ランサムウェアによる業務停止、取引先を経由した不正アクセス、巧妙化する標的型メール。報道で見聞きする攻撃は多く、「自社がいま最も備えるべき攻撃はどれなのか」「何から手を付ければよいのか」が分かりにくいのが実情ではないでしょうか。
本記事は、企業(法人)が自社の業務端末・社内ネットワーク・データを守るためのサイバー攻撃対策を扱います。個人向けウイルス対策ソフトの売れ筋ランキングではありません。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)や警察庁といった公的機関が公表する「いま企業が狙われている攻撃の順位」を手がかりに、備えるべき優先度を整理します。
攻撃の順位を示したうえで、それぞれの攻撃の手口・代表的な被害・取るべき対策をセットで解説し、守る対象(端末・メール・ID・データ・監視運用)ごとにどの対策・どの製品が対応するかまで整理します。何から対策すべきか迷っている情報システム・セキュリティ担当の方が、自社の優先順位を判断するための材料としてご活用ください。
目次
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いま企業が狙われるサイバー攻撃ランキング(IPA 情報セキュリティ10大脅威 2026・組織編)
ここからは、いま企業がどんな攻撃に狙われているのかを、公的機関が公表する順位で確認します。最も広く参照されているのが、IPAが毎年公表する「情報セキュリティ10大脅威」です。
2026年 組織編の順位一覧(1〜10位)
IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織向けの順位は、以下のとおりです。カッコ内は、その脅威が過去に選出された連続年数・通算回数を示しています。
情報セキュリティ10大脅威 2026 [組織]
出典:情報セキュリティ10大脅威 2026 [組織]|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
1位 ランサム攻撃による被害(11年連続11回目)
2位 サプライチェーンや委託先を狙った攻撃(8年連続8回目)
3位 AIの利用をめぐるサイバーリスク(初選出)
4位 システムの脆弱性を悪用した攻撃(6年連続9回目)
5位 機密情報を狙った標的型攻撃(11年連続11回目)
6位 地政学的リスクに起因するサイバー攻撃(情報戦を含む)(2年連続2回目)
7位 内部不正による情報漏えい等(11年連続11回目)
8位 リモートワーク等の環境や仕組みを狙った攻撃(6年連続6回目)
9位 DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)(2年連続7回目)
10位 ビジネスメール詐欺(9年連続9回目)
上位には、端末やサーバーを暗号化するランサムウェア、取引先を経由して本丸へ迫るサプライチェーン攻撃、特定の組織の機密を狙う標的型攻撃、社員による内部不正が並びます。カッコ内の回数が示すように、これらは一時的な流行ではなく、長年にわたり企業を脅かし続けている脅威です。
注意したいのは、カッコ内が「連続して1位を取った年数」ではなく「連続して10大脅威に選ばれた年数と通算回数」である点です。ランサム攻撃の「11年連続11回目」は、11年続けて選出され続けているという意味であり、順位そのものは年によって変動します。
情報セキュリティ10大脅威とは(順位が決まる仕組み)
情報セキュリティ10大脅威とは、前年に社会的影響が大きかった情報セキュリティの事案から、IPAがその年に注意すべき脅威を順位づけして公表するものです。順位は一部の担当者の主観ではなく、幅広い実務家・研究者による投票で決まります。
前年に発生した情報セキュリティの事故や攻撃の状況などから、IPAが脅威候補を選定し、情報セキュリティ分野の研究者、企業の実務担当者など約250名のメンバーで構成する「10大脅威選考会」の投票を経て決定したものです。
出典:「情報セキュリティ10大脅威 2026」を決定|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
約250名規模の選考会による投票という裏づけがあるため、この順位は「いま業界全体が警戒している攻撃は何か」を映す指標として活用できます。自社の対策状況と照らし合わせる出発点に向いています。
前年からの変化と初選出(AIの利用をめぐるリスク)
2026年版で最も大きな変化は、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選出され、いきなり3位にランクインしたことです。
今回、初めて脅威候補となった「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が3位にランクインしました。
