ある月に残業を10時間(うち深夜が3時間)行った社員の割増賃金は、いくらになるでしょうか。自社の賃金台帳の数字で、その場で出せるでしょうか。割増賃金は「1時間あたりの基礎単価 × 割増率 × 時間数」というシンプルな式で求められますが、基礎単価の出し方と、時間外・深夜・休日が重なったときの割増率でつまずく担当者が少なくありません。
割増賃金とは、時間外・深夜・休日に働かせたときに、通常の賃金へ一定割合を上乗せして支払う賃金です(労働基準法第37条)。本記事では、この割増賃金を自社のケースにそのまま当てはめて計算できるよう、基本式・1時間あたりの基礎単価の出し方・割増率と合算率・端数処理を、計算例つきで順に解説します。
基礎賃金に含める手当と含めない手当の線引き、時間外と深夜が重なったときの合算率、2023年4月から中小企業にも広がった月60時間超の50%割増まで、根拠条文とあわせて確認してください。手計算で毎月処理している場合のミスを防ぐ方法も、記事の後半で紹介します。
目次
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割増賃金の計算方法と基本式
割増賃金は、労働基準法第37条にもとづき、次の3要素の掛け算で求めます。
割増賃金 = 1時間あたりの基礎単価 × 割増率 × 割増賃金が発生する時間数
たとえば、1時間あたりの基礎単価が2,000円の社員が時間外労働を10時間した場合、割増率は25%なので、割増賃金は2,000円 × 1.25 × 10時間 = 25,000円となります。
式の「割増率」は通常の賃金への上乗せ分(この例では25%)を指します。時間外労働は所定の労働時間を超えて働いた分なので、上乗せだけでなく基礎賃金もあわせて支払う必要があり、計算では「1+割増率」の倍率(×1.25)を使います。月給制の場合、この25,000円は毎月の月給とは別に追加で支払う金額です(深夜労働が所定時間内に収まる場合の扱いは後述します)。
式自体は単純ですが、実務でつまずくのは「1時間あたりの基礎単価をいくらにするか」と「割増率をいくつにするか(重なったときにどうするか)」の2点です。
そこで本記事では、まず式に入れる値(基礎単価・割増率)を確定させ、その値を使って区分別の計算例を通し、最後に端数処理と間違えやすい注意点を押さえる順で進めます。割増率の下限は、時間外労働25%以上・深夜労働25%以上・休日労働35%以上と法律で定められています。
出典・参考資料(2件)
- 出典:労働基準法 第37条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 出典:割増賃金の計算方法|厚生労働省 神奈川労働局(川崎北労働基準監督署)(PDF)
割増賃金の計算に必要な要素をそろえる
基本式に入れる値をそろえます。確定させるのは、①1時間あたりの基礎単価(=分子の基礎賃金と分母の月平均所定労働時間)、②割増率とその合算率の2つです。ここを正確に固めておけば、後の計算例は式に当てはめるだけで済みます。
1時間あたりの基礎単価の出し方(月平均所定労働時間)
月給制の場合、1時間あたりの基礎単価は次の式で求めます。
1時間あたりの基礎単価 = 基礎賃金 ÷ 1か月の平均所定労働時間
分子の「基礎賃金」は、額面の月給そのものではなく、月給から後述の除外手当(家族手当・通勤手当など7項目)を差し引いた額です。どの手当を差し引くかは次の「基礎賃金に含める手当・含めない手当」で確定します。
分母の「1か月の平均所定労働時間」は、労働基準法施行規則第19条第1項第4号が「月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額」と定めていることにもとづきます。1年間の所定労働時間を12か月で割った平均値を使うため、就業規則の年間休日と1日の所定労働時間から次のように算出します。
1か月の平均所定労働時間 =(365日 − 年間休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12か月
厚生労働省 神奈川労働局のリーフレットは、年間休日125日・1日の所定労働時間8時間・月給24万円の例で「(365 − 125)× 8 ÷ 12 = 160時間」「240,000 ÷ 160 = 1,500円」と、1時間あたりの賃金額が1,500円になる計算を示しています。うるう年は366日で計算します。
給与計算ソフトを使っている場合は、このマスタ設定が就業規則の年間休日・1日の所定労働時間と一致しているかを確認してください。
月給以外の給与形態では、分子と分母を次のように置き換えます。
- 時給制:時給がそのまま1時間あたりの基礎単価になります(施行規則第19条第1項第1号)。
