毎月の給与計算が特定の担当者に集中し、その人が休んだり辞めたりすると業務が止まってしまう。社会保険料率や税制の改正を毎年追いかける負担も重い。こうした悩みから、給与計算を外部へ業務委託できないかと考える企業は少なくありません。
ただ、いざ検討を始めると「どの作業までを外に出せるのか」「費用はいくらかかるのか」「無資格の会社に任せて違法にならないのか」といった疑問が次々に出てきます。
本記事では、給与計算で業務委託できる業務の範囲と、従業員数の規模別に見た委託料の相場を整理します。あわせて、社会保険労務士法や税理士法に照らして違法にならないための線引きと、委託先の種類・選び方まで解説します。委託の可否と条件をひととおり把握したうえで、自社に合う委託先の比較検討へ進めましょう。
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目次
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給与計算で業務委託できる業務の範囲【可否一覧表】
給与計算の業務委託を考えるとき、最初に押さえたいのは「何をどこまで外に出せるのか」という範囲です。給与にまつわる作業には、計算そのもののように自由に委託できるものと、資格者でなければ報酬を得て引き受けられないものが混在しています。
まずは業務単位で委託の可否と、関わる資格・法令を一覧で確認しましょう。詳しい法的根拠は違法にならないための線引きで解説します。
| 業務 | 給与計算・賞与計算 | 給与明細の作成・発行 | 社会保険料・雇用保険料の控除計算 | 給与・賞与の振込データ作成 | 年末調整の事務・計算 | 住民税の特別徴収税額の反映・更新 | 社会保険・労働保険の手続き(資格取得届・喪失届・算定基礎届などの作成・提出代行) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 委託の可否 | 委託できる | 委託できる | 委託できる | 委託できる | 条件つきで委託できる | 条件つきで委託できる | 有資格者に限る |
| 関わる資格・法令(委託先に求められる条件) | 社労士・税理士の独占業務ではなく、特別な資格は不要 | 特別な資格は不要 | 給与計算の一部。保険料の控除額計算は資格不要(下の手続き代行とは区別) | 最終承認と振込の実行は自社側で管理するのが一般的 | 計算事務は委託可。税務判断や法定調書など税務書類の作成に当たる部分は税理士の業務に該当し得る | 反映・計算の事務は委託可。給与支払報告書の作成・提出は税理士の業務に触れ得る | 社会保険労務士(社労士)の業務。無資格者が報酬を得て業として行うことは社会保険労務士法で制限される |
給与計算そのものや給与明細の発行、保険料の控除計算は、特別な資格がなくても委託できる業務です。多くの給与計算アウトソーシングや経理代行は、この範囲を中心に引き受けています。
一方で注意が必要なのが、計算した結果にもとづく社会保険・労働保険の行政手続きです。資格取得届や算定基礎届などの作成・提出代行は社労士の業務にあたるため、委託先が社労士または社労士法人であるか、提携する社労士と連携しているかを確認する必要があります。年末調整や住民税についても、計算の事務は任せられますが、税務判断や税務書類の作成に踏み込む部分は税理士が関わる領域です。
そのため実務では、給与計算そのものは代行会社が担い、社会保険手続きは社労士、税務は税理士が担当する、という役割分担で委託するのが一般的です。給与計算を引き受ける代行会社やアウトソーシングが、独占業務にあたる部分を連携する社労士・税理士に委ねる体制をとることで、違法にならない形で委託できます。
給与計算の委託料・費用相場【従業員数規模別】
委託できる範囲を把握したら、次に気になるのが費用です。給与計算の委託料は、委託先の種類や任せる業務の広さによって幅がありますが、料金の決まり方には共通した仕組みがあります。
料金は「基本料金+従業員数に応じた従量」が基本
多くの委託先は、月額の基本料金に、従業員1人あたりの単価を人数分加える形で料金を設定しています。従業員が増えるほど月額費用も上がる構造です。給与明細の発行や振込、納税、年末調整、賞与計算などは、基本料金に含めず別料金やオプションとする業者が多く見られます。