出典:「情報セキュリティ10大脅威 2026」を決定|独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
IPAの解説書は、このリスクについて、AIへの理解不足による意図しない権利侵害や情報漏えい、AIが生成した結果を検証せず鵜呑みにすることによる問題、そしてAIの悪用による攻撃の容易化・巧妙化を挙げています。生成AIの業務利用が広がるなかで、新たに警戒すべき領域として浮上したといえます。
別の切り口で見るサイバー攻撃の傾向(感染経路・被害)
ここからは、10大脅威の順位を補う形で、「どこから侵入されるのか」「どんな被害が出ているのか」を公的な統計で確認します。自社の弱点がどこにあるかを考える手がかりになります。
ランサムウェアの主な侵入経路(VPN機器・リモートアクセス)
警察庁の統計によると、ランサムウェアの被害報告件数は令和7年(2025年)に226件にのぼり、高水準が続いています。
令和7年におけるランサムウェアの被害報告件数は 226 件であり、依然として高水準で推移しているところ、長期にわたり企業活動が阻害され、国民生活に影響を及ぼした被害も複数発生した。
出典:令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について|警察庁
警察庁が被害組織へのアンケート結果として報告している侵入経路の傾向を、多い順に並べると次のようになります。
- VPN機器:侵入経路の6割以上を占め、最も多い
- その他のリモートアクセス機器:リモートデスクトップ(RDP)など、社外に公開された機器
- メールの添付ファイル経由:かつて主流だったが、近年は少なくなっている
かつて警戒されたメール経由よりも、社外に公開されたVPN・リモートアクセス機器の弱点を突く手口が主流になっているのが近年の特徴です。
近年は、インターネットに露出した箇所から攻撃者が遠隔操作でネットワーク内部に侵入する手口が多くを占め、標的型攻撃メール等の添付ファイルによる感染は少なくなっている。被害組織へのアンケート結果によると、侵入経路は VPN(Virtual Private Network)機器が6割以上を占める状況である。
出典:令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について|警察庁
直近でも傾向は変わっていません。警察庁の令和8年上半期(2026年上半期)の統計では、被害報告件数は123件と、半期の件数としては統計開始以降で最多となり、侵入経路はVPN機器が約5割を占めています。社外公開しているVPN・リモートアクセス機器の保守とアクセス管理が、ランサムウェア対策の最優先事項といえます。
出典・参考資料(1件)
情報漏えい・業務影響で見る被害の深刻さ
被害の深刻さは、漏えいした個人情報の件数や、業務停止の長さに表れます。公的機関が公表する確定した「被害件数のワースト順位」はありませんが、2025年には国内の大手企業でランサムウェア被害による大規模な業務停止や情報漏えいが相次ぎ、個別の事例から深刻さがうかがえます。
たとえばアサヒグループホールディングスは、2025年9月に国内で管理するシステムがランサムウェアの被害に遭い、受注・出荷の停止や個人情報の漏えいが生じたと公表しています。通販企業のアスクルも2025年10月にランサムウェア被害で業務が停止しました。いずれも、一社の被害が取引先や消費者の生活にまで波及した事例です。
被害は大企業だけの問題ではありません。警察庁の統計では、ランサムウェア被害企業の規模別の内訳は、中小企業が約6割を占めています。業種別では製造業が約4割にのぼり、復旧に総額1,000万円以上を要した組織の割合は全体の5割を超えています。規模や業種を問わず、被害に遭えば高額の復旧費用が発生しうることを前提に備える必要があります。
実名企業の被害や侵入経路から、自社が取るべき対策を具体的に学びたい場合は、以下の記事でランサムウェアの事例を詳しく取り上げています。
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主要な攻撃ごとの手口・被害・対策(順位の上位から)
ここからは、IPAの10大脅威で上位に挙がった攻撃を順に取り上げ、それぞれの手口・代表的な被害・取るべき対策を整理します。各見出しの番号はIPAの順位に対応しており、順位の高い攻撃から、自社に関係するものを確認してください。
6位の「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」は、一企業が単独で技術的な対策を取りにくい脅威で、DDoS対策や標的型攻撃への備えといった既存の対策の延長で備えるため、以下では1位から5位、7位以降を順に取り上げます。
