取引を始めようとしている相手や採用しようとしている人材が反社会的勢力と関わりを持っていた場合、契約解除や損害賠償、取引先からの信用低下など、企業は重い影響を受けかねません。こうしたリスクを避けるため、取引開始時や採用時に相手の属性を確認する「反社チェック」は、多くの企業で実務として定着しています。
一方で、いざ自社で取り組もうとすると、どの方法で調べればよいのか、誰をどのタイミングで確認すべきか、そもそも法律上の根拠はどこにあるのか、といった疑問にぶつかりがちです。手作業の検索だけで十分なのか、判断に迷う担当者も少なくありません。
本記事では、反社チェックの4つの調査方法を精度・手間・費用の観点で比較します。あわせて、確認すべき対象範囲と実施タイミング、法令・制度上の根拠、反社と判明した場合の対応、個人情報保護法との関係、社内体制の整え方までを解説します。自社で反社チェックの進め方を組み立てるための材料としてご活用ください。
目次
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反社チェックの4つの調査方法を比較する
反社チェックの調査方法は、大きく「公知情報による自力検索」「データベース・チェックツールの活用」「調査会社・興信所への依頼」「警察・暴力追放運動推進センターへの照会」の4つに整理できます。それぞれ精度・手間・費用・カバーできる範囲が異なり、1つだけで完結するものではありません。まずは全体像を比較表で確認できます。
| 調査方法 | 公知情報による自力検索 | データベース・チェックツール | 調査会社・興信所への依頼 | 警察・暴力追放運動推進センターへの照会 |
|---|---|---|---|---|
| 精度 | 低〜中(担当者の技量に左右される) | 中〜高(収録データの範囲に依存) | 高(専門的な調査) | 高(公的機関が保有する情報) |
| 手間 | 大(1件ずつ検索・記録) | 小(名称を入力して検索) | 小(依頼して報告を待つ) | 中(照会の必要性と情報管理体制の確認が前提) |
| 費用の目安 | 無料(社内の工数のみ) | 月額制・従量制(月額数千円〜数万円程度) | 1件あたり数万円程度から(調査の深さ・対象により変動) | 無料(ただし提供には要件がある) |
| カバー範囲 | 検索エンジン・新聞記事データベースで拾える公開情報 | ツールが収集・収録する記事データベース・制裁リスト・行政処分情報など | 独自の調査網による深い調査。重要な取引先の詳細確認に向く | 暴力団関係者に該当するかどうかの確認 |
| 限界・注意点 | 網羅性と判断基準が属人的になりやすく、見落としや証跡の残し方にばらつきが出る | ヒット結果が反社に該当するかの最終判断は人が行う。収録範囲はツールごとに異なる | 費用と納期がかかるため、多数の取引先を継続的に確認する用途には不向き | 無条件に受けられるわけではなく、必要性と適正な情報管理体制が認められる場合に限られる |
公知情報(インターネット・新聞記事)による自力検索
最も手軽に始められるのが、インターネットの検索エンジンや新聞記事データベースを使い、取引先の社名・代表者名と「逮捕」「行政処分」などのネガティブワードを組み合わせて検索する方法です。費用はかからず、少数の相手を確認する場合には有効です。
ただし、どのキーワードで・どこまで調べるかが担当者ごとにばらつきやすく、対象が増えるほど1件ずつの検索と記録に時間がかかります。検索結果をどう保存し、どう判断したかという証跡の残し方も属人的になりがちで、後から「適切に確認した」と説明しにくくなる点に注意が必要です。
データベース・チェックツールの活用
反社チェック専用のデータベース・チェックツールは、新聞記事やWEB記事、制裁リスト、行政処分情報などをあらかじめ収集・収録しており、社名や人名を入力するだけで複数の情報源を横断して確認できます。検索の履歴やヒット結果がクラウド上に残るため、証跡の保存も自動化しやすくなります。
多数の取引先を定期的に確認する企業では、自力検索の工数を大きく減らせる選択肢です。収録しているデータの範囲はツールごとに異なり、ヒットした情報が実際に反社に該当するかどうかの最終的な判断は人が行う必要があります。具体的なサービスは後半の反社チェックを効率化するサービスの活用で紹介します。
調査会社・興信所への依頼