つまり費用を見積もるときは、月額の総額だけでなく「どこまでが基本料金に含まれ、どこからがオプションか」を合わせて確認することが重要になります。
従業員数の規模別に見た月額の目安
税務・会計情報メディアのMONEYIZMが給与計算代行業者・社労士事務所・税理士事務所の料金例を集計した調査では、従業員数別の月額費用の目安は次のようになっています。集計は2022年時点のため、金額そのものより「人数が増えるほど費用も上がる」「社会保険手続きや税務まで担う社労士・税理士事務所は高めになる」といった費用の傾向をつかむ目安として読んでください。実額は委託範囲や委託先によって変わります。
| 従業員数の規模 | 10名程度 | 50名程度 | 100名程度 |
|---|---|---|---|
| 給与計算代行業者の月額目安 | 約11,000円〜22,000円 | 約32,000円〜83,000円 | 約65,000円〜165,000円 |
| 社労士・税理士事務所の月額目安 | 約16,000円〜44,000円 | 約58,000円〜116,000円 | 約120,000円〜225,000円 |
※複数業者の料金例(2022年時点)をもとにした目安です。金額は税込・税抜の別が明示されていない例を含みます。
同じ人数規模でも、給与計算に特化した代行業者より、社会保険手続きや税務まで一体で担う社労士・税理士事務所のほうが費用は高めになる傾向があります(社労士・税理士が別枠になる理由は、後述の違法にならないための線引きで解説します)。委託する業務が給与計算だけなのか、年末調整や社会保険手続きまで含むのかで総額は大きく変わります。
より新しい料金の目安は、各社が公開している現行の料金から把握できます。給与計算のみの代行では、従業員数に応じて月額1万円台〜十数万円が目安です。経理ごと委託するタイプでは、記帳も含めて月額3万円台から、経理業務全体を任せる場合は月十万円前後を目安とする料金例が公開されています。
経理ごと委託する場合は給与計算のみの代行より金額の水準が上がります。実際の費用は委託範囲で大きく変わるので、相場で全体感をつかんだうえで、候補サービスの現行料金を見積もりで確認し、委託範囲に応じて比較するのが確実です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:給与計算代行を利用すべき?料金相場、アウトソーシングした方が良い企業とは|MONEYIZM(https://www.all-senmonka.jp/moneyizm/76669)
- 参考資料:Wheat Accounting 公式サービスページ(https://wheat-biz.com/accounting-service/)/マネーフォワード おまかせ経理 公式サービスページ(https://biz.moneyforward.com/ai-bpo/accounting-outsourcing/)
給与計算の業務委託は違法?適法に委託するための線引き
「無資格の会社に給与計算を任せて違法にならないか」という不安は、委託を検討する多くの担当者が抱くものです。結論から言えば、給与計算の実務そのものを外部へ委託すること自体は、一般に違法ではありません。ただし、委託する業務の種類と、委託先との契約・運用の仕方によっては、法令に触れる場面があります。ここでは「独占業務」と「偽装請負」の2つの観点から線引きを整理します。
社労士・税理士の独占業務との線引き(委託自体は適法)
給与計算の委託が問題になるとすれば、それは「計算」ではなく、計算結果にもとづく社会保険・労働保険の手続きや税務の部分です。これらは資格者の独占業務にあたる場合があります。
社会保険労務士法は、社会保険・労働保険に関する申請書等の作成や提出代行、帳簿書類の作成などを社労士の業務と定めています。そして、社労士でない者がこれらを報酬を得て業として行うことを制限しています。
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。
出典:社会保険労務士法 第27条|e-Gov法令検索
ここで制限されているのは、社会保険・労働保険の申請書等の作成や提出代行などであり、給与計算や給与明細の発行そのものは制限の対象に挙げられていません。だからこそ給与計算は無資格の代行会社にも委託でき、社会保険の手続きまで任せたい場合は、委託先が社労士(または社労士法人)であるか、社労士と連携しているかを確認すればよい、という線引きになります。