1. ランサムウェア攻撃
ランサム攻撃は、脅迫により金銭を要求する攻撃です。主にデータを暗号化するランサムウェアを用いますが、暗号化せずに盗んだデータの公開をちらつかせて脅す「ノーウェアランサム」もあります。10大脅威で11年連続の選出が続き、2026年版でも1位に挙げられている脅威です。
主な手口:前述のとおり、VPN機器やリモートアクセスの脆弱性・認証の隙を突いてネットワーク内部へ侵入し、端末やサーバーを暗号化します。侵入後は社内を横移動して被害範囲を広げる手口が一般的です。
代表的な被害:業務システムの停止による受注・出荷の長期停止、個人情報の漏えい、高額な復旧費用が生じます。前述のアサヒグループやアスクルのように、被害が取引先や消費者にまで波及することもあります。
取るべき対策:VPN・リモートアクセス機器の脆弱性修正と多要素認証の徹底が入口対策の柱です。侵入を前提に、端末の不審な挙動を検知するEDR(エンドポイントでの検知・対応)や、ネットワークの通信を監視する仕組みを組み合わせるのが有効です。万一への備えとして、書き換えできない形式でのバックアップ(イミュータブルバックアップ)と復旧手順の整備も欠かせません。
予防・バックアップ・感染時の対応まで、ランサムウェア対策の進め方を順を追って確認したい場合は、以下の記事で基本をまとめて解説しています。
2. サプライチェーン・委託先を狙った攻撃
サプライチェーン攻撃は、標的とする組織よりセキュリティが手薄な関連会社や業務委託先を攻撃し、そこを足がかりに本来の標的の情報を狙う手口です。8年連続で2位に入っています。
主な手口:取引先や委託先の侵害されたシステム・アカウントを経由して標的へ接近します。信頼関係のある相手からの通信やファイルを装うため、受け手が警戒しにくい点が特徴です。
代表的な被害:委託先経由での顧客情報の流出が典型です。自社に落ち度がなくても、取引関係を通じて被害が連鎖します。
取るべき対策:IPAは、信頼できる委託先・取引先・サービスの選定と、委託先のセキュリティ対策状況や情報資産の管理実態を定期的に確認できる契約を対策に挙げています。取引先に求めるセキュリティ要件を定め、自社が預ける情報の範囲とアクセス権を最小限に絞ることが基本です。
サプライチェーン攻撃の具体的な手口や実際の被害事例、取引先を含めた対策をさらに詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
3. AIの利用をめぐるサイバーリスク
2026年版で初めて選出され、3位に入った新しい脅威です。生成AIの普及に伴って浮上した、幅広いリスクをまとめた項目です。
主な手口・リスク:大きく分けて、社内でのAI利用に伴うリスク(機密情報の入力による漏えい、生成結果を検証せず鵜呑みにする問題)と、攻撃者がAIを悪用して攻撃を容易化・巧妙化させるリスクの両面があります。
代表的な被害:機密情報をAIサービスに入力したことによる情報漏えいや、AIで巧妙化したフィッシング・なりすましによる被害が想定されます。
取るべき対策:社内でのAI利用ルール(入力してよい情報の線引き、生成結果の検証)を定めることが第一歩です。AIで巧妙化した攻撃に対しては、後述するメール対策や多要素認証といった既存の防御を底上げして備えます。
4. システムの脆弱性を悪用した攻撃
OS・ソフトウェア・ネットワーク機器に存在する脆弱性(セキュリティ上の欠陥)を突く攻撃です。6年連続で選出されています。
主な手口:公開された脆弱性情報をもとに、修正プログラム(パッチ)が適用されていない機器を狙います。とくに社外に公開されたVPN機器やサーバーが標的になりやすく、ランサムウェアの侵入口にもなります。
代表的な被害:脆弱性を突かれた不正アクセス、侵入の起点化、情報の窃取につながります。
取るべき対策:資産(機器・ソフトウェア)を棚卸しし、修正プログラムを速やかに適用する運用が基本です。自社では把握しきれない弱点を洗い出すために、脆弱性診断を定期的に実施する方法もあります。
実際の脆弱性診断では、どのような弱点が見つかるのでしょうか。ネットワーク内部の脆弱性診断を手がける株式会社SYNCHROの北口氏は、見落とされやすい機器としてオフィスの複合機・コピー機を挙げています。

工場出荷時の初期パスワードのまま使われているお客様がほとんどでして、大手メーカーの初期IDパスワードはインターネットで検索すればすぐ出てきてしまいます。そのままにしておくと、万が一ウイルスが内部に入り込んだ際に、簡単に遠隔操作で乗っ取られてしまうリスクがあります。
5. 機密情報を狙った標的型攻撃
標的型攻撃とは、特定の組織に対して行われる諜報的な攻撃で、主に機密情報の窃取を目的とします。11年連続で選出され続けている脅威です。
