従業員の入社や退社が決まるたびに、社会保険や雇用保険、税金の届出を「どの書類を・どこに・いつまでに出すのか」と調べ直し、提出期限に追われていませんか。
入退社手続きは、健康保険・厚生年金保険、雇用保険、労災保険、所得税、住民税と担当する窓口が分かれ、それぞれに法律で定められた期限があります。手続きの抜け漏れや提出の遅れは、従業員が給付を受けられないといった不利益や、会社側の追加負担につながりかねません。
本記事では、入社・退社で会社が行う手続きを「届出名・提出先・法定期限」の一覧で整理し、入社前から退職後までの流れ、必要書類、やりがちなミスと特殊ケース、そして手続きを外部に任せる選択肢までを解説します。自社の運用に合わせて、入退社の事務を漏れなく進めるための確認材料としてご活用ください。
目次
一括ダウンロードする
入退社手続きの早見表|入社・退社でやること×提出先×法定期限
ここからは、入社時と退社時に会社が行う主な手続きを、届出名・提出先・法定期限の一覧で確認します。まず全体像を押さえたうえで、各手続きの中身は後の章で順に見ていきます。
入退社手続きとは(まず押さえる全体像)
入退社手続きとは、従業員が入社・退社するときに会社が行う、社会保険・労働保険・税に関する一連の事務のことです。入社時は健康保険・厚生年金保険と雇用保険への加入、税の設定などを行い、退社時はそれぞれの資格喪失と、離職票・源泉徴収票の交付、住民税の切り替えなどを行います。提出先は年金事務所・ハローワーク・税務署・市区町村に分かれ、それぞれに期限が定められています。
早見表に出てくる「事務センター」は、日本年金機構が届書を集約して処理する拠点で、郵送での提出先です。管轄の年金事務所の窓口でも手続きできます。
入社手続きの早見表
入社時に会社が行う主な手続きと、その提出先・法定期限は次のとおりです。
| 健康保険・厚生年金保険への加入 | 健康保険の扶養の届出(扶養家族がいる場合) | 雇用保険への加入 | 所得税の設定 | 住民税(特別徴収の継続) | 労働保険(新規に適用事業となる会社のみ) | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 届出・書類 | 被保険者資格取得届 | 健康保険被扶養者(異動)届 | 雇用保険被保険者資格取得届 | 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 給与所得者異動届出書(前職から特別徴収を引き継ぐ場合) | 保険関係成立届/概算保険料申告書 |
| 提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 | 事業所を管轄するハローワーク | 会社が回収・保管(税務署へは通常提出せず保管) | 従業員が住む市区町村 | 所轄の労働基準監督署・ハローワーク等 |
| 法定期限 | 事実発生(入社)から5日以内 | 入社時に資格取得届とあわせて提出 | 被保険者となった日の属する月の翌月10日まで | 最初の給与支払日の前日まで | 法令上の日数指定なし(引き継ぐ場合はすみやかに) | 成立から10日以内/50日以内 |
※提出先・期限は各所管機関の公式情報および法令にもとづく(2026年10月時点)。労働保険の成立届・概算保険料申告は会社が初めて労働者を雇う(労働保険の適用事業になる)ときの手続きで、個々の入社のたびに行うものではありません。すでに労働保険の適用事業所となっている会社では、中途入社ごとに労災保険の届出は不要で、保険料は年度更新でまとめて精算します。
出典・参考資料(4件)
退社手続きの早見表
退社時は、各保険の資格喪失に加え、離職票・源泉徴収票の交付や住民税の切り替えが必要です。期限は手続きごとに異なります。
| 健康保険・厚生年金保険の資格喪失 | 雇用保険の資格喪失・離職票の交付 | 所得税(源泉徴収票の交付) | 住民税の切り替え | |
|---|---|---|---|---|
| 届出・書類 | 被保険者資格喪失届 | 雇用保険被保険者資格喪失届/離職証明書 | 給与所得の源泉徴収票 | 給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書 |
| 提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 | 事業所を管轄するハローワーク | 退職した本人へ交付(1通は税務署長へ) | 従業員が住む市区町村 |
| 法定期限 | 事実発生(退職日の翌日)から5日以内 | 被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内 | 退職の日以後1か月以内 | 退職日の翌月10日まで |