税務についても考え方は同じです。税理士法は、税務代理・税務書類の作成・税務相談を税理士業務と定め、税理士でない者がこれを行うことを制限しています。
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。
出典:税理士法 第52条|e-Gov法令検索
注意したいのは、税理士法の条文に「年末調整」という言葉は出てこない点です。年末調整の事務や計算の代行そのものは一般に税理士業務とは別に整理されます。税理士の関与が必要になるのは、年末調整に伴う税務判断や、法定調書・給与支払報告書といった税務書類の作成に当たる部分です。年末調整を丸ごと「税理士でなければできない」と考えるのではなく、税務判断・税務書類の作成の部分に注意する、という理解が正確です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:社会保険労務士法|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC1000000089)
- 出典:税理士法|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237)
偽装請負・労働者派遣にならないための線引き
もう1つ見落としやすいのが、委託の「契約形態と運用」です。業務委託(請負や準委任)のつもりでも、運用の実態によっては労働者派遣に該当し、無許可であれば偽装請負とみなされるおそれがあります。
労働者派遣法は、労働者派遣を「他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」(労働者派遣法第2条)と定義しています。つまり、委託先の担当者に自社が直接指揮命令をしているかどうかが、業務委託と労働者派遣を分ける分かれ目になります。
請負として適法に成立するための基準は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)に定められています。要点は、委託先が自らの労働者を直接利用して指示・管理を行い、かつ業務を自己の責任で独立して処理していることの両方を満たすことです。
請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
出典:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)第二条|厚生労働省
一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
給与計算の委託では、委託先に自社オフィスへ常駐してもらい、業務の進め方を自社の担当者が直接指示するような運用をすると、この基準から外れて偽装請負と判断されるリスクが生じます。オンラインでデータを受け渡し、成果物(計算結果や明細)を納品してもらう形であれば、こうしたリスクは避けやすくなります。
適法な業務委託と偽装請負は、指揮命令・業務の処理・運用のあり方で分かれます。両者の違いを整理すると次のとおりです。

委託先の選定とあわせて、契約形態と日々の運用が「指揮命令を伴わない委託」になっているかを確認しておくことが大切です。
出典・参考資料(2件)
- 出典:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/360AC0000000088)
- 出典:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/000780136.pdf)
給与計算の委託先の種類と向き・不向き
給与計算の委託先にはいくつかの種類があり、任せられる業務の範囲や適法性、費用感、向いている企業規模が異なります。ここまで見てきた独占業務の線引きを踏まえると、どの種類が自社に合うかが見えやすくなります。
| 委託先の種類 | 社会保険労務士事務所・社労士法人 | 給与計算・BPO専門の代行会社 | クラウド給与システム+代行の一体型 | 経理アウトソーシング(経理ごと委託) | オンラインアシスタント・フリーランス |
|---|---|---|---|---|---|
