインターネットで検索し、目立った記事がなければ「反社チェック済み」とする。こうした運用で十分なのでしょうか。反対に、20年前の逮捕報道が1件見つかっただけで、契約を断ってよいのでしょうか。
警察庁が公表した令和7年の組織犯罪の情勢によれば、2025年末の暴力団構成員等は約1万7,600人と過去最少となる一方、匿名・流動型犯罪グループと暴力団の結び付きも指摘されています※1。検索にヒットしないことは、「問題がない」と証明されたことを意味しません。
※1
- ※1 警察庁「令和7年における組織犯罪の情勢」
もっとも、すべての取引先に徹底した身辺調査が必要なわけでもありません。実務で問われるのは、取引のリスクに応じた合理的な調査を実施し、弱い情報を過大評価せず、その判断過程を説明できるかという点です。

弁護士法人吉川綜合法律事務所 弁護士(第一東京弁護士会所属)
伊藤 憲武
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目次
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最高裁判決が示したのは「結果」ではなく調査の相当性
最高裁平成28年1月12日判決(平成26年〔受〕第1351号)は、金融機関の融資先が実は反社会的勢力であったため、信用保証協会による保証債務の履行が争われた事件です。
最高裁は、融資先が反社会的勢力だったというだけで保証契約が錯誤により無効になるとはせず、金融機関と信用保証協会の双方に、基本契約上の付随義務として、融資実行前に「その時点において一般的に行われている調査方法等に鑑みて相当と認められる調査」を行う義務があるとしました。そして、義務違反の有無などを審理させるため差し戻しています※2。
※2
- ※2 最高裁第三小法廷平成28年1月12日判決(平成26年〔受〕第1351号、民集70巻1号1頁)
重要なのは、判決が調査方法を一律に指定したわけでも、反社を見抜けなかった場合に必ず責任を負うとしたわけでもない点です。この事例は、金融機関と信用保証協会の契約関係に関する判断であり、一般事業会社の事業活動のすべてに同等の調査義務を直接課すものとは限りませんが、一般企業にも参考になる準則と言えます。
また、政府の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」は、反社会的勢力との関係遮断を基本原則としています※3。取引の規模や業種から危険が予測できたのに、社内ルールを無視して十分な確認を怠った場合には、紛争時に審査手続の合理性が問われ得ます。
※3
- ※3 犯罪対策閣僚会議幹事会「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日)
取引のリスクに応じて審査を深め、最後は関係を遮断する
どこまで調べれば足りるかについて、全国一律の基準はありません。すべての取引先を同じ深さで調べるのではなく、自社が直面するリスクを特定・評価し、リスクに見合った措置を講じる「リスクベース・アプローチ」が基本的な考え方になります。金融機関向けのマネー・ローンダリング対策のガイドラインも、リスクが高い場合にはより厳格な措置を求める一方、リスクが低い場合にはより簡素な措置を許容しています※4。政府指針の解説も、反社会的勢力の疑いには濃淡があるとして、その程度に応じ、直ちに契約を解消する、解消に向けた措置を講じる、関心を持って継続的に監視するといった対応を想定しています※5。
※4 ※5
- ※4 金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(令和8年3月31日改正)Ⅱ-1、Ⅱ-2(3)(ⅰ)
- ※5 「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」(4)。木目田裕=佐伯仁志編『実務に効く 企業犯罪とコンプライアンス判例精選』(有斐閣、2016年)101頁も参照
実務上の出発点は、①相手方を正しく特定する、②公開情報を確認する、③リスクが高い場合に調査を深める、④反社会的勢力と判明すれば関係を遮断する、という順番です。以下は社内規程を作る際の一例であり、法令上の基準ではありません。
【取引審査の4段階(運用例)】
| 審査区分 | 取引・情報の例 | 調査・判断の進め方 |
|---|---|---|