※提出先・期限は各所管機関の公式情報および法令にもとづく(2026年10月時点)。住民税の一括徴収の扱いは退職月によって異なります(詳細は後述)。
出典・参考資料(4件)
入社手続きの流れ(入社前・入社日当日・入社後)
ここからは、入社手続きを「入社前の準備」「入社日当日の対応」「入社後の手続き」の3つの時期に分けて解説します。時期ごとにやることが決まっているため、順に押さえると抜け漏れを防げます。
入社前の準備(内定〜労働条件の明示・雇用契約)
内定を出したら、入社日までに労働条件の明示と雇用契約の締結、受け入れ準備を進めます。労働条件は、賃金・労働時間・就業場所・契約期間などの主要な項目を書面などで明示する必要があります。あわせて、提出してもらう書類の案内や、備品・社内アカウントの準備も進めておくと、入社日当日の対応に集中できます。
入社日当日の対応(書類回収・マイナンバー確認)
入社日には、事前に依頼した書類を回収し、社会保険・雇用保険の加入や給与支払いに必要な情報がそろっているかを確認します。マイナンバーを取得する際は、番号確認と本人確認(運転免許証やマイナンバーカードなど)をあわせて行います。扶養控除等申告書など、その場で記入してもらう書類もこのタイミングで回収すると効率的です。
入社後の手続き(社会保険・雇用保険の加入/税/帳簿)
入社後は、期限が定められた届出を順に行います。健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届は、事実発生(入社)から5日以内に年金事務所または事務センターへ提出します。雇用保険の被保険者資格取得届は、被保険者となった日の属する月の翌月10日までに、事業所を管轄するハローワークへ提出します。所得税は、入社日までに回収した扶養控除等申告書をもとに、給与計算での源泉徴収の区分を設定します。
あわせて、常時使用する労働者を雇い入れたときは、労働安全衛生規則にもとづく雇入時の健康診断を行います。既往歴・業務歴の調査、自覚症状の有無、身長・体重・腹囲・視力・聴力、胸部エックス線、血圧、貧血・肝機能・血中脂質・血糖の各検査、尿検査、心電図といった項目が定められています。
雇入時の健康診断は雇入れの直前または直後に実施するもので、雇入れ前3か月以内に医師の健康診断を受け、その結果を証明する書面を提出した場合は、その項目を省略できます。
出典・参考資料(1件)
入社後にやることは、次のチェックリストで確認できます。
- 健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届を提出(入社から5日以内)
- 雇用保険被保険者資格取得届を提出(翌月10日まで)
- 扶養控除等申告書を回収し、源泉徴収の区分を設定
- 前職から住民税の特別徴収を引き継ぐ場合は給与所得者異動届出書を市区町村へ提出
- 労働者名簿・賃金台帳などの法定帳簿に新しい従業員の情報を登録
- 常時使用する労働者は雇入時の健康診断を実施(雇入れ前3か月以内の受診結果の提出があれば該当項目は省略可)
退社手続きの流れ(退職意思の確認〜退職日まで〜退職後)
退社手続きも、退職意思の確認から退職日まで、そして退職後へと時系列で進みます。退職後に行う手続きには期限があるため、退職日が決まった段階で準備を始めると、期限に間に合わせやすくなります。
退職意思の確認・退職日の決定
退職の申し出を受けたら、退職届を受理し、最終出勤日と退職日を調整します。期間の定めのない雇用では、民法上、退職の申し入れから一定の期間が経過すると雇用が終了すると定められています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
出典:民法 第627条|e-Gov法令検索
就業規則で「退職の1か月前までに申し出る」などと定めている会社もありますが、これは円滑な引き継ぎのための運用上の取り決めで、民法第627条第1項の2週間を直接上書きするものではないと解されています。実務では、引き継ぎ期間を確保できるよう、退職日を話し合って決めるのが一般的です。
退職日までの手続き(貸与品・健康保険証の回収、各種案内)
退職日までに、貸与品や健康保険証、入館証などを回収します。健康保険証は資格喪失後に使えなくなるため、退職日に合わせて返却を受けます。あわせて、退職後の健康保険(任意継続や国民健康保険への切り替え)、住民税の徴収方法、年金の切り替えなど、本人が行う手続きの案内も済ませておくと、退職後の問い合わせを減らせます。
