「自社のコンプライアンスプログラムはどうなっているか」と問われても、通常の法令遵守や社内規程、コンプライアンス研修と何が違うのかを一言で説明できず、言葉の意味から確かめたい担当者は少なくありません。企業不祥事が公表されるたびに体制の整備や見直しを迫られる一方で、「プログラム」という呼び方が指す範囲は曖昧なまま使われがちです。
本記事では、コンプライアンスプログラムとは何かという定義から、プログラムを構成する要素、自社での作り方と運用、内部統制やコーポレートガバナンスとの違いまでを順に整理します。会社法や米国連邦量刑ガイドライン、ISO 37301 といった拠りどころにも触れ、社内の説明資料にそのまま使える形で解説します。
目次
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コンプライアンスプログラムとは
コンプライアンスプログラムとは、企業がコンプライアンスを徹底するために、行動規範・社内規程・教育・内部通報・モニタリングといった個別の施策を、ひとつの仕組み(体制)としてまとめ上げ、継続的に運用する枠組みを指します。単発の研修や一冊の規程集を指す言葉ではなく、それらを組み合わせて「違反を防ぎ、起きても早く見つけて正す」状態を保つ全体の設計がプログラムです。
前提となるコンプライアンスは、一般に法令の遵守に加え、社内規程・社内ルール、さらに企業倫理や社会的な良識の遵守までを含む概念として用いられます。このように、コンプライアンスは「守るべきことの範囲」を示し、コンプライアンスプログラムは「それをどう守り続けるかの仕組み」を示す、という関係です。
混同されやすい言葉との関係を並べると、違いが一目で分かります。
- 法令遵守:守るべき対象の一部(コンプライアンスが扱う範囲に含まれる)
- 社内規程・行動規範:違反を防ぐための個別の施策(ルール)の一つ
- コンプライアンス研修:ルールを浸透させるための個別の施策の一つ
- コンプライアンスプログラム:これら個別の施策をまとめ、継続的に回す仕組み(全体)
この「仕組み・体制としてのコンプライアンス」という捉え方は、国際規格にも表れています。コンプライアンスマネジメントシステムの国際規格 ISO 37301:2021 は、組織の中に実効的なコンプライアンスマネジメントシステムを「確立・開発・導入・評価・維持・改善」するための要求事項を定めており、プログラムを一度作って終わりではなく継続的に回すものとして位置づけています。
出典・参考資料(1件)
コンプライアンスプログラムの構成要素
コンプライアンスプログラムは、一般に次の6つの要素で構成されます。これらは米国連邦量刑ガイドラインが定める実効的なコンプライアンス・倫理プログラムの要件とも重なり、各要素がそろって初めて「違反を防ぎ、起きても見つけて正す」循環が働きます。まず全体像を一覧で確認し、自社に何が足りていないかを点検してみてください。
6つの要素は、違反を「防ぐ・見つける・正す」の循環と、それを支える責任体制として捉えると、互いの関係がつかめます。

| 行動規範・規程 | 責任体制(委員会・CCO) | 教育・研修 | 内部通報制度 | モニタリング・内部監査 | 是正・継続改善 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 何をするものか | 守るべき価値観や判断基準を行動規範として示し、分野別の社内規程・手続に落とし込む。従業員が迷ったときの拠りどころになる。 | コンプライアンス委員会や最高責任者(CCO)を置き、経営トップの関与と全社の推進・監督の責任を明確にする。 | 行動規範や規程を全社に周知し、繰り返し学ぶ機会をつくる。役職や業務に応じて内容を変えると定着しやすい。 | 違反やその疑いを早期に把握するための通報窓口を設け、通報者が不利益を受けない仕組みを整える。 | 規程どおり運用されているかを点検・監査で確認し、違反の兆候を検知する。プログラム自体の有効性も定期的に評価する。 | 問題が見つかったら原因を是正し、再発防止のためにプログラムを見直す。この循環がプログラムを「効く仕組み」に保つ。 |
以下では、各要素が具体的に何をするものかを順に見ていきます。
行動規範・規程
行動規範は、自社が大切にする価値観や、従業員が判断に迷ったときの基準を示す文書です。これを土台に、贈収賄防止・情報管理・ハラスメント防止・下請取引といった分野ごとの社内規程や手続へ具体化します。抽象的な理念を掲げるだけでなく、現場が実際の場面で参照できる粒度まで落とすことが、形だけの規程にしないための出発点になります。
責任体制(コンプライアンス委員会・CCO)