公開情報だけでは判断が難しい相手や、重要性の高い取引先については、調査会社や興信所に依頼して踏み込んだ調査を行う方法があります。独自の調査網にもとづく詳細な報告が得られる一方、1件ごとに調査費用と一定の納期がかかります。
すべての取引先を継続的に調査会社へ依頼するのは費用面で現実的ではないため、ツールや自力検索で疑わしい結果が出た相手や、取引金額が大きい相手に絞って活用するのが一般的です。
警察・暴力追放運動推進センターへの照会
相手が暴力団関係者に該当するかどうかは、警察や各都道府県の暴力追放運動推進センター(暴追センター)に照会できる場合があります。ただし、この情報提供は誰でも無条件に受けられるものではありません。警察庁の通達では、提供を受ける側が情報を適正に管理できることが要件として示されています。
情報提供は、その相手方が、提供に係る情報の悪用や目的外利用を防止するための仕組みを確立している場合、提供に係る情報を他の目的に利用しない旨の誓約書を提出している場合、その他情報を適正に管理することができると認められる場合に行うものとする。
出典:暴力団排除等のための部外への情報提供について(通達)|警察庁
加えて、同通達は情報提供の必要性として、条例上の義務を履行するために必要と認められる場合などを挙げています。自社で反社チェックの体制を整え、暴力団排除条項の導入などの取り組みを進めていることが、照会の前提として求められると理解しておく必要があります。
警察や暴力追放運動推進センターへの照会を具体的にどう進めるか、どの公的窓口に何を依頼でき、何が確認できるのかは、以下の記事で実務に沿って解説しています。
反社会的勢力の企業一覧は存在するのか
「反社会的勢力に該当する企業の一覧があれば、それと照合するだけで済むのでは」と考える方は少なくありません。結論から言えば、国や公的機関が誰でも参照できる形で公開している「反社会的勢力の企業一覧」は存在しません。
確認できるのは、各都道府県や自治体が公表する指名停止・排除措置の一覧、官報、報道などの限定的な情報に限られます。そのため実務では、前述の4つの調査方法を組み合わせて、公開情報・ツールの収録データ・必要に応じた調査会社や警察・暴追センターへの照会から総合的に判断することになります。一覧との単純な突き合わせで完結する作業ではない、という前提に立つことが出発点です。
実際に閲覧できる例としては、国や自治体の公共調達で指名停止になった事業者の一覧があります。国土交通省では各地方整備局が「指名停止措置」のページで年度ごとの一覧を公表しており、暴力団関係を理由とする措置もこの中に含まれます。
ただしこれは公共調達上の措置情報であって反社会的勢力の名簿ではなく、掲載されるのは措置を受けた一部の事業者に限られます。公表情報だけで網羅的に確認できるわけではない点に注意してください。
出典・参考資料(1件)
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反社チェックとは(反社会的勢力の定義を含む)
反社チェックとは、取引先や採用候補者などが反社会的勢力に該当しないか、またはその関係者でないかを確認する取り組みを指します。では、ここでいう「反社会的勢力」とは何を指すのでしょうか。政府が2007年(平成19年)に取りまとめた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」は、次のように説明しています。
暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針|法務省
この指針が示すように、反社会的勢力は「どのような集団か」という属性要件だけでなく、「どのような行為をするか」という行為要件の両面でとらえることが重要とされています。暴力団かどうかという区分だけで判断するのではなく、不当な要求を行うかどうかといった行為の実態にも目を向ける必要がある、という考え方です。
なぜ企業に反社チェックが必要か
企業が反社チェックに取り組む理由は、大きく3つに整理できます。第一に、反社会的勢力との取引を避けることで、相手に資金が流れるのを防ぐためです。第二に、法令遵守や社会的責任の観点から、反社会的勢力との関係遮断が企業に求められているためです。第三に、関係が発覚した場合の信用低下や取引停止といった事態から、自社の事業そのものを守るためです。