| 標準審査 | 少額・単発で、特段の懸念がない取引 | 正式商号、所在地、代表者を確認し、登記・公式サイト・公開報道等を検索。検索語と日時を保存。 |
| 重点審査 | 高額・長期継続、不動産・現金取引、資金の流れが複雑な取引など | 役員・旧商号・関連法人を追加確認。必要に応じて新聞記事DBや外部調査を利用し、法務・コンプライアンス部門へ回付。 |
| 追加審査 | 信頼性の高い不利益情報、説明の矛盾、第三者名義への送金要求、法的な責任を超えた不当な要求などがある取引 | 取引を保留し、相手方へのヒアリングなど追加的な調査を行い、同一性・現在の関係を再確認。属性(暴力団等との関係)と行為(不当要求等)の双方から判断。弁護士や警察・暴追センターへの相談を検討し、権限者が決裁。 |
| 関係遮断 | 反社会的勢力と判明し、又はその疑いが濃厚となった取引先 | 暴力団排除条項等に基づき速やかに関係を解消。不当要求には応じず、警察に届け出るなど組織として対応。 |
例えば、1回20万円の備品購入と、年間3,000万円を3年間支払う業務委託契約とでは、許容できるリスクも必要な手間も異なります。後者の事例で代表者名の検索しか行わなかった理由を説明するのは、難しくなる場面があるでしょう。
また、データベースに掲載のない相手でも、不自然な現金決済、契約主体と振込先の不一致、実態に合わない役員交代などの事情が重なれば、追加調査の契機になります。氏名のヒット数よりも、取引実態との整合性を重視すべきです。
「弱い情報」が出たら、どこで線を引くか
反社チェックでは、疑わしい検索結果を見つけたこと自体より、「調査対象と同一人物・同一企業か」「現在の取引リスクにつながるか」を評価することが重要です。典型的な4類型を見てみましょう。
① 数十年前の報道
古い記事には、過去の事実を示す価値がありますが、現在の関係まで示すとは限りません。報道後の役員交代、関係企業との取引継続、同種の事件の反復などを確認します。過去の出来事と現在の取引との接点が乏しければ、追加調査を打ち切る判断もあり得ます。
② 逮捕報道があるが、その後不起訴となった場合
逮捕は有罪認定ではなく、不起訴で終了した事実も無視できません。元の記事だけで「反社会的勢力」と断定するのは危険です。ただし、不起訴の理由が分からない場合などは、事実関係がすべて解明されたとは限りません。信頼できる続報や別の具体的情報の有無、取引との関連性を検討します。
③ 同姓同名の可能性
名前だけの一致は、それ自体では弱い情報です。記事にある会社名・所在地・役職・時期などを照合し、同一性を裏付ける情報がなければ「同一人物とは確認できない」と記録します。逆に、複数の属性が一致する場合は、追加調査に進むべきです。
④ 親族・元役員に関する過去の情報
親族関係や過去の在籍歴があるというだけで、本人や現在の法人を反社と評価することはできません。現在の経営への関与、資金・契約上のつながりなどの具体的事情に目を向けます。旧役員が退任後も実質的に支配していることを示す情報があれば、追加調査の必要性は高まります。
追加調査へ回す目安は、情報の「確からしさ」「相手方との同一性」「現在性」「取引との関係」「損失・影響の大きさ」の組合せです。一つの弱いヒットを機械的に「黒」と判定するのではなく、複数の事情が重なったところを重点的に確認します。その際は、暴力団等との関係という「属性」だけでなく、暴力的な要求行為や法的な責任を超えた不当な要求といった「行為」にも着目し、双方を総合的に判断することが重要です※6。
※6
- ※6 「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」(5)、木目田裕=佐伯仁志編『実務に効く 企業犯罪とコンプライアンス判例精選』(有斐閣、2016年)101頁
取引を断る場合にも、判断と伝え方を分ける
新規契約には原則として相手方選択の自由があるため、取引を見送ること自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、根拠の乏しい情報を社内外に「反社確定」と伝えれば、名誉・信用の侵害や不法行為(民法709条)の問題が生じ得ます。
また、契約締結後の解除は、新規の取引拒絶とは別問題です。暴力団排除条項の内容、解除要件を裏付ける事実、契約上の手続を確認しなければなりません。警視庁は、契約相手が暴力団関係者ではないかと疑いがあり、本人への確認が難しい場合には、警察署や暴追センターへの相談を案内しており、個々の事案に応じて可能な限り情報を提供するとしています。照会の際には、相手方の氏名・生年月日・住所が分かる資料、暴力団排除条項を定めた契約書、疑いを持った理由を示す資料などを準備する必要があります※7。
