電子帳簿保存法への対応というと、「対応した会計ソフトを買わなければならない」と身構えてしまいがちです。けれども、電子取引データの保存で義務付けられているのはあくまで「要件を満たして保存すること」であり、専用のソフトやシステムを導入すること自体は法律で求められていません。
いまあるパソコン・Excel・フォルダだけでも、ルールを決めて運用すれば、ソフトを使わずにコストをかけずに対応できます。必要なのは、真実性の確保(国税庁のひな形をもとにした事務処理規程)と、可視性の確保(ファイル名の付け方・フォルダ整理・Excelの索引簿)という、今日から手を動かせる2つの手順だけです。
本記事では、ソフトを使わずに電子帳簿保存法へ対応する具体的な手順を、国税庁の一次情報にもとづいて順を追って解説します。あわせて、自社が検索要件の緩和や猶予措置の対象になるかの見分け方、対応しなかった場合の罰則の実際、そして「もう手作業では回らない」と感じたときに選べる低コストの会計システムまでを整理しました。
目次
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結論:電子帳簿保存法はソフトを使わなくても合法的に対応できる
電子帳簿保存法(正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」)が定める保存区分のうち、すべての事業者に義務付けられているのは「電子取引データの保存」だけです。ここからは、義務の範囲がどこまでで、なぜソフトなしでも対応できるのかを整理します。
電子帳簿保存法の3区分と、義務は電子取引データ保存だけ
電子帳簿保存法の保存方法は、大きく3つの区分に分かれます。このうち対応が義務なのは3つ目の「電子取引データ保存」だけで、残り2つは任意です。

- 電子帳簿等保存(任意):会計ソフトなどで作成した帳簿・決算書を、紙に印刷せずデータのまま保存する方法です。
- スキャナ保存(任意):紙で受け取った請求書・領収書をスキャンして画像データで保存する方法です。
- 電子取引データ保存(義務):メールやWebでやり取りした取引データを、データのまま保存する方法です。これだけがすべての事業者に義務付けられています。
任意の2区分は「紙のままでもよいが、希望すればデータ保存も認める」という位置づけです。対応が避けられないのは電子取引データ保存だけだと押さえておくと、やるべきことの範囲が一気に絞られます。
専用ソフトの導入は法律で義務付けられていない
電子取引データ保存が義務だと聞くと「専用システムを入れなければ」と考えがちですが、法律が求めているのは「電磁的記録(データ)により保存すること」であって、特定のソフトやシステムの導入ではありません。国税庁の一問一答でも、制度の概要は次のように説明されています。
所得税(源泉徴収に係る所得税を除きます。)及び法人税の保存義務者が取引情報(注文書、領収書等に通常記載される事項)を電磁的方式により授受する取引(電子取引)を行った場合には、その取引情報を電磁的記録により保存しなければならないという制度です(法7)。
出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問1(令和8年7月)|国税庁
保存の際に満たすべきなのは、後述する「真実性の確保」と「可視性の確保」という要件だけです。この要件さえ満たせば、Excelやフォルダといった手元のツールで対応しても問題ありません。専用ソフトはあくまで要件を満たす手段の一つにすぎず、使わない選択肢も法律上はっきり認められています。
対象となる電子取引データとは
保存が義務付けられる「電子取引データ」とは、取引に関する情報をデータでやり取りしたものを指します。具体的には、次のようなものが該当します。
- メールに添付されて届いた請求書・領収書のPDF
- Webサイトやクラウドサービスからダウンロードした請求書・納品書
- ECサイトやネットバンキングの取引明細・購入履歴
- クレジットカードやキャッシュレス決済の利用データ
これらのデータは、印刷して紙でファイリングするだけでは保存したことになりません。令和3年度の税制改正で、出力した書面による保存措置が廃止されたためです。
令和3年度の税制改正前はそのデータを出力した書面等により保存することも認められていましたが、令和3年度の税制改正後は、当該出力した書面等の保存措置が廃止され、当該出力した書面等は、保存書類(国税関係書類以外の書類)として取り扱わないこととされました。