取引先や提携先に反社会的勢力との関係が判明すると、契約の解除だけでなく、取引先の離反、金融機関との取引の見直し、社会的信用や株価の低下といった影響が広い範囲に及びかねません。いったん関係が明らかになると取引先・金融機関・株主など多方面に波及するため、取引や採用を始める前に確認しておくことの意味は小さくありません。
反社チェックの法令・制度上の根拠
一般の企業に対して「反社チェックを実施しなければならない」と一律に義務づけた法律は、現在のところ存在しません。もっとも、これは「やらなくてよい」という意味ではなく、複数の制度が実質的に反社チェックの取り組みを求めています。
その中心が、各都道府県の暴力団排除条例です。暴力団排除条例は2011年(平成23年)までに全47都道府県で施行されており、事業者に一定の努力義務を課しています。たとえば東京都暴力団排除条例(平成23年東京都条例第54号)第18条は、次のように定めています。
事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。
出典:東京都暴力団排除条例|警視庁
条文の語尾が「確認するよう努めるものとする」とされているとおり、これはすべての契約で相手方の確認を義務づけるものではなく、暴力団の活動を助長する疑いがあると認める場合の努力義務です。同条は、契約書に暴力団関係者と判明した場合は無催告で契約を解除できる特約を定めるよう努めることも求めています。
会社法の観点からも説明できます。取締役は会社と委任関係に立ち(会社法第330条)、善良な管理者の注意をもって職務を処理する義務(善管注意義務。民法第644条)を負います。
大会社である取締役会設置会社には、業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)を整備する決定義務があります(会社法第362条第4項第6号・第5項)。2007年の政府指針は、反社会的勢力による被害の防止をこの内部統制システムに位置づけるべきことを、次のように明記しています。
反社会的勢力による被害の防止は、業務の適正を確保するために必要な法令等遵守・リスク管理事項として、内部統制システムに明確に位置付けることが必要である。
出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針|法務省
このほか、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)は、銀行・貸金業・宅地建物取引業など法律が定める「特定事業者」に対し、取引時の本人確認などを義務づけています。これはマネー・ローンダリング対策としての本人確認義務であり、反社該当性そのものの確認を求める規定ではありませんが、特定事業者にとっては反社チェックと重なる場面があります。自社が特定事業者に当たるかどうかは確認しておくことが大切です。
出典・参考資料(3件)
- 参考資料:会社法|e-Gov法令検索
- 参考資料:民法|e-Gov法令検索
- 参考資料:犯罪による収益の移転防止に関する法律|e-Gov法令検索
新規上場(IPO)を目指す企業には、より明確な対応が求められます。東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則第204条第1項第5号にもとづき、新規上場申請者は「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」を提出する必要があります。これはIPO準備企業に固有の要請であり、一般企業に一律に課されるものではありませんが、上場を視野に入れる企業は早い段階から体制を整えておくことが望まれます。
出典・参考資料(1件)
- 参考資料:新規上場時の提出書類|日本取引所グループ
反社チェックの対象範囲(誰を・いつチェックするか)
ここからは、反社チェックで「誰を」「いつ」確認すべきかを整理します。対象の考え方は2007年の政府指針や実務上の慣行にもとづくもので、法律が対象者を網羅的に列挙しているわけではありません。自社の事業規模やリスクに応じて、現実的な範囲を設計する視点が求められます。確認の対象は、大きく社外(取引先サイド)と社内(自社サイド)に分けて整理できます。

取引先企業とその役員・株主・外部関係者
第一の対象は、新たに取引を始める取引先企業です。法人そのものだけでなく、その代表者・役員、主要な株主、契約を仲介する関係者まで視野に入れると、関係遮断の実効性が高まります。すべての関係者を同じ深さで調べるのは負担が大きいため、取引の重要度に応じて確認の範囲を調整するのが現実的です。