| できる業務範囲 | 給与計算に加え、社会保険・労働保険の手続きまで一体で対応 | 給与・賞与計算を中心に、年末調整などをオプションで対応 | 給与システムの導入と計算代行をセットで提供 | 記帳・月次決算など経理全般の一部として給与計算も対応 | 給与計算の一部作業を低コストで依頼 |
| 適法性のポイント | 社会保険の手続きを有資格者が担える | 社会保険手続きは社労士と連携、税務は税理士と連携する形が一般的 | 社会保険・税務は連携先に委ねる建付けが多い | 税務は税理士、社会保険は社労士と連携 | 社会保険・税務の独占業務は委託不可。指揮命令の有無に注意 |
| 費用感 | やや高め | 中程度 | 中程度 | 委託範囲により変動 | 低め |
| 向く企業 | 社会保険手続きまで丸ごと任せたい企業 | 給与計算の実務を効率化したい中堅〜大企業 | システムごと刷新して効率化したい企業 | 経理担当者がおらずバックオフィスを広く任せたい企業 | 小規模で一部の作業だけ切り出したい企業 |
社会保険の手続きまで一本化したいなら社労士事務所、給与計算の実務を効率化したいなら専門の代行会社、経理ごと任せたいなら経理アウトソーシング、というように、外に出したい業務の範囲で向く種類は変わります。オンラインアシスタントやフリーランスに依頼する場合は、社会保険や税務の独占業務を任せられない点と、指揮命令を伴わない委託になっているかに特に注意が必要です。
給与計算だけでなく、記帳や月次決算まで含めて経理をまとめて外に出したい場合は、経理アウトソーシングが選択肢になります。委託できる業務範囲・料金・タイプ別の選び方は、以下の記事で詳しく比較しています。
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違法にならない委託先の選び方と契約時のチェックリスト
委託先の種類がわかったら、実際にどう選び、どんな条件で契約すればよいかを確認しましょう。独占業務の線引きと契約時の確認事項を押さえておくと、安心して委託できます。
違法にならない委託先選びの手順
委託先は、次の順で絞り込むと自社に合う相手を見つけやすくなります。
- 委託範囲を明確にする:給与計算だけなのか、年末調整・社会保険手続き・振込まで含めるのかを先に決めておくと、必要な資格者(社労士・税理士)の連携が要るかどうかも見えてきます。
- 委託先の候補を選定する:決めた範囲に対応できる委託先の種類を絞り、社会保険手続きまで含めるなら社労士の関与、税務書類の作成が絡むなら税理士の関与が担保されているかを見ます。
- 見積もりを取って比較する:基本料金に含まれる範囲とオプションの単価を揃えると比べやすくなります。月額総額だけでなく、年末調整や賞与計算など繁忙期の費用も含めて見積もると、実際の年間コストが見えてきます。
- 契約形態と情報セキュリティを確認する:指揮命令を伴わない委託になっているか、個人情報の取り扱いが適切かを確かめます。詳しい確認項目は次のチェックリストにまとめました。
契約時の実務チェックリスト
給与データには従業員の個人情報が多く含まれるため、契約時には次の点を文書で確認しておくと安全です。
- 委託範囲の文書化:どの業務をどこまで委託するかを契約書に明記し、資格が絡む業務の担当(社労士・税理士)も合わせて確認する
- 再委託の可否:委託先がさらに別の業者へ再委託する場合の条件と、その際の管理責任を定める
- 納期・品質の取り決め(SLA):計算結果の納品スケジュールや、誤りがあった場合の対応を明確にする
- 個人情報の監督:委託先の安全管理措置を確認し、契約で取り扱いルールを定め、取扱状況を把握する
- 解約条件:契約期間・解約予告の期間と、解約時のデータ返却・消去の方法を確認する
このうち個人情報の監督については、個人情報保護法が委託元に対して委託先への監督義務を定めています。
個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
出典:個人情報の保護に関する法律 第25条|e-Gov法令検索
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、この「必要かつ適切な監督」として、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先での取扱状況の把握(定期的な監査など)の3つを挙げています。委託先が社内と同等の安全管理措置を講じているかを確認し、契約に取り扱いルールを盛り込んだうえで、運用後も取扱状況を把握しておくことが求められます。