プログラムを動かすには、誰が責任を負い、誰が全社を推進するのかをはっきりさせる必要があります。コンプライアンス委員会を設けて経営レベルで方針を決め、最高責任者(CCO、Chief Compliance Officer)や各部門の担当者に役割を割り当てます。経営トップが関与し、取締役会が運用状況を監督することで、現場任せにならない体制になります。
教育・研修
規程や行動規範は、全社に周知され理解されて初めて機能します。入社時だけでなく定期的に研修を行い、法改正や新しいリスクに合わせて内容を更新することが欠かせません。役員・管理職・一般社員で求められる理解が異なるため、階層や業務に応じて内容を分けると、知識が実際の行動に結びつきやすくなります。
内部通報制度
違反やその疑いを早い段階で把握するために、従業員が安心して相談・通報できる窓口を設けます。通報を受け付け、調査し、是正につなげる担当部署と責任者を定め、通報者が不利益な取り扱いを受けない仕組みを整えることが前提です。公益通報者保護法では、事業者がとるべき措置として体制整備が次のように定められています。
事業者は、前条第一項各号に掲げる公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(同条において「従事者」という。)を定めなければならない。
2 事業者は、前条第一項各号に掲げる公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとるために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
出典:公益通報者保護法 第十一条|e-Gov法令検索
この体制整備と従事者の指定は、常時使用する労働者数が300人を超える事業者では義務、300人以下の事業者では努力義務とされています。自社の規模によって求められる水準が変わる点に注意が必要です。
モニタリング・内部監査
規程や手続が決めたとおりに運用されているかを、日常的なモニタリングと定期的な内部監査で確認します。違反の兆候を早期に検知する役割に加え、プログラムそのものが有効に機能しているかを評価し、見直しにつなげる役割も担います。点検結果を責任体制にフィードバックすることで、改善の循環が回り始めます。
是正・継続改善
問題が見つかったときに、原因を突き止めて是正し、同じことが再び起きないようにプログラムを更新する要素です。違反者への対応だけで終わらせず、規程・研修・通報・監視のどこに穴があったのかを見直して仕組みに反映することで、プログラムは一度作って終わりの文書ではなく、継続的に効く仕組みとして保たれます。
これら6要素の骨格は、米国連邦量刑ガイドラインが定める実効的なコンプライアンス・倫理プログラムの要件とも対応します。
同ガイドラインは、この要件を7つの項目として列挙しています。具体的には、基準・手続の整備、統治機関による監督と上級管理者の責任、権限委譲時の適正評価(デューデリジェンス)、研修と周知、モニタリング・監査と報復のない通報の仕組み、動機づけと懲戒の一貫した運用、違反への対応と再発防止の7つです。本記事はこれらを役割ごとに6つへ整理したもので、数え方は異なるものの内容は対応します。
次のチェックリストは、6つの構成要素を自社の整備状況の点検に使えるよう並べたものです。規程や体制の目次案としても流用できます。
- □ 行動規範・分野別の社内規程を整備し、現場が参照できる状態にしているか
- □ コンプライアンス委員会・責任者(CCO)を置き、経営トップの関与と監督の責任を定めているか
- □ 役職・業務に応じた教育・研修を定期的に実施しているか
- □ 内部通報の窓口を設け、通報者が不利益を受けない運用にしているか
- □ モニタリング・内部監査で運用状況とプログラムの有効性を点検しているか
- □ 見つかった問題を是正し、規程・研修・体制の見直しに反映しているか
なぜコンプライアンスプログラムが必要なのか
コンプライアンスプログラムを整える理由は、法令違反や不正を未然に防ぎ、万一起きた場合でも被害と企業へのダメージを最小限に抑えることにあります。違反が公になれば、課徴金や行政処分といった直接的な損失に加え、取引先や顧客からの信用低下、採用・資金調達への影響など、事業の継続に関わる広い影響が及びます。プログラムは、こうしたリスクを組織的に下げるための備えです。
加えて、体制整備は任意の取り組みにとどまりません。会社法は、大会社について内部統制システムの整備を取締役会の決議事項と定めています。
取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
出典:会社法 第三百六十二条|e-Gov法令検索
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。