もっとも、会社名や代表者名を調べるだけでは、素性を隠して背後から取引に関与する反社会的勢力までは見えにくいという指摘もあります。弁護士の阿部由羅氏は、相手方の実質的な支配者まで遡って確認する必要性を次のように説明しています。

インターネット検索や新聞記事のデータベースなどを利用して、相手方の会社名や代表者名を検索しても、背後にいる反社会的勢力の存在は判明しません。相手方の実質的支配者まで遡って徹底的に反社チェックを行い、少しでも疑わしい要素があれば取引中止を検討するといった厳密な取り組みが求められます。
自社の役員・従業員(採用前・内定者を含む)/株主
対象は社外だけではありません。自社の役員や、採用候補者・内定者を含む従業員、自社の株主も確認の対象になり得ます。特に採用の場面では、入社後に反社会的勢力との関係が判明すると対応が難しくなるため、採用前の段階での確認が重要です。
一方で、官公庁や公共団体、上場企業・大手金融機関などを相手とする取引、少額かつ日常的な取引については、リスクの程度を踏まえて確認を簡略にする運用も考えられます。すべての取引を一律に深く調べるのではなく、リスクの高い相手に重点を置く、という優先順位づけが、限られた人員で体制を回す鍵になります。
特に採用選考での反社チェックは、どこまで調べてよいか、判明した場合に内定を取り消せるかなど、個人情報保護法との境界が判断に迷いやすい場面です。採用に絞った可否の考え方と進め方は、以下の記事で詳しく解説しています。
実施のタイミングと頻度
反社チェックは、取引の開始前・採用の前に行う初回チェックが基本です。契約を結んでしまった後では、関係が判明しても解消に手間がかかるため、取引や雇用を始める前の確認が欠かせません。
さらに、取引開始後も状況は変わり得ます。取引を始めた時点では問題がなくても、その後に相手の属性が変化することもあるため、継続的な取引先には定期的な再確認(モニタリング)を組み合わせると安心です。確認の頻度は、取引の重要度やリスクに応じて自社で基準を定めておきます。
反社と判明した場合の対応
反社チェックの結果、相手が反社会的勢力に該当する、またはその疑いが強いと判断した場合は、取引を始めないか、既存の取引であれば解消に向けて対応します。あらかじめ契約書に暴力団排除条項(反社排除条項)を定めておけば、それを根拠に契約を解除しやすくなります。2007年の政府指針も、契約書や取引約款への暴力団排除条項の導入を基本的な対応として挙げています。
取引を断る際の伝え方にも配慮が必要です。実務では、「反社会的勢力だから」と理由を明言するのではなく、「自社の審査基準により取引できない」といった簡潔な説明にとどめるのが望ましいとされています。理由を具体的に告げることで、かえって不当な要求やトラブルを招くおそれがあるためです。
過剰反応・不当な取引拒否を避ける考え方
一方で、確たる根拠がないまま「疑わしい」というだけで取引を一方的に断ると、相手との別のトラブルにつながりかねません。反社チェックでヒットした情報が、同姓同名の別人の情報であったり、古い情報であったりする可能性もあります。
重要なのは、ヒットした情報が本当に取引相手のものか、反社会的勢力との関係を示すものかを慎重に見極めることです。判断に迷うグレーな事案では、社内の法務部門や顧問弁護士、警察・暴追センターに相談しながら、記録を残して対応を決めるのが安全です。
反社チェックと個人情報保護法
反社チェックでは、取引先の担当者や採用候補者といった個人の情報を取り扱うことになります。そのため、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)との関係を押さえておく必要があります。ここでは、担当者が迷いやすい論点を、条文と個人情報保護委員会のガイドラインに照らして整理します。
本人同意なしに反社チェックをしてよいか(取得・利用の可否)
「本人の同意を得ずに反社チェックをしてよいのか」は、最も多い疑問の一つです。個人情報保護法は、逮捕歴などの要配慮個人情報について、原則としてあらかじめ本人の同意を得て取得することを求めていますが、法令にもとづく場合や、本人が公開している情報の場合などは例外としています。
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、反社会的勢力に関する情報の取り扱いを例外の具体例として挙げています。