- 日給制:日給 ÷ 1日の所定労働時間(同項第2号)。日給10,000円・所定8時間なら、10,000 ÷ 8 = 1,250円です。
- 出来高払・歩合給制:その賃金算定期間の賃金総額 ÷ 総労働時間数(同項第6号)。固定給と歩合給が混在する場合は、固定給部分と歩合給部分を別々に計算して合算します。
出典・参考資料(2件)
- 出典:労働基準法施行規則 第19条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)
- 出典:割増賃金の計算方法|厚生労働省 神奈川労働局(川崎北労働基準監督署)(PDF)
基礎賃金に含める手当・含めない手当
1時間あたりの基礎単価の分子となる「基礎賃金」は、基本給に各種手当を加えたものですが、すべての手当を含めるわけではありません。まず、労働基準法第37条第5項が家族手当・通勤手当を除外対象と定めています。
第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
出典:労働基準法第37条第5項|e-Gov法令検索
残る手当は、労働基準法施行規則第21条が次のように定めています。
法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。一 別居手当/二 子女教育手当/三 住宅手当/四 臨時に支払われた賃金/五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
出典:労働基準法施行規則第21条|e-Gov法令検索
| 除外できる手当 | 根拠 |
|---|---|
| 家族手当 | 労働基準法 第37条第5項 |
| 通勤手当 | 労働基準法 第37条第5項 |
| 別居手当 | 施行規則 第21条 |
| 子女教育手当 | 施行規則 第21条 |
| 住宅手当 | 施行規則 第21条 |
| 臨時に支払われた賃金(結婚手当・出産手当など) | 施行規則 第21条 |
| 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) | 施行規則 第21条 |
この7項目は限定列挙で、一覧に該当しない手当(役職手当・職務手当・精皆勤手当・営業手当など)は、名称にかかわらず基礎賃金に算入します。
さらに注意したいのは、家族手当・通勤手当・住宅手当は名称ではなく支給の実態で除外可否が分かれる点です。神奈川労働局のリーフレットは「このような名称の手当であれば、全て基礎から除外できるというわけではありません。例えば、扶養家族の人数や実際に生じた通勤費、家賃の金額などに関係なく一律で支給する場合、算定基礎に入ります」と説明しています。
- 除外できる例:家族手当が扶養家族数に応じて増減する/住宅手当が家賃額に応じて変動する
- 除外できない例:扶養家族の有無にかかわらず一律支給の家族手当/持家・賃貸を問わず全員一律の住宅手当。これらは基礎賃金に含めます
出典・参考資料(3件)
- 出典:労働基準法 第37条第5項|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 出典:労働基準法施行規則 第21条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)
- 出典:割増賃金の計算方法|厚生労働省 神奈川労働局(川崎北労働基準監督署)(PDF)
割増率一覧と、重なったときの合算率
基本式のもう一つの値である割増率を確定させます。時間外・深夜・休日のそれぞれに下限の割増率が定められており、これらが重なった時間は率を合算します。
割増賃金の3つの種類(時間外・深夜・休日)
割増賃金が発生する勤務は、次の3種類です。それぞれ、どの時間を指すのかと下限の割増率を確認します。
| 種類 | 発生する条件 | 割増率(下限) | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 時間外労働 | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25%以上 | 労働基準法 第37条第1項 |
| 深夜労働 | 22時から翌5時までの間に働かせたとき | 25%以上 | 労働基準法 第37条第4項 |
| 休日労働 | 法定休日(週1日)に働かせたとき | 35%以上 | 労働基準法 第37条第1項 |
いずれも「以上」と定められた最低率で、就業規則でより高い率を定めることもできます。深夜労働は時間外・休日とは別枠で発生する割増のため、時間外や休日と時間帯が重なると、それぞれの率を合算します。よくある組合せの合算率は次の通りです。
| 組合せ | 合算率(下限) | 内訳 |
|---|---|---|
| 時間外労働 + 深夜労働 | 50%以上 | 25%(時間外)+ 25%(深夜) |