主な手口:業務に関係があるように装ったメール(標的型攻撃メール)や、取引先になりすました連絡で、不正なファイルやリンクを開かせて侵入します。
代表的な被害:技術情報・顧客情報などの機密情報が、気づかれないまま長期間にわたって窃取される恐れがあります。
取るべき対策:入口となるメールの検査(不審な添付・URLの検知)と、社員が不審なメールを見分けられるようにする教育が有効です。侵入後に備えて、端末や通信の監視で異常を早期に検知する仕組みを組み合わせるのも有効です。
7. 内部不正による情報漏えい
内部不正とは、組織が持つ技術情報や顧客情報などの秘密情報を、従業員や元従業員が持ち出したり、第三者へ提供したりする不正行為を指します。外部からの攻撃ではなく、内部に起因する脅威です。
主な手口:アクセス権限を使った情報の持ち出し、退職時のデータ持ち出し、委託先での不正などがあります。2025年には、ソフトバンクの委託先企業から約14万件の顧客情報が流出した可能性があると公表された事例もありました。
代表的な被害:顧客情報・技術情報の流出による信用の失墜や、損害賠償につながります。
取るべき対策:アクセス権限を業務に必要な最小限に絞り、誰が何にアクセスしたかを記録・監視することが基本です。重要データの持ち出しを検知・制御する仕組み(情報漏えい対策)も有効です。
出典・参考資料(1件)
内部不正がなぜ起こるのかを、人的・組織的な原因の両面から理解したうえで対策を考えたい場合は、以下の記事で詳しく解説しています。
8. リモートワーク環境を狙った攻撃
在宅勤務などで使うVPN・リモートアクセスの仕組みや、社外へ持ち出した端末を狙う攻撃です。6年連続で選出されています。
主な手口:VPN機器の脆弱性や、使い回されたパスワードを突いて社内ネットワークへ侵入します。前述のとおり、ランサムウェアの主要な侵入経路とも重なります。
代表的な被害:リモート経由の不正侵入や、社外に持ち出した端末の紛失・盗難による情報漏えいが生じます。
取るべき対策:VPN・リモートアクセス機器の保守と多要素認証を徹底し、持ち出し端末のデータを端末内に残さない仕組み(データレス化)や暗号化で、紛失・盗難時の漏えいを防ぎます。
9. DDoS攻撃
DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)は、乗っ取った多数の機器から大量のアクセスを一斉に送りつけ、Webサイトやサービスを高負荷状態にして利用できなくする攻撃です。
主な手口:ボットネットと呼ばれる乗っ取り機器群から、標的のサービスへ大量の通信を送り、回線やサーバーの処理能力を飽和させます。
代表的な被害:Webサイト・オンラインサービスの停止による機会損失や、復旧対応の負担が生じます。
取るべき対策:大量通信を検知・遮断するDDoS対策サービスや、通信を分散させるCDN(コンテンツ配信網)の利用が有効です。自社サービスの重要度に応じて、あらかじめ対策の有無を検討しておくことが望まれます。
10. ビジネスメール詐欺(BEC)
ビジネスメール詐欺(BEC:Business E-mail Compromise)は、取引先や経営層になりすました偽のメールで、偽の口座に金銭を振り込ませる攻撃です。9年連続で選出されています。
主な手口:経営者や取引先の担当者を装い、「振込先が変更になった」などと偽って送金を指示します。マルウェアを使わず、人の思い込みを突く点が特徴です。
代表的な被害:偽の口座への送金による直接的な金銭被害が生じます。
取るべき対策:なりすましメールを見抜く送信ドメイン認証(SPF・DKIM・DMARC)やメールの検査に加え、振込先変更などの重要な連絡は、メール以外の手段で確認する業務ルールを定めることが効果的です。
出典・参考資料(1件)
何から対策すべきか(投資・対策の優先順位の付け方)
攻撃の種類は多く、すべてに同時に対応するのは現実的ではありません。ここでは、限られた予算と人員のなかで優先順位をどう付けるかの考え方を整理します。

基本の考え方は、攻撃の「順位」と「自社の弱点」が重なるところから手を付けることです。10大脅威の順位は、発生件数そのものの順位ではなく、社会全体での警戒度(起こりやすさや影響の大きさ)を映す指標です。この点をふまえ、自社が使っている仕組みのうち上位の攻撃にさらされる部分を見極めることが重要です。
10大脅威で上位のランサムウェアは、侵入経路の多くがVPN・リモートアクセス機器に集中しています。社外に公開している機器の脆弱性修正とアクセス管理は、多くの企業にとって投資対効果の高い最優先事項といえます。