出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問5(令和8年7月)|国税庁
国税庁がパンフレットで「電子取引データが原本ですので、これをそのまま保存してください」と案内しているとおり、データそのものを残すことが基本です。
出典・参考資料(1件)
紙で受け取った書類はそのまま紙保存でよい(スキャナ保存は任意)
一方、郵送やFAX、手渡しなど紙で受け取った請求書・領収書は、これまでどおり紙のまま保存して構いません。これらをスキャンしてデータ化する「スキャナ保存」は任意です。電子でもらったものは電子のまま、紙でもらったものは紙のまま保存するのが基本で、対応すべき対象は「データで受け取った取引情報」に限られます。
紙で受け取った書類をあえてスキャンしてデータで保存する「スキャナ保存」を選ぶ場合は、解像度やタイムスタンプといった満たすべき要件や、スキャン後に紙の原本を廃棄できる条件が別に定められています。紙をデータ化してペーパーレス化したい場合は、次の記事で要件を確認できます。
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【手順1】真実性の確保=事務処理規程を策定する
電子取引データの保存で満たすべき要件の1つ目が「真実性の確保」です。データが後から改ざんされていないことを担保する仕組みを指します。ここからは、この要件をソフトなしで満たす最も手軽な方法である事務処理規程について解説します。

事務処理規程とは/国税庁ひな形の入手先(法人用・個人用)
真実性の確保には、(1)タイムスタンプを付す、(2)訂正・削除の履歴が残るシステムで保存する、(3)事務処理規程を定めて運用する、という3つの方法があります。このうち費用をかけずに実現できるのが(3)の事務処理規程です。タイムスタンプや専用システムを使わなくても、「データを勝手に書き換えない・消さないというルールを文書で定めて守る」ことで真実性の要件を満たせます。
国税庁は、この事務処理規程のひな形(Word形式)を法人用・個人事業者用それぞれ公式サイトで無料配布しています。ゼロから作る必要はなく、ひな形をダウンロードして自社の名称や運用開始日を埋めるだけで完成します。国税庁もパンフレットで次のように案内しています。
その場合であっても、「ルールを決めて守っていただくこと」で満たすことが可能です。事務処理規程のサンプルは、国税庁HPに掲載していますので、参考にしてください。
出典:システム導入が難しくても大丈夫!!/令和6年1月からの電子取引データの保存方法(令和5年12月)|国税庁
ひな形は、国税庁の「参考資料(各種規程等のサンプル)」のページからダウンロードできます。
事務処理規程の記入例(会社名・運用開始日・対象データ・訂正削除の手順)
法人用のひな形は「第1章 総則」「第2章 電子取引データの取扱い」「附則」という構成で、目的・適用範囲・管理責任者・電子取引の範囲・データの保存方法・訂正削除のルールなどが条文として並んでいます。埋めるのは主に次の箇所です。
- 会社名:第1条(目的)の「○○において行った電子取引」の空欄に自社名を入れます。
- 運用開始日:末尾の附則「この規程は、令和○年○月○日から施行する。」に開始日を入れます。
- 対象となるデータ:第4条(電子取引の範囲)に、EDI取引・メールでの請求書授受・ECサイトでの取引など、自社に当てはまる取引を具体的に書きます。
- 訂正削除の手順:訂正・削除を原則禁止としたうえで、やむを得ず行う場合の申請手順を定めます。
たとえば法人が「株式会社サンプル商事」で、2026年1月から運用を始める場合、ひな形の空欄は次のように埋めます。
- 第1条(目的)の「○○において行った電子取引」→「株式会社サンプル商事において行った電子取引」
- 第4条(電子取引の範囲)→ 自社に当てはまる取引を具体的に記載(例:「電子メールを利用した請求書等の授受」「ECサイトを利用した取引」)
- 附則の「この規程は、令和○年○月○日から施行する」→「この規程は、令和8年1月1日から施行する」
個人事業者用のひな形も同じ要領で、事業者名と施行日を埋めれば完成します。ゼロから文章を考える必要はなく、この数カ所を自社の情報に置き換えるだけです。
規程の肝は、訂正・削除を勝手に行わないというルールです。ひな形でも次のように定められています。
保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。
