取引先や同業の工場が止まったというサイバー攻撃のニュースを見て、「自社の工場で同じことが起きたら」と不安を感じていませんか。製造現場の生産設備や制御システム(OT:Operational Technology、工場の機械や生産ラインを動かす技術)は、いったん攻撃を受けると生産そのものが止まり、取引先まで巻き込む被害につながります。
ただ、一般論として「工場は危ない」と言われても、社内で対策の必要性を説明する材料にはなりません。まず知りたいのは、どの会社で・いつ・どうやって攻撃され・どれだけの被害が出たのか、という実際の事例のはずです。
本記事では、国内製造業で実際に起きたサイバー攻撃の事例を、出典とともに一覧で整理し、そこから見える共通の侵入経路と、自社が何から・どの順で対策すべきかを解説します。
目次
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国内製造業のサイバー攻撃被害事例
まず、国内の製造業で実際に公表されたサイバー攻撃の事例を整理します。生産ラインが止まった事案(OTへの影響)と、情報が流出した事案(IT側の被害)を分けて見ると、工場で何が起こり得るのかが具体的に見えてきます。
| 企業(業種) | 時期 | 攻撃の種類 | 被害区分 | 侵入経路 | 主な被害 |
|---|---|---|---|---|---|
| 小島プレス工業/トヨタ自動車(自動車・自動車部品) | 2022年2〜3月 | ランサムウェア | 生産停止 | 小島プレス工業の子会社が使っていたリモート接続機器の脆弱性を起点に、子会社ネットワーク経由で小島プレス本体へ侵入 | 小島プレスの社内データの一部が暗号化。その影響が納入先のトヨタ自動車に波及し、トヨタは国内全14工場28ラインの稼働を1日停止 |
| 本田技研工業(自動車) | 2020年6月 | サイバー攻撃(ランサムウェアの可能性が指摘された) | 生産停止 | 公表情報では特定されていない | 社内ネットワークに障害が発生し、北米・トルコ・インド・ブラジルなど複数の海外工場で生産を一時停止(国内工場への影響はなかったと報じられている) |
| 河村電器産業(電機) | 2022年4月 | ランサムウェア | 生産停止(社内システム) | 公表情報では特定されていない | 第三者からの不正アクセスで一部サーバーが被害を受け、復旧のため社内システムを全面停止。後日、暗号化された従業員情報の一部は復旧を断念 |
| 三菱電機(電機) | 2020年11月 | 不正アクセス | 情報流出 | 契約していたクラウドサービスへの第三者による不正アクセス | 国内取引先の金融機関口座に関わる情報8,635口座分などが外部に流出 |
| コクヨ(文具・家具の製造) | 2023年6月 | サイバー攻撃とみられる不正アクセス | 情報流出 | 公表情報では特定されていない | 個人データ管理ファイルへの不正アクセスにより、顧客情報最大約186万件が漏えいのおそれ(外部流出の可能性は低いとみられると説明) |
この表で注目したいのは、トヨタ自動車の事例です。攻撃を受けたのは取引先の小島プレス工業で、トヨタ自身は直接攻撃されていません。それでも仕入先1社のシステム障害が、完成車メーカーの全工場停止につながりました。トヨタは当時の公式発表で、停止の事実を次のように説明しています。
国内仕入先(小島プレス工業株式会社)におけるシステム障害の影響を受け、(中略)国内全14工場28ラインの稼働を停止しております
出典:国内工場の稼働について(2022年3月1日)|トヨタ自動車
一方で、三菱電機やコクヨの事例は生産停止ではなく情報の流出です。工場のサイバー攻撃といっても、生産設備が止まる被害と、設計情報・取引先情報・個人情報が漏れる被害の両方があり、どちらも事業に影響します。自社で何を守るべきかを考える際は、この2種類の被害を分けて捉えると整理しやすくなります。
ここで挙げたのは名の知れた企業の事例が中心ですが、狙われるのは大企業に限りません。後述する警察庁の統計では、ランサムウェア被害を受けた組織の約6割を中小企業が占めています。これらの事例は数年前のものですが、製造業を狙う攻撃は近年も増え続けており、同じ構図が今も製造現場を脅かしています。
出典・参考資料(5件)
事例に共通する侵入経路と工場(OT)が狙われる理由
ここからは、これらの事例に共通して突かれた「穴」と、なぜ工場が標的になるのかを見ていきます。自社でまず疑うべき箇所を特定するための視点です。
事例に共通して突かれた侵入の糸口