事業者間において、不正対策等のために、暴力団等の反社会的勢力情報、意図的に業務妨害を行う者の情報のうち、過去に業務妨害罪で逮捕された事実等の情報について共有する場合
出典:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)|個人情報保護委員会
このように、反社会的勢力に関する情報は、一定の場合には本人の同意なしに取り扱える余地があります。ただし、これはあらゆる場面で同意が不要になるという意味ではありません。取得する情報や利用の目的に応じて、個別に例外に当たるかを確認する姿勢が求められます。
利用目的の特定と通知・公表
個人情報保護法は、個人情報を取り扱う際に利用目的をできる限り特定し(第17条)、取得した場合は利用目的を本人に通知または公表することを原則としています(第21条)。反社チェックの場合、この利用目的の通知・公表についても例外が設けられています。
通則編ガイドラインは、情報を取得したことが明らかになることで企業に害が及ぶ場合を、通知・公表が不要な例として示しています。反社チェックを行っている事実を相手に伝えると、確認の実効性が損なわれたり、不当な要求を招いたりするおそれがあるためです。
出典・参考資料(1件)
調査会社への委託・グループ内共有など第三者提供の扱い
反社チェックを調査会社に委託したり、グループ会社間で反社情報を共有したりする場面もあります。個人情報保護法は、本人の同意なく個人データを第三者に提供することを原則として制限していますが(第27条)、法令にもとづく場合や、人の生命・身体・財産の保護のために必要で本人の同意を得ることが困難な場合などを例外としています。
通則編ガイドラインは、こうした事業者間での反社会的勢力情報の共有を、第三者提供の同意例外に当たり得る具体例として示しています(前掲の取得の場面と同じく、常に同意が不要になるわけではありません)。
また、調査会社への委託のように、自社の利用目的の範囲内で取り扱いを任せる場合は、そもそも第三者提供には当たりませんが、委託先を適切に監督する義務が生じます。どの枠組みに当たるかを整理したうえで対応することが大切です。
取得した情報の安全管理措置と保管
反社チェックで取得・作成した情報は、漏えいや目的外利用が起きないよう、適切に管理する必要があります(安全管理措置。第23条)。アクセスできる担当者を限定し、保管場所や保管期間のルールを定めておくことが求められます。
通則編ガイドラインでは、反社会的勢力による不当要求の被害防止のために保有している情報は、本人からの開示請求などの対象となる「保有個人データ」から除外される場合があるとされています。反社チェックの記録は、こうした取り扱いも踏まえて管理方針を定めておくことが求められます。
反社チェックの社内体制・証跡化と運用フロー
反社チェックは、担当者が都度その場で判断するのではなく、社内の仕組みとして運用することで実効性が高まります。稟議や監査、上場審査の場面で「適切に反社チェックを実施している」と説明するためにも、誰が・いつ・何を・どう確認したかを記録として残しておくことが重要です。
2007年の政府指針も、組織としての対応を基本原則の一つに挙げ、平素からの対応として反社情報を集約したデータベースの構築にも言及しています。
運用フローの一例としては、次のような流れが考えられます。
- ルールの明文化:反社チェックの対象・タイミング・方法・判断基準を社内規程に定め、契約書に暴力団排除条項を盛り込む
- チェックの実施:取引開始前・採用前に、定めた方法(自力検索・ツール・調査会社など)で確認する
- 判断と記録:ヒットの有無と判断の根拠を記録し、疑わしい場合は法務・顧問弁護士・警察等に相談する
- 証跡の保存:いつ・誰が・どの情報を確認したかを、検索結果とあわせて保存する
- 定期的な再確認:継続的な取引先に対し、あらかじめ定めた頻度で再チェック(モニタリング)を行う

継続的なモニタリングを実効的にするための具体的な工夫として、阿部氏は契約上の取り決めと社内での情報共有の仕組みを挙げています。

代表者・役員・株主・所在地などの変更については、契約において直ちに通知することを相手方に義務付けましょう。また、相手方に直接対応する営業担当者などが違和感を覚えたときは、すぐに法務部門やコンプライアンス部門などへ共有できる仕組みを整えることも重要です。
こうした流れを自力検索と手作業の記録だけで回すのは、対象が増えるほど負担が重くなります。次の章では、この運用を支えるサービスの活用について解説します。