出典:電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程(法人の例)第8条|国税庁
個人事業者用のひな形は条番号のない簡潔な箇条書き形式で、訂正・削除を原則禁止とすることと、やむを得ず訂正・削除する場合に申請書へ記載する項目(申請日・取引伝票番号・取引件名・取引先名・訂正削除の日付・内容・理由・担当者名)が定められています。どちらも、ダウンロードして日付と名称を埋めれば、その日から運用を始められます。
【手順2】可視性の確保=ファイル名規則・フォルダ構成・Excel索引簿
満たすべき要件の2つ目が「可視性の確保」です。保存したデータを、必要なときにすぐ画面や書面で確認でき、かつ日付・金額・取引先で検索できる状態にしておくことを指します。ここからは、この検索要件をソフトなしで満たす運用方法を具体的に解説します。
ただし、前々事業年度(個人事業者は前々年)の売上高が5,000万円以下の事業者は、この検索要件が緩和され、索引簿やファイル名規則の作り込みは必須ではなくなります(詳しくは後述の「自分が対象か・何が免除されるかの自己判定」で解説します)。自社がどこまで対応すべきかは、まず基本の方法を押さえたうえで、自己判定の章で確認してください。
ファイル名の付け方(例: 20250804_取引先名_金額.pdf)
最も手軽なのが、保存するデータのファイル名に取引年月日・取引先・金額を入れておく方法です。たとえば2025年8月4日に取引先A社から受け取った11,000円の請求書なら、「20250804_A社_11000.pdf」といった具合です。国税庁も、ファイル名に日付や金額を入れて管理することで検索の条件を設定できると認めています。
この命名ルールを徹底すれば、パソコンのファイル検索機能で「A社」「11000」などと打ち込むだけで該当データを呼び出せるため、特別な検索システムは不要です。国税庁の一問一答でも、ファイル名に日付・金額・取引先を入れて管理する方法で検索要件を満たせると案内されています。
出典・参考資料(1件)
フォルダ構成の例
ファイル名ルールとあわせて、保存先のフォルダを整理しておくと管理がしやすくなります。年度や月でフォルダを分けておけば、保存期間の管理や税務調査時の提示もスムーズです。たとえば「2025年度 > 2025年08月」のように階層を作り、その月に受け取った電子取引データをまとめて入れておく形です。
フォルダ構成に法律上の決まりはありません。自社が後から探しやすい形であれば十分で、迷ったら「年度・月」で区切る単純な構成から始めるのが無難です。
保存しておく期間は、紙の帳簿書類と同じです。法人税では原則7年(青色申告で欠損金が生じた事業年度は10年)、所得税(個人事業主)では書類の種類に応じて5〜7年の保存が必要です。年度ごとにフォルダを分けておくと、保存期間が過ぎたデータの整理もしやすくなります。
検索要件の3項目とExcel索引簿の作り方
検索要件として求められる条件は、次の3項目です。
⑴ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索の条件として設定することができること。
出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問48(令和8年7月)|国税庁
⑵ 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
⑶ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。
ファイル名ルールでも⑴の検索は可能ですが、範囲指定や組み合わせ検索まで含めてきちんと満たしたい場合は、Excelで索引簿(一覧表)を作る方法が確実です。国税庁も「索引簿の作成例」をExcel形式で配布しており、その列構成は次のとおりです。
| 連番 | 日付 | 金額 | 取引先 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 2025/08/04 | 11,000 | ㈱A商店 | 請求書 |
| 2 | 2025/08/10 | 55,000 | B工務店㈱ | 注文書 |
この一覧に、受け取ったデータを1件ずつ追記していけば、Excelのフィルタや検索で日付・金額・取引先から目的のデータを絞り込めます。実務上は、ここに保存したファイル名の列を足しておくと、索引簿から実データへたどり着きやすくなります。