退職後の健康保険について、本人が希望すれば、それまで加入していた健康保険を退職後最大2年間継続できる「任意継続被保険者」の制度があります。退職日の翌日から20日以内に本人が申し出る必要があり、保険料は在職中のように会社が折半せず全額が本人負担になります。国民健康保険への切り替えや家族の扶養に入る選択肢とあわせて案内しておくと、本人が自分に合う加入先を選びやすくなります。
出典・参考資料(1件)
退職後の手続き(資格喪失・離職票・源泉徴収票・住民税)
退職後は、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届を、事実発生(退職日の翌日)から5日以内に提出します。雇用保険は、被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内に、資格喪失届と離職証明書をハローワークへ提出します。離職証明書をもとに交付される離職票は、退職者が失業給付を受ける際に必要になります。
税の手続きでは、退職者への源泉徴収票を退職の日以後1か月以内に交付します。源泉徴収票の交付期限は所得税法で次のように定められています。
その年において給与等の支払をした者は(中略)各人別に源泉徴収票二通を作成し、その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。
出典:所得税法 第226条|e-Gov法令検索
住民税は、特別徴収ができなくなるため、給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書を市区町村へ提出します。残りの住民税(特別徴収できなくなった分)の扱いは、退職月によって次のように変わります。
- 6月1日から12月31日までに退職した場合:本人の申し出があれば残額を一括徴収し、申し出がなければ普通徴収(本人が自分で納付)へ切り替わります。
- 翌年1月1日から4月30日までに退職した場合:本人の申し出がなくても、5月31日までに支払われる給与や退職金などから残額を一括徴収するのが原則です(地方税法第321条の5第2項)。
- 5月に退職した場合:その年度の特別徴収は5月分が最後のため、最終給与から通常どおり5月分を徴収すれば完結し、一括徴収や普通徴収への切り替えの問題は原則として生じません。
いずれの場合も、毎月の特別徴収分の納入期限は退職日の翌月10日までです。
出典・参考資料(1件)
退職後にやることは、次のチェックリストで確認できます。
- 健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届を提出(退職日の翌日から5日以内)
- 雇用保険被保険者資格喪失届・離職証明書を提出(翌日から起算して10日以内)、離職票を本人へ送付
- 源泉徴収票を本人へ交付(退職の日以後1か月以内)
- 給与所得者異動届出書を市区町村へ提出し、住民税の切り替え(退職月に応じた一括徴収)
- 健康保険証・貸与品の回収、退職後の保険・年金の案内
入社・退社で必要な書類一覧(会社が用意/従業員に用意してもらう)
入退社の手続きで使う書類は、会社が用意するものと、従業員に用意・提出してもらうものに分かれます。入社時に不足があると加入手続きが滞るため、依頼漏れを防ぐ意味でも一覧で押さえておきます。
入社時に従業員に用意してもらう書類
- マイナンバー(番号確認書類と本人確認書類)
- 基礎年金番号がわかるもの(基礎年金番号通知書・年金手帳など)
- 雇用保険被保険者証(前職がある場合)
- 前職の源泉徴収票(入社年に前職の給与がある場合、年末調整に必要)
- 給与振込口座の情報、扶養家族がいる場合は扶養に関する確認書類
上記は社会保険・雇用保険・税の手続きに必要となる書類です。このほか、会社の運用に応じて、身元保証書、卒業証明書、住民票記載事項証明書、業務に必要な免許・資格の証明書などの提出を求めることもあります。これらは法律で一律に義務づけられたものではないため、自社で必要なものを整理し、内定時に提出書類として案内しておくと回収漏れを防げます。
会社が用意・作成する書類
会社側は、労働条件通知書や雇用契約書、扶養控除等申告書などの様式を用意し、入社後は各種の資格取得届を作成します。あわせて、労働者名簿・賃金台帳などの法定帳簿を整備・保存する義務があります。保存期間は労働基準法で次のように定められています。
使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
出典:労働基準法 第109条|e-Gov法令検索
保存期間は、法律上は5年間ですが、附則第143条第1項の経過措置により、当分の間は3年間とされています。実務では、少なくとも3年間は確実に保存し、運用上は5年間を見込んでおくとよいでしょう。