「法令及び定款に適合することを確保するための体制」は、コンプライアンス体制そのものにあたります。大会社では、こうした体制の整備方針を取締役会で決定することが求められており、コンプライアンスプログラムは会社法上の要請とも接続しています。さらに、違反が起きて法的責任を問われる場面でも、日頃から実効的なプログラムを運用していたかどうかが、企業の対応姿勢を評価する要素として考慮されることがあります。
コンプライアンスプログラムの作り方・導入手順
ここからは、コンプライアンスプログラムをゼロから作る、あるいは既存の仕組みを見直す際の手順を4つのステップで解説します。いずれも一度きりの作業ではなく、運用しながら繰り返し回していく前提で設計します。日々の運用で何を続けるかは後述の運用のポイントで扱います。

ステップ1 コンプライアンスリスクを評価する
最初に、自社の事業や業種にどのようなコンプライアンスリスクがあるかを洗い出し、重大性と発生可能性で優先順位を付けます。扱う商品・サービス、取引形態、海外展開の有無、過去の違反事例などから、どの分野を重点的に守るべきかを見極めます。この評価を起点にすることで、自社に必要な規程や研修を過不足なく設計できます。
米国連邦量刑ガイドラインも、プログラムの実施にあたり定期的にリスクを評価することを求めています。
ステップ2 方針・規程と推進体制を整備する
リスク評価の結果を踏まえ、行動規範と分野別の社内規程を整え、誰が推進し誰が監督するかの体制を決めます。コンプライアンス委員会の設置や責任者の任命、各部門の役割分担は、文書で明確にしておくことが重要です。規程は現場が参照できる粒度まで具体化し、既存の規程があればリスク評価で見えた不足を補う形で改訂しましょう。
ステップ3 教育と浸透を推進する
整備した規程や行動規範を、研修や周知活動を通じて全社に浸透させます。一度の説明で終わらせず、役職や業務内容に応じた研修を定期的に実施し、法改正や新たなリスクに合わせて内容を更新します。経営層自らがメッセージを発信すると、現場の受け止め方が変わり、知識が実際の行動につながりやすくなります。
ステップ4 モニタリングと改善のサイクルを設計する
最後に、運用状況を点検・監査し、問題を是正してプログラムを改善する循環を組み込みます。内部通報の受付体制、定期的なモニタリングと内部監査、是正結果を規程・研修へ反映する流れをあらかじめ設計しておきます。この計画・実行・評価・改善のサイクルを回し続けることが、プログラムを立ち上げた後に効く仕組みへと育てる鍵になります。
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作ったプログラムを形骸化させない運用のポイント
コンプライアンスプログラムは、作っただけでは機能しません。ここでは、立ち上げたプログラムを日々どう回し、形だけの存在にしないかという運用の勘所を整理します。
モニタリング・内部監査を定期的に回す
運用の軸になるのが、定期的なモニタリングと内部監査です。内部監査は一般に、対象の状況を事前に把握する予備調査、現場で証跡を確認する実査、結果をまとめて改善を促す報告・フォローアップという流れで進めます。点検して終わりではなく、見つかった弱点を責任体制に戻し、規程や研修の改訂へつなげることで、監査が改善の起点として働きます。
内部通報制度を機能させる
通報窓口は設置するだけでなく、使われる状態に保つことが重要です。消費者庁の指針は、内部公益通報を受け付ける窓口を設け、通報を受けて調査し是正する部署と責任者を明確に定めることを求めています。通報者の匿名性や不利益取り扱いの禁止を周知し、通報後に調査と是正が確実に行われる運用を積み重ねることで、従業員が安心して声を上げられる窓口になります。
研修を定着させる
研修は、受けさせること自体が目的になると形骸化します。受講状況を把握して未受講者をフォローし、理解度を確認テストなどで測る運用にすると、知識の定着を追えます。身近な違反事例や自社で起こりうる場面を題材にすると、「やらされている」という受け止めを減らし、現場の行動変容につなげやすくなります。
研修が受けさせること自体を目的にすると形だけになりやすいという課題は、調査データにも表れています。コンプライアンス研修を提供する株式会社リスキルが人事担当者413名に行った意識調査の結果について、同社の担当者は次のように述べています。

そこを確かめたくて、人事担当者413名を対象に「コンプライアンス教育に関する意識調査」を実施しました。対象は当社のお客様に限らない一般の人事担当者の方々です。その結果、約3割の企業様が現状の教育手法に「十分な効果を感じていない」と回答されました。要因を深掘りすると、「受講自体が作業化して形骸化している(62.8%)」「一時的な実施に留まり、内容を忘れてしまう(44.9%)」という声が上位を占めていたのです。