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自分が対象か・何が免除されるかの自己判定
ここまでの手順がすべての事業者に同じ重さでかかるわけではありません。売上規模や状況によっては、検索要件が緩和されたり、当面の対応が猶予されたりします。ここからは、自社がどこまで対応すべきかを見分けるための判定ポイントを整理します。
電子取引が1件もない事業者は対象外
電子取引データ保存の義務は、あくまで「電子取引を行った場合」に生じます。請求書や領収書のやり取りがすべて紙・郵送・対面で完結しており、メール添付やWebダウンロードでデータを受け取ることが一度もない事業者には、この保存義務は発生しません。まずは自社に電子取引が実際にあるかを確認するのが出発点です。
前々事業年度(個人は前々年)の売上高5,000万円以下なら検索要件が緩和される
一定規模以下の事業者は、手順2で解説した検索要件(索引簿やファイル名規則)の整備が不要になります。国税庁は次のように定めています。
個人事業者については電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日までの期間の売上高が、法人については電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度の売上高が、5,000万円以下の場合又は電磁的記録を出力した書面を取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものを提示・提出できるようにしている場合には、検索機能の確保は不要です(その場合には、保存しているデータについて、税務調査の際に、税務職員からのダウンロードの求めに応じることができるようにしている必要があります。)。
出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(検索機能の確保が不要となる場合、令和8年7月)|国税庁
前々事業年度(個人事業者は前々年)の売上高が5,000万円以下であれば、索引簿を作り込まなくても、データ本体を保存したうえで税務調査の際にダウンロードの求めに応じられる状態にしておけば足ります。ただし、検索要件が緩和されても、データそのものを保存する義務は変わらない点に注意が必要です。
「相当の理由」がある場合の猶予措置(事前申請不要)
システムや社内体制の整備が間に合わないなど「相当の理由」がある場合には、保存時の要件を満たせなくても当面はデータ保存だけで認められる猶予措置があります。国税庁は「相当の理由」を次のように説明しています。
新たな猶予措置の「相当の理由」とは、例えば、その電磁的記録そのものの保存は可能であるものの、保存時に満たすべき要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための環境が整っていない事情がある場合については、この猶予措置における「相当の理由」があると認められ、保存時に満たすべき要件に従って保存できる環境が整うまでは、そうした保存時に満たすべき要件が不要となります。
出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問93(令和8年7月)|国税庁
この猶予措置を使うのに、税務署への事前申請は必要ありません(上記の問93でも「事前申請等の手続は必要ありません」と明記されています)。ただし適用には、(1)所轄税務署長が相当の理由があると認めること、(2)税務調査の際にデータのダウンロードの求めと、書面での提示・提出の求めの両方に応じられること、という条件があります。
人手不足や資金不足なども相当の理由に含まれ得る一方、環境が整っているのに対応していないだけの場合は対象外です。
この猶予措置で免除されるのは、真実性の確保(事務処理規程など)や検索要件といった「保存時に満たすべき要件」であり、電子取引データそのものを保存する義務は猶予措置でもなくなりません。
また、猶予措置を使えるかどうかは税務調査の際に判断されるため、「使えるつもりで何もしない」のは避けたいところです。費用のかからない手順1の事務処理規程だけでも先に整えておけば、猶予措置に頼らずとも真実性の要件を満たせるため、より確実です。
宥恕措置は終了・猶予措置は継続(2026年時点の最新状態)
ここで注意したいのが、よく似た名前の「宥恕措置」と「猶予措置」の違いです。この2つを混同したまま古い情報で判断すると、対応を誤るおそれがあります。