出典・参考資料(2件)
- 出典:個人情報の保護に関する法律|e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057)
- 出典:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)|個人情報保護委員会(https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/)
給与計算を業務委託するメリット・デメリット
委託先を選ぶ前の最終確認として、業務委託のメリットとデメリットを整理します。両面を理解しておくと、自社にとって委託が適した選択かを判断しやすくなります。
業務委託するメリット
最大のメリットは、給与計算の属人化を解消できることです。担当者1人に業務が集中していると、その人の退職や休職で給与計算が止まるリスクがあります。外部のチームへ委託すれば、担当者の異動に左右されず安定して処理できます。
実際に経理・給与計算の代行を手がける株式会社Wheatへの取材でも、委託に踏み切る理由として、担当者の退職や属人化、そして人材を自社で採用する場合のコスト負担が挙げられています。

最近特に多いご相談は、「急な退職で経理が止まってしまった」「担当者にしかやり方がわからない」といった、退職と属人化にまつわる切実な課題です。自走できる経理人材を新たに採用する場合、年収600万〜700万円程度の費用負担が生じるだけでなく、採用後の教育や管理負担も決して軽くはありません。中小企業にとって、これほどの人件費を「固定費」として抱え続けることは、経営上の大きなリスクになりかねません。
毎年の法改正への対応負担が軽くなる点も見逃せません。社会保険料率や税制の改正は頻繁にあり、自社で追いかけ続けるのは負担が大きいものです。専門の委託先であれば、改正内容を反映した計算を任せられます。さらに、給与計算にかけていた時間を本来のコア業務へ振り向けられるようになり、採用や教育のコストを抑えながら専門性を確保できる点も、委託が選ばれる理由です。
業務委託するデメリット・注意点
一方で、委託には注意点もあります。給与計算の実務を外に出すと、社内にノウハウが蓄積されにくくなります。将来的に内製へ戻す場合に、進め方を把握している人がいない状態になりかねません。
また、委託先のスケジュールに合わせてデータを渡す必要があり、締め日や繁忙期の進め方は事前のすり合わせが欠かせません。給与データという機微な個人情報を外部に預けるため、情報漏えいのリスク管理も重要です。委託料に対して削減できる人件費が見合わない小規模な場合など、費用対効果が十分に出ないケースもあります。こうした点を踏まえ、委託範囲とコストを照らし合わせて判断することが大切です。
給与計算の委託先におすすめのサービスを比較
ここまでの線引きを踏まえ、給与計算を任せられる委託先の代表例を、委託先の種類の幅がわかるように選びました。下の比較表では、給与計算に特化した代行会社から経理ごと任せられるアウトソーシングまでを一覧で確認できます。
このうち、経理ごと委託できる3社については、このあと個別に紹介します。委託先を幅広く比較したい場合は、後半のカテゴリまとめ記事もあわせてご覧ください。
| サービス名 | Tenbook(テンブック) | Wheat Accounting | マネーフォワード おまかせ経理 | ペイロール | エコミック | NOC給与計算アウトソーシング(現FOC) | freee人事労務アウトソース | ラクラス | エスペイロール |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 委託先の種類 | 経理アウトソーシング(経理ごと委託) | 経理アウトソーシング(経理ごと委託) | 経理アウトソーシング(経理ごと委託) | 給与計算・BPO専門の代行会社(大企業向け) | 給与計算・BPO専門の代行会社 | 給与計算・BPO専門の代行会社(社労士法人と連携) | クラウド給与システム+代行の一体型 | 給与計算・BPO専門の代行会社(大企業向け人事BPO) | 社会保険労務士事務所・社労士法人 |