優先順位は自社の環境によって変わります。VPNを使っておらずクラウド中心の環境であれば、入口になりやすいメール対策(なりすまし・不審メールの検査)と多要素認証から着手すると効果的です。Webサービスを主力とする事業なら、DDoS対策や標的型攻撃への備えの優先度が上がります。自社が持つ守る対象(レイヤー)のうち、弱い部分から埋めていく発想が実務的です。
次に、被害が出たときの影響の大きさで優先度を考えます。前述のとおり、ランサムウェア被害の約6割は中小企業で、復旧に総額1,000万円以上を要した組織も5割を超えています。規模が小さいから狙われにくいとはいえず、事業停止が経営に直結しやすい中小企業ほど、侵入を防ぐ入口対策と、万一に備えたバックアップを優先する価値があります。
とくに中小企業で、限られた予算と人員のなかで何から着手すべきかを、優先順位と費用感まで具体的に知りたい場合は、以下の記事が参考になります。
一方で、地政学的リスクに起因する攻撃のように、一企業が単独では技術的な対策を取りにくい脅威もあります。そうした脅威に振り回されるより、自社でコントロールできる範囲から優先的に手を付けるのが現実的です。
人手が足りず、製品を導入しても運用しきれないという場合は、監視や検知後の対応を外部の専門事業者に任せる選択肢もあります。24時間の監視を担うSOC(セキュリティ監視を行う専門組織)や、検知から初動対応までを代行するMDR(検知・対応を代行するサービス)を使えば、専任担当者がいなくても運用を回せます。
製品を入れても対応する人がいなければ被害は防げないため、運用体制もあわせて優先順位に組み込むことが大切です。
MDRは、代行する範囲や課金単位、24時間監視の中身がサービスごとに異なります。各社の違いを比較して自社に合うものを選びたい場合は、以下の記事をご覧ください。
守る対象(レイヤー)別の対策と製品の候補
ここからは、これまで見てきた攻撃を「守る対象(レイヤー)」ごとに整理し、どの攻撃にどの対策が対応するかを一覧にします。自社でどのレイヤーが手薄かを確認する際にご活用ください。
| 守る対象(レイヤー) | 端末(PC・サーバー) | メール・Web | 脆弱性管理・診断 | ID・アクセス権限 | 社内データ・情報漏えい | 監視・運用 | バックアップ・復旧 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 主に対応する攻撃 | ランサムウェア/標的型攻撃 | 標的型攻撃メール/BEC/ランサムウェア | システムの脆弱性を悪用した攻撃 | リモートワーク環境を狙った攻撃/不正アクセス | 内部不正/端末の紛失・盗難 | ランサムウェア/不正アクセス(侵入後の検知) | ランサムウェア(被害時の事業継続) |
| 対策の型 | EDR・XDR(端末の不審な挙動を検知・対応)、ウイルス対策 | メールの検査・無害化、送信ドメイン認証(SPF・DKIM・DMARC) | 資産の棚卸し・修正プログラム(パッチ)の適用、脆弱性診断 | 多要素認証、シングルサインオン、アクセス制限(ゼロトラスト) | データの持ち出し制御、端末のデータレス化・暗号化 | ネットワーク監視(NDR)、ログ監視、SOC・MDR(外部委託) | イミュータブルバックアップ、災害復旧(DR) |
一つの製品ですべてのレイヤーを守れるわけではありません。自社の弱点があるレイヤーから優先的に対策を組み合わせる「多層防御」の考え方で選ぶのが基本です。次の章では、各レイヤーに対応する具体的なサービスを紹介します。
本記事で紹介するのは代表的なサービスの一例です。守る対象ごとに社内セキュリティソリューションをより幅広く比較したい場合は、以下の記事でタイプ別の違いと選び方を解説しています。
社内セキュリティソリューション比較|守る対象別のタイプ・代表サービスと選び方
社内のセキュリティを強化したいものの、端末の保護から不正アクセス対策、情報漏えいの防止まで課題が広く、何から手をつければよいか判断がつかないという声は少なくありません。テレワークやクラウド利用が定着し、社外に持ち出される端末やIDが増えたこ…
サイバー攻撃対策に役立つサービス
ここからは、前章のレイヤーごとに、企業向けのサイバー攻撃対策サービスを紹介します。まず各サービスの対応レイヤーや提供形態を一覧で比較し、そのうえで個別に特徴を見ていきます。
| サービス名 | CloudGate UNO | Network Blackbox | KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージ | Shadow Desktop | Trend Vision One | Acronis Cyber Protect Cloud | FortiMail |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 守る対象(レイヤー) | ID・アクセス権限 | 監視・運用 | 脆弱性診断・バックアップ (予防・復旧) | 社内データ・情報漏えい | 端末(EDR/XDR) | 端末(EDR/XDR)+ バックアップ・復旧 | メール・Web |