公表された事例の多くは、攻撃者がどこから侵入したかという詳しい経路までは明らかにされていません。そのなかで経路が具体的に公表された小島プレス工業の事案では、子会社が外部との専用通信に使っていたリモート接続機器の脆弱性が起点となり、そこから本体のネットワークへ侵入されました。
工場の設備をリモートで保守するための接続や、拠点・子会社をつなぐ通信機器は、本体より対策が手薄になりやすく、攻撃の入口になりやすい箇所です。
個々の事例で経路が分からなくても、全体の傾向は公的な統計から読み取れます。警察庁は、2026年(令和8年)上半期のランサムウェア被害について次のように報告しています。
令和8年上半期におけるランサムウェアの被害報告件数は 123 件と、統計を取り始めた令和2年下半期以降、半期の件数としては過去最多となった。(中略)組織の規模別で見ると、前年と同様に中小企業が約6割を占めている。業種別では、製造業が約3割を占め(中略)被害組織へのアンケート結果によると、侵入経路は VPN 機器が約5割を占める状況である。
出典:令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について|警察庁
被害報告件数は半期として過去最多で、その約6割を中小企業が占めます。業種別では製造業が最も多く、侵入経路はVPN機器(外部から社内ネットワークへ安全に接続するための機器)が約半数を占めます。工場のサイバー攻撃を考えるうえで、まず点検すべきはリモート接続・VPNの入口である、と公的統計が示しているわけです。
また、小島プレスの事例のように、自社が直接狙われなくても、子会社や取引先を経由して被害が及ぶ「サプライチェーン」の経路も見逃せません。
出典・参考資料(1件)
サプライチェーン経由の侵入は、取引先や子会社を踏み台にされるため、自社の対策だけでは防ぎきれないのが難しい点です。どのような手口で取引先が狙われ、自社を含めた取引網全体でどう備えればよいかは、以下の記事で3つの手口・被害事例・対策を整理しています。
サプライチェーン攻撃とは?3つの手口・被害事例・取引先を含めた対策を解説
取引先の一社が攻撃を受けたことで、自社の生産や情報まで止まってしまう。そんなニュースを見て、あるいは取引先から「セキュリティ体制についてのアンケートに答えてほしい」と依頼が届き、「サプライチェーン攻撃」という言葉をあらためて確かめたくなった…
IT領域からOT領域への横展開
攻撃者は、入口から入った後すぐに生産設備を止めるわけではありません。多くの場合、まず事務系のIT環境(オフィスのパソコンやサーバー)に侵入し、そこを足がかりに社内を移動しながら、最終的に工場の制御システム(OT)へと被害を広げていきます。この社内での移動を横展開(ラテラルムーブメント)と呼びます。
かつては工場のネットワークと事務系のネットワークは物理的に切り離されていましたが、生産データの活用やリモート保守のためにIIoT(Industrial IoT、産業用の機器をインターネットにつなぐ仕組み)が進み、両者の境界があいまいになりました。その結果、IT側の1台の感染が、つながった経路をたどって生産ラインの停止にまで至る構図が生まれています。
侵入の入口を塞ぐだけでなく、入られた後に社内で広がらせない備えが必要になる理由がここにあります。

なぜ工場(OT)が狙われるのか
工場が標的になりやすい背景には、OT特有の事情があります。第一に、生産停止による損害が大きいため、復旧と引き換えに身代金を要求するランサムウェア攻撃にとって「人質」としての価値が高いことです。ラインが止まれば1日あたりの損失は大きく、取引先にも波及するため、攻撃者は支払いに応じやすいと見込みます。
第二に、OT環境には対策を進めにくい固有の制約があります。生産設備は可用性(止めずに動かし続けること)が最優先で、セキュリティ更新のために安易に停止できません。また、稼働開始から10年以上使い続けるレガシー機器(古い設備・システム)が多く、最新の対策ソフトを導入できない機器も残ります。
こうした「止められない・入れ替えられない」事情が対策を後回しにさせ、攻撃者にとって侵入後に動きやすい環境を残してしまうのです。
こうした工場特有のリスクは、生産停止による損害だけにとどまりません。セキュリティ対策サービスを提供する株式会社SYNCHROの北口氏は、OT機器がネットワークにつながる流れについて次のように指摘しています。

加えて、工場内のOT機器のインターネット接続が進んでいるという流れもあります。DXにより便利になっていく一方で、サイバー攻撃の対象にもなりつつあり、大型機械の誤作動は人命や火災など、影響範囲が広くなるリスクも伴います。