「労働者名簿・賃金台帳・出勤簿」は実務で法定三帳簿と呼ばれます。ただし、労働基準法第109条が名指しで挙げているのは労働者名簿と賃金台帳で、出勤簿は労働時間の把握義務などを根拠に整備・保存するものです。
一括ダウンロードする
特殊ケースと最新の法改正
標準的な流れに加えて、従業員の立場や雇用形態によって扱いが変わるケースがあります。自社に該当するものがないか確認しておきましょう。
立場・雇用形態別の特殊ケース
パート・アルバイトなど短時間労働者も、一定の要件を満たすと健康保険・厚生年金保険の加入対象になります。日本年金機構は、週の所定労働時間などの要件を次のように示しています。
1週の所定労働時間が20時間以上であること。学生でないこと。(中略)特定適用事業所に使用されていること。
出典:短時間労働者が被保険者となる要件を教えてください。|日本年金機構
このほか、所定内賃金が月額8万8,000円以上であること、2か月を超える雇用の見込みがあることも要件に含まれます。特定適用事業所とは、厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上の企業などを指し、2024年10月から対象が拡大しました。
外国人を雇用する場合は、在留資格を確認し、外国人雇用状況の届出をハローワークへ行います。雇用保険の被保険者であれば資格取得届の提出で届け出たことになり、被保険者でない場合は雇用した月の翌月末日までに届け出ます。
役員(取締役など)の就任・退任では、従業員の社会保険・雇用保険の手続きとは別に、会社法上の役員変更登記が必要です。変更が生じた日(株主総会の選任決議日など)から2週間以内に、法務局へ変更登記を申請する義務があります(会社法第915条第1項)。登録免許税は、資本金1億円以下の会社で1万円、1億円超で3万円です。
申請が遅れると、登記を怠る「登記懈怠」として、代表者個人に100万円以下の過料が科されることがあります(会社法第976条)。役員は原則として雇用保険の被保険者にはならないなど、従業員とは社会保険の扱いも異なります。就任・退任のつど、登記と社会保険の要否を分けて確認しておくと安全です。
入社と退社が同じ月内に発生した場合(同月得喪)は、厚生年金保険料の扱いに注意が必要です。日本年金機構によると、厚生年金保険の資格を取得した月にその資格を喪失した場合は、1か月分の厚生年金保険料の納付が必要になります。ただし、同じ月に別の厚生年金保険や国民年金の資格を取得した場合は、先に喪失した分の納付は不要となり、後日還付されます。
従業員が在職中に亡くなった場合は、退職と同様の資格喪失手続きに加えて、遺族への対応が生じます。
出典・参考資料(4件)
押さえておきたい最新の法改正
雇用保険は、適用対象が段階的に広がっています。改正雇用保険法により、被保険者の要件のうち週の所定労働時間が、現行の20時間以上から10時間以上へと引き下げられ、2028年10月に施行される予定です。これにより、これまで雇用保険の対象外だった短時間のパート・アルバイトも、新たに加入対象になります。入退社手続きの対象者が増えるため、対象者の把握と運用の見直しを前倒ししておくとよいでしょう。
出典・参考資料(1件)
入退社手続きに関わる法改正は、ここで触れた社会保険・雇用保険の適用拡大のほかにも進んでいます。給与計算に影響する変更点の施行日やポイントをまとめて確認したい場合は、次の記事もあわせてご覧ください。
入退社手続きでやりがちなミスとリスク
入退社手続きは期限と書類が多く、ミスが起きやすい業務です。代表的なつまずきと、その影響を押さえておきましょう。
よくあるのが、資格取得届の提出遅れです。提出が遅れると、従業員が保険証を受け取れず、医療機関の窓口でいったん医療費を全額立て替えることがあります。立て替えた分は、後日、保険者へ療養費の支給申請をすれば払い戻されますが、従業員に一時的な負担と手間がかかります。
届出の遅れは、従業員の不利益にとどまりません。健康保険法は、事業主が正当な理由なく被保険者資格の取得・喪失の届出を怠ったり、虚偽の届出をしたりした場合に、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を科すと定めています(第208条)。実務上も、資格取得届が60日以上遅れると、年金事務所から賃金台帳や出勤簿の写し、遅延理由書といった追加書類の提出を求められることがあり、通常より手続きが重くなります。
出典・参考資料(1件)
離職票の交付が遅れれば、退職者が失業給付(基本手当)の申請を始められず、トラブルにつながります。先に触れた同月得喪のように社会保険料の計算を誤ると、後からの訂正や精算の手間が発生します。