是正と継続改善を止めない
モニタリングや通報で把握した問題は、是正して終わりにせず、なぜ起きたのかを規程・研修・体制のどこに原因があったかまで掘り下げます。リスク評価を定期的に見直し、法改正や事業の変化に合わせてプログラムを更新し続けることで、環境が変わっても効き目を保てます。この継続改善こそが、プログラムを文書から仕組みへと変える要です。
コンプライアンスプログラムと内部統制・コーポレートガバナンス・コンプライアンス体制の違い
コンプライアンスプログラムは、内部統制・コーポレートガバナンス・コンプライアンス体制といった近い言葉と混同されがちです。これらは重なり合いながらも守備範囲が異なります。まず内部統制について、金融庁の基準は次のように定義しています。
内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(令和5年4月7日改訂)|金融庁・企業会計審議会
内部統制は「法令等の遵守」を4つの目的の1つとして含む、より広い枠組みです。そのなかで法令・規程・倫理の遵守を担う部分がコンプライアンスにあたり、それを徹底する仕組みがコンプライアンスプログラムという入れ子の関係になります。この定義は、内部統制の国際的な枠組みの源流である COSO(1992年公表、2013年改訂)を基礎に、日本で「ITへの対応」を加えて6要素としたものです。
混同されやすい言葉として、J-SOX があります。これは金融商品取引法にもとづく内部統制報告制度を指し、上場企業などに「財務報告に係る」内部統制の評価と報告を求める制度です。対象が財務報告の適正性に限定される点で、法令遵守全般を扱うコンプライアンスプログラムとは射程が異なります。
コーポレートガバナンスは、株主をはじめとする利害関係者の視点から経営を規律・監督する全体の枠組みを指し、コンプライアンスや内部統制はその中に位置づけられます。コンプライアンス体制は、プログラムを支える組織・窓口・規程といった社内の仕組みを指す言葉として、プログラムとほぼ同じ意味で使われることもあります。
4つの言葉の守備範囲と関係を整理すると、次のようになります。

| コーポレートガバナンス | 内部統制 | コンプライアンスプログラム | コンプライアンス体制 | |
|---|---|---|---|---|
| 守備範囲 | 株主など利害関係者の視点から経営全体を規律・監督する枠組み | 業務の有効性・報告の信頼性・法令遵守・資産の保全の4目的を達成するプロセス | 法令・規程・倫理の遵守を徹底するための施策を束ねた仕組み | プログラムを支える組織・窓口・規程などの社内の仕組み |
| 位置づけ・ほかとの関係 | 最も外側の枠組み。内部統制やコンプライアンスを内側に含む | ガバナンスの内側の枠組み。4目的の1つ「法令遵守」がコンプライアンスにあたる | 内部統制の「法令遵守」を担う部分を具体的に回す仕組み | プログラムとほぼ同じ意味で使われることもある |
出典・参考資料(2件)
業種特有のリスクに合わせたコンプライアンスプログラム設計の視点
コンプライアンスプログラムの骨格は業種を問わず共通ですが、どのリスクを重点的に守るかは事業の性質によって変わります。ここでは代表的な視点を取り上げます。自社の業種で優先すべきリスクを、構成要素のうち規程・研修・モニタリングにどう反映するかを考える手がかりにしてください。
金融業界(マネーロンダリング・テロ資金供与対策、顧客管理)
金融機関や決済・送金サービスを扱う事業者では、マネーロンダリングやテロ資金供与の防止(AML/CFT)と、取引時の本人確認・顧客管理(KYC)が重点領域になります。疑わしい取引の検知・届出や、継続的な顧客管理の運用を、規程と研修、モニタリングに組み込む必要があります。オンラインで本人確認を完結させるeKYCの本人確認方式や選び方は、eKYCサービスの比較記事で詳しく解説しています。
インサイダー取引の防止も、金融・上場関連企業で重視される分野です。未公表の重要事実を扱う役職員の情報管理ルールや、自社・関係会社の株式売買の事前申告・制限といった手続を規程に定め、対象者への研修で徹底します。
製造業(品質不正の防止、取引の適正化)
製造業では、検査データの改ざんや無資格検査といった品質不正の防止が大きな論点です。現場に過度なプレッシャーがかかる構造を見直し、通報窓口やモニタリングで兆候を早期に捉える設計が求められます。また、下請事業者との取引では下請法の遵守が必要で、代金の支払遅延や不当な減額を防ぐ手続を規程に落とし込むことが欠かせません。