生産停止だけでなく、設備の誤作動を通じて現場の安全にも関わりうるからこそ、万一侵入されても被害が広がる前に気づける備えが欠かせません。次章では、何から・どの順で手を付けるかを整理します。
自社は何から・どの順で対策すべきか
事例と侵入経路を踏まえ、ここからは自社で取り組む対策を優先順位をつけて整理します。本記事では、着手しやすい順に「①現状把握→②侵入・拡散防止→③検知・対応」の3段階として整理しました。これは本記事での整理で、経済産業省のガイドライン(後述)では要件整理・対策の立案・実行と不断の見直しというステップとして示されています。

事例で突かれた穴と対策段階の対応
前章で見た「穴」を、3段階のどの対策で塞ぐのかを対応づけると、取り組むべきことが具体的になります。
| 事例・統計から想定される主な穴 | 対応する対策段階 | 具体的な対策の例 |
|---|---|---|
| リモート接続・VPN機器の脆弱性 | ①現状把握/②侵入・拡散防止 | 外部接続機器の棚卸し、パッチ適用、リモートアクセスの多要素認証 |
| 子会社・取引先を経由したサプライチェーン侵入 | ①現状把握/②侵入・拡散防止 | 拠点・子会社との接続点の把握、ネットワーク分離 |
| IT領域からOT領域への横展開 | ②侵入・拡散防止/③検知・対応 | ITとOTのネットワーク分離、内部通信の監視・異常検知 |
| レガシー機器・止められない設備 | ①現状把握/③検知・対応 | 保護対象の把握、設備を止めずに通信側から監視する仕組み |
①現状把握:OT資産の棚卸しとネットワークの可視化
最初の一歩は、守るべき対象を把握することです。工場内にどんな機器があり、どことどうつながっているのか、外部やインターネットへの接続はどこにあるのかを洗い出します。「止められない」工場でも、この段階は生産設備を停止させずに着手できます。
特に、ネットワークを流れている通信そのものを観察すれば、台帳に載っていない機器や、想定外の外部通信を見つけられます。設備に手を加えず、通信を複製して分析するミラーリングという方式を使えば、稼働中の生産ラインに影響を与えずに現状を把握できます。何を守るべきかが分からないまま個別の対策を積み上げるより、まず全体像を可視化することが、限られた人手で進めるうえでの近道になります。
②侵入・拡散防止:分離・認証・パッチ・バックアップ
現状が見えたら、事例で突かれた入口と拡散経路を塞ぎます。優先度が高いのは、リモートアクセスの多要素認証(パスワードに加えて別の要素で本人確認する仕組み)の導入と、外部接続機器のパッチ適用です。これは侵入経路の約半数を占めるVPN機器への直接の備えになります。
あわせて、ITネットワークとOTネットワークを分離し、万一IT側が感染しても生産設備へ横展開されないようにします。そして、暗号化されても事業を再開できるよう、改ざんや削除ができない形式でのバックアップを確保しておくことが、ランサムウェア被害を前提とした備えになります。河村電器産業の事例のように、暗号化されたデータの復旧を断念せざるを得なくなる事態を避けるためです。
③検知・対応:通信の監視と、止める判断の取り決め
侵入を完全に防ぐことは難しいため、入られた後に早く気づき、被害を広げない備えが3段階目です。ネットワークを流れる通信を監視し、不審な動きや外部への不正な通信を検知できる状態をつくります。制御機器そのものに対策ソフトを入れられなくても、通信を見張ることで異常を捉えられます。
加えて、インシデントが起きたときに「どの範囲を・誰の判断で止めるのか」をあらかじめ決めておくことが重要です。工場では「止める」判断そのものが損失に直結するため、現場・情報システム・経営層のあいだで判断が止まり、復旧が長引きがちです。初動の役割分担と連絡経路を平時に取り決めておくことで、被害の拡大を抑えられます。
公的ガイドライン・チェックリストの在りか
ここまでの対策の進め方は、公的なガイドラインに沿って社内で根拠づけられます。社内説得や監査対応で引けるよう、原文の在りかを押さえておきましょう。
中心になるのは、経済産業省の「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」(Ver1.0、2022年11月公表)です。工場のセキュリティ対策を企画・実行するための「手引き」として、次の3つのステップで進め方を示しています。本記事の「①現状把握→②侵入・拡散防止→③検知・対応」は、おおむねこのステップ1〜3に対応します。