反社チェックを効率化するサービスの活用
4つの調査方法のうち、継続的に多くの取引先を確認する企業にとって中心となるのが、データベース・チェックツールの活用です。社名や人名を入力するだけで複数の情報源を横断して確認でき、検索の履歴や結果がクラウド上に残るため、手作業で課題になりがちな工数・見落とし・証跡の保存を同時に補えます。ここでは、代表的な反社チェックツールを紹介します。
ツールを選ぶ際は、収録している情報源の範囲(新聞記事・WEB記事・制裁リスト・行政処分情報など)、一括検索やCSV連携の有無、継続的なモニタリングへの対応、料金体系、既存システムとのAPI連携といった観点を、自社の運用に照らして確認します。以下に主なサービスの比較表をまとめます。
| サービス名 | RiskAnalyze(リスクアナライズ) | RISK EYES(リスクアイズ) | パワーサーチ(アラームボックス) | RoboRoboコンプライアンスチェック |
|---|---|---|---|---|
| 主な特徴・強み | 判定済みデータベース型で1件最短0.4秒の高速チェック API連携・外部サービスへの組み込み(OEM)に無料対応 | AIと独自反社DBでノイズを抑えた検索 承認ワークフロー・証跡保存に対応 | 会社名の入力だけで与信判断・反社チェック 調査担当者の見解コメント付き(与信管理一体型) | Excel一括登録・1クリック検索 生成AIによる要約・注目度判定、SBI証券監修 |
| 情報ソース・データベース | 国内約1,000媒体・官報情報 海外240以上の国・地域の重要公人(PEPs)・制裁リスト | WEB記事・新聞記事・ブログ・独自反社DB 制裁リスト・行政処分・商業登記情報 | 専門調査会社情報・新聞記事・WEB情報 公的機関情報・約500万社のデータを解析 | ネット検索・新聞記事DB・海外情報DB 反社DB「SP RISK SEARCH®」・官報破産者情報 |
| 継続モニタリング | ●取引先管理機能でリスク監視 | ●リスクアラートで日次監視 | ●モニタリングで継続監視 | × |
| 料金の目安 | 初期費用無料 月額27,500円〜(年間600検索) | 初期費用無料 最低月額15,000円〜(税別)+300円/検索 | 初期費用無料 料金は要お問い合わせ | 初期費用無料 1件250円〜(インターネット検索) |
| 提供形態 | クラウド | クラウド | クラウド | クラウド |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る | 公式資料を見る |
※2026年9月時点の各社公式情報による。最新の料金・機能は各社公式サイトでご確認ください。
RiskAnalyze(KYCコンサルティング株式会社)

RiskAnalyze(リスクアナライズ)は、KYCコンサルティング株式会社が提供するWEBサービス型のコンプライアンス・反社チェックツールです。個人名・企業名を入力すると、反社会的勢力とのつながりや逮捕歴、行政処分、訴訟歴、風評などを調査し、判定済みの調査レポートを表示します。
CSVによる一括検索に対応し、調査の証跡はクラウド上に自動保存されるため、多数の取引先を継続的に確認する運用に向いています。CRMや基幹システムと連携するAPIのほか、Salesforceやkintoneといったツールとの連携にも対応します。
KYCコンサルティングの公式発表によると、累計導入企業数は2,000社とされています(2026年9月時点の公式記載)。料金は初期費用が無料で、月額27,500円のライトプランから用意され、検索数の多い企業向けには個別見積もりのプランもあります。
RISK EYES(ソーシャルワイヤー株式会社)

WEBニュース記事や新聞記事などの公知情報を使って、取引先や従業員のスクリーニングを行う反社チェック専用ツールが、ソーシャルワイヤー株式会社のRISK EYES(リスクアイズ)です。法人名・人名と「逮捕」などのネガティブワードを組み合わせて検索し、反社会的勢力との関係の疑い・犯罪関与・不祥事の有無を確認できます。
検索対象はWEB記事・新聞記事・ブログ・制裁リスト・行政処分情報・商業登記情報など複数の情報源にわたります。取引先の登録から検索、結果の絞り込み、証跡の保存までを自動化するワークフロー機能も備えており、確認作業の工数削減につながります。クラウド型のSaaSとして提供され、SalesforceのAppExchangeにも掲載されています。