- 宥恕措置(終了):令和4年度税制改正で設けられた経過措置で、令和5年(2023年)12月31日までに行う電子取引については、出力した書面のみの保存でも認められていました。この宥恕措置は適用期限の到来により廃止され、延長はありません。
- 猶予措置(継続):令和6年(2024年)1月以降の電子取引に適用される現行の措置です。前述の「相当の理由」がある場合に要件が猶予されますが、出力書面のみの保存は認められず、データそのものの保存は必須です。
両者の決定的な違いを、国税庁は次のように説明しています。
令和5年12月末までに行う電子取引を対象とした宥恕措置では、出力書面のみを保存する方法で対応することが認められていましたが、令和6年1月以降に行う電子取引を対象とした猶予措置では、出力書面のみを保存することで対応することは認められておらず、出力書面の提示等に加え、電子データそのものも保存しておき、提示等ができるようにしておく必要があります
出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問89(令和8年7月)|国税庁
以上から、2026年の現在は「宥恕措置は終了し、紙だけの保存は不可。相当の理由があれば猶予措置でデータ保存だけでよいが、紙だけで済ませることはできない」というのが正確な状態です。「2023年12月までにシステムを導入すればよい」といった古い解説は、現在の制度には当てはまりません。
電子帳簿保存法に対応しない場合の罰則・リスク
対応しなかった場合に何が起きるのかも、正確に理解しておきたいところです。よく挙げられる罰則は3種類ありますが、いずれも「対応しなければ即座に自動で科される」ものではなく、一定の要件を伴います。ここからは、それぞれの罰則の実際を整理します。
青色申告の承認取消(即時でなく総合判断)
電子帳簿保存法に対応できていないと青色申告の承認が取り消される、という説明を目にしますが、要件を満たせていないだけで直ちに取り消されるわけではありません。国税庁の事務運営指針では、取消しは次のように運用されると定められています。
法人の青色申告の承認の取消しは、法第127条第1項各号に掲げる事実及びその程度、記帳状況、改善可能性等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合について行うこととし、この場合の取扱基準の整備等を図ったものである。
出典:法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)|国税庁
このように、事実の程度・記帳の状況・改善の可能性などを総合的に勘案し、「真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合」に限って取消しが行われる運用です。保存方法の不備がすぐに取消しへ直結するわけではありませんが、放置してよいという意味ではなく、指摘があれば速やかに改善する姿勢が求められます。
追徴課税・重加算税の加重(10%)
保存の不備などで申告すべき税額が不足していた場合は、不足分の本税に加え、過少申告加算税や重加算税といった追徴課税が生じることがあります。さらに電子取引データに関して隠蔽や仮装(データの削除・改ざんによる売上除外や経費の水増しなど)があった場合には、重加算税が通常より10%加重されます。国税庁は次のように説明しています。
電子取引データに関連する隠蔽・仮装行為については、重加算税を10%加重することとされています。
出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問65(令和8年7月)|国税庁
この10%加重は、あくまで不正(隠蔽・仮装)があった場合の措置です。単に保存要件を満たせていないだけで直ちに科されるものではありません。通常の重加算税にさらに10%が上乗せされる仕組みで、根拠は電子帳簿保存法第8条第5項です。
会社法976条の過料(100万円以下)
法人の場合、会計帳簿や書類の記載・記録義務に違反すると、会社法上の過料の対象になり得ます。会社法第976条は、帳簿書類への記載・記録を怠ったり虚偽の記録をしたりした場合などに「百万円以下の過料に処する」と定めています。これは電子帳簿保存法に固有の罰則ではなく、会社法上の一般的な義務違反に対する過料であり、対象は会社(法人)で、個人事業主には及びません。