| 休日労働 + 深夜労働 | 60%以上 | 35%(休日)+ 25%(深夜) |
| 月60時間超の時間外労働 + 深夜労働 | 75%以上 | 50%(60時間超)+ 25%(深夜) |
この合算率は、労働基準法施行規則第20条が「延長した労働時間が午後十時から午前五時までの間に及ぶ場合」に時間外+深夜で5割以上(うち月60時間超は7割5分以上)、休日+深夜で6割以上と定めていることにもとづきます。また、時間外労働と休日労働は同時には発生しません。法定休日に働かせた時間はすべて休日労働(35%以上)として計算し、時間外の25%は重複させません(深夜に及べば+25%で60%以上)。
月60時間超の50%割増は中小企業も2023年4月から義務化
1か月の時間外労働が60時間を超えた分については、割増率が50%以上に引き上げられます(労働基準法第37条第1項ただし書)。この規定は従来、中小企業には猶予措置(旧労基法附則第138条)で適用が免除されていました。しかし働き方改革関連法(平成30年法律第71号)が附則第138条を削除したことにともない、2023年4月1日から中小企業を含むすべての企業に適用されています。
「中小企業は月60時間超でも25%のまま」という説明は2023年3月以前の情報にもとづくもので、現在は誤りです。給与計算ソフトの割増率マスタが「月60時間超=25%」や「大企業のみ50%」の設定のままになっていないかを確認してください。
出典・参考資料(4件)
- 出典:労働基準法 第37条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 出典:労働基準法施行規則 第20条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)
- 出典:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000071)
- 参考資料:月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられています|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zangyou/index.html)
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【計算例】モデル社員で区分別に通し計算
ここまでの要素を1人のモデル社員に当てはめ、区分ごとに割増賃金を計算します。基礎賃金(除外手当を差し引いた月給)が32万円、年間休日125日・1日の所定労働時間8時間の社員を例にします。
まず1時間あたりの基礎単価を出します。基礎賃金32万円は除外手当を差し引いた後の額です。1か月の平均所定労働時間は(365 − 125)× 8 ÷ 12 = 160時間なので、基礎単価は320,000 ÷ 160 = 2,000円です。
この2,000円に、区分ごとの割増率と時間数を掛けると、1時間あたりの割増賃金が出ます。次のリストは区分ごとの金額を確認するためのもので、合計の出し方はこの後で説明します。
- 時間外労働のみ(10時間):2,000 × 1.25 × 10 = 25,000円(時間外25%)
- 深夜労働のみ(所定時間内の深夜に2時間):2,000 × 0.25 × 2 = 1,000円(深夜25%の上乗せ分のみ。所定時間内の労働は基礎賃金が月給に含まれるため、割増分だけを追加で支払う)
- 時間外労働+深夜労働(深夜に3時間):2,000 × 1.50 × 3 = 9,000円(時間外25%+深夜25%=50%)
- 法定休日労働(8時間):2,000 × 1.35 × 8 = 21,600円(休日35%)
- 法定休日労働+深夜労働(休日の深夜に2時間):2,000 × 1.60 × 2 = 6,400円(休日35%+深夜25%=60%)
- 月60時間を超える時間外労働(60時間超の10時間):2,000 × 1.50 × 10 = 30,000円(60時間超50%)
- 月60時間超の時間外労働+深夜労働(60時間超かつ深夜に2時間):2,000 × 1.75 × 2 = 7,000円(60時間超50%+深夜25%=75%)
実際に1人分の1か月の割増賃金を出すときは、重なった区分を二重に数えないよう、時間を切り分けてから合計します。冒頭のケース(基礎単価2,000円の社員が、ある月に時間外労働を10時間行い、そのうち3時間が深夜に重なった)で合計を出すと、次のようになります。
- 時間外のみ(深夜と重ならない7時間):2,000 × 1.25 × 7 = 17,500円
- 時間外+深夜(深夜と重なる3時間):2,000 × 1.50 × 3 = 9,000円