※7
- ※7 警視庁「東京都暴力団排除条例 Q&A」
これに対し、相手方が反社会的勢力であると判明し、又はその疑いが濃厚になった場合には、暴力団排除条項等に基づき、速やかに関係を解消しなければなりません。政府指針は、取引を含めた一切の関係遮断を基本原則とし、反社会的勢力であると判明した時点や疑いが生じた時点で速やかに関係を解消するとしています※8。また、会社が不当要求を受ける被害者的な立場にあっても、経営者には法令に従った適切な対応をすべき義務があります。最高裁は、警察に届け出るなどの適切な対応が可能な状況であったにもかかわらず、理不尽な要求に応じて巨額の金員を交付した取締役らについて、過失を否定できないとしています※9。
※8 ※9
- ※8 犯罪対策閣僚会議幹事会「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日)。後藤慎吾『金融商品取引業コンプライアンスハンドブック』(中央経済社、2022年)710頁
- ※9 最二小判平成18年4月10日民集60巻4号1273頁(蛇の目ミシン事件)。「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」(1)も、取締役の善管注意義務の判断に当たり同判決が参考になるとしています
リスク管理体制の運用として「なぜその結論か」を記録する
取締役は、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備する義務を負います。大和銀行ニューヨーク支店損失事件判決は、このように述べたうえで、どのような体制を整備すべきかは経営判断の問題であり、取締役に広い裁量があるとする一方、整備すべき体制の内容は、事件・事故の経験の蓄積やリスク管理に関する研究の進展により充実していくものであるとしています※10。反社チェックも、規程を作るだけでなく、その時点の水準に照らして相当な審査が実際に行われたことを、後から示せるようにしておく必要があります。
※10
- ※10 大阪地判平成12年9月20日判時1721号3頁。大塚和成=柿﨑環=中村信男編著『内部統制システムの法的展開と実務対応』(青林書院、2015年)54頁、後藤慎吾『金融商品取引業コンプライアンスハンドブック』(中央経済社、2022年)106〜107頁。「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」(12)も参照
監査や紛争で後から問われるのは、検索結果の枚数ではなく、当時入手できた情報をどう評価したかです。少なくとも、調査日・情報源・検索対象と検索語、ヒット内容、同一性・現在性を肯定/否定する事情、取引の規模とリスク、追加調査を止めた理由、判断者・承認日、再調査のきっかけを残します。
【審査記録の書き方:架空事例】
2026年10月20日、A社との業務委託契約(年額1,200万円・2年間)を審査。登記事項、会社公式サイト、新聞記事データベース及び一般検索を確認。元役員と同姓同名の人物に2010年の逮捕報道があったが、記事中の勤務先・所在地は元役員の公表経歴と整合せず、同一人物と認める資料はない。現役員との関係を示す情報も確認できなかった。反面、継続取引である点を踏まえ、コンプライアンス部門責任者の承認を条件に開始し、6か月後に再審査する。
「検索して問題なし」という一行では、弱いヒットを見落としたのか、検討したうえで通したのか分かりません。反対事情や判断の限界も書くことで、後から結論の合理性を検証できます。取引額や担当者の負担に応じて、定型フォームと上位者へのエスカレーションを組み合わせると運用しやすくなります。
まとめ
反社チェックに「何件検索すれば合格」という画一的な基準はありません。最低限目指すべきなのは、相手方の特定を誤らず、取引の規模・性質に見合う調査をし、収集した情報を事実と評価に分けて整理し、反社会的勢力と判明すれば速やかに関係を遮断し、その理由を残すことです。「なぜ、その時点で、その調査で足りると判断したのか」を説明できるリスク管理体制を整備・運用していることが、実務上、肝要になります。

