従業員が予告なく出社しなくなった・連絡が取れないといったケースでも、資格喪失届や離職票の手続き自体は必要です。退職の意思や事実が確認できないまま進めると後のトラブルになりやすいため、連絡はメールや書面(必要に応じて内容証明郵便)で記録を残し、就業規則の定めに沿って対応するのが基本です。
これらの手続きは、担当者の経験に依存しやすく、担当者の退職や休職で滞るリスクもあります。処理の正確さと継続性を保つことが、入退社手続きを運用するうえでの共通の課題です。
入退社手続きは自前でやるか外部に任せるか
入退社手続きの負担や属人化が課題になってきたら、外部へ委託する選択肢があります。委託先には、社会保険労務士(社労士)と、給与計算や労務の事務を代行するアウトソーシング(BPO)サービスがあります。両者には業務範囲の違いがあるため、まず線引きを押さえておきましょう。
社会保険・雇用保険の資格取得届や資格喪失届といった書類の作成・提出代行は、社会保険労務士法で社労士の独占業務と定められています。
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。
出典:社会保険労務士法 第27条|e-Gov法令検索
ここでいう第2条第1項第1号から第2号までの事務とは、労働社会保険諸法令にもとづく申請書等(届出書・報告書など)の作成と、その提出手続きの代行などを指します。一方、給与計算そのものや、労務管理に関する相談・指導(第2条第1項第3号)は独占業務ではありません。
そのため、給与計算や事務の代行を担うアウトソーシングサービスは、社会保険・雇用保険の届出の作成・提出代行の部分を、提携する社労士や顧問社労士が担う形で提供しています。委託すること自体が違法になるわけではなく、どこまでを事業者が担い、どこからを社労士が担うのかを確認することが、委託先選びのポイントです。
小規模で入退社の手続きだけを任せたい場合は、社会保険労務士に顧問またはスポットで依頼する方法もあります。給与計算や勤怠まで含めてまとめて外部化したい場合や、対応件数が多い場合は、次のような労務・バックオフィス代行サービスが選択肢になります。
以下は、入退社に伴う社会保険手続きなどを委託できる労務・バックオフィス代行サービスの比較です。委託できる業務範囲や料金体系を確認してください。また、社会保険・雇用保険の届出を実際に誰が担うか(提携社労士の有無や連携のしかた)は各サービスで異なるため、申し込み前に確認しましょう。
| サービス名 | freee人事労務アウトソース | Chatwork労務アシスタント | Remoba労務 |
|---|---|---|---|
| 委託できる業務範囲 | 給与計算・賞与計算、年末調整、入退社手続き・身上変更 (freee人事労務のシステム上に情報を蓄積) | 給与・賞与計算、勤怠締め、年末調整(補助)、入退社・休職復職手続き、従業員からの問い合わせ対応 | 入退社手続き、人事マスタ管理、勤怠データ集計、月次給与計算・賞与計算・明細発行、年末調整(補助) |
| 社労士独占業務への対応 | 公式に記載なし(要問い合わせ) | 独占業務は非対応。顧問社労士との連携・連絡をChatwork上で代行 | 独占業務は非対応。既存の顧問社労士との連絡・やり取りを代行(契約変更は不要) |
| 対応企業規模・体制 | 中小〜中堅 クラウドソフト+業務代行の一体提供(BPaaS) | 中小〜大企業(公式事例は1〜50名規模〜3,500名超) 専任チームがChatwork上で対応 | 公式非公開(事例は約250名規模〜グループ企業・IPO準備企業) 月30時間単位のチーム体制 |
| 料金体系 | 初期費用:要問い合わせ 月額:95,000円/月〜(50名分込み、51名目以降1名1,900円/月) ※基本は個別見積もり | 初期費用:要問い合わせ 月額:38,000円〜(税抜) ※契約期間3/6/12ヶ月のチケット制で変動 | 初期費用:要問い合わせ 月額:180,000〜200,000円/月(月30時間対応) ※年間/6ヶ月/1ヶ月プラン |
| 詳細情報 | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る | サービス詳細を見る |
※委託できる業務範囲・料金は各社公式サイトの公開情報にもとづく(freee人事労務アウトソース:2026年8月時点/Chatwork労務アシスタント・Remoba労務:2026年9月時点)。freee人事労務アウトソースの月額は姉妹ページの「アウトソース」プランの実額で、基本は個別見積もりです。最新の委託範囲・料金は各社へご確認ください。
入退社手続きに限らず、給与計算や年末調整も含めて委託先を広く比較したい場合は、次の記事で主要サービスの業務範囲・料金体系や、企業規模別の選び方を詳しく解説しています。