全業種横断のテーマ:独占禁止法(競争法)コンプライアンスプログラム
独占禁止法への対応は特定の業種に限らず、価格や取引条件を扱うすべての事業者に関わる横断的なテーマです。カルテルや談合、優越的地位の濫用を防ぐために、競合他社との接触ルールや取引条件の決め方を規程化し、営業・購買部門を対象にした研修を重点的に行う設計が有効です。独占禁止法に特化したプログラムを別立てで整える企業もあります。
コンプライアンスプログラムの背景・制度的由来
ここまで触れてきた制度・規格を、成り立ちの順に整理します。自社のプログラムの正当性を社内外に説明するとき、どの枠組みを拠りどころにできるかの見取り図になります。
起点は米国です。1991年に組織に対する連邦量刑ガイドラインが導入され、2004年の改正で実効的なコンプライアンス・倫理プログラムの要件(§8B2.1)が現在の形に整理されました。本記事の6つの構成要素の骨格も、この要件に由来します。
日本では内部統制の制度化が進み、会社法(大会社の内部統制システム整備)と金融商品取引法の内部統制報告制度(J-SOX)が整いました。その評価基準は、国際的フレームワークの COSO(1992年公表、2013年改訂)を土台にしています。国際規格では、コンプライアンスマネジメントシステムの ISO 37301 が2021年に発行され、従来の ISO 19600:2014 を置き換えています。
出典・参考資料(3件)
コンプライアンスプログラムの各要素を支えるサービス
ここまで見てきたように、コンプライアンスプログラムは規程の整備・教育・内部通報・モニタリングといった要素を組み合わせて運用します。これらを自社だけで一から整えるのは負担が大きいため、各要素を支える外部のサービスを活用する選択肢があります。教育・研修を回すeラーニング、規程整備や法務相談を支える法務サービス、内部通報やポリシー管理を統合するプラットフォームなど、埋めたい要素に応じて検討できます。
以下は、本記事で紹介するコンプライアンスプログラムの構成要素を支えるサービスの比較表です。
| サービス名 | OneCompliance | CLOUD LEGAL | NAVEX One |
|---|---|---|---|
| 提供会社 | 株式会社Oyster | MOLTON株式会社 | NAVEX Global, Inc. (日本法人: NAVEX Japan) |
| 支える構成要素 | 教育・研修 | 規程整備・法務相談 | 内部通報・ポリシー管理・統合GRC (複数要素を一元運用) |
| 主な機能 | コンプライアンス特化のeラーニング(26コース) 受講進捗ダッシュボード 未受講者への自動リマインド 独自コース作成 | 生成AI×弁護士の法務アウトソーシング 契約書作成・AIレビュー 法務・労務相談 社内規程整備(上位プラン) | 内部通報(EthicsPoint/WhistleB) ポリシー管理 第三者リスク管理・研修・ERM 情報開示を単一基盤に統合 |
| 対象企業規模 | 上場企業・IPO準備企業が中心 (業種・規模は幅広い) | 中小企業・個人事業主〜 大手・上場企業 | 大手企業・グローバル展開企業が中心 (250名規模前提のSMBバンドルあり) |
| 初期費用 | 要お問い合わせ | 0円 | 要お問い合わせ |
| 月額費用 | 受講者数に応じた課金 (要お問い合わせ) | 11,000円〜(税込) | 要お問い合わせ (個別見積もり) |
| 無料トライアル | あり | なし | 公式に記載なし |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | サービス詳細を見る |
このうち教育・研修の要素は、コンプライアンス研修に特化したeラーニングを比較・検討することで具体的に整えられます。料金や教材テーマ、選び方まで含めてサービスを見比べたい場合は、以下の記事が参考になります。
コンプライアンス研修eラーニングおすすめ比較29選!料金・教材テーマ・選び方を解説
コンプライアンス研修を全社員に行き渡らせたいのに、集合研修では日程調整や会場手配が追いつかず、受講記録の管理も煩雑になっていませんか。ハラスメント防止や情報セキュリティ、個人情報保護など扱うべきテーマは年々増え、法改正のたびに教材を作り直す…
1. OneCompliance(株式会社Oyster)

OneCompliance は、コンプライアンス領域に特化したeラーニングサービスで、構成要素のうち「教育・研修」を回す手段として使えます。法務・総務、人事労務、情報セキュリティ、会計不正、反社対応など26コースを備えています。改正下請法やフリーランス新法、景品表示法、独占禁止法などの最新の法令・規制に対応したコースも含まれます。