| 主な対策・機能 | シングルサインオン・多要素認証(IDaaS)。パスキー(FIDO2)対応、端末・場所・時間でのアクセス制限 | ネットワーク監視(NDR)。フルパケットキャプチャで侵入後の不審通信・横移動を検知し、事後調査(フォレンジック)に対応 | ネットワーク内部からの月次脆弱性診断と、隔離経路へのイミュータブルバックアップ。サイバー保険を付帯 | データレスクライアント。PC内データを外部ストレージに分離し端末に残さない。リモートワイプ(オプション) | 統合セキュリティ基盤。端末を軸に複数レイヤーの情報を相関分析して脅威を検知(XDR) | バックアップとアンチマルウェア・EDR/XDRを1製品に統合。改ざん防止バックアップで被害後の復旧にも対応 | メールセキュリティ。既知/疑わしい/未知/BECの4分類とサンドボックス検査、送信ドメイン認証(SPF/DKIM/DMARC) |
| 提供形態 | クラウド(IDaaS/SaaS) | 非公開(ミラーリング方式で導入) | パッケージ(リモート診断+バックアップ) | ソフトウェア(既存PCにインストール) | SaaS | SaaS(MSP・代理店経由が中心) | アプライアンス/VM/クラウド |
| 料金の目安 | 月額400円〜/ユーザー(税抜) | 要問い合わせ | 月額1,250円〜/台 | 月額950円〜/ユーザー(税抜) | 要問い合わせ(クレジット制) | 要問い合わせ | 要問い合わせ |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | オンライン相談を予約 | オンライン相談を予約 | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
※料金は2026年10月時点の各社公式情報にもとづく目安です。「要問い合わせ」は公式が料金を公開していないものです。
1. CloudGate UNO(株式会社インターナショナルシステムリサーチ)

CloudGate UNOは、ゼロトラストの考え方にもとづくシングルサインオン(一度の認証で複数のクラウドサービスを利用できる仕組み)を提供するIDaaS(クラウド型のID管理サービス)です。ID・アクセス権限のレイヤーを担い、リモートワーク環境を狙った攻撃や不正アクセスへの備えとして機能します。
特徴は、フィッシングに強いパスキー(FIDO2)によるパスワードレス認証に対応している点です。SMS認証やワンタイムパスワードを突破する手口が出てくるなかで、より安全な認証方式を選べます。アクセス制限は「端末・場所・時間」の3つの軸で細かく設定でき、私用端末からのアクセス禁止や時間帯による制御も可能です。国産の自社開発で、導入前から日本語でサポートを受けられます。
2. Network Blackbox(株式会社クワッドマイナージャパン)

Network Blackboxは、ネットワークを流れる通信を取り込んで監視・分析するNDR(ネットワークでの検知・対応)ソリューションです。監視・運用のレイヤーを担い、端末だけでは気づきにくい侵入後の不審な通信や、社内での横移動の検知を得意とします。
公式ページによると、フルパケットキャプチャ(通信パケットを取りこぼしなく収集する方式)を基盤としています。シグネチャによる既知攻撃の検知、ユーザー行為にもとづく検知、送受信データの内容を分析する検知を組み合わせます。
保存した通信を遡って調べられるため、インシデント発生後の調査(フォレンジック)にも対応します。EDRやSIEM(ログを集約して分析する仕組み)とは連携して補完する設計で、ネットワーク層の監視を担います。
3. KATABAMI サイバーセキュリティ対策パッケージ(株式会社SYNCHRO)

KATABAMIは、インターネット上に暗号化された専用の通信経路(ステルス回線)を構築する国産技術をベースに、脆弱性診断とバックアップを提供するパッケージです。専任のセキュリティ担当者を置きにくい企業が、複数の対策をまとめて導入しやすい点が特徴です。
従来は現地に出向いて行っていたネットワーク内部の脆弱性診断を、KATABAMIの通信経路を使ってリモートで実施できるため、立ち会いの工数を抑えて継続的に受けられます。あわせて、書き換えできない形式のバックアップ(イミュータブルバックアップ)も提供し、ランサムウェア被害時の復旧に備えます。脆弱性診断とバックアップを組み合わせた、中小企業向けの総合的な対策パッケージです。