- 合計:17,500 + 9,000 = 26,500円
ポイントは、深夜の3時間は時間外10時間の内数だという点です。時間外10時間ぶんを1.25倍で計算し、そこに深夜3時間ぶんの0.25をさらに足す、と考えても結果は同じになります(時間外10時間 × 1.25 = 25,000円 + 深夜3時間 × 0.25 = 1,500円 = 26,500円)。
「時間外10時間で25,000円」と「深夜3時間で9,000円」を単純に足すと、深夜の3時間を時間外として二重に数えてしまうため誤りです。
神奈川労働局のリーフレットも、1時間あたり1,500円の労働者が13時から23時まで(うち休憩1時間)働き、22時から23時が時間外かつ深夜になる例で「1,500 × 1.5(時間外1.25+深夜0.25)= 2,250円」と、同じ考え方の計算を示しています。自社の基礎単価と区分ごとの時間数が分かれば、あとはこの要領で切り分けて合計するだけです。
法定休日に働いた分は、この時間外の集計とは別に計算します。たとえば同じ社員が、同じ月に法定休日へ8時間働いていた場合、休日労働ぶんの 2,000 × 1.35 × 8 = 21,600円 を加えます。合計は 26,500 + 21,600 = 48,100円 です。
法定休日の労働時間は、週40時間・月60時間といった時間外労働の集計には含めないため、時間外とは分けて35%以上で計算する点に注意してください。
出典・参考資料(1件)
- 出典:割増賃金の計算方法|厚生労働省 神奈川労働局(川崎北労働基準監督署)(PDF)
割増賃金の端数処理
計算の過程で生じる端数は、事務簡便を目的とする範囲で一定の処理が認められています。労働省通達(昭和63年3月14日 基発第150号)が示す代表的な処理は次の通りです。
| 対象 | 認められる処理 |
|---|---|
| 1か月の時間外労働・休日労働・深夜業の各合計時間数(1時間未満の端数) | 30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げ |
| 1時間あたりの賃金額・割増賃金額(円未満の端数) | 50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げ |
| 1か月の割増賃金の総額(1円未満の端数) | 50銭未満を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げ |
実際の数字で見てみます。基礎賃金28万円・年間休日120日・1日8時間の社員で、その月の時間外労働が17時間20分だったケースです。月平均所定労働時間は(365 − 120)× 8 ÷ 12 = 163.33時間なので、基礎単価は 280,000 ÷ 163.33 = 1,714.3円で、円未満が50銭未満のため1,714円に切り捨てます。
時間外労働の合計は17時間20分ですが、30分未満の端数を切り捨てて17時間とします。
割増賃金は 1,714 × 1.25 × 17 = 36,422.5円となり、50銭以上なので36,423円に切り上げます。このように、端数処理は「基礎単価の円未満」「1か月の合計時間数」「割増賃金の総額の円未満」の各段階で当てはめます。
一方で、1日ごとの労働時間を切り捨てる処理は認められません。たとえば5分の遅刻を30分として賃金カットしたり、日々の残業を15分・30分単位で切り捨てたりする運用は、実際に働いた時間分の賃金を支払う全額払いの原則(労働基準法第24条)に反し違法です。端数処理が認められるのは、上表の「1か月単位の合計」や「円未満」に限られる点に注意してください。
出典・参考資料(2件)
- 出典:賃金計算における端数処理(昭和63年3月14日 基発第150号)|厚生労働省 愛知労働局(PDF)
- 出典:労働基準法 第24条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
割増賃金の計算で間違えやすい注意点
計算実務では、そもそも割増の対象になるかの判定や、給与制度による例外で見落としが起きやすい場面があります。代表的な3点を確認します。
所定労働と法定労働の違い
割増賃金の支払い義務が生じるのは、法律が定める上限(法定労働時間=1日8時間・週40時間)を超えた分です。一方、所定労働時間は企業が就業規則で定めた労働時間で、法定より短いこともあります。
所定7時間30分の企業で7時間45分働いた場合、超過15分は法定枠(8時間)内なので「法定内残業」となり、通常の時間単価(1.0倍)で支払えば足ります。ただし就業規則で「所定を超えたら1.25倍」と定めていれば、その規則が優先されます。
所定6時間のパート社員が8時間働いた日も同様です。所定を超える2時間は法定8時間の範囲内なので法定内残業として通常の時間単価で支払い、8時間を超えた分から25%以上の割増が必要になります。