| 給与計算の位置づけ | オプション(経理代行の付随業務) | 対応業務の一つ | 対応業務の一つ | 中心業務(給与計算に特化) | 中心業務(給与計算に特化) | 中心業務(給与計算に特化) | 中心業務(システムと一体) | 対応業務の一つ(労務領域) | 中心業務(給与計算に特化) |
| 委託できる主な業務 | 記帳・月次処理・決算書作成・法人税などの税務申告 (給与計算・賞与・年末調整はオプション) | 記帳・請求書作成・経費精算・振込対応・給与計算・月次決算 (賞与計算・年末調整はオプション) | 記帳・請求・支払・給与/賞与計算・各種税金の納付・月次試算表(最短5営業日)・クラウド導入支援 (決算申告等の税務は対象外) | 給与・賞与計算・年末調整補助・地方税特別徴収補助・マイナンバー管理・入退社手続き・従業員問い合わせ対応 | 給与・賞与計算・年末調整(簡単年調)・住民税徴収額更新 (有給管理・マイナンバー収集・退職金計算などはオプション) | 給与・賞与計算・年末調整・社会保険/労働保険業務 (入退社対応・勤怠管理はオプション) | 給与・賞与計算・年末調整・入退社手続き・身上変更 | 給与計算・社会保険手続き・年末調整・入退社手続き・勤怠管理 (経理業務は対象外) | 給与・賞与計算・年末調整・有給休暇管理 (上位パッケージで社内規程構築・人事制度企画など) |
| 社会保険・税務の独占業務 | 税務は自社(公認会計士・税理士)で対応 社会保険手続きは公式に明記なし | 税務申告は連携する税理士 社保・労保の代理申請は連携する社労士(公式注記) | 決算申告等の税務は対象外(公認メンバー税理士を紹介) 社会保険手続きは公式に明記なし | 社会保険の届出代行の担い手は公式に明記なし | 社会保険手続きの代行は公式に明記なし | 社会保険・労働保険はNOC社会保険労務士法人または提携社労士が担当 | 社会保険・税務の独占業務の担い手は公式に明記なし | 社労士・税理士の独占業務は提携先と別契約 | 母体が社労士法人で社会保険手続きと一体対応 |
| 料金の目安 | 経理代行 月額29,500円〜(給与計算はオプション) | 月額30,000円〜 | 個別見積もり(例: 従業員5名規模で月10万円・税抜) | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 95,000円/月〜(50名分込み) | 要問い合わせ | 要問い合わせ |
| 対応規模 | 中小企業・スタートアップ(売上5億円以下が目安) 全国オンライン対応 | 法人のみ・年商数千万〜100億円規模 全国オンライン対応 | 中小企業(導入事例は1〜50名規模) | 大企業向け | 中小〜大企業(上限明示なし) | 主に300名以上(300名以下も相談可) | 中小〜中堅 | 大企業(従業員1,000名以上が中心) | 中小〜中堅 |
| 詳細情報 | 公式資料を見る | 公式資料を見る | ミーティングを予約する | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
※料金は各社公式の掲載時点の情報です。最新の料金・掲載状況は各サービスでご確認ください。
委託先には対応規模の向き・不向きがあります。数十名〜数百名規模の企業なら、給与計算に特化した代行会社や、経理ごと任せられるアウトソーシングが候補になります。主に大企業(300〜1,000名以上)を対象とするサービスもあるため、表の「対応規模」を自社の人数と照らし合わせて絞り込むとよいでしょう。
Tenbook(テンブック)(シンアカウンティングサービス株式会社)

公認会計士・税理士が代表を務めるシンアカウンティングサービスが運営する、クラウド型の経理代行サービスです。記帳から月次処理、決算書作成、法人税などの税務申告までをオンラインで一貫して引き受け、契約者には自社開発のクラウド会計ソフト「10book」を無料で提供します。
給与計算は経理代行の基本プランに含まれるのではなく、賞与計算・年末調整とあわせたオプションとして対応する位置づけです。給与計算だけを切り出すより、経理をまとめて委託するなかで給与計算も任せたい中小企業・スタートアップに向いています。原則3名のチーム体制で、担当者の属人化を抑えながら処理する運用が特徴です。