1コンテンツ数分のマイクロラーニング形式で、PCとスマートフォンの両方に対応します。
管理者向けには、受講者別・コース別の進捗を一元管理するダッシュボード、未完了者への自動リマインダー、自社の動画やPDFで独自コースを作る機能、就業規則や社内規定を共有する機能などがそろいます。受講状況の把握から未受講者のフォローまで運用で追えるため、研修を「受けさせて終わり」にしない仕組みづくりに役立ちます。上場企業や上場・IPO準備企業を主な対象として提供されています。
料金は受講者数に応じた課金体系で、具体額は要お問い合わせです(2026年9月時点)。
受講状況を追う運用が実際の受講完了にどう表れるかについて、提供元の株式会社Oysterは一次情報として次の数字を挙げています。

2. CLOUD LEGAL(MOLTON株式会社)

MOLTON株式会社が提供する CLOUD LEGAL(クラウドリーガル)は、生成AIと弁護士の体制を組み合わせた企業法務のアウトソーシングサービスです。コンプライアンスプログラムの「行動規範・規程」の整備を支える手段として、社内規程の整備や法務・労務の相談に対応し、契約書の作成・レビューまでをオンラインで提供します。
法務専任者や顧問弁護士を置きにくい企業が、規程づくりや日々の法務判断を外部に頼れる点が特徴です。
料金は初期費用0円、月額11,000円(税込)からのブロンズプランがあり、上位のゴールドプラン(月額110,000円・税込)では社内規程整備や株主総会・取締役会のサポート、内部通報窓口なども対象に含まれます(2026年8月時点)。弁護士への相談はチャット・オンライン面談・電話に対応し、日本語・英語の契約書レビューにも対応します。
中小企業や個人事業主には社内法務・顧問弁護士の役割として、大手・上場企業には部分的な法務アウトソースとして利用されています。
規程整備や法務体制づくりを外部に頼る背景について、提供元のMOLTON株式会社は中小企業の実情をこう説明しています。

日本の産業を下支えし多くを占める個人事業主や中小企業だと「法務部がない」「法務専任担当者がいない」さらにはコスト面で「顧問弁護士もいない」という状況がまだまだ多いです。では顧問弁護士に全部お願いすればいいかというと、正直コスト面の壁もあって、なかなか現実的に難しいです。さらに人材不足の影響で、専門人材である法務人材の採用も難しくなっています。結果として、現状維持でリスクは無い前提としてなんとなく運用してしまっている企業も少なくないと思っています。
3. NAVEX One プラットフォーム(NAVEX Global, Inc.)

内部通報・ポリシー管理・第三者リスク管理・コンプライアンス研修・統合リスク管理(ERM)などを単一基盤に統合したGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)プラットフォームが、米NAVEX Global 社の NAVEX One です。コンプライアンスプログラムの複数の構成要素を1つの仕組みとしてまとめて運用したい場合に、全体像を押さえる参考になります。
内部通報システム EthicsPoint は150以上の国と地域で使われ、取締役会向けのダッシュボードまで一貫して提供します。
世界で13,000社以上の導入実績を持ち、2025年10月に日本オフィスを開設して日本語での導入・運用サポートを始めています。グローバル企業や大手・上場企業での採用が中心で、250名規模を前提とした中堅中小向けのバンドルも用意されています。料金は個別見積もり方式で、公式サイトに金額の記載はありません(2026年9月時点)。自社の規模や必要な機能に応じて、導入可否を見積もりで確認する形になります。
まとめ
コンプライアンスプログラムとは、法令・社内規程・企業倫理の遵守を、行動規範・責任体制・教育・内部通報・モニタリング・是正という6つの要素を組み合わせた仕組みとして運用する枠組みです。単発の研修や規程集ではなく、リスク評価から改善までを継続的に回す点に本質があります。
会社法の内部統制システム整備や公益通報者保護法の体制整備義務、米国連邦量刑ガイドラインや ISO 37301 といった国内外の制度・規格とも接続しており、自社のプログラムを説明する際の拠りどころになります。
まずは本記事の構成要素を自社に当てはめ、何が整っていて何が足りないかを点検するところから始めてみてください。教育・規程整備・内部通報といった要素は、外部のサービスを活用して効率的に整えることもできます。
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よくある質問(FAQ)