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このように、電子帳簿保存法への未対応をめぐる罰則は、電帳法だけで完結するものではなく、青色申告制度・加算税制度・会社法という既存の制度の組み合わせで成り立っています。いずれも要件を伴うため、過度に恐れる必要はありませんが、正しく対応しておくに越したことはありません。
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ソフトを使わない運用の限界と、低コストで対応する選択肢
ここまで見てきたとおり、ソフトを使わなくても電子帳簿保存法には対応できます。ただし、手作業の運用には限界もあります。ここからは、どこまでが手作業で無理なく回り、どこからシステムを検討すべきかの判断軸を整理します。
手動管理のデメリット(人的ミス・データ紛失・税務調査時の負担)
ファイル名ルールや索引簿による手動管理は、件数が少ないうちは十分に機能します。一方で、取引が増えてくると次のような負担が目立ちやすくなります。
- 人的ミス:ファイル名の付け間違いや索引簿への記入漏れが起きると、検索要件を満たせなくなります。担当者ごとに運用がばらつくリスクもあります。
- データの紛失:保存先のフォルダを誤って削除したり、バックアップを取り忘れたりすると、原本であるデータそのものを失いかねません。
- 税務調査時の負担:調査でデータの提示を求められたとき、手作業で該当データを探し出すのに時間がかかります。索引簿と実データの照合も人手頼みになります。
ソフトなし/低コストシステムの損益分岐の判断軸
手作業を続けるか、低コストのシステムに切り替えるかは、次の3つの軸で考えると判断しやすくなります。
- 取引件数:電子取引が月に数件程度ならファイル名ルールで十分ですが、月数十件を超えると索引簿への手入力が重荷になり、自動で保存・整理される仕組みの利点が大きくなります。
- 人員・体制:経理の担当者が限られていたり、複数人で分担していたりする場合、運用ルールの統一が難しくなります。システム側でルールを強制できると属人化を防げます。
- 税務調査への対応負担:検索・提示に手間をかけたくない、あるいは要件充足を確実にしたい場合は、JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)の認証を受けたソフトを使うと要件を満たしやすくなります。
近年は、月額数千円から使えるクラウド会計ソフトのほか、記帳ごと専門家に任せられる代行サービスもあります。手作業の限界を感じ始めたら、次章で紹介する選択肢と、手元での運用コスト(時間・ミスのリスク)を比べてみるとよいでしょう。
低コストで電子帳簿保存法に対応できる会計システムの比較
ここからは、手作業の運用から切り替える場合の候補を紹介します。自分でソフトを操作して低コストに済ませる方法と、記帳ごと専門家に任せる方法では性格が異なるため、月額料金だけでなく「どこまで自分で手を動かすか」もあわせて見てください。まずは主要な項目を一覧で比較できるよう整理しました。
| サービス名 | Tenbook(テンブック) | 弥生会計 Next | freee会計 |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 月額費用 | 29,500円〜(免税事業者) | 2,900円〜(税抜・年契約の月換算) | 2,980円〜(法人・税抜年払い) |
| 電帳法対応 | 契約者向けソフト「10book」で電子取引データの証憑保存・支払管理に対応 (公式サイトにJIIMA認証の記載なし) | 本体はJIIMA認証(優良な電子帳簿)を取得。電子取引データの保存は連携アプリ「弥生証憑 Next」が担う | 改正電帳法に全プラン対応・JIIMA認証取得。電子取引データ保存もfreee会計のみで対応可能 |
| 対象 | 中小企業・スタートアップ (創業期〜売上5億円以下) | 法人専用 (個人事業主は対象外) | 個人事業主〜中小・上場企業 (個人事業主向けプランあり) |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | サービス詳細を見る |
1. Tenbook(テンブック)(シンアカウンティングサービス株式会社)

Tenbook(テンブック)は、公認会計士・税理士が運営するシンアカウンティングサービス株式会社が提供する、記帳代行から決算・申告までをオンラインで一括代行する会計サービスです。「もう手作業で管理し続けたくない」という段階にある企業にとって、ソフトを自分で使いこなすのではなく、専門家にまとめて任せられる点が特徴です。