Wheat Accounting(株式会社Wheat)

記帳や請求書作成、経費精算、振込対応、給与計算、月次決算までを月次で代行する、スタートアップ・中小企業向けの経理アウトソーシングです。クラウド会計の導入と業務フローの設計を初期に行い、その後の運用まで一貫して担う点を強みにしています。
給与計算は対応業務に含まれ、税務申告は連携する税理士、社会保険・労働保険の代理申請は連携する社労士と対応する体制をとっています。独占業務は有資格者が担う形で、給与計算を含む経理全体を委託したい企業に適します。料金は月額30,000円からの定額プランで、全国オンラインで対応します(対象は法人のみ)。
マネーフォワード おまかせ経理(株式会社マネーフォワード)

マネーフォワード クラウドの導入支援から、記帳・支払・請求・給与計算といった実務代行までを一括で任せられる経理BPOサービスです。実務はグループ会社の株式会社キャシュモが担い、クラウドツールと経理代行のノウハウを組み合わせて提供します。最短5営業日で月次試算表を提供する点も訴求されています。
給与・賞与計算や振込、各種税金の納付まで対応する一方、決算申告などの税務業務は税理士法にもとづきサービス範囲に含めず、必要に応じて公認メンバーの税理士を紹介する形をとっています。独占業務の線引きを明確にしたうえで経理を丸ごと委託したい中小企業に向いています。料金は個別見積もりで、従業員5名規模で月額10万円(税抜)が料金例として示されています。
ここで取り上げたのは委託先の一例です。給与計算アウトソーシング全体を、委託できる業務範囲・料金体系・従業員規模別の選び方まで横断して比較したい場合は、以下の記事にまとめています。
給与計算アウトソーシングおすすめ34選を比較|業務範囲・料金体系・規模別の選び方
毎月の給与計算や賞与計算、年末調整、社会保険の手続きに、特定の担当者が追われていないでしょうか。社会保険料率や税制は毎年のように改正され、その都度の確認作業まで含めると、経理や人事、総務の少人数体制では業務が属人化しやすくなります。担当者が…
まとめ
給与計算の実務そのものは、特別な資格がなくても外部へ業務委託できます。注意が必要なのは、社会保険・労働保険の手続きや税務書類の作成といった資格者の独占業務にあたる部分と、委託先への直接の指揮命令による偽装請負のリスクです。委託範囲を明確にし、資格が絡む業務は社労士・税理士の連携が担保された委託先を選び、契約で情報の取り扱いと運用を定めれば、安心して委託できます。
委託先は、社労士事務所・給与計算の専門代行・経理アウトソーシングなど、外に出したい業務の範囲によって向く種類が変わります。費用は従業員数と委託範囲で決まるため、見積もりを揃えて比較することが大切です。自社に合う委託先を探すなら、複数サービスの資料をまとめて取り寄せて比較するところから始めてみてください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 給与計算の業務委託とは何ですか?
A. 給与計算の業務委託とは、毎月の給与・賞与の計算や給与明細の作成といった業務を、外部の専門会社や社労士事務所などに委託することです。
特別な資格がなくても計算実務そのものは委託でき、社会保険の手続きや税務書類の作成など資格が絡む部分は社労士・税理士が担う形で役割分担するのが一般的です。委託できる業務の範囲は給与計算で業務委託できる業務の範囲で詳しく解説しています。
Q. 給与計算の業務委託は違法になりませんか?
A. 給与計算の実務そのものを外部へ委託すること自体は、一般に違法ではありません。
注意が必要なのは、社会保険・労働保険の手続きや税務書類の作成といった資格者の独占業務にあたる部分と、委託先に直接指揮命令をして偽装請負とみなされるケースです。委託する業務の範囲と、契約・運用の仕方を適切にすれば、適法に委託できます。
Q. 社会保険労務士でない会社に給与計算を委託しても問題ありませんか?
A. 給与計算や給与明細の発行そのものは、社労士でない会社にも委託できます。
社会保険労務士法第27条で無資格者が報酬を得て業として行うことを制限しているのは、資格取得届や算定基礎届など社会保険・労働保険の申請書類の作成・提出代行です。これらまで任せたい場合は、委託先が社労士(社労士法人)であるか、社労士と連携しているかを確認しましょう。