ステップ1:内外要件(経営層の取組や法令等)や業務、保護対象等の整理/ステップ2:セキュリティ対策の立案/ステップ3:セキュリティ対策の実行、及び計画・対策・運用体制の不断の見直し(PDCAサイクルの実施)
出典:工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン|経済産業省
想定読者には、情報システム部門だけでなく生産技術・生産管理などの生産関係部門、経営企画などの戦略マネジメント部門、監査部門、そして機器やシステムを提供するベンダーまでが含まれています。工場のセキュリティが特定の部門だけで完結しないことが、ガイドライン自身の読者設定にも表れています。
あわせて、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の資料も参考になります。IPAは「制御システムのセキュリティ」に関する情報提供のほか、国内企業へのヒアリングをまとめた「スマート工場化でのシステムセキュリティ対策事例 調査報告書」(2023年7月公開)を公開しており、中小企業向けには自己診断ツールも用意されています。現状把握の第一歩として、これらのチェックリストから着手するのも有効です。
出典・参考資料(3件)
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対策を実現するサービス
ここからは、前章の3段階の対策を自社で実現するための具体的な手段を紹介します。工場のセキュリティでは、設備を止めずに現状を把握する「診断」、入られた後の動きに気づく「監視・検知」、そして継続的に点検し続ける「運用」が鍵になります。それぞれを担うサービスを、対策段階との対応で見ていきます。
ここで取り上げるのは①現状把握と③検知・対応をネットワークの視点から支える手段が中心で、②の多要素認証やネットワーク分離は体制・運用側で進める領域です。
| サービス名 | Network Blackbox | セキュア・レントゲン | KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージ |
|---|---|---|---|
| 対策段階での役割 | ③検知・対応 (通信を記録して異常を検知) | ①現状把握 (ネットワークのリスク診断) | ①〜③を継続的にカバー (予防・復旧・補償を一体提供) |
| 提供形態 | NDR製品(自社で運用) | 診断サービス(単発・スポット型) | 運用パッケージ(月次診断+バックアップ+保険) |
| 守る対象・方式 | ネットワークの全パケットをミラーリングで収集・保存し、検知・分析・事後追跡 | 実際に流れる通信をミラーリングで収集し、専門アナリストが分析(「ネットワークの人間ドック」) | ネットワーク内部からサーバー・複合機・PC等の脆弱性を月次で診断 |
| 工場(OT)での使いどころ | 対策ソフトを入れられない制御機器をネットワーク側から監視する用途で活用(代理店が公開する大手製造業のスマート工場化の事例) | OTプロトコルに対応し、IT/OT両環境の通信を診断。提供元は製造業向けのリスク診断と位置づけ | OT固有機能の訴求はなく、工場を含む中小企業の汎用対策として(専任担当がいなくても導入しやすい) |
| 設備・業務への影響 | ミラーリング方式で、稼働中の設備に手を加えない | 作業はミラーリング設定のみ。障害が起きてもネットワーク本体に影響しない | リモートで内部診断(設置10分・最短2週間で利用開始) |
| 料金 | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 1台1,250円/月〜 (100ノード以下は年額90万〜150万円) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 |
1. Network Blackbox(株式会社クワッドマイナージャパン)

Network Blackboxは、ネットワークを流れる全パケット(通信データそのもの)を収集・保存し、脅威を検知・分析するNDR(Network Detection and Response、ネットワークでの検知・対応)製品です。3段階の対策のうち「③検知・対応」を担います。
設備に手を加えず、通信を複製して取り込むミラーリング方式で導入するため、生産設備ごとに専用ソフトを入れる必要がありません。この特性から、国内販売代理店が公開する大手製造業のスマート工場化の事例では、「対策ソフトを導入できない制御コンソール」をネットワーク側から監視する用途として紹介されています。