休日も同様に、法定休日(週1日または4週4日)と、会社が独自に定める所定休日(法定外休日)の区別が必要です。35%以上の休日割増が必要なのは法定休日の労働で、所定休日の労働は時間外労働として扱います(週40時間を超えた分が25%以上)。
固定残業代(みなし残業代)を払っている場合
固定残業代とは、一定時間分の割増賃金をあらかじめ定額で支払う制度です。これを導入していても、割増賃金の計算が不要になるわけではありません。神奈川労働局のリーフレットも「実際に労働させた時間数よりも固定残業代が低い場合、差額を追加で支払わなければなりません」と明記しています。就業規則等に「何時間分の固定か」「相当する金額」を明示し、みなし時間を超えた分は本記事の式で計算して追加支給します。
管理監督者・年俸制の扱い
労働基準法第41条第2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)には、時間外・休日の割増賃金の規定が適用されません。ただし該当するかは役職名でなく実態で判断されます。厚生労働省は、①職務内容・責任と権限、②勤務態様(労働時間の裁量)、③賃金等の待遇の3要素を総合的に考慮するとしています。
名ばかりの管理職は管理監督者にあたらず、通常どおり割増賃金が必要です。また、管理監督者であっても深夜労働の割増賃金は支払う必要があります。
年俸制も、支払形態によって割増賃金が免除される規定はありません。管理監督者に該当しない限り、年俸を月額換算したうえで時間外・深夜・休日の割増賃金を計算して支払います。
出典・参考資料(3件)
- 出典:労働基準法 第41条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 参考資料:管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/topics/2008/10/tp1003-1.html)
- 出典:割増賃金の計算方法|厚生労働省 神奈川労働局(川崎北労働基準監督署)(PDF)
割増賃金の計算ミス・未払いを防ぐには
ここまで見たとおり、割増賃金の計算は、除外手当の判定・月平均所定労働時間・割増率の合算・月60時間超の切替・端数処理と、確認すべき点が多く、手計算やExcelではミスが起きやすい作業です。割増率を誤れば未払いにつながり、過去にさかのぼって請求されるリスクもあります。
手計算を続ける場合も、給与計算ソフトの設定を見直す場合も、次の4点が就業規則・法令どおりになっているかを確認すると、計算ミスの多くを防げます。
- 基礎賃金に含める手当・含めない手当(除外できるのは7項目の限定列挙。一律支給の家族手当・住宅手当は含める)
- 月平均所定労働時間(就業規則の年間休日・1日の所定労働時間と、(365 − 年間休日数)× 1日所定 ÷ 12 の計算結果が一致しているか)
- 割増率(時間外25%・深夜25%・休日35%・月60時間超50%が、就業規則と法定どおりに設定されているか)
- 月60時間超50%の切替(2023年4月以降は中小企業も対象。「25%固定」「大企業のみ50%」の古い設定が残っていないか)
給与計算ソフトを使えば、就業規則にもとづく計算式・割増率・除外手当のマスタを初期設定しておくことで、勤怠データから割増賃金を自動計算できます。ここでは、割増賃金の自動計算に役立つ代表的な給与計算ソフトを紹介します。選ぶときは、割増率・手当の自動計算、勤怠システムとの連携、提供形態や対象規模が自社に合うかを見ると比べやすくなります。
| サービス名 | 弥生給与 Next | 給与奉行クラウド | マネーフォワード クラウド給与 |
|---|---|---|---|
| 提供会社 | 弥生株式会社 | 株式会社オービックビジネスコンサルタント | 株式会社マネーフォワード |
| 提供形態 | クラウド型 | クラウド型 | クラウド型 |
| 対象規模 | 中小企業向け(20名以上・20名未満で案内を区分) | 20名〜1,000名(従業員規模別5プラン) | ひとり法人〜大企業(51名以上は個別見積もり) |
| 割増賃金・手当の自動計算 | 明細項目の計算式に倍率を設定して自動計算(1時間あたりの単価は「計算単価」で自動算出。割増率は利用者が設定) | 残業手当・通勤手当・遅刻早退欠勤の減額など複雑な手当計算を自動化。社会保険料も料率改定を含めて自動計算 | 給与・賞与を自動計算。支給・控除項目のカスタム設定や独自計算式に対応 |
| 勤怠データ連携 | API連携に対応(弥生勤怠 Next・KING OF TIME・ジョブカン勤怠管理ほか) | 奉行APIコネクトサービス経由でKING OF TIME・ジョブカン勤怠管理ほかと連携(API連携は別途利用料が発生する場合あり) | API・CSVで連携(マネーフォワード クラウド勤怠・KING OF TIME・ジョブカン勤怠管理ほか。受け渡せる項目は連携先により異なる) |