ランサムウェア対策としてバックアップを用意する際には、バックアップそのものが攻撃対象になる点に注意が必要です。北口氏は、被害の実態とバックアップ経路の課題について次のように説明しています。

現状、ランサムウェア攻撃を受けた企業のうち、約8割近くでバックアップデータも潰されていると、警察からも発表されています。バックアップ経路は通常のネットワーク上にあるため、ランサムウェアを仕掛けてきた攻撃者にもたどり着けてしまうものがほとんどだからです。
4. Shadow Desktop(アップデータ株式会社)

Shadow Desktopは、PC内のデータをクラウド等の外部ストレージに分離し、端末本体にデータを物理的に残さない「データレスクライアント」です。社内データ・情報漏えいのレイヤーを担い、端末の紛失・盗難やランサムウェアによる被害を抑えることを目的とします。
デスクトップやドキュメントなどのユーザーデータを自動で外部ストレージへ退避させるため、端末が盗まれても本体にデータが残らず、情報漏えいのリスクを下げられます。公式は、持ち出しPCの情報漏えい対策やランサムウェア・BCP対策、遠隔でのデータ消去(リモートワイプ)を導入メリットとして挙げ、VDI(仮想デスクトップ)に代わる低コストな運用方法として位置づけています。
5. Trend Vision One(トレンドマイクロ株式会社)

Trend Vision Oneは、トレンドマイクロが提供する統合セキュリティプラットフォームです。端末(EDR・XDR)のレイヤーを中心に、複数の領域の情報を相関させて脅威を検知します。ランサムウェアや標的型攻撃など、端末を起点とする攻撃への備えとして活用できます。
EDR(端末での検知・対応)を軸に、ネットワークなど複数のレイヤーの情報を横断して分析するXDRの考え方を採り、ばらばらに見えるアラートを関連づけて攻撃の全体像を捉えます。幅広い対策を一つのプラットフォームに統合したい企業に向いています。
本サービスは名称が見直され、現行の公式サイトでは「TrendAI Vision One」と表記されています(本記事では「Trend Vision One」の名称で表記します)。
6. Acronis Cyber Protect Cloud(Acronis International GmbH)

バックアップなどのデータ保護と、アンチマルウェア・EDR・XDRなどのサイバーセキュリティを1つのプラットフォームにまとめたのが、Acronis Cyber Protect Cloudです。バックアップ・復旧のレイヤーと端末の検知・対応のレイヤーを、1製品でまとめてカバーできる点が特徴です。
ランサムウェア対策を「侵入を防ぐ・検知する」側面と「被害に遭ってもデータを戻す」側面の両方で、同一の管理画面から扱えます。バックアップとセキュリティを統合することで、バックアップファイルの改ざん防止や、バックアップ経由での再侵入防止にもつなげられます。国内ではMSP(ITサービス事業者)や販売代理店を経由して提供されることが中心です。
7. FortiMail(Fortinet, Inc.)

Fortinetが提供するFortiMailは、メールを起点とする脅威に対応するメールセキュリティ製品です。メール・Webのレイヤーを担い、スパム・なりすまし・ビジネスメール詐欺(BEC)・ランサムウェアなどの検知・遮断を目的とします。
受信メールを既知・疑わしい・未知・BECの4段階に分類し、既知の脅威は即時にブロックします。未知の添付ファイルは連携製品による動的解析(サンドボックス検査)にかけ、安全が確認できるまで配送を保留できます。なりすまし対策として送信ドメイン認証(SPF・DKIM・DMARC)に対応し、近年はメールだけでなくブラウザやコラボレーションツールまで防御範囲を広げたラインナップに再編されています。
まとめ
いま企業が狙われるサイバー攻撃の順位は、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」で確認できます。上位にはランサムウェア、サプライチェーン攻撃、標的型攻撃、内部不正が並び、いずれも長年にわたり企業を脅かし続けている脅威です。
対策は、攻撃の順位と自社の弱点が重なるところから優先的に手を付けるのが基本です。ランサムウェアの主な侵入口であるVPN・リモートアクセス機器の管理を最優先に、端末・メール・ID・データ・監視運用・バックアップといった守る対象ごとに、多層防御の考え方で対策を組み合わせていきましょう。
人手が足りない場合は、SOCやMDRで監視・対応を外部に任せる選択肢もあります。自社に必要なレイヤーを見極めたうえで、具体的なサービスの比較・検討に進んでください。
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よくある質問(FAQ)