全通信を保存するため、万一侵入された際に、いつ・どこへ・何が送られたのかを後から通信記録でたどれる点も特徴です。既存のEDR(端末での検知・対応)やSIEM(ログ統合管理)とは、Syslog・REST APIを通じて連携できます。
2. セキュア・レントゲン(株式会社クワッドマイナージャパン)

「①現状把握」から着手したい場合に適しているのが、セキュア・レントゲンです。前述のNetwork Blackboxのフルパケットキャプチャ技術を活用したネットワークリスク診断サービスで、提供元は「ネットワークの人間ドック」と表現しています。
診断は、機器を約2週間設置して実際に流れている通信を収集し、専門のアナリストが分析してレポートにまとめる流れです。脆弱なプロトコルの使用や、外部との不審な通信が残っていないかを洗い出します。顧客側の作業はミラーリングの設定のみで、障害が起きてもネットワーク本体に影響しない点も、止められない工場に向いています。
提供元は同サービスを製造業向けのリスク診断と位置づけています。IT領域からOT領域へ脅威が横展開される懸念に対し、その間にネットワークの視点を置いてリスクを洗い出す提案をしてきたと説明しています。料金は分析手法や設置台数によって変わります。
ネットワーク診断を手がける提供元の株式会社クワッドマイナージャパンの白垣氏は、診断の現場で得た実感を次のように語っています。

実際に「今すでに社内にランサムウェアが存在している可能性がないか、それを見てほしい」という緊急のチェックとしてご依頼いただいたこともあります。そのときは幸い問題ありませんでしたが、もし侵入されていたら、重大な被害につながりかねないリスクが見つかりました。既存の防御を過信せず、一度客観的に診断したいというニーズが確実に増えていると感じます。
3. KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージ(株式会社SYNCHRO)

専任のセキュリティ担当を置きにくい中堅・中小の製造業で、現状把握から継続的な点検までをまとめて任せたい場合の選択肢が、KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージです。国産のセキュリティ技術「KATABAMI」を使い、脆弱性診断とバックアップを組み合わせて提供します。
特徴は、独自の通信経路を使ってリモートから社内ネットワークの内側まで診断できる点です。従来は専門家が現地に出向いて調査していたため年1回程度にとどまりがちでしたが、遠隔で実施することで費用を抑えて継続的に点検できます。
たとえば、複合機が工場出荷時の初期パスワードのまま使われていないか、管理者権限で簡単にログインできてしまわないかといった、見落とされがちな内部の穴を点検します。指摘して終わりではなく、パスワードの変更や権限設定の方法まで助言し、毎月のサイクルで対策の実施状況を確認しながら伴走する運用が中心です。
ここで紹介したのは、工場のネットワークを可視化・監視・診断するサービスが中心です。エンドポイント保護やメール対策、ID管理など、守る対象ごとにどんなタイプのサービスがあるのかを横断して比較し、自社に必要な対策の全体像をつかみたい場合は、カテゴリ全体をまとめた以下の記事が検討の出発点になります。
社内セキュリティソリューション比較|守る対象別のタイプ・代表サービスと選び方
社内のセキュリティを強化したいものの、端末の保護から不正アクセス対策、情報漏えいの防止まで課題が広く、何から手をつければよいか判断がつかないという声は少なくありません。テレワークやクラウド利用が定着し、社外に持ち出される端末やIDが増えたこ…
まとめ
国内製造業のサイバー攻撃事例を振り返ると、被害の多くは、リモート接続・VPN機器の脆弱性や、子会社・取引先を経由した侵入から始まり、IT領域からOT領域への横展開を経て生産停止や情報流出に至っています。自社が直接狙われなくても、サプライチェーンを通じて巻き込まれる点も、事例が示す現実です。
対策は、まず自社のOT資産と通信を可視化する「現状把握」から始め、分離・認証・バックアップで「侵入・拡散防止」を固め、通信の監視と初動の取り決めで「検知・対応」に備える、という順序で進めるのが現実的です。「止められない」工場でも、設備を止めずに着手できる現状把握から一歩を踏み出せます。
経済産業省のガイドラインやIPAのチェックリストを根拠に、まずは自社の現状を客観的に把握することから検討してみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. OTセキュリティとは何ですか?