Q. 税理士でない業者に年末調整まで委託できますか?
A. 年末調整の事務や計算の代行そのものは、税理士でない業者にも委託できます。
税理士法第52条で制限される税理士業務の関与が必要になるのは、年末調整に伴う税務判断や、法定調書・給与支払報告書といった税務書類の作成に当たる部分です。年末調整を丸ごと「税理士でなければできない」と考える必要はなく、税務判断・税務書類の作成の部分に注意するという理解が正確です。
Q. 給与計算の委託が偽装請負にならないためには何に注意すればよいですか?
A. 偽装請負を避けるうえで最も重要なのは、委託先の担当者に自社が直接指揮命令をしないことです。
業務委託(請負・準委任)のつもりでも、委託先を自社に常駐させて担当者が業務の進め方を直接指示すると、労働者派遣に該当し、無許可であれば偽装請負とみなされるおそれがあります。オンラインでデータを受け渡し、成果物(計算結果や明細)を納品してもらう形にすれば、こうしたリスクは避けやすくなります。
Q. 給与計算の委託料の相場はいくらですか?
A. 給与計算の委託料は、月額の基本料金に従業員1人あたりの単価を人数分加える形が基本で、従業員10名程度なら代行業者で月1万円台から、100名程度なら月6万〜16万円程度が目安です。
社会保険手続きや税務まで一体で担う社労士・税理士事務所は、これより高めになる傾向があります。年末調整や賞与計算はオプション料金のことが多いため、委託範囲を揃えて見積もりを比較することが大切です。
Q. 給与計算だけを切り出して業務委託できますか?
A. 給与計算だけを切り出して委託することはできます。
給与計算に特化した代行会社やオンラインアシスタントは、計算や明細発行といった実務の一部だけを引き受けます。一方、社会保険手続きや経理全体もまとめて任せたい場合は、社労士事務所や経理アウトソーシングのほうが向いています。外に出したい業務の範囲によって、適した委託先の種類が変わります。
Q. 小規模な会社でも給与計算を委託する意味はありますか?
A. 従業員数が少ない会社でも、属人化の解消や法改正への対応負担の軽減を目的とするなら委託する意味があります。
ただし、委託料に対して削減できる人件費が見合わないと費用対効果が出にくいため、一部の作業だけを低コストで切り出せるオンラインアシスタントやフリーランスなど、規模に合った委託先を選ぶことがポイントになります。
Q. 給与計算を委託すると社内にノウハウが残らなくなりませんか?
A. 給与計算を委託すると、実務を外に出す分、社内に計算のノウハウは蓄積されにくくなります。
将来的に内製へ戻す可能性があるなら、委託範囲を全部ではなく一部に絞る、計算の前提やルールを自社でも文書化しておくといった備えをしておくと、いざというときに業務を引き継ぎやすくなります。
Q. 従業員の個人情報を外部に預けても大丈夫ですか?
A. 給与データには従業員の個人情報が多く含まれますが、個人情報保護法第25条が委託元に委託先への「必要かつ適切な監督」を義務づけており、これを果たせば外部に預けても問題ありません。
具体的には、適切な委託先の選定、委託契約での取り扱いルールの明記、運用後の取扱状況の把握(定期的な監査など)の3つが求められます。委託先が自社と同等の安全管理措置を講じているかを契約前に確認しましょう。
Q. 給与計算の委託先を選ぶときは何を基準にすればよいですか?
A. 委託先選びでまず決めるべきは、委託する業務の範囲です。
給与計算だけなのか、年末調整・社会保険手続き・振込まで含めるのかが決まると、必要な資格者(社労士・税理士)の連携が要るかどうかも定まります。そのうえで、範囲に対応できる委託先の種類を選び、基本料金とオプションの単価を揃えて見積もりを比較し、契約形態と個人情報の取り扱いを確認する流れで絞り込むと、自社に合う相手を見つけやすくなります。
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マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。


