契約者には、会計・経理・給与計算を1つにまとめたクラウド会計ソフト「10book」が無料で提供され、電子帳簿保存法に対応した証憑保存や支払管理もこのソフト側で行えます。
料金は初期費用0円、月額は免税事業者で29,500円、課税事業者で43,500円から。記帳の手間ごと外注できる分、会計ソフトを自分で使う場合より月額は高めですが、創業期から売上5億円以下ほどの中小企業・スタートアップで、経理に人や時間を割きにくい事業者の受け皿になります。
経理を社内の限られた人員で担い続けることには、ファイル名規則や索引簿の運用が特定の担当者に依存し、その退職で業務が立ち行かなくなるリスクもあります。こうした現場の課題について、同社はインタビューで次のように述べています。
それと、経理担当者の退職などで業務が不安定になるケースもよくあります。属人的なフローになっていると引き継ぎが大変ですし、退職に伴って経理が回らなくなるリスクが出てきます。そこを専門家に任せることで、経理業務の安定性を提供したいと考えています。
2. 弥生会計 Next(弥生株式会社)

会計ソフトを長年提供してきた弥生株式会社が、2025年に投入した法人専用のクラウド会計サービスが弥生会計 Nextです。帳簿・決算書の作成に加え、請求業務や証憑保存までを同じシステム内で完結できます。料金はエントリープランが年額34,800円(税抜、月あたり約2,900円)からで、初期費用は0円。クラウド会計を低コストで始めたい法人に向いています。
電子帳簿保存法との関係では、弥生会計 Next はJIIMAの「電子帳簿ソフト法的要件認証」を取得しています。ただしこの認証は帳簿の電子保存(優良な電子帳簿)に対するもので、本記事の焦点である電子取引データ(PDF請求書など)の保存は、連携アプリ「弥生証憑 Next」が担う形です。
弥生会計 Next は法人専用で、個人事業主は対象外である点にも注意が必要です(個人事業主向けには「やよいの青色申告 オンライン」など別系統の製品があります)。
3. freee会計(フリー株式会社)

freee会計は、個人事業主から中小企業・上場企業までを幅広くカバーするクラウド会計ソフトです。銀行口座やクレジットカードと連携してデータを自動取得し、証憑を取り込むだけで仕訳・保存まで進む設計のため、手作業の記帳そのものを減らせます。個人事業主も対象に含まれるので、法人専用の弥生会計 Next ではカバーしきれない層にも選択肢になります。
電子帳簿保存法については、公式サイトで「全てfreee会計のみで対応可能」と案内されており、改正電帳法への対応やJIIMA認証の取得実績があります。
出典・参考資料(1件)
料金は法人向けの最小プランで月額2,980円(税抜、年払い)から、個人事業主向けのプランも用意され、いずれも初期費用は0円。30日間の無料トライアルで使用感を試せます。
ここで紹介した3つ以外も含め、電子帳簿保存法への対応をうたった会計ソフトを、JIIMA認証の区分やタイプ別に比べたい場合は、次の記事で横並びに比較しています。
会計データの保存だけでなく、資金繰りや予実管理まで含めて効率化したい場合は、財務管理システムの導入も選択肢になります。次の記事では、財務管理システムの機能・料金やタイプ別の選び方を詳しく解説しているので、導入を検討される方はあわせてご覧ください。
まとめ
電子帳簿保存法のうち義務なのは電子取引データ保存だけで、専用ソフトの導入は法律で求められていません。ソフトを使わずに対応するなら、次の準備で保存要件を満たせます。
- 真実性の確保(手順1):国税庁のひな形をもとに事務処理規程を定め、データを勝手に訂正・削除しないルールを運用します。
- 可視性の確保(手順2):ファイル名規則・フォルダ構成・Excel索引簿で、日付・金額・取引先から検索できる状態にします。
- 自己判定:前々事業年度の売上高5,000万円以下なら検索要件が緩和され、相当の理由があれば猶予措置も使えます。宥恕措置は終了済みで、紙だけの保存は認められない点に注意します。
取引件数が増えて手作業が重荷になってきたら、月額数千円から使える低コストのクラウド会計ソフトや、記帳ごと任せられる代行サービスへの切り替えも選択肢です。手元での運用コストと比べて、無理のない方法を選んでください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 電子帳簿保存法とは何ですか?