| 初期費用 | 0円 | 0円〜70,000円(プランにより異なる) | 0円 |
| 月額費用(税抜) | 1,700円〜7,000円(年払い時) | 5,500円〜93,000円(年払い時) | 2,480円〜(年払い時) |
| 無料トライアル | 最大2か月(20名未満の事業者向け) | 30日間 | 1か月(ビジネスプラン相当) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
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ここで紹介した3製品以外にも、給与計算ソフトは数多くあります。割増賃金の自動計算に対応した製品を選び方から比べたい場合は、次の記事で13サービスを機能・料金・対応規模の観点で詳しく比較しています。
まとめ
割増賃金は「1時間あたりの基礎単価 × 割増率 × 時間数」で計算します。基礎単価は「月給(基礎賃金)÷ 1か月の平均所定労働時間」で求め、基礎賃金からは家族手当・通勤手当など7項目を除外します。割増率は時間外25%・深夜25%・休日35%が下限で、重なった時間は50%・60%・75%と合算します。2023年4月からは中小企業にも月60時間超の50%割増が適用されている点にも注意してください。
これらの判定と端数処理を毎月手作業で行うのはミスの温床になります。除外手当のマスタ・月平均所定労働時間・割増率の設定さえ済ませておけば、給与計算ソフトが勤怠データから割増賃金を自動計算してくれます。手計算の負担と未払いリスクを減らしたい場合は、自社の規模・勤怠連携に合うソフトの導入を検討してみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 割増賃金とは何ですか?
A. 割増賃金とは、時間外・深夜・休日に労働させた場合に、通常の賃金へ一定割合を上乗せして支払う賃金です(労働基準法第37条)。時間外労働・深夜労働・休日労働のそれぞれに法定の下限割増率が定められており、これらが重なった時間は率を合算して計算します。
出典・参考資料(1件)
- 出典:労働基準法 第37条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
Q. 割増賃金はどのように計算しますか?
A. 割増賃金は、「1時間あたりの基礎単価 × 割増率 × 割増賃金が発生する時間数」で計算します。月給制の場合、1時間あたりの基礎単価は「月給(基礎賃金)÷ 1か月の平均所定労働時間」で求め、月平均所定労働時間は「(365 − 年間休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12」で算出します。区分別の具体的な計算例は計算例の章を参照してください。
出典・参考資料(2件)
- 出典:労働基準法 第37条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 出典:労働基準法施行規則 第19条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)
Q. 割増賃金を支払わなかったらどうなりますか?
A. 割増賃金を支払わなかった場合、労働基準法第37条違反として、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象となり得ます(同法第119条)。未払い分は過去にさかのぼって請求される可能性があり、36協定を結ばずに時間外・休日労働をさせること自体も法違反です。
出典・参考資料(1件)
- 出典:労働基準法 第37条・第119条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
Q. 時間外労働と深夜労働が重なったとき、割増率はどうなりますか?
A. 時間外労働と深夜労働が重なった時間は、どちらか一方を優先するのではなく、両方の割増率を合算します(時間外25%+深夜25%=50%以上)。同様に、休日労働+深夜労働は60%以上、月60時間を超える時間外労働+深夜労働は75%以上です。組合せごとの合算率は割増率一覧の章にまとめています。
出典・参考資料(2件)
- 出典:労働基準法 第37条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 出典:労働基準法施行規則 第20条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)