この工数削減が実際にどの程度の規模になるのか、提供元のソーシャルワイヤーはインタビューで導入事例の数値を挙げています。

導入事例では、広報支援会社で検索業務を約93%削減、オンラインマッチングサービスを運営する企業で反社チェック業務を約95%削減、採用管理システムを提供する企業で従来比約85%の工数削減を実現しています。採用管理システムを提供する企業では、日次20~30件の確認に100~150分かかっていた業務が大幅に短縮されました。
パワーサーチ(アラームボックス株式会社)

パワーサーチは、アラームボックス株式会社が提供する、会社名の入力だけで新規取引先の与信判断・反社チェック・企業調査を行えるクラウドサービスです。インターネット上の公知情報や公的機関の情報、提携調査会社のデータを収集し、独自のアルゴリズムとAIで解析します。
反社チェックは、専門調査会社の情報・新聞記事・WEB情報を組み合わせて実施でき、調査レポートには調査担当者による与信判断の見解が付く点が特徴です。継続的に取引先を監視するモニタリングと組み合わせることで、新規取引時の判断から取引開始後の監視までを一つのサービスで扱えます。反社チェック単体のツールというより、与信管理と一体で取引先リスクを見たい企業に向いています。
RoboRoboコンプライアンスチェック(オープン株式会社)

オープン株式会社が提供するRoboRoboコンプライアンスチェックは、取引先や採用候補者が法令を遵守しているか、企業倫理に反する活動がないかを自動でチェックするクラウド型のサービスです。インターネット記事検索・新聞記事データベース検索・海外情報データベース検索を組み合わせ、生成AIによる記事の要約・解析や、注目度の自動判別を備えています。
Excelデータのドラッグ&ドロップで取引先を一括登録し、1クリックでまとめて検索できる手軽さが特徴です。上場企業に求められるコンプライアンスチェックの要件という観点でSBI証券が監修しているほか、官報の破産者情報データベースの搭載や、反社情報データベース「SP RISK SEARCH®」との連携など、収録データの拡充も進んでいます。
反社チェックが社内でどのように流れる業務なのかについて、提供元のオープンはインタビューで次のように述べています。

営業担当が新規取引先を持ってきた後、法務でチェックして結果を営業に戻し、さらに契約書作成の段階でまた法務に戻るという差し戻しが非常に多い業務なのです。このワークフロー全体を改善したいというニーズは大きく、運用フローの効率化を求めるご相談が特に増えています。
ここでは代表的な4つのツールを取り上げましたが、反社チェックツールは収録データの範囲・料金体系・モニタリングやAPI連携への対応で各社に違いがあります。より多くのサービスを横断して比較し、自社の運用に合う1本を選びたい方は、以下の記事で主要16サービスの比較と選び方の観点を確認できます。
反社チェックツールおすすめ16選を比較|料金・データソース・精度で失敗しない選び方
取引先や株主、採用候補の反社チェックを、担当者が新聞記事やインターネットを手作業で検索して進めていませんか。1件ずつ調べる方法は時間がかかるうえ、調べ漏れ(見落とし)と、同姓同名による誤判定(過検知)の両方が起きやすく、調査の質が担当者の経…
まとめ
企業の反社チェックは、公知情報による自力検索・データベースやチェックツール・調査会社への依頼・警察や暴追センターへの照会という4つの方法を、相手の重要度やリスクに応じて組み合わせて進めます。誰でも照合できる反社会的勢力の企業一覧は存在しないため、複数の方法を使い分けて総合的に判断することが前提になります。
取引先・自社の役職員・株主を対象に、取引や採用の開始前に確認し、継続的な取引先には定期的な再確認を行う——この運用を、暴力団排除条項の整備や記録の保存とあわせて社内の仕組みに落とし込むことが、実効性のある反社チェックにつながります。
多数の取引先を継続的に確認する場合は、工数と証跡の課題を補えるチェックツールの活用も選択肢になります。自社に合うサービスを比較するために、各社の資料をまとめて確認してみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 企業の反社チェックは法律で義務づけられていますか?