給与計算アウトソーシングおすすめ34選を比較|業務範囲・料金体系・規模別の選び方
毎月の給与計算や賞与計算、年末調整、社会保険の手続きに、特定の担当者が追われていないでしょうか。社会保険料率や税制は毎年のように改正され、その都度の確認作業まで含めると、経理や人事、総務の少人数体制では業務が属人化しやすくなります。担当者が…
1. freee人事労務アウトソース(フリー株式会社)

クラウド給与システム「freee人事労務」に付帯する業務を、フリー株式会社が外部委託として引き受けるのが「freee人事労務アウトソース」です。給与・賞与計算や年末調整に加えて、入退社手続きや身上変更の事務まで委託できます。委託した情報がfreee人事労務上に蓄積されるため、会社の成長に合わせて外注から内製へ切り替えやすいのが特徴です。
費用は個別見積もりが基本です。公式の料金プランでは「アウトソース」プランとして月額95,000円〜(50名分込み、51名目以降は1名あたり月額1,900円)が案内されています(2026年8月時点)。システムと代行を一体で導入したい会社に向いています。
2. Chatwork労務アシスタント(株式会社kubellパートナー)

Chatwork労務アシスタントは、給与計算や勤怠締めから、入退社・休職復職に伴う手続き、従業員からの問い合わせ対応まで、労務の定常業務を幅広くカバーします。やり取りはビジネスチャット「Chatwork」上で行え、従業員や顧問社労士との連絡を一元化できます。契約期間(3・6・12か月)を選べるチケット制で、使わなかった時間は翌月へ繰り越せます。
費用は契約期間によって変わり、12か月プランで月額38,000円〜(実働10時間/月〜)です。勤怠締めと給与計算、入退社手続きまで含めた場合は、従業員100名規模で月額160,000円〜が目安として公式に示されています(2026年9月時点)。社会保険労務士法などで受託できない業務は扱わないと明記しており、独占業務は顧問社労士との連携でカバーする建て付けです。
3. Remoba労務(株式会社Enigol)

Remoba労務は、月30時間単位のチーム体制で労務業務を担います。入退社手続きや人事マスタ管理、勤怠データ集計、月次給与計算、年末調整の補助などに対応し、複数人のチームで担当するため、担当者の休職・退職で業務が止まるリスクを抑えられます。既存の顧問社労士との契約変更は不要で、社労士とのやり取りや資料回収といった運用面を代行する立ち位置です。
月額は、12か月契約で180,000円(月30時間対応)、6か月契約で200,000円が公式に示されています(2026年9月時点)。福祉施設の多拠点運用から上場準備中の企業まで、業種を問わない導入実績があります。
まとめ
入退社手続きは、健康保険・厚生年金保険、雇用保険、所得税、住民税と窓口が分かれ、それぞれに提出先と法定期限が定められています。入社から5日以内の資格取得届、翌月10日までの雇用保険の届出、退職後1か月以内の源泉徴収票の交付など、期限を押さえて進めることが抜け漏れと遅延の防止につながります。
手続きの量や属人化が負担になってきた場合は、給与計算や労務の事務を代行するアウトソーシングに委託する方法もあります。委託できる業務範囲や社労士との連携のしかたを確認し、自社の体制に合った進め方を選びましょう。
一括ダウンロードする
よくある質問(FAQ)
Q. 扶養家族がいる従業員の入社では、どんな手続きが必要ですか?
A. 通常の入社手続きに加えて、健康保険被扶養者(異動)届を資格取得届とあわせて提出します。配偶者や子などを扶養に入れる場合に必要な届出で、提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所です。扶養の要件(収入基準など)を満たしているかを確認したうえで、入社時の資格取得の手続きとあわせて行います。
出典・参考資料(1件)
Q. 入退社手続きで、入社時の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の届出は何日以内に行いますか?
A. 健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届は、入社(事実発生)から5日以内に提出します。提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所です。提出が遅れると従業員が保険証を受け取れず、医療機関の窓口でいったん医療費を全額立て替えることになりかねないため、入社後はすみやかに手続きを進めます。
出典・参考資料(1件)