A. 電子帳簿保存法とは、帳簿や書類を電子データで保存することを認める法律で、正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。
保存方法は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3区分に分かれ、すべての事業者に義務付けられているのは、メールやWebでやり取りした取引データをデータのまま残す「電子取引データ保存」だけです。残る2区分は任意です。
Q. 電子帳簿保存法はソフトを使わないで対応しても違法ではないですか?
A. 専用ソフトを使わずに対応しても違法ではありません。法律が義務付けているのはデータを要件に従って保存することであって、特定のソフトやシステムの導入ではないためです。
国税庁の一問一答でも、保存義務の内容は「取引情報を電磁的記録により保存しなければならない」ことと説明されています。Excelやフォルダ、事務処理規程といった手元の手段で真実性の確保・可視性の確保という要件を満たせば、ソフトなしの運用でも法令に適合します。
出典・参考資料(1件)
Q. 電子帳簿保存法の税務調査では電子取引データについて何を見られますか?
A. 税務調査では、電子取引データそのものが保存されているか、日付・金額・取引先で検索して提示できるかが確認されます。具体的には、税務職員からのダウンロードの求め(データの提出)に応じられること、必要なデータをすぐに探し出して画面や書面で示せることが求められます。
ファイル名規則やExcel索引簿で検索できる状態を整え、原本のデータを削除せず残しておけば、ソフトがなくても調査に対応できます。ただし売上規模によっては、検索機能の確保そのものが不要になる場合があります。
出典・参考資料(1件)
Q. 前々事業年度の売上高が5,000万円以下なら電子帳簿保存法の何が免除されますか?
A. 前々事業年度(個人事業者は前々年)の売上高が5,000万円以下の事業者は、検索機能の確保(索引簿やファイル名規則の整備)が不要になります。ただし免除されるのは検索要件だけで、電子取引データそのものを保存する義務は変わりません。
あわせて、税務調査の際に税務職員からのデータのダウンロードの求めに応じられる状態にしておく必要があります。保存自体を省けるわけではない点に注意してください。
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Q. 個人事業主も電子帳簿保存法への対応が必要ですか?
A. 個人事業主も、電子取引を行っていれば電子取引データ保存への対応が必要です。所得税の保存義務者が対象に含まれ、法人か個人かは問われないためです。
ただし会社法976条の過料は法人が対象で個人事業主には及ばず、国税庁は事務処理規程のひな形も個人事業者用を別途用意しています。前々年の売上高が5,000万円以下であれば、法人と同じく検索要件が緩和されます。電子取引が1件もない場合は、保存義務自体が発生しません。
Q. 電子帳簿保存法に対応しないと、すぐに罰則が科されますか?
A. 対応できていなくても、すぐに自動で罰則が科されるわけではありません。青色申告の承認取消は、違反の程度・記帳状況・改善可能性を総合的に勘案して判断される運用で、要件を満たせていないだけで直ちに取り消されるものではありません。
重加算税の10%加重は隠蔽・仮装といった不正があった場合の措置であり、会社法976条の過料も法人の帳簿義務違反に対するものです。いずれも要件を伴うため過度に恐れる必要はありませんが、指摘があれば速やかに改善する姿勢が求められます。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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