Q. 月60時間を超える時間外労働の50%割増は、中小企業も対象ですか?
A. 中小企業も対象です。 働き方改革関連法による猶予措置の廃止にともない、2023年4月1日から企業規模を問わず、1か月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増率が適用されています。「中小企業は25%のまま」という説明は2023年3月以前の情報で、現在は誤りです。給与計算ソフトの割増率マスタが古い設定のままになっていないか確認してください。
出典・参考資料(2件)
- 出典:労働基準法 第37条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 出典:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000071)
Q. 割増賃金の基礎となる賃金から除外できる手当は何ですか?
A. 基礎賃金から除外できるのは、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7項目に限られます(労働基準法第37条第5項・施行規則第21条)。この7項目は限定列挙で、役職手当や営業手当など一覧にない手当はすべて基礎賃金に算入します。
また家族手当・通勤手当・住宅手当は、扶養人数や家賃額に関係なく一律支給する場合は除外できず基礎賃金に含めます。詳しくは基礎賃金に含める手当・含めない手当の章を参照してください。
出典・参考資料(2件)
- 出典:労働基準法 第37条第5項|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 出典:労働基準法施行規則 第21条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)
Q. 固定残業代(みなし残業代)を払っていれば、割増賃金の計算は不要ですか?
A. 固定残業代を導入していても、割増賃金の計算は必要です。 実際に労働させた時間から計算した割増賃金が固定残業代を上回る場合は、その差額を追加で支払わなければなりません。固定残業代は「何時間分の割増賃金か」「相当する金額」を就業規則等で明示し、みなし時間を超えた分は別途計算して支給します。間違えやすい注意点は注意点の章で詳しく解説しています。
Q. 管理職には割増賃金を支払わなくてよいのですか?
A. 割増賃金が不要なのは、労働基準法上の「管理監督者」に該当する管理職に限られます。 該当するかは役職名でなく、職務内容・責任と権限、労働時間の裁量、賃金等の待遇の3要素で実態判断され、名ばかりの管理職には通常どおり割増賃金が必要です。また、管理監督者であっても深夜労働の割増賃金は支払う必要があります。
出典・参考資料(2件)
- 出典:労働基準法 第41条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
- 参考資料:管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/topics/2008/10/tp1003-1.html)
Q. 年俸制の社員にも割増賃金の支払いは必要ですか?
A. 年俸制でも、割増賃金の支払いは必要です。 賃金の支払形態によって割増賃金が免除される規定はないため、管理監督者に該当しない限り、年俸を月額に換算したうえで時間外・深夜・休日の割増賃金を計算して支払います。
Q. 割増賃金は1分単位で計算し、端数は切り捨ててよいですか?
A. 1日ごとの労働時間は1分単位で計算する必要があり、日々の時間を切り捨てることはできません。 事務簡便のため認められるのは、1か月の時間外・休日・深夜の各合計時間数の30分未満切り捨て・30分以上切り上げと、1時間あたり賃金額・割増賃金額の50銭未満切り捨て・50銭以上切り上げに限られます。
日々の労働時間を15分・30分単位で切り捨てる運用は、全額払いの原則(労働基準法第24条)に反し違法です。詳しくは端数処理の章を参照してください。
出典・参考資料(2件)
- 出典:賃金計算における端数処理(昭和63年3月14日 基発第150号)|厚生労働省 愛知労働局(PDF)
- 出典:労働基準法 第24条|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)
Q. 割増賃金の未払いを防ぐにはどうすればよいですか?
A. まず従業員の労働時間を正確に把握し、割増率・除外手当・月平均所定労働時間の設定を正しく保つことが基本です。 手計算やExcelは、除外手当の判定・合算率・月60時間超の切替・端数処理でミスが起きやすく、未払いは過去にさかのぼって請求されるリスクがあります。勤怠データを取り込んで割増賃金を自動計算できる給与計算ソフトを使えば、計算ミスと未払いリスクを減らせます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。
