Q. 入退社手続きで、雇用保険の資格取得届はいつまでに提出しますか?
A. 雇用保険被保険者資格取得届は、被保険者となった日の属する月の翌月10日までに提出します。提出先は事業所を管轄するハローワークです。社会保険の資格取得届(入社から5日以内)とは期限が異なるため、入社手続きでは2つの期限を分けて管理すると抜け漏れを防げます。
出典・参考資料(1件)
Q. 退職者の離職票はいつ必要で、会社はいつ手続きをしますか?
A. 離職票は退職者が失業給付(基本手当)を受けるときに必要になる書類で、会社が提出する離職証明書をもとにハローワークから交付されます。会社は、被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書をハローワークへ提出します。
交付された離職票は退職者へ送付します。退職者が転職先未定で失業給付を受ける可能性がある場合は、交付が遅れると手続きを始められずトラブルになりやすいため、早めに進めます。
出典・参考資料(1件)
Q. 退職者の源泉徴収票はいつ渡せばよいですか?
A. 退職者への給与所得の源泉徴収票は、退職の日以後1か月以内に交付します。これは所得税法第226条で定められた期限です。退職者の転職先での年末調整や確定申告に必要となるため、最終給与が確定したらすみやかに交付します。
出典・参考資料(1件)
Q. 退職は何日前までに申し出てもらう必要がありますか?
A. 期間の定めのない雇用では、民法第627条により、退職の申し入れから2週間が経過すると雇用が終了します。就業規則で「退職の1か月前までに申し出る」などと定める会社もありますが、これは円滑な引き継ぎのための運用上の取り決めです。
この取り決めは、民法第627条第1項の2週間を直接上書きするものではないと解されています。実務では、引き継ぎ期間を確保できるよう、退職日を話し合って決めるのが一般的です。
出典・参考資料(1件)
Q. 入退社手続きで、同じ月内に入社して退社した場合の社会保険料はどうなりますか?
A. 同じ月に資格取得と資格喪失があった「同月得喪」では、厚生年金保険の資格を取得した月にその資格を喪失した場合、1か月分の厚生年金保険料の納付が必要になります。ただし、同じ月に別の厚生年金保険や国民年金の資格を取得した場合は、先に喪失した分の納付は不要となり、後日還付されます。日割り計算にはならないため、該当するケースでは管轄の年金事務所に確認して処理するのが安全です。
Q. パート・アルバイトも社会保険に加入するのですか?
A. パート・アルバイトなどの短時間労働者も、一定の要件を満たすと健康保険・厚生年金保険の加入対象になります。日本年金機構が示す主な要件は、次のとおりです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8万8,000円以上
- 学生でない
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上の企業など)に使用されている
雇用保険についても、2028年10月施行予定の改正で、加入対象が週10時間以上へ広がる予定です。短時間のパート・アルバイトも新たに対象となるため、早めに運用を確認しておくことをおすすめします。
出典・参考資料(1件)
Q. 入退社手続きは外部に委託できますか?
A. 入退社手続きは外部に委託できますが、社会保険・雇用保険の届出書類の作成・提出代行は社会保険労務士(社労士)の独占業務です。給与計算そのものや労務の相談・事務の代行は独占業務ではありません。
そのため給与計算アウトソーシング(BPO)サービスは、社保・雇用保険の届出の部分を提携する社労士や顧問社労士が担う形で提供しています。委託先を選ぶ際は、どこまでを事業者が担い、どこからを社労士が担うのかを確認することが大切です。
出典・参考資料(1件)
給与計算アウトソーシング・労務代行の料金・資料を一括チェック
MCB FinTechカタログでは、入退社手続きをはじめとする労務業務をまとめて任せられる給与計算アウトソーシング・労務代行サービスの最新資料を無料で一括請求できます。委託できる業務範囲や料金をまとめて比較できます。
一括ダウンロードする
MCB FinTechカタログに掲載しませんか?
MCB FinTechカタログでは、掲載企業様を募集しています。マネックスグループの金融実務ノウハウを活かした独自の評価軸と検索設計により、導入検討者が最適なサービスを効率的に発見できる法人向け比較プラットフォームです。掲載後は管理画面から料金表や導入事例を随時更新でき、常に最新の情報を訴求可能。まずは下記フォームより、お気軽にお問い合わせください。

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 暗号資産アナリスト
松嶋真倫
監修の範囲は記事の一般的な解説部分であり、比較表および各製品・サービスの紹介内容は監修の対象外です。


