A. 企業の反社チェックは、すべての企業に一律で義務づけた法律はないものの、各都道府県の暴力団排除条例や政府指針によって実質的に求められている取り組みです。たとえば東京都暴力団排除条例第18条は、契約が暴力団の活動を助長する疑いがあると認める場合に、相手方が暴力団関係者でないことを確認する努力義務を定めています。
加えて2007年の政府指針は、反社会的勢力による被害の防止を内部統制システムに位置づけるべきことを明記しています。加えて、銀行・貸金業・宅地建物取引業などの「特定事業者」には、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)にもとづく取引時の本人確認義務が別途課されます。
出典・参考資料(2件)
- 参考資料:東京都暴力団排除条例|警視庁
- 参考資料:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針|法務省
Q. 反社チェックは無料でできますか?
A. 反社チェックは、検索エンジンや新聞記事データベースを使った公知情報の自力検索であれば、費用をかけずに始められます。ただし無料の自力検索は、担当者ごとに調べ方や判断基準がばらつきやすく、対象が増えるほど検索と記録の工数が重くなり、証跡の残し方も属人的になりがちです。
多数の取引先を継続的に確認する場合は、データベース・チェックツールの活用で工数と抜け漏れを補う運用が現実的です。警察・暴力追放運動推進センターへの照会も費用はかかりませんが、提供には必要性と適正な情報管理体制などの要件があり、誰でも無条件に受けられるものではありません。
出典・参考資料(1件)
Q. 本人の同意を得ずに反社チェックをしてもよいですか?
A. 反社チェックは、取り扱う情報や目的によっては、本人の同意がなくても行える場合があります。個人情報保護法は逮捕歴などの要配慮個人情報を原則として本人の同意を得て取得するよう求めていますが、法令にもとづく場合や本人が公開している情報などは例外としています。
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、事業者間で反社会的勢力の情報を共有する場合などを、この例外の具体例として挙げています。ただし、あらゆる場面で同意が不要になるわけではなく、取得する情報や利用目的に応じて、個別に例外へ当たるかを確認する姿勢が求められます。
出典・参考資料(2件)
Q. 反社チェックはどのくらいの頻度で行えばよいですか?
A. 反社チェックは、取引開始前・採用前の初回確認を基本とし、継続的な取引先にはあらかじめ定めた頻度での再確認(モニタリング)を組み合わせるのが実務的です。法律が頻度を一律に定めているわけではないため、取引の重要度やリスクに応じて自社で基準を決めておきます。
取引を始めた時点では問題がなくても、その後に相手の属性が変化することもあるため、重要な取引先ほど再確認の間隔を短くするといった運用が考えられます。
Q. 反社チェックの結果、取引を断るときは相手にどう伝えればよいですか?
A. 取引を断る際は、「反社会的勢力だから」と理由を明言せず、「自社の審査基準により取引できない」といった簡潔な説明にとどめるのが望ましいとされています。理由を具体的に告げると、かえって不当な要求やトラブルを招くおそれがあるためです。既存の取引を解消する場合は、あらかじめ契約書に暴力団排除条項(反社排除条項)を定めておくと、それを根拠に契約を解除しやすくなります。
判断に迷うグレーな事案では、社内の法務部門や顧問弁護士、警察・暴力追放運動推進センターに相談しながら、記録を残して対応を決めると安全です。
Q. 反社チェックで同姓同名の人がヒットした場合はどうすればよいですか?
A. 同姓同名のヒットは、まず生年月日などの属性を照合し、取引相手本人かどうかを見極めることが先決です。生年月日が異なれば別人と判断でき、本人の情報でないヒットを根拠に取引を断ると、かえって別のトラブルにつながりかねません。
生年月日まで一致して判別が難しい場合は、確たる根拠がないまま判断せず、社内の法務部門や顧問弁護士に相談して対応を決めるのが安全です。ヒットした情報が古い情報である可能性にも注意が必要です。
Q. 反社チェックの抜け漏れを防ぐチェックリストはありますか?
A. 反社チェックは、確認する項目をあらかじめリスト化しておくと、担当者による抜け漏れを防ぎ効率的に進められます。たとえば、社名や代表者名に不審なネガティブ情報がないか、社名や本社所在地が短期間で変わっていないか、事業に必要な許認可を取得しているか、といった観点を定型の確認項目にしておく方法があります。
あわせて、誰が・いつ・どの情報を確認したかを記録として残す運用を社内規程に組み込んでおくと、稟議や監査、上場審査の場面で「適切に実施している」と説明しやすくなります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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