A. OTセキュリティとは、工場の生産設備や制御システム(OT)をサイバー攻撃から守る取り組みのことです。事務系のパソコンやサーバーを守る従来のIT向けセキュリティと異なり、「生産を止められない」「稼働開始から10年以上使うレガシー機器が残る」といったOT特有の制約を前提に対策を組み立てる点に特徴があります。
Q. 工場がサイバー攻撃を受けると、どのような被害が想定されますか?
A. 工場へのサイバー攻撃の被害は、生産ラインが停止する被害と、設計・取引先・個人情報が流出する被害の大きく2種類に分かれます。実際に国内では、取引先のシステム障害の波及で自動車メーカーが国内の全工場を1日停止した事例や、三菱電機・コクヨで情報が流出した事例が公表されています。生産停止は復旧までに時間がかかり取引先にも波及するため、どちらも事業への影響は大きくなります。
Q. 自社が直接狙われていなくても、工場が被害を受けることはありますか?
A. あります。子会社や取引先を経由して被害が波及する「サプライチェーン攻撃」があるためです。トヨタ自動車の事例では、攻撃を受けたのは取引先の小島プレス工業で、トヨタ自身は直接攻撃されていませんでしたが、その影響で国内全14工場が停止しました。自社内の対策だけでなく、子会社・取引先との接続点を把握しておくことも必要になります。
Q. 工場のセキュリティ対策は、何から始めればよいですか?
A. 工場のセキュリティ対策は、まず自社のOT資産とネットワークの現状を把握することから始めるのが現実的です。工場内にどんな機器があり、何とどうつながっているのか、外部やインターネットへの接続がどこにあるのかを洗い出す段階は、生産設備を止めずに着手できます。経済産業省のガイドラインも、最初のステップを内外要件や保護対象等の整理と位置づけています。
Q. 生産設備を止められない工場でも、セキュリティ対策を始められますか?
A. 始められます。設備に手を加えず、流れている通信を複製して分析する「ミラーリング」という方式があるためです。この方式なら、稼働中の生産ラインに影響を与えずに、台帳に載っていない機器や想定外の外部通信を見つけられます。「止められない」工場でも、設備を停止させずに着手できる現状把握から第一歩を踏み出せます。
Q. 制御機器に対策ソフトを入れられない場合、どう守ればよいですか?
A. 制御機器そのものに対策ソフトを導入できなくても、ネットワークを流れる通信を監視することで異常を検知できます。工場には稼働から10年以上使い続けるレガシー機器が多く、最新の対策ソフトを入れられない設備が残ります。そうした機器は、通信側から不審な動きや外部への不正な通信を見張ることで、万一侵入された後の被害拡大に備えられます。
Q. 専任のセキュリティ担当がいなくても、工場のセキュリティ対策はできますか?
A. できます。現状把握の診断から継続的な点検・運用までを、外部の専門サービスに任せる選択肢があります。設備を止めずに通信を分析するリスク診断や、リモートで社内ネットワークの内側まで継続的に点検するサービスがあり、専任者を置きにくい中堅・中小の製造業でも、費用を抑えながら対策を進められます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。


