Q. サイバー攻撃対策とは何ですか?
A. サイバー攻撃対策とは、企業の業務端末・社内ネットワーク・データを、ランサムウェアや標的型攻撃などの脅威から守るための技術・運用・体制の総称です。ウイルス対策のような単一の製品を指す言葉ではなく、端末・メール・ID・データ・監視運用・バックアップといった守る対象(レイヤー)ごとに、それぞれに適した対策を組み合わせる考え方を含みます。
一つの製品ですべての攻撃を防げるわけではないため、自社の弱いレイヤーから優先的に対策を重ねる「多層防御」が基本になります。
Q. サイバー攻撃対策は何から始めればよいですか?
A. まずは、ランサムウェアの主な侵入口であるVPN・リモートアクセス機器の脆弱性修正とアクセス管理から着手するのが、多くの企業にとって投資対効果の高い出発点です。攻撃の順位(起こりやすさ・影響の大きさ)と自社の弱点が重なるところから手を付けるのが基本の考え方で、警察庁の統計ではランサムウェアの侵入経路の6割以上をVPN機器が占めています。
そのうえで、万一侵入された場合に備えた書き換えできない形式のバックアップ(イミュータブルバックアップ)を整えると、被害時の事業継続につながります。守る対象別の優先順位の付け方は、本記事の「何から対策すべきか」の章で詳しく解説しています。
Q. 既存のウイルス対策ソフトだけでサイバー攻撃を防げますか?
A. 従来のウイルス対策ソフトだけでは、ランサムウェアや標的型攻撃といった巧妙化した脅威を防ぎきるのは難しいのが実情です。従来型のウイルス対策は、既知のマルウェアをパターンに照らして検知する仕組みが中心のため、未知の手口や、マルウェアを使わずに正規のアカウントで侵入する攻撃を取りこぼすことがあります。
そこで、侵入されることを前提に、端末の不審な挙動を検知して対応するEDR(エンドポイントでの検知・対応)や、ネットワークの通信を監視する仕組みを組み合わせるのが有効です。ウイルス対策を土台にしつつ、検知・対応の層を足して多層で守る考え方が求められます。
Q. サイバー攻撃対策のSOCとMDRの違いは何ですか?
A. SOCはセキュリティの監視・検知を専門に行う組織を指し、MDRは検知から初動対応までを代行するサービスを指します。SOC(Security Operation Center)は24時間体制で通信やログを監視し、脅威を検知・分析する役割が中心で、検知後の対応は自社で行うのが基本です。
一方のMDR(Managed Detection and Response)は、脅威の検知に加えて、封じ込めなどの初動対応まで外部の専門事業者が代行します。製品を導入しても運用する人手が足りない場合は、これらを使って監視や対応を外部に任せる選択肢があります。
Q. 中小企業でもサイバー攻撃対策は必要ですか?
A. 規模を問わず必要です。警察庁の統計では、ランサムウェア被害企業の約6割を中小企業が占めており、規模が小さいから狙われにくいとはいえません。むしろ、専任のセキュリティ担当者を置きにくく、事業停止が経営に直結しやすい中小企業ほど、被害の影響は深刻になりがちです。
ランサムウェア被害では復旧に総額1,000万円以上を要した組織が5割を超えています。限られた予算のなかでは、侵入を防ぐ入口対策(VPN機器の管理・多要素認証)と、万一に備えたバックアップを優先する価値があります。
Q. サイバー攻撃対策の費用はどれくらいかかりますか?
A. サイバー攻撃対策の費用は、守る対象(レイヤー)と提供形態によって大きく幅があります。端末やメールの対策はクラウド型で利用人数に応じた月額課金となるものが多く、脆弱性診断やバックアップ、SOC・MDRのような外部委託はサービスの範囲や規模に応じて費用が変わります。一製品で複数のレイヤーをまとめてカバーする統合型やパッケージ型もあります。
ランサムウェア被害では復旧に総額1,000万円以上を要した組織が5割を超えており、事前の対策は被害時のコストを抑える投資ともいえます。具体的な費用は守りたいレイヤーや利用規模で決まるため、候補となるサービスの資料を取り寄せて比較するのが確実です。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
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