Q. コンプライアンスプログラムとは何ですか?
A. コンプライアンスプログラムとは、法令・社内規程・企業倫理の遵守を、行動規範・責任体制・教育・内部通報・モニタリング・是正といった個別の施策を組み合わせた1つの仕組み(体制)として継続的に運用する枠組みです。単発の研修や一冊の規程集を指す言葉ではなく、違反を防ぎ、起きても早く見つけて正す状態を保つための全体の設計を指します。
前提となるコンプライアンス(法令・規程・企業倫理の遵守)が「守るべきことの範囲」を示すのに対し、コンプライアンスプログラムは「それをどう守り続けるかの仕組み」を示す関係にあります。
Q. コンプライアンスプログラムの構成要素には何がありますか?
A. コンプライアンスプログラムは、一般に行動規範・規程、責任体制(コンプライアンス委員会・CCO)、教育・研修、内部通報制度、モニタリング・内部監査、是正・継続改善の6つの要素で構成されます。これらは米国連邦量刑ガイドラインが定める実効的なコンプライアンス・倫理プログラムの要件とも重なり、各要素がそろって初めて「違反を防ぎ、起きても見つけて正す」循環が働きます。
自社に何が足りていないかを点検する際のチェックリストとしても使えます。
Q. コンプライアンスプログラムはどのように作ればよいですか?
A. コンプライアンスプログラムは、①コンプライアンスリスクの評価、②方針・規程と推進体制の整備、③教育と浸透の推進、④モニタリングと改善のサイクル設計という4つのステップで作るのが基本です。まず自社の事業・業種にどんなリスクがあるかを洗い出して優先順位を付け、それを起点に規程・体制・研修を設計します。いずれも一度きりの作業ではなく、運用しながら繰り返し回していく前提で組み立てることが重要です。
Q. コンプライアンスプログラムと内部統制の違いは何ですか?
A. コンプライアンスプログラムと内部統制の違いは、内部統制が「法令等の遵守」を含む4つの目的を持つより広い枠組みであるのに対し、コンプライアンスプログラムはそのうち法令・規程・倫理の遵守を担う部分を徹底する仕組みである点です。両者は対立するものではなく、内部統制という大きな枠組みの中にコンプライアンスプログラムが位置づけられる入れ子の関係にあります。
さらに外側には、経営全体を規律・監督するコーポレートガバナンスがあり、内部統制やコンプライアンスはその中に含まれます。
Q. 中小企業もコンプライアンスプログラムを作る義務がありますか?
A. コンプライアンスプログラム全体の整備を一律に義務づける法律はありませんが、関連する体制の整備については、企業規模や区分に応じて義務または努力義務が定められている場合があります。たとえば公益通報者保護法では、内部通報に関する体制整備や従事者の指定が、常時使用する労働者数が300人を超える事業者では義務、300人以下の事業者では努力義務とされています。
また会社法は、大会社に内部統制システムの整備方針を取締役会で決定するよう求めています。自社の規模・区分で具体的に何が求められるかは、関係法令や専門家に個別に確認することをおすすめします。
Q. コンプライアンスプログラムを形骸化させないためにはどうすればよいですか?
A. コンプライアンスプログラムを形骸化させないためには、作って終わりにせず、モニタリング・内部監査、内部通報、研修、是正・継続改善を日常的に回し続けることが重要です。特に研修は受講させること自体を目的にせず、理解度を確認テストで測り、身近な違反事例や自社で起こりうる場面を題材にすると「やらされている」という受け止めを減らせます。
モニタリングや通報で見つけた問題は、規程・研修・体制のどこに原因があったかまで掘り下げて反映することで、プログラムが文書から効く仕組みへと変わります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。

















